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1-14 サイアス=クロフォート

月雫亭に戻ったオレとソラは、夕飯の支度をしているご主人に「今日はたくさんお客さんが来そうだよ」と伝えて部屋に戻った。


オレは部屋に入り、装備を外そうと手をかけてからすぐに手を戻す。

「ソラ、洗浄するよね?」

そう言ってから魔筆を取り出してソラの方に魔法陣を描こうとすると、彼女はそれを静止する。

「一緒でいい。ヴィクトもやるんでしょ?わざわざ2回もやる必要ないよ」

と言った。

毎回洗浄の魔法陣を使う時、オレはソラのために魔法陣を描くと言い、彼女は一緒でいいと答える。

オレはこのやり取りを建前としてやっている訳ではない。

できればソラに了承してほしいと本気で思っている。


洗浄の魔法陣は身体や服を洗うだけの便利な生活魔法だ。

それ以外に、何があるわけでもない。

ないのだが、魔法陣がそこまで大きいわけではないし、服を着た状態なので疾しいことはまったくもってこれっぽっちもないのだが、それはそれとして、やっぱりちょっとドキドキする。

いや、けっこうドキドキする。

この際だから正直に言おう。めっちゃドキドキする。


そりゃそうでしょ。

めちゃめちゃ可愛い女の子とひとつ魔法陣の中で一緒に身体を洗っているんだから。

いい匂いするし。

いやいや、なにをエロオヤジみたいなことを言ってるんだ。

まぁ、オレの中身はおっさんだから仕方ないって、いやいやそうじゃない。

落ち着け。深呼吸だ。

吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー。


オレは気持ちを落ち着けるためにふうっとため息を吐くと、「コホン」とひとつ咳払いをしてから言葉を発した。

「じ、じゃぁ僭越ながら」

そう言いながら魔法陣を描き始める。

「なにそれ。ほら、ヴィクトも早く」

ソラがぴょんとその上に乗っかると、そう言ってオレの服をグイッと引っ張って引き寄せる。

「あっ、ちょっ」

引っ張られたオレは思わずソラにぶつかりそうになるが、なんとか全力で耐えた。


あぶないっすよソラさん。

そんな勢いで引っ張られたらおじさん勢い余って抱きついちゃいますからね。

ちょっぴり冷や汗をかきながらソラの隣に立つと、魔法陣から浮かび上がる青いキラキラに包まれていく。

そして、ぶわっと広がる風によってキラキラが霧散し、ソラの髪の毛が風によってはらりと広がった。


「ありがとっ」

洗浄の魔術でスッキリしたソラはオレからスッと離れると、ベッドに腰掛けた。

そして、いまだに同じ場所に立ったままのオレの方を見ると、隣をポンポンと叩き、隣に座るよう促した。

他でもないソラからのお誘いだ。

もちろん断る理由などない。

オレはちょっぴり緊張しながら横に座る。

すると、それを見たソラは優しい声で話し始めた。

「ヴィクトはさ、私のことをすごい褒めてくれるよね」

ソラの意図が分からずオレは首を縦に振った。

「でも、今日はお世辞抜きでヴィクトが一番だったと思うよ」

ソラの言葉にオレは頭の上にはてなマークを浮かべながらキョトンとする。


「ヴィクトの中では、私やグレンみたいに敵を倒せる人だったり、魔力感知で敵の居場所を看破できるフェレールみたいな人がすごく強く見えて、自分なんてまだまだだなぁって思っちゃうんじゃないかな。

だから、剣の腕も魔法陣魔術もまだまだの自分は足元にも及ばないって思ってない?」

ソラにそう言われてオレは一も二もなく頷いた。

「当然だよ。それは厳然たる事実で、疑う余地のないことだから」

オレがそう言うとソラは首を横に振った。

「私は違うと思うよ。だって、ヴィクトが透明化したゴブリンの居場所を教えてくれなかったら私もグレンも苦戦してたでしょ?

いつかは倒せたかもしれないけど、もしかすると退却だってあり得たかもしれない。

それに、ヴィクトがあの時敵を切り崩してくれてなかったらゴブリンロードを倒すのにももっと時間がかかってた。キングの時だって私の意図に気づいてちゃんと実行してくれた。

全部ヴィクトがきっかけをくれたから私は敵を倒すことができた。

ヴィクトがいなかったらこうはならなかった。

そのことに、もっと自信をもってほしい」


「なんとかしなきゃ。少しでも役に立たなきゃって、きっとそう思って、ヴィクトは今自分にできることを一生懸命探してくれてたんだよね」

ああ。

そう。

そうだ。

一番弱い自分が、どうにか役立てることを必死で探していた。

放っておいてもソラならひとりでなんとかしてしまうかもしれないけど、いてもいなくても同じと思われるのは嫌だった。

「早く爪痕残しとかないとソラが全部倒しちゃいそうだったから」

オレがそう言うと、ソラは「なにそれ」と言ってカラカラと笑う。


「いや、ソラがそうやって笑えるのは強いからであって・・・」

そこまで言って言葉を切ると、ソラは小首を傾げる。

「強いからであって?」

思わず口走った言葉の先にものすごく恥ずかしい言葉があることに気づき、途中でいうのを止めたのだが、それを見逃してくれるソラではなかった。

オレを見ながらその先を促す。


「オレはソラから見放されるんじゃないかって思ってビクビクしてると言うか、ソラに見放されたらこの世界では生きていけないのではないかと不安というか」

オレはミカ平原でソラに置いていかれたらその時点で死んでいた。

あの時、オレの生殺与奪の権はソラが握っていた。

だからだろう。

ヘルツェンライゲンの街に着いてからも、クロスベルクに移動してからも、ソラがいればなんとかなると思っている一方で、いなくなると立ち所に死んでしまうのではないかという不安があった。

「他人の心というのは思っている以上に分からないものだね」

そう言ってソラは笑う。

「なんの話だよ?」

内にしまっておきたかった感情を一方的に暴露させられた挙句、意味深な言葉をかけられて笑われた。

そして極め付けは

「ナイショ」

である。


転生前も転生後も、女性の気持ちは分からない。

前世のオレはよく頑張ったな。

今世のオレは無理かもしれない。

そんなことを思っていると

「おいヴィクト、ソラ、早く降りてこい。宴会が始まらねぇだろうが」

と、階下から宿を揺らすような大声が響いた。

グレンがエールを片手に「もう我慢できねぇ」と言っている姿は容易に想像できた。


「行こうか」

「うん」

オレとソラは食堂に移動することにした。



部屋を出て階段を下り、食堂に入るとグレン達はもちろん、彼らと仲の良い冒険者達も訪れ、すでにほとんど満席状態だった。

「おぉ、(おせ)ぇよふたりとも」

グレンがそう言いながら俺たちを手招きしている。

案内されるまま進むと、なんとか死守してくれていた2席に座った。


「おし、主役は揃ったな。乾杯だ!」

グレンはそう言って手に持った酒をぐびぐびと飲み始めた。

「ほら、ボーッとしてねぇでお前も飲め」

グレンはそう言ってオレに酒の入った小さい樽みたいなジョッキを渡してきた。

この世界の酒って何歳からいけるんだろうか。

オレは未成年だからお酒は飲んではならないのではないだろうか。

そんなことを考えながら、まぁ、いっかと酒を口に運ぶ。

隣でソラが「あっ」と驚いたような顔をしていた。

オレの記憶はそこで途絶えた。



「まったく、お酒に弱いことを分かってて飲むんだから」

最近聞き慣れた優しい声音が耳元で響く。

どうやら眠ってしまっていたようで、オレは気がつくとベッドの上だった。

ソラがくるりと指を回すと、オレの周りに魔法陣が出現し、淡い光が包み込んでいく。

え?

混乱するオレをよそに彼女はコップを手に取るとそれを当然のように渡してきた。

あの、空っぽですけど。

そう言うまもなく、水が生成され、コップが満たされていく。


「ありがとう」

そう言ってオレはその水を飲み干した。

美味しそうな水が喉を通っていく感覚をまったく感じられなかったことで、オレはこれが夢なのだと気がついた。

「オレだって飲めないって分かってても飲みたくなることはあるんだよ」

水を飲み干し、ちょっぴり拗ねたような口調で言葉が自然と躍り出る。

いつもなら夢の中だとしても、オレが夢だと気付いた時点でそれは思い通りになるのだが、今回の夢は何故かまったく思い通りにならない。

「けど、口をつけただけでいつも眠っちゃうじゃない。まだ毒を盛られた方が正気を保ってる時間が長いんじゃないかと思うくらいよ」

そんな物騒な言葉を吐き、ソラは肩をすくめた。

「悪かったよ」

何かを考え、何かに思い至ったようで、オレの口からは素直な謝罪の言葉が出た。

だが、オレには自分が何を考えたのかは分からない。


素直に謝ったオレを見てソラが隣に座る。

そして、ちょっぴり悲しそうな瞳でオレの頭を撫でた。

見たことのないソラの表情に、態度に、行動に、オレは内心ビクッとしたが、そもそもこれが夢なのだということを思い出し、オレは一体どういう妄想をしているのだろうかと悲しくなった。

「今回の件、お前はよくやったと私は思うぞ。レインズ」


オレはそこで目を覚ました。


きもちわるい。

はきそう。

やばい。

これはマジではくかも。


「ヴィクト、いくらなんでも秒殺過ぎるだろ」

今度は現実のようで、目を覚ましたオレに気付いたソラが水の入ったコップを片手にオレに歩み寄ってきた。

身体を起こしたオレはそれを口にする。

冷たいものが喉を伝って入っていく感覚があり、それが胸の奥から込み上げてくる嫌なものを押し戻し、全身に浸透していく。

「ありがとう」

ソラに感謝の言葉を伝え、額に手を当てる。

ひどく冷たい。

おそらくオレは顔面蒼白といった感じになっているのだろう。


「ほら、この魔法陣描いてみて」

ソラはそう言ってナタリーに借りた本に書いてある解毒の魔法陣を示す。

食あたりやちょっとした毒に効果を示す生活魔法らしい。

オレは魔筆を取り出すと、本を見ながらそれを描写していく。

気持ち悪くて頭が回らなかったこともあり少し時間がかかってしまったが、間違ったものを描いてしまうと変な発動のしかたをしてしまう可能性もある。

慎重に、間違いのないように魔法陣を描くと、完成した魔法陣を魔筆でトンと叩く。

すると、魔法陣は発光し、淡い光がオレを包み込んだ。


その輝きはオレの中にある嫌なものを浄化していく。

冷たかった身体に熱が戻り、身体が次第に回復していった。

「ありがとう。すごく楽になったよ」

ヴィクトはそう言ってソラにぺこりと頭を下げる。

ソラはフッと微笑むと、室内の椅子に腰掛けてもうひとつ置いてあったコップに水を注いだ。

「で、今日はどうするの?」


ソラの問いにオレは少し考えたが、特に考える必要もないなと結論を出した。

「ギルドで依頼を受けよう」

準備を整え、一階に降りて食堂に行くと、宿の女将さんが食堂の掃除をしていた。

「あらあら、ヴィクトくん大丈夫?」

昨日の飲み会で秒殺されてしまったオレを気遣って、心配そうに声をかけてくれた。

「はい。ソラのおかげで良くなりました」

オレがそう返すと、彼女は「そうかい。それは良かった」と言って朝食を準備してくれた。


朝食はパンとスープ、それに季節の果物が添えられている。

この食堂の料理はどれも美味しい。

パンはふんわりと柔らかく、麦の風味が香る一品だ。

スープは野菜がメインでしっかりと煮込まれている。

この世界に出汁の文化はないため、スープの味についてはどの店で食べても味気ないものが多い。

だが、この店のスープは玉ねぎのような糖分の多い野菜やきのこを細かく刻んで入れてしっかりと煮込むことで深みを出している。


まだまだ朝は寒さを感じる季節なので、温かいスープは身体に染み渡る。

オレとソラが食事をとっていると、ナタリーがバタバタと食堂に入ってきた。

「お母さん、ナミダソウってどこかで手に入る?授業で使うんだけど」

ナタリーが尋ねると、女将さんは「はて?」と首を傾げた。

「魔草だねぇ。薬でも作るのかい?薬草のお店で買えるかもしれないけど、基本的に魔草は研究所が優先的に買っていくからあんまり市場には出回らないよ」

女将さんがそう言うとナタリーは分かりやすく肩を落とした。


「ナタリー。ギルドに採取依頼を出せばいいんじゃないか?」

ソラの言葉でナタリーの表情がパッと明るくなった。

そう。

研究所が優先的に買っていく魔草だが、その採取の多くは低ランクの冒険者が行っている。

つまり、それと同額くらいで依頼を出せば市場で購入するよりも安い金額でナミダソウを手に入れることができる。

難点なのは、出した依頼をすぐに受けてくれないこともあるため、今日の明日ですぐに手に入るかどうかが分からないところだった。


「とりあえず今から俺たちはギルドに行くからナタリーも来ればいいよ」

オレがそう言うとナタリーは女将さんの方を見た。

「別にお店の方は大丈夫だよ」

女将さんはそう言ってナタリーに早く行くように促した。

「ありがとっ。準備してくるんでちょっと待ってて!」

ナタリーはそう言ってバタバタと自室の方へ戻っていった。


実に賑やかな子である。

オレとソラは朝食を済ませると女将さんにお礼を言って皿を下げる。

ややあってナタリーが戻ってきた。

学生用のローブを身に纏っていて、ひと目でそれと分かる服装となっている。

冒険者ギルドでも時々同じ格好の冒険者を見かけるので、ヴィクトにはそれがナタリーが通っている学園の生徒であることを知っていた。



ギルドに到着すると、そこはいつも通り依頼を受ける冒険者でざわついていた。

オレはそこで久しぶりに見かける顔を発見した。

「ヒルダさん?」

ヘルツェンライゲンの冒険者ギルドでお世話になったヒルダである。

「あっ!ほ、本当にいた。ヴィクトさんとソラさん」

オレが声をかけると彼女は嬉しそうにぴょんと飛び跳ね、軽やかにこちらに駆け寄ってきた。

「なんでこっちに?ヘルツェンライゲンは?」

あまり他人の事情を詮索すべきではないのかもしれないが、嬉しそうな彼女を見ていると聞いてみたくなったのだ。


「あんなギルドはもう知りません。ヴィクトさんとソラさんのことあっさり帝都に手放しちゃって。信じられなかったんで憤慨してたら先輩と言い合いになっちゃって、あそこにはちょっと居づらくなったので私もおふたりを追って帝都に来たんです。何でも言ってくださいっ!」

ヒルダはそう言ってグッと拳を握りしめてアピールしている。

正直ちょっぴり抜けているミリアは不安なところがあったのでヒルダが担当してくれるのはありがたい。

「あぁ、そうそう。エナージュさんと受けられた護衛依頼は無事達成したという報告があったので、それも合わせて対応しますね」

そう言って彼女は空いているカウンターの方に俺たちを案内してくれた。


他は長蛇の列ができているのにこんな特別待遇をたかがEランクの冒険者にしてもらっていいのだろうか。

そんなことを思いながら、内心ラッキーとも思ってその案内に従った。


ヒルダにナタリーのナミダソウの件を話したところ、彼女はふたつの案を出してくれた。

ひとつは当初の予定通り採取依頼を出すこと。

メリットは安全に市場価格より安価でナミダソウが手に入ること。

デメリットは少し時間がかかる可能性があることと、品質の保証ができないこと。

低ランクの駆け出し冒険者が取ってくるため、丁寧に採取してくれる人もいれば雑で品質の悪い採取の仕方になる人もいる。

市場ならそういったものの中から好みのものを選べるが、魔草の類はほとんど薬草の研究所が買い占めるため市場には出回りにくいそうだ。


もうひとつはナタリー自身が採取にいくこと。

せっかくヴィクトとソラがいるのだからこれを利用しない手はないそうだ。

AランクでもおかしくないふたりがDランクの価格で護衛をしてくれるというのはものすごく光栄なことなのだと熱弁を振るってくれた。

ありがたいけどオレにはAランクの価値はない。

とは言え、ソラをDランクの価格で雇えるのはものすごくラッキーと言える。


「ナタリーがOKならオレは受けてもいいよ」

オレがナタリーにそう言うと、彼女はこくんと頷いた。

「じゃぁ、それで」

「ま、待て!」

ナタリーが承諾しようとした瞬間、突然横槍が入った。

声の主を見るとなんとなく見たことがあるようなないような、いや、たぶんある少年がいた。

「その依頼、オレも一緒に受けさせてくれ」

一緒に?

どういうことだろうか。


オレに受けさせろ!

ではない。

オレも一緒に受けさせろ!

である。

オレとソラは顔を見合わせた。


いや、そもそもこの少年は誰だ。

あぁ、そうだ。

グレンと一緒に依頼を受けた時、オレも連れてってくれと言っていたカイルの息子さん。

そう、なんかめっちゃ安っぽそうな名前。

いや、すごく低価格っぽい感じの・・・。

そうそう。

最安値。

じゃない。

サイアスだ。


「どうしたの?サイアスくん」

そう質問したのはナタリーだった。

あれ?ナタリーは彼を知っているのか。

そう思って考えてみると、そういえばグレンのパーティーメンバーはよく月雫亭に訪れている。

そのパーティーメンバー、カイルの息子なのだからたまに訪れていてもおかしくない。


「その薬草採取、オレを仲間に加えてくれよ。足手纏いにはならないはずだから」

サイアスはそう言っているが、オレは彼のことを全く知らない。

すぐにOKを出せるほど仲良くもない。


「とりあえず待ってくれ。オレとソラはDランクの冒険者だ。お前は?」

オレはそう言ってギルドカードを見せる。

すると、彼もギルドカードを取り出した。

Gランクだった。

まさかの駆け出しである。

それで足手纏いにならないというのはいささか無理があるような気もしなくはないが、まぁ、誰でも最初はGランクなのだから実際は違うかもしれない。


「ヒルダさん、DランクでもGランクとパーティーは組めるんですか?」

オレが確認すると、ヒルダは頷いた。

「本来同じパーティーになれるのは上下1ランクまでとなっています。

一応、Gランク冒険者はDランク冒険者とパーティーを組むことは可能ですが、この場合、指導員という立場を取る必要があります。

Gランクのサイアスさんの指導におふたりがつくという感じですので、ふたつの合同パーティーという形になります。

ただ、今回の場合ナタリーさんの護衛となるため、今の所おふたりで十分な上、金額も上がるとなるとメリットがないです」

ヒルダに言われてサイアスは分かりやすく肩を落とした。


すると、ここで珍しくソラが口を開いた。

「ナタリーも冒険者登録をして彼とパーティーを組めばいい。ふたりはナミダソウを含めた薬草採取の依頼を受け、私たちはふたりの指導員として同行をする。

ナミダソウは多めに採取しておけば規定量をギルドに収めて残った分を自分用に使えるし、指導員として依頼料はいただくが、ナタリーは依頼達成の報酬も受け取れるので財布は傷まない」

ソラの言葉に全員が「ほほぅ」という顔をして頷いた。


「ソラさん天才っ!」

ナタリーはそう言ってグッと拳を握った。

「Eランクまで上がれば同じパーティーになれる。それまでを試用期間とし、お互いに良ければ一緒にやればいいし、問題があれば別々にやっていくこともできるだろう。ひとまずはよろしく頼む」

そう言ってソラはナタリーの拳に自らの拳をコツンと当てた。

最近口調が砕けて打ち解けてきた気がしていたソラがまた戻ってしまった。

どうやらソラは他人と認識した者と話す場合はこういった口調になるようだ。


ということは、最近俺はソラに認められつつあったということなのだろうか。

そうだったらいいな。


そんなことを考えながら俺はナタリーの冒険者登録を見ていた。

「じゃぁ、魔力測定をしますね」

そう言ってヒルダが例の測定器を取り出す。

オレが触ってもうんともすんともいわなかったいわく付きの魔道具である。

ナタリーがそれに触れると、水晶が虹色に輝き、やがてまばゆく光を放った。

「ひぇっ」

驚いてナタリーが手を離す。

すると水晶は急速に輝きを失い、元の姿に戻った。

あれ、そのままやってたらマジで水晶を砕いていたのではなかろうか。


急にとんでもない光を発した受付カウンターを見て周囲がざわついている。

それに戸惑い、どうしたらいいのかわからなくなっているナタリーがおどおどしていた。

サイアスは目を丸くして驚いている。

そんな状況の中で、ソラは優しい眼差しを彼女に向けていた。


「と、途中で手を離されたので魔力量は測定不能ですが、ちょっと私にはもう一度お願いしますという勇気がないです。属性はすべてありそうですね。本当に、信じられない」

ヒルダはそう言いながらGランクのカードをナタリーに差し出した。


思わぬ方向に転がったが、ひとまず4人で魔草と薬草を採取することに決まった。

お読みいただきありがとうございます。


万年Gランクのサイアスはコミュ力がありません。

次回は爆弾を抱えたまま魔草の採取に出かけます。

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