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1-5 アウルと魔筆

ヘルツェンライゲンに戻ったオレ達は、軽く食事を済ませてから依頼達成の報告に早速ギルドに立ち寄った。

「ヒルダさん。無事達成しました」

カウンターに並ぶ受け付け嬢の中にヒルダの姿を見つけたオレは、彼女の方にまっすぐ進んで声をかけた。

オレとソラの姿を見た彼女もにっこり微笑んでくれる。

「おめでとうございます。では、焔草の納品をお願いします」


そう促されてオレは袋に入れていた焔草を取り出し、カウンターに並べた。

「はい。確かに確認しました。他にも素材があれば買い取りますよ」

そう言われ、続けてフレイムジャッカルの牙や爪、魔石などを並べていった。

ヒルダが不思議そうに「毛皮とかはないの?」みたいな顔をしているのを察したオレは、荷物袋に入りきらなかったということを説明した。

「あぁ、マジックバッグを持ってなかったんですね。Dランクの魔物はけっこう高値で売れる素材が多いですから持っておいた方がいいですよ。すぐに元が取れます。ギルドでレンタルもしていますので言ってくれれば大銅貨1枚で貸し出せます」

と言ってくれた。


いや、それは依頼前に言ってよとちょっぴり泣きそうになる。

この世の終わりみたいな顔をしているオレに苦笑を浮かべつつ

「では、素材を鑑定してくるので少し待っていてくださいね」

と言って、ヒルダは素材を持って一度カウンターを離れた。


ちなみにこの世界のお金はメルク貨というものが使われている。

メルク貨が10枚で青銅貨、100枚で銅貨になる。

銅貨は5枚で大銅貨、10枚で銀貨1枚になり、銀貨は5枚で大銀貨、10枚で白銀貨になる。

1メルクを1円と換算するなら、青銅貨が10円、銅貨が100円、銀貨が1000円で白銀貨が1万円。

大青銅貨は50円、大銅貨は500円、大銀貨が5000円、大白銀貨は5万円ということになる。

さらに上には10万円相当の金貨や100万円相当の白金貨なんてものも存在するらしいのだが、市場にはほとんど出回ることはないそうだ。


大銅貨1枚でレンタルしてもらえたということは、500円を払ってマジックバッグを借りておけば数百円から、高いものだと数千円で売れる素材をすべて持ち帰ることができたということになる。

容量にもよるが、出回っているマジックバッグの価格はだいたい白銀貨数枚で買えるそうだ。

Dランクの依頼であれば数回こなせば購入できることになる。


これは冒険者としてやっていくのであれば必需品になること間違いなしだな。

そんなことを考えていると「お待たせしました」とヒルダが戻ってくる。

「今回の依頼が大銀貨1枚と銀貨3枚、素材が全部で銀貨4枚なので、合わせて白銀貨1枚と銀貨2枚になります。あと、冒険者救済の報告がありまして、こちらは手当として大銀貨1枚が支払われます。お金は均等割でギルドカードに入れるカタチでよろしいですか?」

ヒルダの質問にオレは

「あ、お金は前回同様、すべてオレのカードに入れておいてもらえますか?」

と告げた。


何故か分からないのだが、ソラはまったくお金を受け取ろうとしない。

もらっても使うことがないし、必要な時はヴィクトにお願いするからの一点張りだった。

不思議に思いつつ、もしソラが別行動を取る時が来たらその時に渡せばいいかと思い、いったん彼女の意向を受け入れることにした。


最初にエナージュから受け取ったお金とゴブリンの討伐、今回の依頼達成でオレのギルドカードには実は大白銀貨1枚くらいのお金が入っている。

というか、フレイムジャッカルの素材の一部ですら銀貨4枚。完全な状態なら白銀貨1枚くらいになっていたかもしれない。

最初にソラが倒した魔物の素材っていったいいくらで売れたんだろうかと今更ながらにちょっぴり恐ろしさが込み上げて来た。



ギルドを後にしたオレ達は、アウルの鍛治工房を訪れることにした。

明日でも良かったのだが、中途半端な時間になってしまうと依頼を受けるのが難しくなってしまうと判断したからだ。

そこそこお金があるとは言え、欲しいものもたくさんある。

特に最大目標である魔筆はいくらの値がつくのかよく分からない。


アウルの工房は街の大通りを一本中に入った目立ちにくい場所にあった。

武器屋や武器工房はある程度同じエリアに密集していたのだが、アウルの工房はそれとは全く異なる一角に構えている。

武器屋も兼ねているらしく、お店は傾いたOPENの札が乱暴に下げられていた。

頑丈な木の扉を開くと、ギギッという音と共にベルがチリンと鳴った。

明かりのついていない店内は陽光を取り込む窓からの光で埃が舞っているのが分かる。

武器屋などというものにはRPGの世界でしか馴染みがなかったが、実際に入ってみるとちょっとドキドキする。

壁に掛けられた剣や槍、傘のように無造作に差し込まれた剣、鎧も棚に煩雑に置かれていて、思わず圧倒されてしまう。

剣や槍だけでなく、槌や鎖鎌など、種類も多く、どれもかなり質の良いものだということは素人のヴィクトの目から見ても分かる。


それを眺めていると、ベルの音を聞いて奥からドタドタと音を立てながらアウルが姿を現した。

アウルはオレ達ふたりの姿をみるとにっこり微笑む。

「早速来てくれたんですね。ささ、どれでも気に入ったものを持って行ってください」

そんな感じでぺこぺこしながら案内をしてくれた。

厳つい見た目に反する平身低頭ぶりにオレもつられてぺこぺこしてしまう。


オレは1つひとつ気になった剣を手に取りながら感覚を確かめてみる。

重さや振りやすさなど、さまざまな面で体に馴染むかどうかをチェックした。

触るだけはタダなので、オレは剣以外にもいろいろな武器を見ていると、その中にどういった用途なのかよく分からないものがあった。

魔法使いの杖のようでもあるけれど、他の杖に比べて短い。

魔石や宝石の類も使われておらず、それでいて柄の部分に凝った細工が施されている。


「アウルさん、これって何ですか?」

ヴィクトが指差したそれに目をやり、アウルは少し目を細めた。

「あぁ、それは魔筆だね」

その言葉に心臓が高鳴った。

「こ、これが・・・」

正体を知って改めて見てみると、なんだかよく分からない武器がとんでもなく素晴らしい価値のあるものに見えてくる。


「魔術が使えるのかい?」

アウルは不思議そうに質問してくる。

「いや。オレ、魔法に憧れてて」

オレはそういってこれまでの経緯を説明した。

魔法が使いたいこと。魔力がゼロなので諦めたこと。魔術であれば使えるかもしれないこと。それにはどうしても魔筆が必要なこと。

それを話すと、アウルは「ちょっと待っててください」と言ってそのまま奥の部屋に引っ込んでしまった。

突然のことにオレとソラは顔を見合わせる。


そして、すぐに戻ってくると、そこにはひとつの木箱が握られていた。

アウルはその木箱を丁寧にカウンターに置くと、紐をほどいて蓋をあけた。

そこには店内に飾られているものよりもさらに美しく、繊細な紋様が描かれた魔筆があった。

「この魔筆は10年前、とある方からの依頼で作ったものなんです。ですが、彼がそれを受け取りに来ることはなく、ずっと眠り続けて来てたんです。どうかこれを受け取ってもらえませんか?」

アウルに言われてオレは驚く。

どう見てもそれは最高級の一品。

魔術が使えるかどうかも分からないオレが受け取っていい物には思えなかったからだ。


「お金は依頼人からすでに受け取っているんです。でも、10年経っても取りに来ないということはもう、これが依頼人の手に渡ることはないでしょう。私はこれを売り物にするつもりはありません。だから、あなたに使ってほしい。命の恩人に贈る品としてはこれ以上のものはないと思うのですがいかがでしょう」

アウルの言葉にオレはソラの方を見る。

アウルの命を救ったのはオレではなくソラだし、彼女が求めたのは折ってしまった剣の代わりだ。

決して魔筆ではない。

だが、オレの意図を察したソラは

「受け取ってやればいい」

とひと言返してくれた。

それを受けて、オレはアウルにぺこりと頭を下げ、

「では、ありがたく頂戴します」

と告げた。


アウルはいったん魔筆を木箱に入れると、そのままオレの方に差し出す。

「こちらをお受け取りください」

そう言って差し出された魔筆をオレは手に取ってみる。

それはしっくりと手に馴染んだ。

美しい装飾はこの国の紋章を象っていて、それを見るだけで依頼者がこの国のけっこう偉い人なのではないかと想像させる。

「この魔筆の特徴は魔石を交換しなくても良いところにあります。詳細は企業秘密なんですが、希少な魔石に特殊な魔法陣を埋め込むことでマナを収集・保持することを実現しました。今は最大量の魔力が溜まっていますが、使用すると減った分の魔力を吸収し、回復していきます」

その効果を聞いて正直オレは驚いた。


普通の魔筆は魔石を消費するため、それがないだけでエコな武器と言える。

ちなみに、魔力を使い切ってしまった場合を考えて魔石を込めることもできるらしい。

「すぐに使えますのでそのままお持ちください」

アウルにそう言われ、オレは思わず顔を綻ばせる。

「本当にうれしいよ。ありがとう」

そう言って感謝を伝えると、思いもよらないところで魔筆を手に入れたオレは、ウッキウキで宿に戻った。

そして、部屋でもらった魔筆を見ながら物思いに耽る。

これでオレもついに炎や氷の魔法を使うことができるかもしれない。

決してチートみたいな能力ではなかったけれど、魔術を使いながら剣を振る、超すごい冒険者になることも夢ではないかもしれない。

そう思うとつい顔が緩んでしまう。


だが、そこでオレはひとつ大事なことに気づいてしまった。

魔筆で浮かれすぎて剣のことを忘れてしまっていた。

もともとは剣をもらうつもりでアウルの工房を訪れたのだが、代わりに魔筆をもらった時点で剣はいらないとはなるはずがない。

「やっちまった」

持ち帰っていた、すっぱりと折れてしまった剣を抜き放ってため息を吐く。

まぁ、忘れてしまったものは仕方ない。

明日は依頼を受けずに魔術の練習をしてみるのもいいだろう。

オレはワクワクしすぎて抑えきれない高揚感を胸に抱きつつベッドに入り、遠足前日の子供のように眠れずにベッドの上でゴロゴロする夜を過ごしたのだった。



翌朝、ソラに起こされ、眠い目をこすりながら目を覚ました。

ばっちり寝坊した。

「す、すまん。ワクワクして眠れなかった」

慌てて準備をするオレを見ながらソラはちょっぴり呆れたように笑っている。

その生温かい目線がすごく突き刺さる。

「焦ることはないさ。どうせ今日は魔術の練習をするのだろう。依頼はそこまで時間がかかるものにしなければ支障はない」

ソラもオレの気持ちを理解してくれているのか、「どうせ魔筆を使いたくて仕方ないのだろう」みたいな顔をしている。


ひとまず支度を済ませ、ちょっぴり早足でギルドを訪れると、朝の依頼を受ける冒険者達でギルド内はごった返していた。

オレは依頼が張り出されているボードには目もくれず、一直線にヒルダのいるカウンターを目指す。

数名の受付の順番を待って自分たちの番がくると、いつも通り依頼を見繕ってもらった。


だが、Dランクの依頼はそれほど目新しいものは入っていないらしく、彼女は初日に受けたゴブリン討伐が最もおすすめだと言う。

オレはそれを二つ返事でOKすると、ついでに魔術について質問してみることにした。

「この街で魔術に関する入門書みたいなものって売ってたりする?」

オレの質問にヒルダは少し考え、

「ギルドの初心者が使うものでよければ銅貨1枚で貸し出し可能ですよ。ただし、破損させたりすると金貨1枚の支払いになるので十分気をつけて扱ってくださいね」


彼女の言葉でこの世界の本の価値の高さに恐れ慄く。

本1冊の弁償が10万円相当である金貨1枚。

オレは最新の注意を払うことを心に誓い、銅貨1枚と引き換えに本を受け取った。


ヘルツェンライゲン西側の平原へと徒歩で移動する道中、オレは魔術についてソラに質問した。

「ソラは魔術を使えるのか?」

オレの質問にソラは少し不思議そうな顔をした。

「私が使っている剣を出したりしまったりしているこれも収納魔術のひとつだと思っている」

言われて改めて気付かされた。

右手を伸ばすと出現する赤い剣。

それは収納魔術だからできる芸等だったらしい。


「それ、どうやってるの?めちゃ便利そうだよな」

オレが聞くと、ソラは横に首を振った。

「原理は分からない。たぶん失った記憶の中だと思う」

そうだった。

オレの記憶がないのと同じように、ソラも記憶がなかった。

戦いのこととか、いろいろ知っているからつい忘れてしまいがちなのだが、彼女も彼女で失った記憶を取り戻そうとしているのだ。


まぁ、オレに関してはこの身体の主の記憶がオレの中に入って来たらどうなるのかいまいち分からないし、あまりそれを取り戻すことを望んではいない。

願わくば有名人などではなく、街で会った時に「よぉ。ヴィクトなんちゃーら」とか言われなければいいなと思っている。


オレはソラが西の草原に辿り着いた頃にはソラに魔術の基本的なことを一通り教えてもらった後だった。

「とりあえずゴブリンを狩ってくるからヴィクトは本を読んでおくといい。ただし、読書に集中しすぎてゴブリンに襲われないようにだけ気をつけてくれ」

彼女はそう言うと、草原の中に消えていった。

草原内には彼女の背丈ほどの草も多く生えていて、少し離れてしまうと見つけるのも大変なくらいだった。


オレはひとまず彼女に言われた通り本を広げる。

そこには、魔法に関する基礎的なことと、いくつかの魔法陣が解説付きで描かれていた。

魔法に関しては緒方雄介がオタク知識として持っているものとあまり変わらない。

火、水、土、風の4属性と、光、闇の2属性からなる基本の6属性が魔法陣の基礎となるらしい。

そして、火属性の攻撃魔法、水属性の回復魔法、土属性の防御魔法、風属性の補助魔法、光属性の洞窟などで便利な明かり魔法と、闇属性の収納魔法が解説されている。


「魔術の基礎知識で収納魔法?」

オレのオタク知識では、収納魔法といえば軽いチート魔法の一種だったはずだが、この世界では入門で覚えることのできる基礎的な魔術のようだった。

とりあえず火の魔術から順番に試してみたかったけど、攻撃魔法を草むらで放つと火事になってしまいそうなのでいったん自重することにした。


ならば収納魔術か。

そんなことを思いながら魔筆を使って描かれている魔法陣をトレースしていく。

魔筆に軽く力を入れ、円を描いていくとそこにはピンクとも紫ともつかない光の線が浮かび上がった。

本を左手に、右手で魔法陣をどんどん描いていくオレの顔は、魔法陣の光によって淡く照らされている。

背の高い草の中で不適な笑みを浮かべるオレ。

「か、書ける。書けるぞ」

思わず口をつくセリフ。

ここにソラがいたら彼女に「私も秘密の名前を持っているのだよ」みたいな感じのことを口走ってしまいそうになるところだ。


程なくして魔法陣は完成し、淡く光を放った。

魔法陣からは夏の夜に舞う蛍のように光の残滓がひらりと舞い上がっては消えていく。

「すっげぇ」

オレは感動に打ち震えながら、収納魔法が描かれた魔法陣を魔筆でトンと叩いた。

すると、頭の中に収納のイメージが浮かび上がってくる。

少し小さめのクローゼットひとつ分くらいの空間で、中には何も入っていない。

「おぉ。なんか物置みたいなのが出て来た」

テンションが急上昇したオレは、試しに持って来ていた壊れた剣を中にしまうようにイメージする。

すると次の瞬間、腰の剣がスッと消え去り、頭の中にその剣がイメージとして浮かび上がる。


「すげぇ。できた」

初めて使った収納魔術はなんだかゲームのアイテムボックスみたいな感覚だった。

これまで剣を振ったり魔草を集めたりでちょっと冒険者っぽいことをしていた自覚はあったが、ここまでファンタジーなのは初めてだった。

何だかワクワクが止まらない。

もう一度魔法陣をトンと叩くと魔法陣から上へ下へと光が舞い散るように残滓を残しながら消え去った。


す、すげぇかっこいい。

魔法陣が出現してから消えるまでの一連の流れに思わず感動してしまった。

なんだかドキドキが止まらない。


ただ、なんかちょっと違うんだよな。

それはほんのちょっとの疑問だった。

久しぶりにパソコンを開き、説明書を見ながらマウスを右クリックしてコピーを選択した時、確かショートカットキー使ってたよなぁ・・・くらいの感覚が、魔法陣を描いていた時にあったのだ。


いつも使い慣れていた感覚との乖離。

それは、記憶のないヴィクトの身体に大きな違和感として残った。

記憶も知識もないのに、身体が覚えている。

確か・・・

そう思い、今度は先ほどの収納魔術とそっくりの、ただ一部だけちょっと異なる魔法陣を描いた。

ふむ。やっぱりこっちの方がしっくりくるな。

そんなことを思いつつ、魔法陣をトンと叩いて起動させる。

そして次の瞬間、オレは言葉を失った。


頭の中に浮かんできたのは果ての見えない広い部屋。

その中に、縁もゆかりもありまくりそうな、たぶん由緒も正しいかっこいい剣や、どんな効果を発揮するかわからない装飾品、その他山と積もるほどの金と銀など、まるでどこかの宝物庫と言っても差し支えないようなお宝の数々が空間を彩っている。

「や、やべぇ」

焦ったオレはすぐにその魔法陣を消した。


「な、なな、何だったんだ?今の」

どう考えても普通ではない空間だった。

見てはならないものを見てしまった気分で心臓がドキドキと高鳴っている。

オレは大金が入ったアタッシュケースを抱えて電車に乗った犯罪者のように(オレのイメージ)辺りをキョロキョロと警戒し、誰も見ていなかったことを確認するとホッと胸を撫で下ろす。


ちなみに、もし誰かに見られていたとしてもオレが見たものすごい光景と同じものを側から見ている人が見られるわけではないので、何の問題もないということは頭の中では分かっている。

それでも小心者のオレはつい自分が良くないことをしているような後ろめたい気持ちになってしまう。


そして魔法陣を描いてみて分かったことだが、頭の中に描く魔法陣のイメージがはっきりしていると、細かい部分まできっちり描かなくてもある程度魔筆が補完してくれるようだった。

そのため、本を見てトレースした最初の魔法陣に比べて二度目に描いた魔法陣の方が少し複雑だったにも関わらず、格段に早く描くことができた。


大事なのは何を描くかというイメージだ。

魔法陣を描き切るまでは正しい魔法陣から意識を逸らしてはならない。

「ここの文字間違いやすいんだよな」とか「あれ?ここってこの文字だっけ?」とか考えながら描くとこれまでの経験上100%の確率でミスる。

だから、魔法陣を描く時は本当に集中が必要なのだ。

本を見ながら描いていた魔法陣を何も見ずに描けるようになり、最終的には身体が勝手に覚えるまで反復練習をするしかない。


あ、さっきのってもしかして前の身体の主が身体が覚えるまで魔法陣を描き続けたから今のオレが覚えているのでは?

そんな答えが一瞬頭をよぎる。

だが、仮にそうだったとして、ほとんど無限大と思えるような収納の中に伝説の装備を隠し持っているようなやつが身包み剥がされて放り出されたりするだろうか。


マジでこいつ何者なんだ?

魔法陣の勉強をしていたら何故かこの身体の主がますます謎めいてしまった。

オレは「はぁっ」とため息を吐き、考えても分からないことを考えるのはやめにした。

今は魔法陣の勉強の方が大事だ。


そうこうしていると、あらかたゴブリン掃除を終えたソラが戻って来た。

「ヴィクト、どうだった?」

開口一番魔術の成果について聞かれたオレはグッと親指を立てる。

「バッチリ使えたよ。ちょっと見てもらっていいかな?」

オレはそう言うと、すらすらと収納魔術の魔法陣を描く。

描いたのは身体が覚えていてイメージができるとんでも宝物庫の方だ。


魔法陣を描き終わるとオレはソラからゴブリンの魔石や耳を受け取り、魔法陣にしまう。

先ほどまであったものがシュッと目の前から消え去ると、ソラは「ほぉ」と少し驚いた顔をする。

「収納魔術か。すごいじゃないか」

ソラに褒められてオレはなんだか嬉しくなる。

というか、ソラに対してかっこいいところを見せたかったので、褒め言葉がもらえてめちゃくちゃ嬉しい。

「オレ、すっごい嬉しいよ。こんなことができるようになるなんて夢みたいだ」

心底嬉しそうにしているオレを見てソラもにっこりと笑ってくれる。

「ソラが教えてくれなかったら魔力ゼロって言われた時点で諦めてた。ソラが教えてくれたからオレ、憧れを実現できたよ。本当にありがとう」

すごく嬉しそうにしているオレの姿を見て、その言葉が本心であることが伝わったのか、ソラはちょっぴり照れくさそうに笑った。


照れているソラもめっちゃかわいい・・・。

そんなことを思いながら思わず見惚れていると彼女はこくりと首を傾げる。

その仕草に一瞬目を奪われるが、いかんいかんと我に返った。

確かにソラはかわいいけど中身おっさんが美少女にメロついているのはちょっと痛い気がする。

冷静になれ、オレ。

でないとイケメン勇者が出て来たら「ヴィクトはなんか目線がキモいからここでお別れ」とか言われかねない。


オレは大はしゃぎしたい気持ちをソラから引かれたくない一心でなんとか自制したのだった。

お読みいただきありがとうございます。

次回は魔法陣魔術の勉強をします。

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