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第3話・突き付けられた現実に~己の無力を思い知る~

第3章 君の還りを(ねが)う者



      第3話・突き付けられた現実に~己の無力を思い知る~



 泣き疲れたアインが眠ってしまったところで、インスはそっと、体を離す。



 正直、こんな風にアインが声を上げて泣くのを見るのは初めてで、インス自身も驚いていた。



 容体を確認するはずだからと、起き上がろうとしたところでぴたりと動きを止める。



「……インス?」



 訝し気に声をかけてきたシリウムに顔を向け、困ったように眉を下げた。



 一体どうしたのかとシリウムが確認すると……



「あ~……」



 インスと同じように困った顔をして小さく息を吐く。



 泣き疲れて眠ってしまったアインが、怪我のない右手でしっかりとインスの服を掴んでいた。



 ぎゅっと握りしめていて、下手に動くと服が破れる。



 それ自体は別に構わないのだが、その結果、アインが目を覚ましてしまうとまずい。



 半月もの間、生死の境をさまよい、ようやっと意識を取り戻したばかりのアインは、当然体力もなく、休める時には休ませておく必要がある。



 ここから、少しずつ食事を摂らせ、様子を見ながら機能訓練もさせて……と回復への道を進ませなければならないところ。



 無理に引きはがすよりはそのまま寝かせておきたい。



「……仕方ないな……」



 軽く頭を掻いて、ぼそりと口の中で呟いたシリウムは、鋏を持ってこさせると、アインが掴んでいるインスの服を切ってそうっと、手を下ろさせた。



「……大丈夫ですかね……?」


「多分まずい」



 ぼそりと呟くインスに、苦り切った表情で告げるシリウムの言うとおり、断ち切られた寝衣の端を握りしめていると気付いたら、きっとアインは混乱する。



「……仕方ない。お前、今日はアインと一緒に寝ろ」


「……え……?」



 助手らに手当を指示しながら告げたシリウムに、インスは軽く目を見張った。



「目が覚めた時にお前がそばにいれば、混乱も最小限で済むだろう。もちろん、その前に切った寝衣の端を回収できればもっといい」



 ふわりと、アインの体が宙に浮かべられ、身に纏う寝衣を脱がし、清拭と治療が行われていく。



 胸の刺し傷は切っ先が肺に達していて、術後も慎重な状態確認や適宜処置が続けられている。



 今は症状が安定しており、傷が治っていくのを見守っている段階ではあるが、まだ無理な動きなどはさせられない。



 実は、そちらよりも問題になっているのは、左腕の切り傷。



 縫合手術をした後も、一切回復する様子が見られないそれは、風の神剣から放たれた光る刃に掠められた怪我だと報告されていて……傷口に残る強い魔力が回復を妨げていた。



 胸の怪我ほどひどいものではなかったが、縫合してあるのに出血が完全に止まらない。



 ずっとにじむような出血を続けていて、日に何度も包帯を換えざるを得ない状況。



 最初にそれを知った時には、さすがにインスも頭に血が上って、思わず呪詛の言葉を吐きたくなった。



 ただ、それが風の神剣の契約者であるファンが「意図したものではないだろう。」と言う理性がかろうじて働いたから、実際に口に出すことはなかったが……



 きっと、ファンはこんなことになっていると気づいてもいない。



 ()()()「アインに厳罰を。」などと言えるのだ。 



 まさか、今現在までずっと、アインを苦しめているとも知らないから。



 治療の様子を眺めるインスが思わず手に力を入れて拳を作る。


 すぐに力を緩めたのは、一度それで掌に傷を作ってしまい、その時アインの診察で来ていた大神官(だいしんかん)のチェスパスに叱られたから。


 もちろん、そのことはシリウムにも、他の医呪(いじゅ)神官たちにも知られていて、今もぎろりとシリウムに睨まれた。



 パッと、両手を広げて掌を見せ、怪我をしていないことを無言で示す。


 小さく溜め息を吐いたシリウムの指示の下、アインの治療はいつも通りに滞りなく進み、寝衣もシーツも換えられてゆっくりとベッドに横たえられた。



 ただ、その位置がいつもより端に寄っている。



「インス」


「はい?」



 パチパチと瞬きして、その差異の理由を考えているインスをシリウムが呼ぶ。



「お前も、一度休め」


「……え?」



 首を傾げるインスに歩み寄り、ずいっと顔を近づける。


 反射的に背を逸らして、椅子の背に張り付く体勢になったインスを、若干上から見下ろす。



「お前も顔色が悪すぎる。これ以上無理はさせられない」



 言って、くいっと親指でアインが眠るベッドを示した。



「寝てろ」



 ポカンとシリウムを見て、アインが寝かされたベッドを見る。



 アインを、ベッドの端の方に下ろした理由。



 それはインスを同じベッドで休ませるため。



 先ほど言ったように、アインが目を覚ました時に、混乱を最小限で押さえるために。



 そして、とっくに限界を超えているであろうインスを早く休ませるための措置。



「……ありがとう、ございます……」



 一瞬。泣きそうな表情を見せたインスは、素直に導かれるまま、アインの隣に体を横たえて……


 一呼吸。二呼吸……と数える間もなく意識を手放した。


第3章第3話をお読みいただき、ありがとうございます。


意識を取り戻したアインを待っていたのは、神剣による「癒えない傷」というあまりに重い理不尽でした。

インスが抱くファンへの複雑な感情。

そして、アインを絶対に守るという静かな決意。


隣り合って眠る二人の時間は、束の間の休息となるのでしょうか?

それとも……。


【本編はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第1弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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