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第4話・彼は見習い『神官呪師』~医師の卵が見たものは~

第4章 罪に対する罰と言うなら



     第4話・彼は見習い『神官呪師』~医師の卵が見たものは~



 おいおい。マジかよ!?



 ペルフィー=プリメーシャスは神官呪師(しんかんじゅし)見習いとして、呪師寮で生活している二十一歳の()()()()である。



 呪師学校の最低入学年齢は十三歳。



 そこから、二年ほどは基礎学習に充てられ、三年目からはそれぞれ専門分野に分かれて学ぶ。



 専攻した専門が何であるかはもちろんのこと。


 そもそも、基礎学習の期間でさえ順調に進級できるほど簡単なものではないため、二十歳を超えても専攻に入れない者も多い。



 若干十八歳でしかないのに既に第一線で活躍し、実技のみとは言え指導役にもなっているインスの才能がどれほど桁外れなのかは、皇宮呪師(こうぐうじゅし)のみならず神官呪師の間でも度々話題に出される。



 そんなインスに嫉妬の感情を向ける者が多いのも当然で、けれども実力で黙らせているのがインスでもあった。



 年齢が近いとはいえ、ペルフィーは神官呪師なので、インスと同じ皇宮呪師ほどの嫉妬や反発と言った感情はない。



 どころか、「若いのに実力者って、大変そうだな……。」としか思っていないので、どちらかと言えば若干憐れんでいる。



 直接会ったこともなく、話したこともない相手とどうこうなど、起こりうるはずもないので、気にするだけ時間の無駄だというのが気持ちとしては大きい。



 そんなペルフィーだが、彼は既に正式な『神官呪師』でもある。



 それなのに、なぜ見習いとして呪師寮で生活しているかと言えば、彼の専攻が『医学』であるから。



 神官呪師はそれぞれの専攻……得意分野ごとに習得期間や熟達までの期間が大きく違う。



 一番難易度が高いのは『結界維持』で、その中でも魔力が高い者は次期教皇候補とみなされる。



 逆に、一番難易度が低いのは『精霊魔法』専攻。



 神官呪師のみならず、皇宮呪師にも使える精霊魔法だが、それだけを専攻する者はあまりいない。



 けれど時々、白魔法にも黒魔法にも適性がなく、精霊魔法だけが使える呪師が一定数発生し、更に使いこなしが神官呪師側に近いか、皇宮呪師側に近いかの違いが出た。



 ちなみに、神官呪師側に近い精霊魔法特化の呪師は神殿側で歓迎される。



 精霊魔法は自然現象や物理現象への働きかけや再現が可能で効果も多種多様。



 繊細なコントロール力を必要とする神官呪師の精霊魔法の使い方ができる特化型の呪師は、『精霊補助師(せいれいほじょし)』として神殿内の各所で活躍の場を与えられ、外部任務への同行も多い。



 逆に、皇宮呪師側に近い使い方の精霊魔法特化の呪師は、皇宮側では不遇な扱いになっているので、適性検査を兼ねた入学試験で特化型と知った子供たちは、神官呪師見習いとして学ぶことを望むことが多かった。



 皇宮側で精霊魔法特化の呪師が不遇になってしまうのは、分かりやすく強力で凶悪な魔法を使う機会が少ないから。



 別段、精霊魔法で魔物の討伐ができないと言う訳でもなく、縁の下の力持ち的な役割ではあるが、多岐にわたる活躍の場は存在している。



 けれど、どうしても攻撃特化型になりがちな皇宮呪師の価値基準は「どれだけ凶悪な魔物を倒せるか。」になってしまい。


 細々とした……言い方は悪いが『雑用』としか思えない活躍を正当に評価されにくい。



 その結果、精霊魔法特化の皇宮呪師が常に不足していて、黒魔法も使える皇宮呪師の中からも彼らが思う『雑用係』の部署に配属され、不満が燻る温床となっているのは有名な話。



 しかし、そういったただの『雑用』と思われている仕事がどれだけ重要な役割を果たしているかを理解している者も当然存在し、上層部はきちんと役目を果たしている者を評価する。



 話がそれたが、神官呪師見習いで『医学』を専攻した者は、医療の知識や技術の習得も必須となる。



 回復魔法で「どんな怪我や病気も一瞬で治せる!」と思い込んでいる者も多いが、そんなことはない。



 だから、魔法に頼らない知識と技術。


 その上で魔法での治療を行う際の注意点など、学ぶことが多すぎるがゆえに卒業までも長くかかった。



 なにしろ、命を預かる現場だ。


 中途半端な者を投入すれば、余計な混乱や犠牲が出かねない。



 そのため、一旦は正式に『神官』として認められたのちに『見習い呪師』として専攻する形になり、『神官呪師』である『見習い』として呪師学校での教育を受け続ける。



 更に、年若い……入学したてで右も左もわからない子供たちの世話や生活の手助けは、将来患者を相手にする時の訓練にもなるため、ルームリーダーとして呪師寮での生活も続く。



 特にペルフィーは現在『医学』専攻の見習いたちの中ではトップクラスの実力者で、人の懐に入り込むのが上手い。



 それでいて、不正や嫌がらせなどは嫌う正義感もあり、誰に対しても公平。



 クロードを始めとした神殿護衛官にも比較的好かれやすい性格をしていて、互いの立場を超えて友情を育んでいたりもする。



 そういった事情から、既に神官位を取得していて、更に上位の学習を続けているペルフィーが特例入学のアインのルームメイト兼世話役となり、普段から体調管理などにも気を配っていた。



 

 その日、朝から上役の医呪(いじゅ)神官に呼ばれて、主神殿の医務殿を訪れたペルフィーは、アインの様子を見ておけと言われて内心首を傾げる。



 見ておけも何も、医務殿に入院中のアインはずっと世話役を兼ねた看護の神官らに囲まれていて、まだまだ見習い医師とも言えないペルフィーがわざわざ見たところでどうすることもできない。



 いや、どちらかと言えば、何もしてはいけない。と言うべきか。



 昨日、一般病棟に移され、退院までの間は機能訓練や経過観察程度のはず。



 なのになぜ?



 という疑問は、アインの病室を訪れた瞬間に霧散した。



 その結果、心の中で叫んだのが。



(おいおい。マジかよ!?)



 という驚きの言葉だった。



 一般病棟に移された患者と言うのは、退院までの目途が立った患者のはず。



 だというのに、ペルフィーが目にしたアインは死人のように青い顔をしていて、真新しい包帯にうっすらと滲んだ血が見える、痩せ細った子供だった。



「あ~。まだ具合、悪いみたいだな?」



 白く青ざめた顔は頬がこけて、うっすらと目の下にクマがある。



 明らかに体調が悪そうにしか見えないのに、見舞いに訪れた(てい)のペルフィーを、申し訳なさそうな笑みを浮かべて迎え入れたアインに、最初にかける言葉に迷う。



「いえ……ちゃんと、元気です……」



 ゆるく、アインは首を横に振り、ゆっくりと言葉を紡ぐ。



 ペルフィーはポリポリと黄色のメッシュが入った銀髪頭の後ろを掻き、ちらりと部屋付きの神官を見た。



 困ったような顔をしたその男性神官は、視線だけで否定を伝え、後で話をと目で合図する。



「ん~。ま、元気ならいいが、そんな顔色じゃ、信じてもらえないぞ?」



 ほぼ一瞬でやり取りを終え、すぐにアインに視線を戻したペルフィーはわざとニヤリと笑って顔を近づける。



 驚いたように少し身を引いたアインは、悪戯っぽく笑うペルフィーの濃いピンク色の瞳を瞬きして見つめ返した。



「何だ?寝れないのか?」



 ニッと笑って問いかけると、アインは曖昧に首を横に振る。



「いえ……寝れてはいるはずなんです……」



 実際、昨夜は就寝時間が来るよりも早く眠くなって、寝てしまった。



 けれど、なぜかすぐに目が覚めて、眠ったはずなのにぐったりとした疲れを感じる。



 それが何度も、夜中繰り返されて、深夜頃から今朝にかけての記憶が飛んでいた。



 眠れていたのだろうと思うのだが、どういう訳か疲れが蓄積している。



 昨日まではそんなことはなかったのに、昨夜から今朝にかけてなぜかそんな風になってしまい、せっかく来てくれたペルフィーに気にかけさせてしまったことを気に病んでいた。



「ま、あんまり無理はするなよ?少し昼寝とかもした方がいい。というか、ちゃんと食ってるか?最初にあった時より痩せてないか?」


「ちゃんと食べてますし、寝ています。痩せたか……は分かりませんけれど、食べる量はちゃんと増えてるはずですし、お昼寝も、毎日させて頂いてます」



 そうっと、体の線を辿るように撫でまわすペルフィーにされるがまま、アインは矢継ぎ早の言葉に目を白黒させながらも答える。



 触れないように気をつけて、左腕に巻かれた、血がにじむ包帯の位置で数瞬手を止めたペルフィーは「そっか!」と笑いかけた。



「よし、朝食はもう終わった時間だな?今日はどうする予定だったんだ?」


「今日は、ペルフィー様がいらっしゃるから、午前中は病室にいるように。と……」



 聞かれて、アインは少し首を傾げる。



 今朝、朝の診察に来たシリウムからそう伝えられただけで、他は何も聞いていない。


 いつもなら、機能訓練の時間やら、午後の診察までの注意事項やらを伝えられるのに、今日は特に何も言われていなかった。



「なるほど。じゃ、少しおしゃべりでもするか。眠くなったら寝ろ。無理して付き合って、体調悪化させるなよ?」



 ベッド脇の椅子に腰を下ろしたペルフィーは部屋付きの神官に飲み物を頼み、「何を話そうか?」とアインに笑顔を向ける。



「……え、と……」


「ネタ欲しいか?なら、最近の呪師寮で……」



 そうは言われても、何を話していいかわからないアインは困ったように眉を寄せて口籠り、様子にペルフィーは軽い調子で、他愛もない話しを始めた。 



「……ああ、あとは、ジョーン皇子の回復祝いが行われるって話が出てたな……」



 しばらく他愛ない話を続けていたペルフィーがふと、思い出して小さく口走る。



「え?」


「おっと。知らなかったか?我が国の皇太子殿下がジョーン皇子で、長らく療養中だったがご回復されたって噂が一ヶ月くらい前にあったんだよ」



 思わず吐息を零したアインに向き直って、説明したペルフィーは、だが直前までの他愛ない話と違って笑みを引っ込めている。



「……いえ、皇子さまの病がおあつい。というお話は、以前、授業で教えて頂きました」


「そっかそっか。ま、その辺りは基礎教養の授業で触れるわな……。で、そのジョーン皇子が『ご回復した。』って噂があって、快気祝いが行われるだろう……って、言われてたんだけど……日程やら何やらに関する話が聞こえてこないんだよ」



 緩く、首を横に振って答えたアインに頷いて、ぺらぺらとペルフィーは話を続けた。



 皇孫皇女で女神の巫女でもあるジャンヌが。


 魔族の呪いで五年もの間、時を止めたように眠り続けていたジョンの心の宝石を取り戻して。


 ジョンが意識を取り戻して既に一か月以上。



 目覚めの知らせはそれこそ電光石火の速さで皇宮、神殿、城下へと広がり、特に城下では気の早いお祝いを行う者もいたほど。



 けれど、どういう訳か、正式発表はまだ行われておらず、ジョンどころかジャンヌも人前に姿を現していない。



 二人が元気であるのはクロードから聞いて知っているペルフィーだが、長年病の淵にあった皇太子をすぐさま人前に出させるわけもないのはわかる。



 というより、まだまだ起きて居られる時間も限られているだろうというのは、医学を専攻する者からしたら自明の理だ。



「そんなわけで、早くても年明けか、来年の春以降になるんじゃないかなってのが俺の予想。ジャネット皇女も今は弟君の傍に居たいだろうさ。五年も寝たきりで、あまり会わせて貰えてなかっただろうし……」



 医学に詳しくない城下の民などからすれば正式発表もお祝いもないのは不思議だろうが、長年寝たきりだった皇子に無理をさせるはずなどない。



 それは、まだまだ基礎を中心に学習中のアインにもわかって、()()()みんな忙しくしているんだろうと納得する。



「……あ~。あとは、先日の事件の後始末もあるからなぁ……」



 特に何も考えることなく口にしたペルフィーのその言葉に、ギクリと体を強張らせたアインの顔から血の気が引く。



「……事件の、後始末……?」


「……あ……」



 掠れた声の呟きに、ハッとしてペルフィーは口を押えた。


第4章 第4話をお読みいただきありがとうございます。


アインの世話役として登場したペルフィーは、二十一歳の苦労人(?)な神官呪師です。

十八歳でバリバリ前線にいるインスを「大変そうだな……」と憐れむあたり、彼の人柄や「神官呪師」としての価値観が見えてきますね。

医療を専攻する彼から見て、アインの今の状態は……。


そして、軽快な彼との会話で少しはアインの心も晴れるかと思いきや、最後の一言。

不意に突きつけられた「事件の後始末」という言葉。

無自覚な言葉ほど、時に鋭く刺さるものです。


アインの中に渦巻く罪悪感が、再び彼を追い詰めていくことに――。


次回もぜひお楽しみに!


【本編はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第1弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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