1-4 討伐依頼と護衛依頼
ソラから熱がまったくこもっていないスパルタ指導を受けたオレは、最初に比べて戦闘に慣れてきた。
魔物と戦っても前ほど心臓がバクバクいわないし、足が震えて動かないようなこともない。
剣を構え、次に取るべき最良の一手を考えながら戦えるようになっていた。
ソラが戦っている時は彼女の動きを目で追い、戦い方や考え方をできる限り吸収するため、彼女の動きを注意深く観察し、分析するようになった。
もちろん、導き出された答えが最良かどうかはまた別の話であり、戦闘が終わった後オレなりの意見とその理由を述べて確認するも、ソラからの指摘はまったく減らない。
そんなことを繰り返していたので、要求されることはかなりレベルアップしているという自負はあった。
結果もちゃんとついてきており、1日目にしてゴブリンを二体相手にしても倒しきることができた。
これにはソラも素直に褒めてくれた。
だが、こんなところで満足などしていられない。
いられるはずがない。
何故ならオレの目標はイケメン勇者よりも強くなることだからだ。
この世界に絵に描いたようなイケメン勇者がいるかどうかは別にして、もしいた時ソラに「勇者様がかっこいいからヴィクトとはここでお別れだ」と言われないよう、気を引き締めて鍛錬をしなければならない。
願わくば「ヴィクトと一緒にいたいからイケメン勇者とは一緒に行かない」と言わせたい。
そして二日目。オレは次の依頼をヒルダに見繕ってもらっていた。
昨日はゴブリンの討伐依頼で57体のゴブリンを倒した(40体はソラが倒した)結果、Dランクの依頼を受けるように言われた。
一つ上のランクの依頼は基本的に冒険者ギルドからの推薦がないと受けられない。
そして、3回連続で成功すればランクがアップする。
つまり、早くもギルドランクアップのチャンスなのである。
「じゃぁそれで」
普段依頼に対して我関せずなソラが突然ヒルダに許可を出した。
いや、待って待って。
まだゴブリン17体倒しただけでDランクとかマジで言ってる?
全然物足りなくないからね?
なんならちょっとヤバかったのあったからね?
今日くらいはまだEランクでいこうとかなかったわけ?
そんなことを思いながらヒルダが依頼を選別している様子を見ていると、彼女の手が止まった。
「これなんか良くないですか?」
そう言って彼女が差し出してきたのは、焔草の採取である。
え。ここにきて採取依頼っすか?
と思っていると、どうやら違うらしい。
採取依頼というのは基本的にGランクやFランクの場合が多いのだが、焔草はフレイムジャッカルの好物なので、採取に行くと高確率でフレイムジャッカルと遭遇する。
そのため、討伐ランクに該当するDランクで依頼が出される。
つまり、フレイムジャッカルの討伐と、どうせならついでに焔草も取ってきてねという依頼なのだ。
フレイムジャッカルといえばソラが倒していた魔物。
オレが魔物出現の恐怖で足がすくんでしまって動けなかったヤツだ。
早くもやってきた望まないリベンジ。
だが、覚悟を決めるしかない。
オレはヒルダに依頼を正式に承諾し、詳細を受け取った。
詳細情報によると焔草が採取できるのはヘルツェンライゲンから西にしばらく進んだ森の中らしい。
オレはソラと並んで歩きながら改めてフレイムジャッカルがどんな特徴を持つ魔物なのかを教えてもらった。
彼女の情報によるとフレイムジャッカルは基本的に群れで行動する魔物らしい。
そのため、焔草の群生地にも群れでいる可能性が高い。
群れを統率しているボスのような存在があるため、そいつを先に倒せるかどうかで統率力が変わってくる。
フレイムジャッカルの最も厄介な点は炎の魔法を使ってくることなのだが、魔法と通常攻撃の連携をとられるとソラでも意外と厄介な相手らしい。
一方、ボスを倒してしまえば魔法を使われる確率が下がるほか、攻撃もチグハグになって倒しやすくなる。
ソラがフレイムジャッカルとの戦闘で最初に倒したのがおそらくボスだったのだろう。
ソラが強過ぎてあまり参考にはならないが、動きが統率されていたとはお世辞にも言えなかった。
オレはそれをソラの実力が分かって恐れたからだと思っていたが、それ以外に理由があったらしい。
今回オレが戦う場合、ボスを見極めて倒せるかは大きな鍵となる。
道中昨日のゴブリン討伐で学んだことを復習しながらオレは目的地に向かった。
焔草の群生地には、案の定というか、予想通りというか、残念ながらというか、フレイムジャッカルが3匹、ちゃんと群れでお休みしていた。
とは言え、思ったよりも少なかったことが救いではある。
オレは剣に手をかけると、できる限り音を立てないようにゆっくりと進んだ。
これだけ熟睡してくれてるんだから焔草だけ摘んで帰ればいいんじゃないかとつい弱気になってしまう自分を頑張って奮い立たせる。
昨日さんざんゴブリンを倒したおかげか、戦うことに怖気付いて震えるようなことはない。
いける。
そう思い、オレは一気に駆け出した。
眠っているフレイムジャッカルの耳がピクリと動く。
オレは剣を抜き放つと、抜刀の勢いで横凪ぎに切り掛かった。
フレイムジャッカルはその動きを察していたようで、バックステップで緊急回避する。
くっ。
初手を外してしまい、一瞬焦るが、まだいける。
オレは横に振った剣の勢いを殺さないまま後ろから大上段に振りかぶり、地面を蹴った。
「うりゃぁぁぁっ」
そのまま剣を振り下ろす。
ガスッ
と剣が地面を叩く音が聞こえた。
フレイムジャッカルはまたしても後ろに飛び、オレの攻撃は回避されてしまった。
初動で最低一体は倒しておきたかったのに、成果はゼロ。
そればかりか、深追いによって相手の懐に入ってしまったことで、残りの二匹に囲まれてしまった。
考え得る最悪のパターンである。
やべぇ。完全にしくじった。
まったくダメージを与えられないのであれば追撃をすべきではなかった。
だが、今はそんなことを後悔している場合ではない。
勝つことだけを考えるべきだ。
ソラはどんなふうに戦っていただろう。
そうだ。
オレが目線を向けているフレイムジャッカルが突進してくる。
すごい勢いで迫ってきている。右側をチラッと見るが飛びかかってきそうな気配はない。
突進してきたフレイムジャッカルが前足を上げた。
オレはそれを躱すために後ろに飛び退くと、身体をひねりながら剣を振り上げた。
「ドンピシャっ」
そこには、オレが飛び退いて躱すことを予想した視界外のフレイムジャッカルが飛びかかってきていた。
剣は大上段。
振り向いた目の前には飛びかかってきているフレイムジャッカル。
まさかオレが振り返ると思っていなかったのだろう。
噛みつこうと口を開いているが、その目は驚きに見開かれていた。
そして、オレはそいつに向かって力強く剣を振り下ろした。
ギャンッ
フレイムジャッカルは自身の攻撃が間に合わないと悟ったのか、空中で身を捩って方向転換しようとした。
その首元を、狙い澄ましたように剣が一閃した。
き、きもちいい。
昨日あった、生き物を殺したという気持ち悪い感覚とは違い、高揚感のようなものがふつふつと湧き上がってくる。
もちろん、ここで油断してはいけない。
それは、昨日ソラから指摘を受けたことだ。
すぐに振り返り、背後の二匹を再度牽制する。
オレの動きにフレイムジャッカルは駆け出そうとしていた動きを一度落ち着かせる。
じりじりと動きながら優位な位置をとろうとするフレイムジャッカルに対し、オレは両方の個体が見える位置をキープして応戦する。
しばし睨み合いが続いたが、フレイムジャッカルが同時に沈黙を破る。
突如一匹の身体が赤い光に包まれた。
おそらく、魔法を使おうとしているのだろう。
そして、それを邪魔されないよう、もう一体がオレに攻撃を仕掛けてくる。
急速に迫り、右の前足を大きく振りかぶる。
それは、さっき見た威嚇攻撃と同じ動作。
オレはそれを飛び退くのではなく、より前に距離を詰めて剣を振り抜いた。
グギィー
フレイムジャッカルの身体に剣が刺さり、そのまま走り抜ける。
鮮血が飛び散り、剣をつたって滴り落ちる。
フレイムジャッカルは恨めしそうにオレを見つめながら、よろめいて地面に崩れ落ちた。
そのまま大きく飛び退いてその場から移動する。
すると、次の瞬間、オレがいた場所にフレイムジャッカルの炎魔法が殺到し、火柱が立ち上がった。
「あぶねぇっ」
倒した後でまごついていたら今頃俺はあの火の中だ。
背筋をゾッとさせながら俺は最後のフレイムジャッカルと対峙する。
今の所攻撃パターンは噛みつきと猫パンチと魔法の3つだけだ。
しかも、先ほどの動きを見る限り魔法は発動までに時間がかかるようなので一匹だけだとおそらく使ってこないだろう。
そう考えると、力強さや俊敏さはあるものの、パターンさえ分かれば行動が読みやすく、毒などを警戒する必要もない分ゴブリンより戦いやすいかもしれない。
オレは剣を正眼に構えながらジリジリと間合いを詰めていく。
フレイムジャッカルは攻撃手段がないのか、まったく攻めてこようとしない。
ならばこちらから畳み掛ける。
オレは地面を踏み締めると、力強く蹴った。
まるで消えるようなソラの動きには敵わないまでも、自分でも驚くような速さで距離を詰める。
フレイムジャッカルは最後の抵抗を見せ、前足を上げて猫パンチを繰り出してくる。
力強く、威力のある、しかし、軌道の読みやすい一撃をオレは難なく躱し、懐で剣を一閃した。
これで終わり。
そう思った瞬間、全身の毛が逆立つような殺気を感じた。
次の瞬間、勝手に身体が動いた。
バキーン
けたたましい金属音が鳴り響き、剣に手が痺れるほどの衝撃を受ける。
そして、赤い剣影が走り抜け、剣先が宙を舞う。
「あっ!」
「えっ?」
剣が折れた。
くるくると回転しながらぴゅーんと舞い上がるオレの剣先。
それを追いかけるふたりの目線。
一瞬にして消える殺気。
そう。
人間離れした動きでオレに襲いかかってきたのはソラだった。
「す、すすす、すまない。まさかヴィクトの剣まで斬ってしまうとは思っていなかったんだ」
青ざめながら謝罪してくるソラの表情は今にも泣き出しそうだった。
顔全体に「やっちゃった」と書いてある。
身体は硬直し、顔面蒼白になって動揺している。
どうしよう。かわいい。
「なぁ、ソラ?」
声をかけると彼女はびくんと肩を跳ねさせた。
目線を上げ、オレと目を合わせた彼女はまるで小動物のようにぶるぶると震えている。
「なぁ、ソラ?オレ、ちゃんと強くなってる?」
一方のオレは奇跡が起きたとばかりに興奮しており、テンションがギューンと上昇している。
「お、怒ってない?」
剣を折られて怒られると思ったのか、今だに剣を合わせた位置から動けず、上目づかいでオレを見るソラ。
さらさらの金髪がはらりと揺れ、潤いのある碧眼がオレの顔をじっと見つめている。
鈴を転がしたような甘い高音ボイスがにわかに震えているのが分かる。
よくわからんし怒ってないけどそれは反則ですよソラさん。
そんなふうに見つめられたらおじさんキュンとしちゃいますからね。
オレのことを不安げに見つめているソラを見て、オレはその頭にポンと手を乗せた。
彼女の肩がビクッと一瞬震える。
だが、頭を優しく撫でたオレの行動が意外だったのか、ソラは不思議そうにオレを見ながら乗せられた手に自分の手を重ねた。
「怒ってない。感謝してる。剣の指導をソラにお願いして良かったって思ってる」
それは紛れもない本音。
最初からオレが戦えると信じてくれた。
情けなく震えていただけのオレが勇気を振り絞り、自信を持てるまで親身に教えてくれた。
過保護にせず、戦うことは命のやり取りをすることであると分からせてくれた。
危ない時もじっと見守っていて、ギリギリの戦いをしていても手を出さずにいてくれた。
油断した時が一番危ないことを教えてくれた。
さっきだって、オレが油断していても怪我しないように手加減してくれた一撃だっただろう。
分かりにくくて不器用すぎるけど、それが彼女の優しさなのだということには気づいていた。
「だから、オレから言うことはふたつだけだ」
そう言ったオレに
「ふたつ?」
と問い返すソラ。
「そう。ありがとうと、これからもよろしく」
オレがそう言うと、ソラは驚いたような、それでいてどこか安心したような表情を見せる。
「うん。こちらこそよろしく」
そして、ちょっぴり照れたようにはにかんだ笑顔を浮かべた。
それから、ソラに焔草を採取してもらい、フレイムジャッカルを解体して素材をまとめたオレは、これをどうやって持ち帰れば良いか分からず頭を抱えた。
「今まで持ち運べなかったから置いて来ていたのに、なんで解体したんだ?」
ソラに言われてオレは泣きそうになる。
「これ、売ったら剣を買うお金ぐらい稼げるんじゃないかと思ったんだよ」
「つまりどうやって持って帰るか考えてなかったんだな」
図星を突かれて言葉が出てこない。
「くそぉ。せっかくちゃんと解体できたのに」
全部は入り切らないことを理解したオレは、魔石や爪など、簡単に持ち運べそうな素材だけを選んで持ち帰ることにすると、毛皮やら肉やらを名残惜しそうによけながら必要なものだけ袋にしまい、その場を後にした。
森を抜けて街道まで出ると、道なりにヘルツェンライゲンを目指す。
このまま歩いて帰れば比較的早く街に着くことができるだろう。
そう思っていると、
「ヴィクト、あれ、なんかおかしくないか?」
と、ソラが問いかけて来た。
言われて指さされた方を確認すると、魔物かなにかに馬車が襲われていた。
「この世界の馬車はカプ◯ン制のヘリくらい高確率で襲われるのか?」
堕ちることで有名な某ゲームメーカーのヘリを思い出し、思わず悪態を吐く。
ソラの方を見ると「日本語でおK?」みたいな顔をしていたが、いったんそれは無視する。
「助けるぞ」
オレはそう言って駆け出す。
ソラもオレの言葉に頷くと、並んで走り出す。
近づいてみると、どうやら馬車は10匹以上のゴブリンの群れに襲われているようだった。
一方の護衛は見たところ3人。
元々はもう少し多かったのか、ゴブリン達に倒されて数名が地面に転がっている。
このままでは数で押し切られるのは目に見えていた。
「ソラ」
オレがソラの名前を呼ぶと、彼女はこくんと頷いてさらにスピードを上げた。
「はっや」
思わず言葉が漏れる。
もしかしてウマより早いのではないかというほどのスピードで馬車に辿り着くと、ゴブリン相手に戦っている護衛に加勢した。
というか、そよ風が吹き抜けるかの如く、一瞬でゴブリンを片付けてしまった。
当然か。
昨晩「しっしっ」と追い払おうとしただけでゴブリン数体を間違って倒してしまったのだ。
ちゃんと倒そうとした彼女にとってゴブリンなどモノの数ではなかった。
ヴィクトが息を切らしながら馬車に着いた時には全てが終わった後だった。
「ありがとう。助かったよ」
生き残った護衛からお礼を言われている中、馬車の扉がガチャリと開く。
ヴィクトは思った。
あっ、これ、異世界転生モノの序盤に高確率で発生する馬車襲撃イベントだと。
そして、ほとんどの場合、助けられるのはお忍びで出かけていた第何王女とか、貴族令嬢とかなんだよな。
さらに、さらに、助けられた女の子が主人公に恋心を抱くまでがワンセット。
助けたのはソラだけど、高貴な美女の姿を拝めるチャンスかも。
そんなことを考えながら開いた馬車の扉の方を見る。
嫌でもちょっぴり期待してしまう自分がいる。
だが、そこに現れたのは美人とは対極にあるおっさんだった。
「私は武器職人をしております、アウルと申します。危ないところをお助けいただきありがとうございました」
男はしゃがれた声で恭しく礼をする。
ヴィクトはおっさんの奥にもう一人いるのでは?
みたいな感じで馬車の中を覗こうとするが、本当に彼しか乗っていないようだった。
なんかこの世界、異世界転生のテンプレ壊れてない?
そんなことを思いつつ、改めて男の方に再度目をやる。
彫りの深い顔立ちは、鋼のように硬く刻まれた眉の下で深いシワが幾重にも走っていた。
雪を被ったような白い髪は肩まで伸び、境目が分からないくらい立派なヒゲがその荒々しさと威厳を強調している。
ギョロリと光る瞳は炉の奥で燃える炭火のように鈍く光り、見る者を圧倒する威圧感があった。
背丈は低身長のソラよりもさらに低かったが、その身体は筋骨隆々。
武器職人とのことだったが、その容姿を見れば長年鍛冶場に立って来た姿を容易に想像できた。
「ドワーフ?」
ソラがぽつりと漏らすと、男はこくんと頷いた。
「いかにも。ワシはドワーフのアウル。あなた様は命を救ってくださった恩人です。ぜひお礼がしたい」
一見がさつそうに見える容姿とは裏腹に、男の態度は恭しく好感が持てた。
「礼には及ばない。と、言いたいところなのだが、こちらも先ほど相方の剣が折れてしまってな。可能であれば彼に合った剣を譲ってもらえないだろうか」
普段はこういった会話の際、オレの後ろで聞いているだけのソラが珍しく男と話している。
アウルはソラの言葉に快諾してくれた。
「それはそうと、一応護衛はついているようだがゴブリン相手に手こずるような素人で大丈夫なのか?」
当の本人を目の前にソラはにべもなく言い放つ。
一方、非難された冒険者も仲間が数名倒されていることもあり強く反論はできないようだった。
「普通、街道でこんな大量のゴブリンが出てくることはないんだよ。だからEランクの冒険者でも護衛任務は十分務まるはずだったんだ」
こんなことになるとは思っていなかったと男は歯噛みする。
「ワシは何度もクロスベルクとヘルツェンライゲンを行き来しているが、出てくるのはゴブリンやジャッカルといった弱い魔物ばかりだ。
今回のような群れでの襲撃は一度だってなかった。あなたのような高ランクの冒険者がたまたま通りがかって助かった。
もし可能であればヘルツェンライゲンまでの護衛を頼めないだろうか」
アウルはそう言って頭を下げる。
「オレもソラも同じEランクだ。別に高ランクでもなんでもないぞ」
オレの発言に護衛の冒険者もアウルも目を丸くして驚く。
「まぁ、でも目的地は同じみたいだから護衛は引き受けるけど、オレは一昨日冒険者登録した際にEランクは護衛任務は受けられないって聞いたけどな」
オレの言葉にアウルと冒険者が同時に固まった。
明らかに動揺しているようだ。
「ヴィクト、お前が今回受けた依頼と同じだ。抜け道はある」
ソラの言葉でオレは理解し、そして頭を抱えた。
つまり、からくりはこうだ。
まず、ギルドにDランクで少し安めに護衛依頼を出す。
Dランク冒険者には受ける者が出ないが、Eランク冒険者でもランクアップ目的でひとつ上の依頼を受ける者がいる。
そのため、Eランクでは護衛の依頼を出せないが、Eランク冒険者が受けることは可能な依頼となる。
依頼を出した側もそれを見越した上で金額を設定し、受ける側もそれを理解した上で受ける。
限りなくグレーに近いものだが、ギルドも「どうせ大した魔物も出ないし大丈夫だろう」という匙加減で依頼を承諾したということだろう。
「けっこうがばいんだな」
そう言ってオレは肩をすくめる。
「せめてちゃんとDランクの実力があればこうはならなかったのだろうがな」
今回は依頼を出したアウルの金額設定にも問題があったのだろう。
ギルドからランクアップできると許可された以上、Eランクの中では上位だったパーティーが受ける結果となってしまった。
Dランク相当の実力があると認められたとは言え、その中でも下の下だ。
護衛依頼を簡単で割りの良い仕事だと勘違いした結果、仲間を失うことになってしまった。
実力もリスクを考える危機察知能力も足りていない。
彼らは返す言葉もないと言う顔で苦い表情を浮かべている。
それから、護衛冒険者の仲間を埋葬したり、ゴブリンの魔石を取り出したりしてから出発することにした。
冒険者は魔石は倒したソラが受け取るべきだと言ってくれたが、彼らも仲間を失ってこれからかなり厳しくなるだろう。
それを分かってか、ソラは丁重にお断りしていた。
オレとソラの冒険者生活2日目は、いきなり武器を失うわ、倒した魔物の素材は持ち帰れないわでいろいろ残念な結果ではあったが、人助けもできて無事依頼達成で幕を閉じた。
お読みいただきありがとうございます。
最初は震えていたヴィクトでしたが、ちょっと強くなりました。
次回はアウルのお店に行きます。




