第2話・堪えきれない怒りの発露~償うための第一歩~
第4章 罪に対する罰と言うなら
第2話・堪えきれない怒りの発露~償うための第一歩~
アインの悲鳴じみた声を聞いても、インスの視線はシリウムとチェスパスに向いたまま。
けれど、そっと落ち着かせるように撫でて、聞いていないわけではないと示す。
初めに、リオンから「ファンがアインに対して厳罰を望んでいる。」と聞かされた時から、引っかかってはいたのだ。
もっと「他に、責任を取るべき者がいるだろう!」と。
最初は自分自身のことしか考えられなかったけれども……
間違いなく、インスのせいでアインが罪を犯すことになったのだから……
けれど、時間が経てば経つほど違和感が大きくなって行って、気づいた。
最も責任を取るべき立場に居るのが、誰なのか。
罪に罰をと言うのなら、まず最初にその責任を果たすべきなのはファン自身のはずだ。
彼はジャンヌ専属の護衛騎士団の団長で、神剣の契約者でもあり、その場にきちんと居たのだから。
「アイン君に罰を望むのならば、まずは護衛騎士団の団長であるファン卿にこそ、責任を取って頂かなければおかしいでしょう?」
シリウムとチェスパスに言ったところで意味はない。
ましてや、アインに聞かせる話でもない。
けれど、限界だった。
抱きしめた腕の中で、アインが苦しげに身じろぎする。
力を入れているわけではないので、抱いていることが原因ではない。
ただ、インスの言葉に混乱し、息の仕方を忘れて呼吸困難に陥っていた。
「……インス。離せ」
軽く片眉を跳ね上げたシリウムに言われて、インスはそっと腕を緩め、アインを自身にもたれさせる。
「……インスさま……」
見上げてくるアインに、少し困ったように微笑む。
「アイン君が全く悪くないとは言いません。けれど、責任を取るべき者がそれをせず、小さな子供一人にすべての罪を被せ、罰を与えろというのは破綻しています」
苦しげに喘ぐアインに、シリウムが呼吸を補助する魔法をかけて、インスは落ち着かせるようにそっと撫でる。
「ファン卿が好悪でアイン君に厳罰を望んでいるのだとは思いたくありませんが、それならそれで、仕方がないともいえるでしょう」
好き嫌いで、人に罪を被せるような人物だとは思いたくない。
けれど、そうとしか思えないことを続けるのなら。
すうっと、一瞬、インスの目が鋭く光る。
見上げるアインは見間違いかと瞬きし、シリウムとチェスパスはそれを見落とす。
「私は、アイン君と一緒に、君の罪も背負いましょう」
「……え……?」
「おい!」
にこりと微笑むインスの宣言に、驚いたアインは息を飲み、軽く目を見張ったチェスパスの隣でシリウムが眉を潜めて叱った。
チラリと、インスは二人を見て、緩く首を横に振る。
「どちらにしろ、そこには私の罪がありますから」
今度はシリウムも口を噤む。
インスの言うとおり、アインの犯した罪の大半にインスは関わっている。
直接的に関わっていないのは、アインの体が魔族に操られてジャンヌを刺したことくらいか。
けれどそれも、遠因がインスにもある。
「そんなこと……!」
ただ一人。反論を口にしかけたアインの唇に指を当て、黙らせる。
「だめですよ?私の罪を取らないでください」
「……っ!」
穏やかに言われて、泣きそうになるアインを撫でて、落ち着かせるのを繰り返す。
シリウムとチェスパスが、少しだけ空を睨んで溜め息を吐く。
「……本当に……」
「……嫌なところがそっくりだな……」
「……ぇ……?」
小声で呟く声がよく聞こえなくて、アインは首を傾げて二人を見比べた。
そんな二人に、インスはその女性的な風貌を際立たせるような、極上の笑みを浮かべてみせる。
「やめて下さい。嬉しくないです」
「「……………」」
その表情と、その言葉に、今度こそシリウムとチェスパスは絶句した。
訳が分からないのはアインで、頭を抱えてしまった大人二人を見比べてオロオロとしている。
「アイン君が、どうしても罰をと思うのなら、君がするべきなのはファン卿の求めるような厳罰を受けることではないでしょう?」
年長の神官呪師二人を放置して、インスは改めてアインに向き直った。
「……え……でも……」
「アイン君は、罪に対する罰と言うのは、どのように決まると思いますか?」
困惑を隠さないアインに、言葉を重ねる。
「……罪に対する、罰……」
「そうです。どのように決まると思いますか?」
パチパチと瞬きして、小首を傾げるアインに微笑む。
「え……と……エスパルダ聖皇国では、大陸の守護神である女神さまの教えの下、その犯した罪に対しては、等しく罰を与えられ……」
「うん。それは神書の記述ですね?」
「……あ……はい……」
するりと語りだしたアインを途中で止める。
「神の世界ではそれでいいでしょうけれど、人の世界ではそれでは分かりにくいでしょう?だから、わかりやすく大体の基準が決められています」
神書の記述を元に、人の世の、その時代に合うようにと定められた『大体の』基準。
それを『法』と呼ぶ。
大体なのは、厳格に定めたところで完全に一致する事例などそうそうないから。
しかし、解釈の幅とは違う。
「アイン君の犯した罪を、ファン卿が求めるような厳罰でもって償わせたら、他にもたくさん、もっと重い償いをしなければいけない者が出てしまいます」
先ほどインスが言ったように、もっとも責任が重いのはファン自身。
他にも、インス自身もそうだし、クロードやリオン、皇宮で護衛を務めていた者たちに、居合わせた女官兵や皇宮内神殿の医呪神官であるウスニー。
そもそもで言うのなら、魔族の干渉を許してしまった呪師全員。
その全員を、処刑でもする?
ありえない。
「だからこそ、ファン卿の要望は通らない。それでもアイン君が罪を償いたいと思うのなら、君が今するべきなのは療養です」
「…………え?」
ポカンと、口と目を開けて、アインはインスを見つめ返した。
第4章 第2話をお読みいただきありがとうございます。
インスの怒りが、ついに形となって現れました。
自分の罪を認め、アインの罪さえも共に背負おうとするインス。
その覚悟は、騎士団長ファンへの痛烈な批判へと繋がります。
「私の罪を取らないでください」
穏やかな言葉に込められた、インスの譲れない一線。
そして彼がアインに説く「償いの第一歩」は、予想外の「療養」でした。
果たして、アインはこの「罰」を受け入れることができるのでしょうか?
【本編はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
【今後の連載スケジュールについて】
続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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【第1弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




