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第5話・深夜の闖入者~最上層部の結論は~

第2章 幻影(ゆめ)現実(うつつ)の狭間で惑う



         第5話・深夜の闖入者~最上層部の結論は~



 深夜。


 インスの病室にこっそりと忍び込んできたのは三十手前ほどの女性。


 ふんわりと被られたフードから覗くのは透き通るような桜銀色の髪。


 外套の下に来ているのは間違いなく神官衣ではあったが、医務殿の神官たちのものとは異なる。


 闇の中で黄銀色の瞳がベッドで眠るインスを静かに見下ろす。


 そうっと、覗き込むその顔は可憐を体現したかのような美しさを持ち、化粧一つ施されていないというのに、唇の左下にある小さなほくろのせいかあだっぽい色気が滲んでいる。



 ステラ=シアス。



 彼女こそが、このエスパルダ聖皇国の教皇だった。



「………何の用ですか?」



 じっとのぞき込むステラの視線に耐えきれなくなったのか、いつから起きていたのか分からないが、インスが不満そうに口を開く。



「やっぱり、起きてたのねぇ。全然反応してくれないから、悪戯しちゃおうかと思ったのに……」


「やめて下さい。迷惑です」



 クスリと笑って言うステラに、言葉通りの迷惑さを隠そうともせずに返して、インスも目を開く。



 鼻先まで顔を寄せていたステラを睨んで、右手で押し返す。



 もし、顔を寄せ合う二人を見る者がいれば、顔立ちに似通った部分があると気づいただろう。



「だってぇ。シリウム君にずいぶん無理を言ったでしょう?」



 押し退けられたステラは上体を起こし、代わりにベッドに腰かける。


 溜め息を漏らしたインスも起き上がり、この迷惑な闖入者を睨んだ。



「……ファン卿が……」


「そぉねぇ。アイン君に厳罰を求めると上申したのは確かね」



 そっと、声を絞り出すようにしてその名を口にしたインスに、ステラは何でもないように頷く。


 ムッとして、インスはさらにステラを睨む。



「そんな目で見ないの。大丈夫よ」



 ツンとインスの額を突っついて言うステラの手を煩わしそうに払いのけて……



「……っ!」



 力を入れ過ぎたせいか傷に響いて悲鳴を飲み込む。



「ちょっとぉ~。あんまり無理しないで頂戴よ?せっかく用意してあげたのに、たった十八年で駄目にされたらたまらないわ」


「……わ、かって……」



 呆れた様子のステラを睨むが、痛みを堪えるインスの声は震えている。



「まあ、インス君がどうしてこれほどアイン君を気にするのかはわからないけれど……」



 続けたステラの声から、茶化すような色が消えていた。



 そう、ファンが異常なほどアインに厳罰を望むのと同じくらいに、インスも異常なほどアインを気にかけている。



 自分の怪我も治らないうちから、アインの様子を見たがったり、そのために無理を押したり。



 じっと、見つめてくるステラを無言で見返す。


 しばらくして、ステラが先に溜め息を漏らした。



「……答えないってことは、()()()()()()なのね?」


「……………」



 確認するような言葉にも無言で返す。


 二人の視線は、一瞬たりとも外れない。



「……なら、なおさら神殿側(こちら)もファン君の要望は受け入れられないわねぇ」



 フッと、笑みを浮かべたステラの表情は経国と呼ぶにふさわしい。



「でも、心配しなくても大丈夫よ。バリー君も同じ意見だから」


「バ……陛下をそんな風に呼ぶのは貴女だけですよ!?」



 ケラケラと軽い調子で言うステラの言い様に、インスは声まで青ざめさせる。



「あら?アナタがソコを気にするの?」


「するに決まっているでしょう!私は……っ!」



 あっけらかんとしたステラに思わず声を荒げかけるが、そっと唇に指を当てられてハッと口を噤んだ。



「……本当に、引きずられちゃうのねぇ……」



 クスクスと笑うステラを無言で睨む。



 溜め息を一つ。



 散々に振り回されてしまったが、ステラが深夜に人目を避けて訪れた理由はわかった。



「……つまり、皇宮側(陛下)の意向も、神殿側(あなた)の意向も同じと言うことですね?」



 確認に、ステラは嫣然と微笑んだ。



「ファン君がどれだけ主張したところで、上層(うえ)が頷かなければどうにもならないわ。()()()も説明はできないでしょうし……」



 零す吐息に色気が滲む。


 それでいて、本人にそのつもりがないのはインスも分かっているので、溜め息を漏らすにとどめる。



「で?インス君はどうしたいのかしら?」



 軽く首を傾げて、覗き込む。


 わざわざ、下から見上げるようにしているのが小憎らしい。



 インスは再び、わざとらしく溜め息を漏らした。



「……私は……」



 それから、鼻先が触れるほどまで顔を近づけているステラに囁く。



 ピクリと、ほんの一瞬、ステラは眉を潜める。



「……本気?」


「もちろん」



 確認に、迷いなく頷く。



 すうっと、ステラが目を細める。



「……場合によっては、ファン君とやり合うことになっちゃうわよ?」


「そうなったら、そうなった時です」



 軽く肩を竦めてあっさりと言うインスに溜め息を一つ。



「……しょうがないわねぇ……アイン君の傍にできるだけ居られるようにしてあげるわ」


「……!……」



 内容の通り、いかにも仕方ないといった声音で言われて、インスは軽く目を見張る。



「で・も!」



 口を開きかけたインスを遮るように、一音ずつ区切って、指を突き付けた。



「絶対に、無理はしない、させない。いいわね?」


「……それは……」


「い・い・わ・ね?」


「……………………はぃ」



 笑顔で凄まれて、不承不承頷く。



「うん。いい子」



 ようやっとインスから体を離してにこりと笑うステラに溜め息。



「それじゃあ、今夜はちゃんと休みなさいな。明日の朝、ま~た青い顔していたら、今度こそアイン君のところに行くのは延期させるからね!」


「!それは……」


「先に自分の体、治しなさい。できないなら、インス君も監禁ね?」



 いい笑顔で言われてグッと、言葉に詰まる。



 言葉は悪いが、要は面会謝絶の絶対安静。


 部屋から出させない。と言うことだ。



 そして当然、ステラがその気になればそれができてしまう。



「……………………………わかり、ました………」



 物凄く嫌そうに、それでも頷いたのを確認して、ステラは「じゃあね~。」と軽く手を振って部屋を出ていく。



 見送って、大きく溜め息を漏らしたインスは、ドッと来た疲れに身を任せるように横になる。



「……本当に、とんでもない方ですね……あの人は……」



 口の中で呟いて、ゆっくりと夢路を辿った。


新年あけましておめでとうございます!


第2章第5話をお読みいただき、ありがとうございます。


これにて第2章「幻影(ゆめ)現実(うつつ)の狭間で惑う」は完結となります。

深夜の病室に現れた教皇ステラ。

彼女とインスの関係、そしてインスが選んだ「本気」の決意とは……。


激動の第2章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

明日からは、いよいよ第3章が始まります。


本年も「皇宮呪師は護りたい!」をどうぞよろしくお願いいたします!


【本編はこちら】


姉姫様は魔族を斬りたい!~最愛の弟皇子を救うため、女神の巫女は呪いをかけた魔族を探します~

(https://ncode.syosetu.com/n1170lj/)


【今後の連載スケジュールについて】


続きは明日22時から、毎日1話ずつ更新いたしますので、どうぞお見逃しなく!


【ミニコラム掲載中!】


活動報告にて、キャラクター紹介や用語の解説などを不定期で掲載しております。ぜひチェックしてみてください!


【読者の皆様へのお願い】


「面白い」「続きが気になる!」と感じていただけたら、ぜひ【☆☆☆☆☆】やブックマーク、感想をいただけますと、連載を続ける何よりのエネルギーとなります。


また次回もどうぞよろしくお願いいたします!


【第1弾は完結まで執筆済みです。よければ最後までお付き合いください。】


【本作は「カクヨム」にも投稿しております。】


――――――

ノリト&ミコト

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