第1話・認識するは事実と罪と~堂々巡りのその先に~
第4章 罪に対する罰と言うなら
第1話・認識するは事実と罪と~堂々巡りのその先に~
それから、数日かけて、少しずつアインの事情聴取がすすめられた。
初日の話で予想していたことではあったが、アインは事件のあった日のことを本当にすべてきちんと覚えていた。
正直、アーグに体が操られている間のことまでは知らないだろうと思っていたのだが、それらもすべて『見て、知っていた』。
それがあまりにも生々しくて、話を聞いた三人が3三人共吐き気すら覚える。
自分自身の体が、自分の意思に従わず、勝手に動かされるのを『ただ見せつけられる』。
しかも、感覚を共有させられていて、手に持つナイフの重みも。
焦げた床を蹴った足裏の熱も。
深く突き刺した衝撃も。
浴びた血の熱さもすべて……感じ取れていたのだという。
あまりと言えばあまりにむごい仕様に、さすがにその日の聞き取りは途中でやめさせ、半ば無理やり薬で眠らせることになったのは言うまでもない。
アインだけではなく、インスも薬で眠らせなければいけない状況になって、シリウムもチェスパスも若干手を焼かされた。
これだけはっきりと起きたことを記憶しているのに、自身が成した奇跡に関しては全く理解していないのにも頭を抱える。
『起こった現象』は知っていたが、『なぜ起こったか』は説明できないでいた。
その上で、覚えていなかったのは意識がない間のことだけ。
悪夢にうなされることは今もなお続いているのに、夢の内容だけは覚えていない。
とはいえ、嫌な夢の内容など、覚えていない方がいい。
問題は……
「……だから、僕はちゃんと、罰を受けないといけないんです……」
そう。
問題は、アインの罪の意識の重さだった。
「けれどアイン君自身の意思ではないでしょう?」
「でも、僕がやったことに違いはありません」
宥めるように告げるインスにも、頑なに首を横に振る。
「それなら、君が私を助けてくれたことも、ジャンヌ様たちの傷を癒したことも『君のやったこと』ですよ?」
「それは僕がやったことじゃありません。ただそうなっただけです」
このやりとりが初日からずっと続いていて、堂々巡りしていた。
「……少なくとも、インスが今生きているのはアイン。お前の功績だろう……そこを否定することは許されない。三人も殺しているんだからな」
「……っ!!」
腕を組んで睨むようにして見下ろすシリウムの言葉に、アインは一瞬体を震わせて俯く。
シリウムの言うとおり、インスが今生きているのは、アインが『犠牲』を選んだ結果だ。
魔族であるアーグが約束通りにインスを皇城へ……
それもわざわざジャンヌの部屋に送り届けたのは、ジャンヌたちを一所に集めて自身のいる場所に運ぶためであったのだとしても。
まだ生きているインスを使うのと、死体になった後のインスを使うのとでは全く結果は変わっていただろう。
だから『インスの生還』に関しての功績は否定させない。
「それも、私の罪でもあるんですけれど、ね……」
そっと、インスが溜め息を漏らす。
インスの言うとおり、インス自身が蠱毒の呪いで操られていた十三人の子供たち全員を殺しきれていれば、アインが代わりに手を下さずとも済んだ。
その可能性は大いにある。
「違います……僕が……」
「そこを言い合っていても意味はないだろう」
否定の言葉を口にしかけたアインをチェスパスが遮る。
主神殿の総括たる大神官として、人々を導くべき神職者として、厳かに、一切の私情を排して語りだす。
「ラント呪師はアインを止め切れなかった罪があり、アインは制止を振り切り、許可なく魔法を使った罪がある」
この件に関してはそれがすべてだ。
「子供たちが死亡することになったのも、そうすることでしか彼らの魂を救えなかったというだけでしかない。ラント呪師が生き残ったのはその副産物でしかなく、アインが手を下したのも同様だ」
魔族にかけられた呪いから解放するためにできたこと。
それが子供たちを殺すことによる魂の解放で……
インスが取りこぼした分をアインが救い上げただけ。
「ジャネット皇女らを危険に晒す原因となった罪がラント呪師にはあり、操られた器が皇女を刺した罪がアインにはある」
続けて言ったチェスパスは真っ直ぐにアインを見つめる。
「ファン卿は、お前に厳罰を求めた」
「……っ!?」
「インゼラ大神官!!」
告げられた瞬間アインは息を飲み、インスは非難するように呼ぶ。
「が、それを上層部は退けた」
「……ぇ……?」
続けられて、アインはポカンとして目を丸くした。
今度はインスも、口を噤む。
シリウムは黙ってやり取りを見守っていた。
「……なぜだかわかるか?」
問われて、緩く、首を横に振る。
分からない。どうして、「罰を。」と、当然の要求をされているのに、それを止めたのか。
「……お前が神剣の使い手だからだ……」
「……ぁ……」
言われて、思い出す。
ジャンヌが神剣の封印を解いた、あの日に。
突然体の中に無理やり押し入ってきた、恐ろしいほどの魔力の塊を。
青ざめたアインが体を震わす。
あれから数日間は、ずっと体がバラバラになりそうな酷い苦痛に襲われて、悲鳴を上げることしかできなくて……
ようやっと、落ち着いてきたかと思ったら、深夜にお城から一人で出かけてしまったジャンヌを探す様にと言われて……
「……あ、れ……?」
それから……いつからだろうか?
ずっと体の中で蠢いていた強い魔力のことを忘れていたのは?
思い出してみれば、今もなお、体の奥で蠢く魔力を感じ取れる。
ゾクリと悪寒が走って、震えたアインをそっと、インスが抱きしめた。
「……インスさま……?」
見上げたアインの頭をやさしく撫でて、インスは二人の高位神官に向き直る。
「ファン卿の要求がおかしいのは上層部の方々も、他の方々も理解していることでしょう?」
「え?」
インスの言葉に首を傾げる。
ファンの要求が『おかしい?』いったい、どこが?
「なぜ、アイン君にだけ罰を望んでいるんですか?」
他にも、罪を問われるべき者がいるのに、ファンの要求はアインにだけだ。
けれど、そう。
ファンの理論で言うのなら、最も重い罪があるのはアインではない。
「ご自分が守り切れなかっただけでしかないというのに」
「インス様っ!!」
いっそ、冷ややかとも取れる声音に、アインが悲鳴のような声を上げた。
第4章第1話をお読みいただきありがとうございます。
第4章の幕開けは、突き付けられた「事実」との対峙から始まりました。
操られていた間の感覚までをも鮮明に覚えているアイン。
その苦しみは計り知れません。
一方、インスはアインを糾弾するファンに対し、冷徹なまでの正論を突きつけます。
「守り切れなかったのは、一体誰だったのか?」
守りたい者と、罰を求める者。
それぞれの正義が交錯する中、アインの運命はどう動くのか。
【本編はこちら】
姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~
(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)
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続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!
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【第1弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】
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ノリト&ミコト




