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1-7 護衛依頼と奇妙な襲撃

柔らかい風が吹き抜け、目の前を歩く金髪の少女の髪をさらさらと揺らしている。

風は暖かさと共に花の香りを運んで来て、往来を歩く人たちに爽やかな季節の訪れを感じさせていた。

この世界には四季があり、今は寒い季節と暑い季節の間とのことだった。

つまり、日本で言うところの春である。

春と言ってもまだまだ朝晩は寒く、何故オレはあの日、野宿で焚き火をせずに眠ったのに風邪をひかなかったのか不思議なほどだった。

は?ナントカは風邪をひかないって?

体調不良に気づかず命まで取られたんだから絶対バカじゃないもーんだ。


ヘルツェンライゲンで数日間過ごして分かったことだが、この街は東西に伸びる街道の南西にひとつだけ入り口があり、あとは高い壁に周囲を囲まれていた。

そして、一番北の端にこの街を治めている領主の館があり、その周辺に貴族と呼ばれる身分の高い人たちの館がある。

住民の居住区は南東に固まっていて、領主の館と街の門から最も遠い場所にある。

街の大通りには宿や商店が軒を連ねていて、冒険者ギルドもこの一角にあった。


ほんの数日の滞在だったが、オレはエナージュに誘ってもらえてよかったと思っている。

どちらにしても最初から最後まであまり歓迎されていなかったこの街に馴染めるとは思えなかったので、遅かれ早かれこの街を出ることになっていただろう。


この街で俺たちに親切にしてくれた人といえばヒルダさんくらいだっただろう。

あとはエナージュもアウルも帝都から来た人だった。

「帝都はここより馴染めるかな」

不意にそんな言葉が口をついた。

誰かに聞かせるための言葉ではなかったが、エナージュには聞こえていたようで、不思議そうにこちらを見た。

そして、ふと何かを思い出したように言葉を紡ぐ。

「あぁ、確かに門でもギルドでもお前たちはあんまり歓迎されてなかったな」

「私たちだったから良かったが、普通の人は街に入れないと魔物に襲われて死んでたと思うぞ」

エナージュの言葉で門でのことを思い出したのか、ソラが憤った。


何故だかわからないが、ソラはオレに対して随分甘い。

その分、オレに害意を向けてくる者にはかなり容赦ない。

そんな彼女のことだ、門での出来事をよく思っているはずがない。

揉め事になるとオレが困るだろうと考え、あの時は不承不承大人しくしてくれていたのだろうと思う。

ギルドの方はどちらにしろ揉め事になりそうだったので、さっさと片付けたといったところな気がする。


「そうだなぁ。この街は国境にあるから特に警備が厳しいんだよ。ほら、帝国と王国ってめちゃくちゃ仲が悪いだろ。身分証を持っていない奴は密入国者の可能性が高いし、王国民を助ける義理はねぇし、外で魔物に殺されても心が傷まないってのがあいつらの心情なんだろうよ」

面倒くさそうに対応していた門兵のことを思い出し、確かにそういう態度だったかと納得する。

ソラもその理由にはある程度納得しているようだが

「だからと言って態度が悪すぎると思うぞ。そのくせ貴族が絡むとへこへこしやがって」

思い出すと余計に腹が立ったのか、だんだんと語気が強まる。


「けどお前たち、本当に王国民じゃないのか?」

エナージュは「そういえば」と、思い出したように質問をしてくる。

それにオレは肩をすくめた。

「ふたりとも記憶がないんで分からないですけど、帝国の身分証って一度作ると重複して新規発行できないらしいんで王国民だった可能性がけっこう高いですね」


あっけらかんとそう言い放ったオレを見てエナージュは心底面倒くさそうな表情で深いため息を吐く。

「オレは冒険者登録に口添えはしたけど街に入れたのは兵士だからまぁいっか」

と、罪に問われた時の逃げ道を探すように言う。

「もう登録できちゃったんで帝国民ってことでいいんじゃないですか?」

オレの言葉にエナージュは少し考えてから「まぁ、悪いことしなきゃいいよ」と半ば諦めたようにこぼした。


「そのへんは安心してください。今のところ冒険者を続けていきたいと思ってるんで」

オレの言葉を聞いて少し複雑な表情を浮かべるエナージュ。

「何言ってるんだ。冒険者なんてなりたくてなるもんじゃねぇだろ」

そう言って自虐的に笑うエナージュからは、高ランクでありながら冒険者を忌避しているような印象を感じた。

彼なりに思うところがあるのだろうが、あえて聞かないでおく。

聞いて答えてくれるとも思っていないが、仮に答えてくれたとして、冒険者登録したばかりでワクワク感が先行している今、現実を突きつけられるのが嫌だったというのが一番の理由だ。


そんな話をしながら目的地に到着すると、すでに2台の馬車が停まっていた。

一台は幌馬車で、もう一台は明らかに貴族のものと思われる豪奢な作りの馬車だった。

そして、馬車の扉の前で男が一人立っていた。

ビシッとスーツを着込んだ老人で、いかにも見た目で執事という肩書きを想像させる風貌だ。

彼はエナージュの姿を見ると恭しく頭を下げた上で口を開く。

「この度は急なお願いをお聞きいただきありがとうございました」

男の礼にエナージュは軽く片手を振って応える。

「それは構わないが、あんたが来るってことは帝都で何かあったのか?」

エナージュの問いに男は軽く首を横に振る。

「いいえ。今回は我々ではなくとある方を帝都に送り届けていただきたいのです」

そう言うと、男は馬車の扉を開けた。

そこから出てきたのは背が低く、筋骨隆々で白髪のドワーフ、アウルだった。


「アウルさん?」

オレが名前を呼ぶと、ドワーフは顔を上げ、目を見開いた。

びっくりしたことと視線を上げたことで思ったより地面が下だったことで地面に足をついた瞬間にバランスを崩す。

「うぉっとっと・・・ヴィクト殿、ソラ殿」

アウルがちょっぴり恥ずかしそうにしながらも、オレとソラを見て嬉しそうに表情を綻ばせた。

「なんだ?知り合いか?」

「あ、はい。先日馬車が襲われていたのをきっかけに知り合いまして、この魔筆をいただいたんです」

オレがそう言って魔筆を見せるとエナージュは不思議そうにそれを見つめる。

「珍しい武器を持ってるな。そんなの使ってる奴は初めて見たぜ」


どうやら魔筆を使っている冒険者はほとんどいないらしい。

「さっきアウルのお店に寄ってきたんだけど鍵がかかってたのはそのせいだったのか」

オレが頭を抱えると、アウルがにっこり笑顔でこちらを見る。

「それは申し訳なかったが、おそらくヴィクト殿の目的はこれではないですかな?」

そう言ってアウルは一振りの剣を取り出した。

「折れた剣を探しにいらっしゃっていたのに魔筆の話が弾んでしまったのでまたいらっしゃるかと思っていましたが、こちらの都合ですぐに帝都に帰らなければならなくなりまして、どこかで会うことができればと思い、持ってきていたのです。どうかお使いください」


アウルから受け取った剣はずしりと重く、前に使っていたものよりやや細身ではあるものの、しっかりとした両刃の剣だった。

「ありがとう。助かったよ。魔筆だけじゃ慣れてなさすぎて全然役に立てそうになかったんだ。いくら払えばいい?」

感謝の言葉を添えて金額を確認すると、アウルはぶんぶんと首を横に振る。

「とんでもない。命の恩人からお金など取れませんよ。それに、剣ひとつで護衛が強化されるのであれば必要経費です。喜んでお渡し致しますよ」

途中で破損したとかなら必要経費と言われるのも分かるが、最初から持っていないのであればそれはこちらの怠慢以外の何者でもない。

正直申し訳ない気持ちになったが、護衛が強化されるという点については異論はない。

もちろん、使えないがそこそこ使えるに変わった程度ではある。

エナージュの実力は分からないが、ソラ一人でも十分規格外の強さ。

企画外の弱さだったオレが企画内に滑り込んだ程度の強化で今更何が変わるというわけでもないのだが、アウルがそれで満足してくれるのであればありがたく受け取っておこう。


そう思ったオレは剣を受け取って腰に刺すと、恭しく一礼する。

アウルもオレそれを見て嬉しそうだ。

ちなみに、剣を叩き切ってしまったソラもオレの視界の端の方でアウルにぺこりとお辞儀をしているのが見えた。


執事風の男に見送られ、幌馬車の方に乗り込んでヘルツェンライゲンを後にした俺たちは、帝都クロスベルクを目指した。

初めて知ったことだが、帝都は意外と遠い。

馬車を使って移動して、5つの都市で宿を取りながら進む5泊6日の旅が一般的らしい。

冒険者は行けるところまで行って野宿する場合もあるらしいが、この場合1日くらいは短縮できる反面、危険度は急上昇する。

魔物は夜の方が動きが活発なので、襲われる可能性が昼間に比べて段違いだ。


野宿をするのは徒歩移動する冒険者くらいのものだ。

冒険者にもいろいろな人がいるので一概には言えないが、街から街へと渡り歩いて拠点を持たないような者たちはこういった野営にも慣れている者が多い。

それでも、想定外の敵と遭遇して命を落とすケースは少なからずある。

取らなくていいリスクは取らない方が良いと考える者であれば、冒険者でも街で休むことを選ぶだろう。


アウルが訪れたばかりのヘルツェンライゲンから蜻蛉返りでクロスベルクに戻ることを考えるとかなり急ぎであることは間違いない。

だが、それでも途中で野宿をするような無理な日程ではないらしい。


「おふたりがこの依頼を受けてくださって本当に幸運でしたよ」

幌馬車内は向かい合わせに座席が設けられており、荷馬車ではなく人を乗せるための作りになっていた。

御者台にはエナージュが座り、座席の方にアウルとオレが隣り合って座り、向かいにソラが一人で腰掛けている。

一見がさつそうに見える髭もじゃドワーフの恭しい言葉遣いには今だに慣れないが、エナージュは御者台で馬を操っているため会話には参加できない。

ソラは常に積極的に会話に参加してくるタイプではないので、先ほどから必然的にオレとアウルばかりが話していた。


「オレも知らない人からの依頼だと思っていたからちょっと気が楽になったよ」

そう言ってからオレは自分の発言がいささか誤解を招きそうなことに気がついた。

「あぁ、別に失敗してもいいと思っている訳じゃないからね。しっかりと護衛はさせてもらうよ」

慌てて訂正したオレの姿がよほど変だったのか、アウルはその慌てっぷりに思わず笑ってしまう。

「ヴィクトがいなくても私がきっちり護衛するから気を楽にしていて構わんぞ」

急にソラが会話に入ってきたかと思うと意地悪な発言で割り込んでくる。


「えぇ。力の差は分かってるけどちょっとくらい参加させてよ。でないとなんかタダ飯食ってるみたいじゃん」

「お前の功のために護衛対象の身が危険に晒されては笑えないからな。諦めろ」

そう言ってソラは悪戯っぽい笑みをオレに向ける。

その挑戦的な微笑みの破壊力は凄まじく、思わず視線を逸らしてしまった。


「それにしてもアウルは蜻蛉返りだったけどもともとそんなに早く戻る予定だったの?」

ギルドへの緊急依頼があったところを見るとアウルの予定が狂ったということは分かる。

ただ、来る時に馬車が襲われて護衛の冒険者が数名犠牲になっているため、急遽エナージュに話が回ってきた可能性も考えられる。


「いや、もともと貴族様からのご依頼でとある魔道具を受け取って持ち帰るという内容だったのですが、もう少しヘルツェンライゲンに滞在できる予定だったんです。それが、急遽先方の意向で出発が早まることになりまして」

そう言って、はてと首を傾げるアウル。

何か急ぎでヘルツェンライゲンを出なければならない理由があったのだろうか。

いろいろ思案してみるが、先方の事情などこちらが分かるはずもない。

結論の出ない思案は時間の無駄だと思い考えるのをやめた。


「わざわざ帝都からドワーフのお前が出向かなければならないような内容だったのか?」

それまでオレとアウルの会話を見守っていたソラが参加する。

アウルは彼女に視線を移してから軽く逡巡すると口を開いた。

「この魔道具はかつてドワーフと人間が争っていた時代にドワーフの技師が作ったものです。ドワーフのこういった魔道具には使用者以外には触らせないようにするための仕掛けが施されていることも少なくないのです。そのため確実に貴族様の手元に届くようにとドワーフの私が遣わされたのだと思います」

そう言って魔道具が入っているのであろう箱を大切そうに抱えた。


「そんな大切な任務を貴族から受けておきながらよく低ランク冒険者を伴って移動したな。正直お前はあの時死んでいてもおかしくなかったぞ」

ソラの冷静な言葉にアウルが思わず苦笑する。

「本当に、おっしゃる通りです。もう二度とあのようなことはしないと誓いますよ」

「お前は別にお金に困ってるわけじゃないだろ?なんであんなことしたんだ?」

ソラの言う通り、オレも正直疑問だった。

低ランク冒険者の護衛はギルドでは御法度だ。

クロスベルクからヘルツェンライゲンのような長距離移動であればある程度の危険も伴う。

多少お金に色をつけて高ランクの冒険者に依頼を出すこともできるはずだ。


「いや、正直魔物に遭遇すると思っていなかったんですよ。これまで何度も護衛依頼を出してきましたが、一度も魔物に襲われないということが多かったので少し気を抜いてしまった訳です。依頼を受けてくださった方には本当に申し訳ないことをしたと思っています」

アウルはそう言って表情を曇らせる。

「いや、でもアウルの指定はDランクだったはず。ぶっちゃけCランクに近いDランクならあのくらいのゴブリンに手こずることはなかったと思う。身の丈に合わない依頼を受けた奴も悪いし、それを許可したギルドもちょっと気を抜いていたとしか言えないな」

「そうそう。Dランクの依頼はランクアップ目的でEランクでも受けられるんだ。だけど護衛依頼なんかは失敗するとアウル自身の命が危ないから断った上でギルドに抗議することもできるはずだ。今度からもしそうなったら相応の対応をするといいですよ。まぁ、オレらもDランクへの昇格を目指すEランクなのであまり大きなことは言えませんが」

ソラに捕捉する形で熱弁を奮ったオレは、それが特大ブーメランだったことに気づき、最後になってちょっと恥ずかしくなってきたので顔を赤らめながらフォローを入れておく。


「そういえばそうでしたね。でもお二人はSランクの方も一緒にいらっしゃるので問題ないですよね」

アウルはちらりと御者台に座るエナージュに目線を送りながら言う。

「ぶっちゃけエナージュさんいなくてもソラがいれば十分な戦力ですよ。今は御者の人だと思ってもらっても大丈夫です」

オレがそう言って笑うと、御者台の方から

「おい、全部聞こえてるからな。後で覚えてろ」

と、エナージュからすかさずツッコミが飛んだ。

荷馬車の音は決して静かではないのだが、エナージュもなかなかの地獄耳である。



ある程度気の知れた仲ということもあり、旅は順調に進んだ。

護衛という依頼ではあったが、本当に魔物の気配はほとんどなく、オレでも倒せそうなゴブリンが数体出てきてエナージュとソラに簡単に倒されたくらいだったので、Eランク冒険者でも務まるというのはあながち間違いではなかったのだと感じていた。


だが、4日目、ついに護衛が必要となる事態が起きてしまった。

大草原の中にあり、帝国の食糧庫とも称されている農業都市フォルネアを早朝に出発した俺たちは、水上都市エルミナスに向けて馬車を進めていた。

原野にひしめくように広がっていた畑は少しずつその数を減らし、やがてなくなると北方から連なる山が見えてくる。この山を迂回せず山越えルートを進むと山の裾野に広がる巨大な湖に浮かぶようにエルミナスの街があるらしい。


少しずつ休憩をとりながら進み、山道に差し掛かったところで突然馬車が停止した。

「おふたりさん、どうやら出番みたいだぜ」

御者台からエナージュがそう言うと、腰の剣を引き抜いた。

彼の動きを見たソラが真っ先に幌馬車の後部から外に飛び出す。


オレはアウルが幌の外からの攻撃で怪我をしないように彼を馬車の中央に移動させた上でソラに続く。

だが、敵はオレが思っていたような魔物からの襲撃ではなく人間だった。

「どうやらアタリだったようだな」

オレとソラの姿を見た上でそう言って不敵に笑う男。

茂みからはぞろぞろと仲間と思われる人間が出てくる。

「ヴィクト、殺しても構わないよな」

彼らを一瞥し、ソラがオレに届くくらいの声で問いかけた。

オレは何故ソラがそんなことを確認してくるのか分からなかったが、「構わない」と返事を返し、剣を抜いた。


そして、「よし、戦うぞ」と気合を入れた瞬間、オレの眼前を赤い閃光が乱舞した。

「はぇ?」

戦場で聞こえるとは思えないほど間抜けな声がこぼれる。

その眼前で、次から次へと崩れ落ちていく男たち。


それはもはや戦いなどではなく、強者が一方的に弱者を蹂躙する殺戮現場だった。

的確に首を切り落とされ、何が起きたのか考える暇もなく命を刈り取られていく男たち。

オレはそれをただ眺めていることしかできなかった。

ソラにとっては人間もゴブリンも、もしかすると地竜でさえも大差ない、取るに足りない相手なのだろう。

一見虫も殺せないようなかわいい顔をしているのに、敵をまるで虫けらのように無慈悲に切断していく。

そして、現実的に人が殺されている凄惨な現場だというのに、オレはアクション映画でも見ているかのような眼差しで、その中心で赤い剣を手に舞い続ける可憐な美少女の姿にただただ釘付けになっていた。


最後の男が他の者と同様に、まるで糸が切れた操り人形のようにばたりと崩れ落ちると、ソラの持つ赤い剣がヒュンッと姿を消した。

「一人ぐらい残しておいてくれて良かったのに」

彼女を見ながらそう言うと、先ほどまでは表情ひとつ変えずに命を奪っていたソラは突然焦ったように表情を歪めた。

「も、もしかして戦いたかったのか?」

そう言いながらまだ1人くらい残っているんじゃないかとばかりに辺りを見回す。

だが、熟達したソラはある程度戦場で敵の気配を察知する能力を持っている。

そんな彼女が全員倒したと思い剣を収めたのだ。

生き残りなどいるはずがなかった。


「ごめん。冗談だよ。とりあえずエナージュさんと合流しようか」

オレはそう言って馬車の前方へと移動する。

すると、エナージュもちょうど敵をすべて倒し終えたところだった。

「よっ。怪我はなかったか?」

ふたりの姿を見てエナージュが右手を上げる。

「問題ないです」

オレはそう言ってエナージュに親指を立てた。

「ならよかった。よっとアウルを呼んでもらえるか?」


エナージュはそう言うと、彼が倒した敵を調べ始めた。

倒した敵に心当たりがあるのか、アウルから意見を聞きたそうにしている。

いずれにしてもオレとソラが安易に踏み込んで良さそうな話ではないだろう。

できる限り面倒なことに巻き込まれたくはない。

そう思ったオレは、ソラとふたりで馬車に戻った。


エナージュとアウルの現場検証が終わり、襲ってきた奴らに魔物が集まってこないように敵の死体を片付けてから再度馬車を走らせ始めた。

「どうやらアタリだったようだな・・・」

オレは走り出した馬車の中で、男がこぼしたひと言の意味を考えていた。


男はオレとソラ、あるいはあの馬車を確認して「アタリ」と言った。

つまり、そのどれかに探しているものを確定させる何かがあったということになる。

オレかソラを探していた?

いや、それはないだろう。

ソラを襲うにしては戦力が低すぎる。

ならばやはりアウルの魔道具か。

もしそうだとしたら魔道具を持っているアウルとその馬車を護衛しているSランク冒険者のエナージュに加え、その協力者であるオレとソラのことまで知られていることになる。

考えても答えに辿り着くことはできないが、間違いなく通りすがりの馬車を襲っただけの山賊ではないだろう。

なんとも後味の悪さが残る襲撃だった。



水上都市エルミナスにたどり着いた俺たちは、街の一角にある宿に泊まっていた。

最高級というわけではないが、少なくともEランクの冒険者ではどんなに背伸びしても泊まれないような高級宿である。

そこで、オレ達は全員同じ部屋に泊まっていた。

もちろん、エルミナスに限ったことではない。

これまで立ち寄ってきたどの街でもずっと同じ部屋だった。


最初の街でエナージュが「ソラだけ別部屋でいいのか?」と確認したところ「お前は私だけ観光旅行でついてきたと思っているのか?別部屋では護衛ができないではないか」と返され、この世の終わりのような顔をしていた。

ただ、オレも何日か彼女と共に生活しているのでソラの人となりは少しは理解しているつもりだ。

彼女が同部屋になったことによってドキドキするような展開が起きることはない。

彼女はオレに水属性と風属性を同時に発動させることで身体と服をまるごと洗える清めの魔法陣を教え、毎日それで清潔な状態を保っている。

故に風呂には入らないし着替えもしない。

そして、極め付けは睡眠時間がたぶんとんでもなく短い。

いわゆるショートスリーパーというやつだろうか。

オレが眠る時はまだ起きていて、起きた時にはすでに活動している。

だから、ソラが寝ているところを見たことがない。


そんなわけでエナージュも問題ないと判断したのか、次の町からは確認することなく4人部屋をとるようになった。

その結果、エルミナスでもエナージュが4人部屋を流れるように予約し、受付の人からなんとも言えない顔を向けられていたのをオレは見逃さなかった。


部屋に入るといつも各々好きなことをしている。

オレは魔術に関する本を読んで勉強しているし、ソラはその傍で「質問があればいつでも答えてやるぞ」と言いながら待機してくれている。

だが、アウルとエナージュはなんだかそわそわしている。

オレは時折顔を上げた時にその姿を見るだけだったが、オレの隣に座っているソラはその姿がかなり目障りだったようで、軽くため息を吐いた。


ソラは決して口数が多い方ではない。

そのためいまいち感情が読み取りにくいが、言いたいことはハッキリ言うタイプだ。

だから、

「私もヴィクトも詮索はしないが伝えられたことを無闇に喋ったりもしないぞ」

と、ふたりがそわそわしている理由をある程度察した上でズバッと切り込んでも不思議ではない。


彼女のひと言でエナージュとアウルは覚悟を決めたようで、軽く頷き合ってからアウルがゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「本来なら黙っておいた方がおふたりのためなのでしょうが」

全員が集合した宿屋の一室で、アウルが移送している魔道具の箱をテーブルに置いた上でそう切り出した。

オレとソラはお互いに目を合わせた。

オレと目が合ったソラは軽く横に首を振る。


オレもソラも、ふたりが何か隠していることにはなんとなく気づいていた。

だが、詳細までは聞いていないし、話したくないのであればあえて聞くつもりはなかった。

オレの顔を見て首を横に振ったということはソラも同じなのだろう。


当然、エナージュを見るとこちらは既にこれから話される内容を知っている様子だったので、昼間の襲撃の件に関連する何かを今から共有してくれるようだった。


「実は昼間襲撃してきた者の多くが私の魔道具の移送の依頼者と関連性の深い者だと分かりました」

お読みいただきありがとうございます。


この世界の馬車はCAPC◯M製のヘリより襲われます。

次回は帝都に到着します。

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