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1-3 ソラ先生のスパルタ指導

エナージュからお金を受け取ったオレとソラは、門で通行証を発行してもらい、その足で冒険者ギルドを訪れていた。


オレはソラとはこの街まで送ってもらった時点でお別れだと思っていたのだが、彼女はもうしばらく一緒に行動してくれるらしい。

「ひとまず記憶が戻るか、何か別行動しなければならない理由が発生するまでは一緒にいていいぞ」

そう言ってくれたことがオレにとっては救いでしかなかった。

むんっと胸を張っているソラの仕草がめっちゃ頼もしい。


ヘルツェンライゲンの冒険者ギルドはかなり広く、ホールの中央に冒険者ランクごとに分けて依頼のボードが設けられていた。

そして、その前に依頼を選んでいる冒険者の姿。

その奥には、依頼を受けるために冒険者達が長い列を作っていた。


その脇に、ひとつだけ誰も並んでいないカウンターがあり、そこには「新規登録」と書いてあった。

オレとソラがそのカウンターへ歩を進めると、受付の女性の方から先に声をかけてきた。

「おはようございます。

ギルド登録ですね?私はギルドの受付担当、ヒルダです。詳しい説明は受けられますか?」

女性はぺこりと頭を下げ、丁寧に対応してくれる。

オレは彼女の問いに「お願いします」と答えると、彼女は冒険者ギルドについて詳しく教えてくれた。


彼女の話によると冒険者ギルドの登録には、帝国民の身分証としての登録と、冒険者登録の2種類があるらしい。

身分証として利用する場合、半年に一度更新が必要になり、手数料を支払わなければならない。

一方、冒険者として依頼を受ける場合、更新までに1回以上依頼を達成しておけば手数料を支払う必要はない。

ただし、依頼を失敗したら受けていないのと同じになる。

仮に依頼に失敗し続けたり、依頼を受けなかったりするとランクを下げられる。


ちなみに、Bランク以上の上位ランクになると更新期限が1年に延びる。

これは上位ランクの依頼にはひとつで数ヶ月かかるようなものも少なくないからだ。

半年かかる依頼で遠征した結果、戻ってくると更新期間を過ぎていてランクを下げられたとなれば上位ランクの依頼を受けるリスクが格段に上がってしまう。

そういったことを考慮しての措置だそうだ。


とは言え、そんな心配は今は全く必要ない。

なにしろ魔物を倒す依頼すら受けられない最低ランクからの出発なのだから。


そんなことを思っていると

「おふたりはエナージュさんの紹介であり、なおかつCランクの魔物討伐の実績があるため、討伐依頼が受けられるEランクからのスタートになります」

と、ヒルダからにっこり笑顔で説明された。


ギルドランクは本来、Gから始まり、一番上はAランク。

これとは別に、Sランクというのも存在するけれど、依頼をこなしていけば上がっていくものではないため基本的な上限はAランクらしい。

GランクとFランクはかなり安全性の高い依頼なので駆け出し冒険者向けだ。

だが、ソラだけならともかく、オレも一緒にまとめてEランクスタートになるらしい。

もちろん、ソラと一緒の今なら死ぬことはないだろうが、正直オレはGランクスタートで問題ない。

なんでオレも一緒に魔物を倒したことになっているのだろうか。


オレがヒルダにランクの訂正をお願いしようと思っていると、彼女は磨りガラスのように表面が曇った水晶玉のようなものがついている謎の道具を取り出してカウンターに置いた。

「では、魔力測定をさせていただきますのでここに手を置いてください」

彼女はそう言って「どうぞっ」とばかりに手を差し出す。


それを見た瞬間、オレは冒険者ランクのことなど吹っ飛んでしまった。

というのも、これこそが奇跡が起きる瞬間だと察したからだ。

そう。これは、異世界チートの始まりってやつだ。

有識者ならご存知だろう。あまりの魔力に測定器が壊れてしまってギルド内がざわつき、「おいおいにーちゃん」的な世紀末風冒険者が絡んでくるまでがワンセットになっていることを。

オレはニヤリと笑い、白く曇った玉にそっと手をかざした。


すると、白い水晶玉の中央で光がゆらりと揺らめき、やがてそれは少しずつ光を増していく。そしてついには直視できないほどの強い輝きを放った。

光が弾け、やがて収束すると、目の前にある白い球にピキッとヒビが入り、粉々に砕け散った。

という妄想を思い描いていたのだが、いつまで経っても何も起こらなかった。


オレは、あれ?これ、いつ測定始まるの?もしかして手の角度が悪かったか?と、位置を変えたりいろいろやってみたのだが、まったく何の変化も見られない。

「あれ?なんで?」

ヒルダも電源入れ忘れたっけ?みたいな表情で測定器の側面を覗き込んだりしている。

「壊れてるんじゃないのか?」

ソラがそう言ってオレの手の横に手を置いた。

すると、今度こそ白い玉は淡く発光し始め、お盆提灯みたいに優しい光を放った。


「ちゃんと動くみたいだな」

そう言ってソラが手を離すと、光が消え、元の状態に戻る。

それを見て、ヒルダは「そんなバカな」とか言っている。

オレは彼女の態度にどんどん不安になってきた。

今度はヒルダが自分の手を置いてみる。

すると、微弱ではあるが、電池切れ寸前の豆電球ぐらいの明かりを放った。

そして手を離すとまたしても明かりが消える。


しばしの沈黙の後、ヒルダが口を開いた。

「ヴィクトさん・・・信じられないことですが、魔力が0です」

ヒルダの言葉にオレとソラが顔を見合わせる。

魔力ゼロ?

オレが思い浮かべたのは某ゲームに登場する脳筋ジョブの面々だ。

MP0で力いずパワーを体現した奴ら。

今のオレはそれとはほど遠いが、それはそれで仕方がないという程度。


だが、ヒルダとソラは全く違った。

何故なら、この世界で生きとし生けるものすべてに量こそ違えど多少の魔力は宿っているからだ。

つまり、そこらへんで農作業をしているおっさんですら「魔力たったの5か。ゴミめ」と言われる程度には魔力が宿っているのだ。

では魔力が0というのはどういうことかというと、生きてないということらしい。

死んでいたとしてもアンデッドモンスターですら魔力は宿っている。

つまり、信じられないことではあるが、魔力的に言うならアンデッドではない、本当に死体が動いているという程度の怪奇現象ということになる。


それなのに、そんなことをまったく知らないオレときたら「魔力0ってことは魔法使えないんか」というふたりから言わせれば斜め上の方向でショックを受けていた。

でもですよ、せっかく異世界転生したのであれば魔法使えないとかありますかって話じゃないですか?

チート属性のあるとんでも魔法がつかえなかったとしても、炎を操って魔物を攻撃したり、水を操って喉を潤したり、風を操ってTMRごっこをしたり、いろいろやってみたいことはあるのだ。

あからさまに残念がっているオレを見て、ヒルダは「そんなに?」とちょっぴり引いていたが、ソラはむしろ寄り添ってくれた。

「魔法、使いたかったのか?」

あからさまに落ち込んでいるオレを見て、心配そうに問いかけてくれる。


オレは彼女の問いにこくんと頷いた。

「使ってみたかった。使えないって言われるとますます使いたくなってくる」

わかりやすく落ち込んでいるオレを見て、ソラは優しく微笑む。

「詠唱魔法がダメなら魔法陣魔術でやってみるか?」

彼女の言葉にオレはその目をじっと見つめる。

「なにそれ。魔力ゼロでも使えるの?」

降ってわいた希望の言葉にオレはすがるように確認する。


オレの言葉にソラはこくんと頷いた。

「詳しく説明すると・・・」そういって始めたソラの話によると、この世界の魔法は詠唱魔法と魔法陣魔術のふたつに分かれているらしい。

どちらも魔力を使って事象を引き起こす手段というという部分では同じものということになる。

詠唱魔法は自らの魔力を使い、詠唱によって魔法陣を召喚し、事象を引き起こす。

自身の魔力量に左右されるため、使用できる魔法の種類や威力などにも個人差がある。


一方、魔法陣魔術は魔力を使って魔法陣を描き、大気中のマナを使って事象を引き起こす。

自分の魔力は使用しないが、その分大気中のマナの濃度に威力が左右される。

魔法陣さえ描ければ誰でもどんな魔術でも使用できるが、ほとんどの場合魔法陣を描くのに時間がかかるので、戦闘においては詠唱魔法の方が短時間で威力の高い攻撃を繰り出すことができる。

そのため、魔法陣魔術よりも詠唱魔法の方が優秀とされ、詠唱魔法を専門としている魔法師よりも魔法陣魔術を専門としている魔術師の方が下に見られがちだ。

だが、この世で使用されるものの中には詠唱魔法では難しいものも多い。


例えば、魔物を攻撃する炎は強ければ強いほど良い。

だが、夜の明かりを照らす炎は火力よりも持久力の方が重宝される。

自身の魔力を使い続け、片手を塞いで魔法で火を起こし続けるよりも魔法陣を描いて大気中のマナを使って明かりを灯し続けた方が効率が良い。

瞬間的な火力を必要とするものは詠唱魔法の方が相性が良く、長期的、もしくは広範囲で展開するものは魔法陣魔術の方が相性が良いとされ、魔法陣魔術には結界師や魔道具技師が多く見られた。


つまり、詠唱魔法ほどの威力がなくとも、魔法陣魔術をうまく使いこなせば一定の効果は保証される。

「魔法師にはなれなくても魔術師にはなれるかもしれないから、一度勉強してみると良いかもしれない。魔術師は魔法師の劣化版と言われているが、実際に極めようとすると奥が深いしやれることは多い。私にも協力できることがあるかもしれない」

ソラはそう言ってオレの方を見る。

一方、彼女の説明を食い入るように聞いていたオレは興味津々だ。


「やる。やってみたい」

ソラに感謝しつつ、オレは魔法陣の使い方を教えてもらうお願いをした。

オレの言葉にソラは笑顔で頷く。


「よし。なら、とりあえずお金を貯めるところからだ。依頼を受けて金を稼ぎ、魔道具の魔筆(まひつ)を購入するのが第一目標になる」

ソラの話によると、オレが魔術を使うにはその魔筆がどうしても必要らしい。

ちなみに、金額はバカみたいに高い。


一般的に魔術を使う場合、3つの方法がある。

ひとつは自分の魔力を使用して魔法陣を描く方法。

手っ取り早く出費もいらないのだが自身の魔力を使うので、それなら魔法で良くない?となる。

これをやると、魔力を持っていて、コントロールもできるのに魔法を使えなかった残念な魔術師のレッテルを貼られることが多いらしい。


次に魔力を帯びた石筆を使う方法だ。

この場合、軽く石筆に魔力を通せば魔法陣を描けるようになる。

そのため、魔力がほとんどない一般人でも慣れれば魔法陣が描けるようになる。

自分の魔力を使うよりも圧倒的に少ない魔力量で魔法陣を描けるため、魔法師が石筆を保持している場合も少なくない。

だが、石筆の購入に多少お金がかかる。

ちなみにオレは魔力がゼロなのでこれも無理だ。


最後が魔筆だ。

魔筆は魔道具に魔物から採取される魔石を装填し、魔石に込められた魔力を使って魔法陣を描く。

魔筆を握りしめるだけで魔石から絞り出されるように魔力が放出されるため、自身の魔力をまったく使わずに魔法陣が描ける。

石筆は石筆に込められた魔力が枯渇すると魔法陣を描けなくなるが、魔筆は装填した魔石の魔力が切れたら次の魔石を入れれば良い。

石筆が使い捨てのボールペンなら、魔筆はカートリッジ付きの万年筆といったところだろうか。

だが、この魔筆、機能は優れているが、べらぼうに高いらしい。

まぁ、ボールペンと万年筆の金額を比べても全然違うのだから当たり前ではあるが、魔術師という職業の人気が低く、魔法師の人気が圧倒的に高いという世の中の需要も相まって生産量が少ないため、それも金額を上げている一因となっていた。


「ということで、報酬のいい依頼を受けたいんだけど」

「登録したばっかりでそんなのあるわけないでしょっ!」


真顔で言うオレにヒルダが全力でツッコミを入れる。

考えなくてもEランクが受けられる依頼といえばゴブリン程度の魔物の討伐しかない。

それに、そもそもゴブリンの死体を放置していたからといって、雪だるま式にレベルアップした魔物が登場するなどということは起こらないらしい。

オレとソラは前代未聞の不運に見舞われ、それを夜通し戦い抜くことで生き残った奇跡の冒険者ということになっているらしい。


実際にはオレは爆睡していたし、ソラも戦ったことに変わりはないが、どちらかと言うと気にしていたのは魔物の強さより大きさの方で、オレの寝床を侵食してきて困った的な感じだった。


「じゃぁ、とりあえず討伐依頼をお願いするよ」

オレがそう言うと、ヒルダはしっかりとゴブリンの討伐依頼を紹介してくれた。

今回、オレとソラが野営していた正門の北側ではなく、街道を挟んだ南側が指定されている


「これってどこで狩ってもいいわけじゃなくて?」

どこで狩ってもゴブリンはゴブリンでは?

と質問すると、ヒルダが説明してくれる。

「討伐依頼の場合、結論から言うとどこで狩ってもOKよ。ただし、あくまでも街に近づく魔物を倒して危険性を排除することが目的だから、街から離れすぎた場所で狩らないようにお願いしたいかな。場所が指定されているのはその辺りによく出現しているからね。他で探すより効率が良いと思うわ」

ヒルダの言葉に納得したオレは、ソラからも依頼を快く引き受けてもらい、いざ出発することにした。


いくら最弱魔物のゴブリンと言えど、オレが戦うとあっさりやられてしまうのでソラの援護は必須だ。

今回は戦い方を教えてもらうことになっているので、それも合わせて都合の良いレベルと言えるのかもしれない。

ちょっぴり緊張しつつ街の外に出ると、ちょうどエナージュ達が魔物の解体を終えたところだった。


「おふたりさん、無事に登録できたみたいだな」

そう言って手を振ってくる。

「エナージュさん。おかげで助かりました。でも、オレはGランクスタートでも良かったんですけど」

そう言って頭を掻く。

だが、エナージュはそんなオレに向かって首を横に振った。

「Gランクなんかにしといたら討伐依頼を受けられないじゃないか。あんな魔物を倒せるんだ。冒険者は人手不足なんだから、遊ばせておく人材はいないんだよ」

と、軽くあしらわれてしまった。

どうやらエナージュはオレもあの魔物を倒せると勘違いしてしまっているらしい。


いや、まぁ、あの状況を見せられたらそう思ってしまうのは無理も無いかもしれない。

彼からすれば気を利かせたつもりなのだろうが、オレからしたら大きなお世話だ。

それで命を落としたらどうしてくれるんだ。


大きなお世話な親切にちょっぴり憤慨はしたものの、お金を稼ぐならランクは高いに越したことはない。

最終的には最初はソラに頼りつつ、頑張ってランク相応の実力を身につけなければと決意を新たにするのだった。



というわけで、依頼を受け、ゴブリン退治に草原へと繰り出してきたわけなのだが、オレは早くもソラに戦い方を教えてほしいとお願いしたことを後悔していた。

何故なら

「とりあえず実力が見たいからゴブリンと戦ってみてくれ」

という、泳いだことのない子供を何の説明もなくプールに投げ飛ばすような指導方法だったからだ。


「あ、あの、ソラさん?オレが戦えるように見えますか?」

念の為確認してみると

「いや、昨日の震えっぷりをみていると正直そうは思わないが、稀に追い込まれると力を発揮する奴もいるからな。とりあえず複数いたら1体まで削るから最後はヴィクトが戦ってみろ」

そんな感じで圧倒的な無茶振りをかまされる。

てか、戦えないのが分かっててやらせるとかマジですか。

オレはソラのスパルタっぷりに内心凹みながら、少しでもいいところを見せておかなければ、最悪ソラが「ヴィクトは使えないので今日からこいつらと組むことにした。あとは一人でなんとかしてくれ」と、イケメン勇者みたいな奴を連れてくる可能性も否定できない。


くそ、イケメン勇者許すまじ。

考えていたらなんだか空想のイケメン勇者に腹が立ってきた。

イケメンだからといってソラとお似合いになれると思うなよ。

謎のやる気が出てきたオレはペシペシと頬を叩きながら気合いを入れ直す。

そんなオレにソラはなんだか面白いものでも見るかのような目線を向けていた。


ヘルツェンライゲン南の草原は背の高い草が多く生い茂っていて、身を隠しやすいようになっている。

そのため、ゴブリンを発見しにくい反面、こちらも発見されにくい。

とは言え、歩くとパキパキ音がするところもあるので、慎重に移動していく。


すると、気合いを入れて意気揚々と歩いていくオレの前で、ソラが突然足を止めた。

そして、振り返ってオレの方を見ると、唇に人差し指を当てる。

オレはそれに黙って頷くと、ソラが指差した方を確認した。

そこには、おあつらえ向きに一体でふらつくゴブリンの姿があった。


オレは剣の柄にそっと手を添えると、音をたてないようにゆっくりと剣を抜き放つ。

そして、ゆっくりとこちらに近づいてくるゴブリンを息を殺して待つ。


ギギギ。グゲゲッ。


ゴブリンは奇妙な鳴き声を上げながら少しずつこちらに近づいてきている。

それを見ながらゆっくりとオレは剣を構えた。


ギギッ。


次の瞬間、ゴブリンはこちらを向いた。

バレた。

そう思った時には、ゴブリンはこちらに向いて一直線に駆けてくる。

先制攻撃の不意打ちを思い描いていたオレは突然展開が大きく変わったことに動揺した。


グギャーッ。


ゴブリンは叫び声を上げながら狙いを定めたオレに向かって飛びかかり、右手に持ったナイフを振りかぶった。

オレは立ち上がると、先ほどまで身を隠していた草むらを盾に飛びかかってくるゴブリンにタイミングを合わせて剣を振り下ろす。


グゲェーッ。


次の瞬間、ナイフを振るうゴブリンの腕よりも長いリーチが幸いし、飛んでくるゴブリンを叩き落とすようなカタチで、オレの剣はゴブリンを切り捨てた。


「はぁっ。はぁっ。や、やった」

心臓がバクバクと口から出そうなくらい高鳴っている。

それでもゴブリンの方をじっと見やり、起き上がってこないことを確認するとオレはその場に崩れ落ちた。

まだ手足が震えている。

生き物を剣で殺めたという、なんとも言えない感触が手に残っていた。


決して格好の良い勝ち方ではなかった。

それでも、なんとか勝つことができた。

「ど、どうだった?」

オレはソラの方を振り返ると、彼女はにっこり笑顔を浮かべている。

「そうだな。ヴィクトはどう思った?」

ソラに問われてオレは先ほどの戦いを思い返した。


「よく勝てたな・・・とは思う。ただ、一歩間違えれば危なかったとも思う」

そう。

これが全てだ。

本当なら先制不意打ちで終わっていた。

それなのに、気付かれ、攻撃され、気が動転した。

それでもなんとか勝てたのは、ゴブリンの攻撃がお粗末だったからだ。


「よかった所は想定外の展開になって慌ててしまったけれどなんとか立て直したところだな。昨日のヴィクトのままだったら戦いにならなかった」

淡々と語るソラは、もしオレがゴブリンから攻撃を受け、血をだらだら流していても同じようなテンションで反省会を開いてそうな気がする。

「それと、悪かった所は・・・」


そこから始まった指摘は思っていたよりも多かった。

ひとつは先に剣を抜いていたため、陽光が反射して居場所がバレたこと。

不安で抜いておくならそういうことがあり得ると把握しておく必要がある。

抜かずにギリギリまで待つ場合、攻撃するタイミングになって剣が鞘に引っかかるような失敗をしないよう、勢いよく抜き放つことを心がけると良いそうだ。

次に、居場所がバレて立ち上がったなら、場所を選んだ方が良いこと。

ヴィクトが戦っていた場所はどちらかと言うと不利な要素が多かったらしい。

土にしっかり根を生やした草に足を取られたり、ぬかるんだ地面に滑ったりする可能性は事前に排除しておく必要がある。

さらに、ゴブリンの攻撃を正面からカウンターするのは得策ではないこと。

ナイフに毒が塗られていることもあるため、敵の攻撃が掠っていて、こちらの攻撃で倒せなかった場合形成が逆転する可能性があったらしい。

そして、最後に倒した後に周囲を警戒しなかったこと。

第三者がいた場合、敵を倒して安心したタイミングが最も狙われやすいため気を抜いてはならないというのは、基本中の基本らしい。


次から次へと出てくる課題に、オレは「ほぉ」「なるほど」と思い返しながら頭の中で再度同じ展開になったらどう動くべきかをシミュレーションし始めた。

確かに「あえてそうした」と言うものは何ひとつなく、ただひとつ、不意打ちが成功することだけを祈って戦っていた。

どうすればより確実に倒せるか。

あるいは、どうすれば自分にとって有利になるか。

そういったことを常に考えながら戦うことで、勝率がアップすることをソラはオレにこんこんと解いてくれた。


そして、

「じゃぁ、次いこうか」

と、ゴブリン退治を継続した。

かくしてここに美少女鬼教官が誕生したのである。

最後までお読みいただきありがとうございます。

ソラは鬼教官でした。

次回はもう少し強い魔物と戦います。

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