1-13 ゴブリン討伐(後編)
ソラとグレンがゴブリンロードと睨み合いを続ける中、俺はなんとかそこに風穴を開けられないかと思案していた。
だが、俺の攻撃ではどう考えてもスピードが足りない。
俺の剣がゴブリンロードに届く前に見切られてしまうだろう。
そう思った俺は、グレンを見ながらふと一つの考えが過った。
「ゼルンさん、オレにも強化お願いできないですか?」
オレの言葉にゼルンは一瞬躊躇するが、すぐに頷き、杖を構えて詠唱を始めた。
口火を切ったのはゴブリンメイジの魔法だった。
魔法陣が頭上に3つ出現し、メラメラと火球が燃え上がっている。
それに張り合うように、フェレールの頭上にも3つの魔法陣が浮かび上がり、風の刃が形成された。
魔法は同時に発射され、狙い違わず空中で激突する。
それを合図とばかりにゴブリンロードが動き出すした。
まずは、左右の2体がそれぞれソラとグレン目掛けて突撃を開始する。
それと時を同じくして、ゼルンの詠唱が完了し、オレに身体強化の魔法が付与された。
グレンとソラはゴブリンロードの初撃を難なく躱した。
だが、ゴブリンロードもそれは織り込み済みのようで、そのまま向きを変えず中央で交差した。
グレンに攻撃を躱されたゴブリンロードは、勢いを殺さずソラに迫る。
ソラに攻撃を躱されたゴブリンロードもまた、その勢いでグレンに迫った。
その攻撃に呼応し、ほとんど同時に別方向からもゴブリンロードが襲いかかってきた。
ソラもちろん両者とも警戒しており、ほんの一歩場所を移動することで到達のタイミングをずらして両者を難なくいなした。
一方のグレンは同時に迫り来るゴブリンロードを力強い横薙ぎ一閃で踏みとどまらせた。
足が止まったところにカイルの矢が飛ぶが、ギリギリのところでゴブリンロードはのけ反って回避する。
「チッ」と舌打ちするカイルの声を背に聞きながら、オレは戦場を注視していた。
メイジはフェレールと魔法を警戒し合い、次の一手を探っている。
奥に鎮座しているキングはまったく動く気配がない。
10体のゴブリンロードは5体ずつに別れてソラとグレンを警戒している。
いや、違うか。
1体だけ、グレンの正面にいるゴブリンロードは構えてはいるものの、一度も攻撃に参加していない。
しかも、チラチラとソラの方も見ている。
あいつが司令塔で、何かしらの方法で連携を取っているのだろう。
そうアタリをつけたオレは魔筆を使って魔法陣を描くと、炎をグレンの先にいる司令塔役のゴブリンロードに放ち、一瞬遅れて地面を蹴った。
ゴブリンロードはオレの炎をチラリと見ると、あっさりと躱し、再度戦場に視線を戻した。
ソラに対し、5体で波状攻撃を仕掛けているゴブリンロード。
その中で、オレが死角になっている一体に目標を定めた。
司令塔のゴブリンロードが戦場から目線を切ったほんの一瞬を狙った攻撃。
地面を蹴った瞬間、今まで感じたことのない加速感を覚える。
今までならゴブリンロードはオレの接近に気付き、体勢を整える時間があっただろう。
だが、オレ自身が驚くほどの勢いで迫ったことで、体勢を整えるのが一瞬遅れた。
バキーン
ゼルンの身体強化によって得た勢いのついたオレの攻撃がゴブリンロードに襲いかかった。
反応が遅れていたことに加え、無理な体勢で剣を受けたことでゴブリンロードが大きく耐性を崩す。
それは、残りの4体を相手にしていた最中であっても、ソラの剣が届くには十分な隙だった。
オレは一瞬ソラと目を合わせる。
彼女の目はオレを信頼してくれているように見えた。
危険だから下がっていろなどとは微塵も思っていない。
なんなら倒してしまっても構わないくらい思っていそうな目だ。
オレはそのまま地面を蹴り、ソラの脇をすり抜けるように動く。
仲間を仕留めたソラに切り掛かり、大上段に剣を構えていたゴブリンロードは、想定外の動きで自分を狙ってくる存在に絶望する。
大上段に構えた剣を振り下ろす前に間違いなく目の前の男の剣が自分を切り伏せると感じたからだ。
それでも最後の悪あがきをしようと、ソラから標的をオレに変え、剣を振り下ろそうとする。
普段ならその一撃はオレに届いていたかもしれない。
だが、ゼルンの身体強化は普段よりも早く、力強い一撃を可能にした。
オレの身体は上から迫り来る剣よりも一瞬早く脇に滑り込み、すれ違いざまに剣がゴブリンロードの脇腹を一閃した。
「や、やった」
手応えがあった。
だが、確認したわけではない。
ゴブリンロードが倒れる姿を確認しなければ、まだ自分が倒したかどうかは分からない。
確認したい。
そんな思いが込み上げてくる中、オレはソラの教えを思い出した。
倒した後は警戒。
チラリと目を走らせると、ソラから標的をオレに変えたゴブリンロードが一体、オレに迫ってきているのが見えた。
脇腹を一閃した勢いを殺さず、剣を振り抜く延伸力を使って身体の向きを変えたオレは、迫ってくるゴブリンロードの剣を勢いよく弾く。
ギーン
剣がぶつかり合う金属音が鳴り響いた。
勢いよくぶつかり合ったことで、オレとゴブリンロードは弾かれて体勢を崩す。
オレは近くに敵がいなかったことで事なきを得たが、ゴブリンロードの側にはソラがいた。
その結果、体勢を崩したゴブリンロードだけがソラの赤い剣の餌食となった。
オレの介入によってほんの数拍ほどの時間で3体を失ったゴブリンロードはあっさりと瓦解したようだ。
オレとソラを警戒したゴブリンロードは4体で対処にあたったが、グレンはゴブリンロード3体を相手に戦いを有利に進めた。
3体と言っても実際には指示を出していると思われる1体がほとんど参戦していない。
すぐにグレンが有利を取り、1体を仕留めた。
この状況になるとオレがいなくてもゴブリンロードに遅れをとるふたりではなかった。
数の不利など感じさせず相手を圧倒し、あっさりとすべてを倒し切ってしまった。
ゴブリンロードを倒し切り、視線をキングの方に向けると、鎮座していた巨体がゆっくりと立ち上がった。
デカい。
体格は上にも横にもオレの2倍くらいはある。
もはやゴブリンというよりオーガとかサイクロプスとか言われた方がしっくりくる。
見上げるような高さを誇る異形の巨躯で佇む怪物。
その身体は筋肉と脂肪が歪に重なり合い、まるで岩と肉を無理やり繋ぎ合わせたかのようだった。
皮膚は濁った暗緑色で、ところどころに古傷や瘢痕が走る。
顔つきは目を背けたくなるような醜悪さで、潰れた鼻腔から赤い呼吸が漏れ、黄色く濁った牙が下顎から突き出していた。
小さく光る赤銅色の瞳には、獣のような狡猾さと、王としての冷酷な知性が宿っていた。
右手に握られているのは剣と呼ぶにはあまりに無骨過ぎる鉄の塊だった。
全長はおよそ2メートルはあるだろうか。
刃は分厚く、鍛え抜かれた鉄がそのまま形を成したかのような姿を持つ。
表面には幾多の敵を屠ってきた証であろう、血と錆が幾重にも染み込み、軽く振るうだけで空気が悲鳴をあげる。
常人では持ち上げることすら叶わないそれを、片手で軽々と持ち上げ、まるで木枝のように軽々と扱っていた。
ゴブリンの王というよりは災厄がそこに顕現しているかのようだった。
キングが剣を床に突き立てるだけで地面はひび割れ、地響きが伝わってくる。
ギョロリと赤銅色の瞳を動かして周囲を一瞥し、10体のゴブリンロードがすべて物言わぬ肉塊へと変じてしまったことを確認すると、表情ひとつ歪めずゆっくり一歩、二歩と前進した。
キングがぴょんっと跳ねてソラとグレンの前に着地すると、ズンっと音が響いた。
地面が揺れたように感じる。
ガァァァァァァァッ
キングが吠え、広い空間に声が響き渡った。
思わず耳を押さえたくなるような声に身体が縮み上がるのを感じた。
「ぐっ」
意図せず口から苦悶の声が漏れるが、奥歯を噛み締めてそれに耐える。
次の瞬間、キングが視界から消えた。
バキーン
何かを叩きつけるような音が響いた。
見ると、キングの剣がグレンを襲っていた。
グレンは剣を斜めに当てて軌道を逸らしたが、その勢いに押されて後ろに3歩ほど後ずさる。
追撃にかかろうとしたキングだったが、すぐに後ろに飛び退いた。
キングが追撃を入れようとしたところをカイルの矢が通過する。
「おいおい慎重だなぁ」
なかなか思い通りに矢が当たらないことでカイルが少々苛立っている。
2メートルはあろうかという大剣が高い位置から振り回され、まともに剣で受けると叩き折られてしまいそうだ。
間合いの取り方も難しく、通常の敵だと攻撃範囲外でもキング相手だと気を抜けば危険域に足を踏み入れてしまいそうだ。
オレは無理をせずソラよりも少し後方に立って状況をうかがう。
キングは想像以上に素早く、見た目のわりに慎重だった。
ソラとグレンを視界に収められる位置に立ち、じりじりと無言で対峙する。
次のターゲットはソラ。
まるでテレポートでもしているかのようにとてつもない速さでソラに迫るキング。
両断、切り返しての横一線、ぴたりと剣を止め、返す刀で逆袈裟。
目にも止まらぬ速さで繰り返される波状攻撃は、しかしソラには届かない。
とは言え、少しずつ押されているのか、勢いにつられて少しずつ後退してく。
ガァァァッ
キングは吠えながら力強く剣を横に振る。
ソラはそれを大きく後ろに跳躍して躱したが、大剣はそこにあった篝火の台を弾き飛ばした。
篝火の台が弾かれて飛んでいき、燃えていた木が火の粉をあげながら地面に転がる。
なおも当たらない剣、それでも押されているように後退するソラ。
そして、振るわれる剣は次の篝火の台を打った。
部屋の明かりが落ちていき、視界が暗くなる。
一向に当たらない攻撃に業を煮やしたキングは標的をオレに変更した。
赤銅色の瞳でギラリと睨みつけ、巨体が猛然と迫ってくる。
大剣が構えられ、ブウンッと風切り音を響かせながらオレに迫ってきた。
オレはそれを地面を転がりながら躱す。
追撃に入ろうとしたキングに勢いよくソラの飛び蹴りが命中すると、キングは篝火の台に突っ込んだ。
すぐさま体勢を整えたオレとは対照的に、怒りの形相で火の粉を振り払いながら起き上がるキング。
6台あった篝火は半数となっている。
少し暗さを感じたオレは魔筆を取り出し、光の魔法陣を描こうとする。
だが、それをさせまいと、すかさずメイジが魔法を詠唱した。
光の魔法陣の妨害をするのかと思ったフェレールは水の防御魔法を詠唱する。
一瞬早く完成したメイジの魔法によって火球がふたつ放たれた。
次の瞬間、フェレールの防御魔法が完成し、全員に水の防御膜が付与される。
だが、メイジの放った火球は俺たちの頭上を通り越し、入り口付近の篝火ふたつを破壊してしまった。
ゴブリンは夜目が利く。
火がなくなった方が有利に戦えると思ったに違いない。
加えて、オレが光の魔法を行使しようとしたことで暗い方が自分たちが有利になることを確信したのだろう。
おそらく先ほどまではソラの動きはわざと篝火を倒させるような動きに見えたため、夜目が利かない人間がそれをする意味を考え、疑っていただろう。
キングも暗くなれば自分たちが有利をとれるということに思い至ったのか、オレの魔法陣魔術を妨害するため、狙いを定めて切り掛かってきた。
オレは魔法陣を描くのを中断し、回避を取る。
途中まで描かれていた魔法陣は光の残滓と共に霧散した。
それを確認すると、キングは最後の篝火台を自らの剣を振り払って壊した。
火の粉を撒き散らしながら台が転倒し、篝火が地面に散らばる。
空間は先ほどまで篝火を炊いていた、燻るような地面の木々が放つ明かりのみとなり、ほとんど真っ暗になってしまった。
同時に赤い剣影が揺れる。
ゆらめく赤い影と不気味に響く大剣の風切り音だけが、ふたりが戦っていることを伝えていた。
オレは魔法陣全体を強くイメージし、円を描いた。
ゆっくりと魔法陣が描かれていく。
それを妨害しようと、メイジが先ほどとは違う魔法を詠唱した。
フェレールの水の結界が効果を保っているため、炎の魔法では効き目が薄いと感じたのだろう。
あるいは、暗闇で見える炎より、目視できない風や土の攻撃魔法の方が効果的だと感じたのかもしれない。
程なくして魔法が完成し、メイジの前に魔法陣が出現し、そして消えた。
魔法が放たれたのだ。
オレはその瞬間にその場を移動する。
暗闇ではなく、メイジの顔を見ることができていたなら、驚愕に歪んだ顔が見られただろう。
オレに向けて放たれた魔法は外れ、オレは場所を移動した。
にも関わらず、魔法陣は消えず、オレの近くでなおも光の魔法陣を自動で描き続ける。
導火線に火をつけた時のように、一定のスピードで出来上がっていく魔法陣。
数拍の後、それは完成した。
オレはソラが戦っている方に近づくと、魔法陣をトンと叩く。
ふたりの姿が完全に見えていた訳ではない。
それでも、ソラとキングの立ち位置はなんとなく分かった。
だから、ソラの背後で、キングの目につく位置で光の魔法陣魔術を放つ。
ワイバーン討伐の時に放った、とびっきりのやつだ。
この場に話のわかるヤツがいたなら、オレはおでこに6つの点を描き、両手のひらを額のあたりで広げながら技の名前を叫んだかもしれない。
そんな余裕がある程度には、勝ちを確信していた。
魔法陣からは車のハイビームのような強烈な光が放たれる。
夜目で慣らしていたキングは予想外の光が目を襲ったことで思わず目を閉じて後ずさる。
そんな隙を見逃すはずがない。
キングはソラによってあっさりと首を切り落とされた。
ズゥゥンと音を立てて胴体が地面に倒れる。
メイジからの攻撃を警戒しつつ、今度は周囲が明るくなるくらいに光量を押さえた光の魔術で周囲を照らす。
すると、メイジは額に矢を受けて絶命していた。
オレが魔法陣を描いた瞬間、なにをやるのかを察したカイルは光が放たれた時に目を閉じており、それがおさまりかけたタイミングで目を開いてゴブリンメイジの位置を確認し、矢を放ったのだ。
対照的だったのはゼルンで、今度は彼が黒眼鏡大佐の役を買って出ていた。
オレとソラはガシッと手を合わせ、お互いを祝福した。
あの赤い剣を振るって敵を薙ぎ倒している手とは思えないくらい、小さくて柔らかい手だった。
あまり長時間握っていると鼻息が荒くなってしまいそうだ。
そう思ったオレは、ここは格好良く決めておかないと「キモい」と言われかねないと懸念し、すぐに手を離した。
「お前たちは・・・今すぐAランクに上げてやってもいいな」
フェレールがそんな不気味なことを呟いたので全力で拒否した。
「ソラはともかくオレは無理です」
そう言っで危機迫る表情で懇願するオレを見て、フェレールは頭を抱えていた。
「せめてDランクの昇格だけは認めさせろ。お前みたいなのがEランクなどギルドとしても迷惑だ」
と言われてしまったので、オレは渋々了承した。
一連のやり取りを見てソラは苦笑していたが、すぐにグレンから声をかけられ、何やら話していた。
すぐにグレンがオレの方にやってくる。
「キングの素材だが、どうする?
牙や爪はかなり高値で売れる。あと、心臓や血液も薬効があるらしいから取っておくといいらしいんだが、お前らは使うか?」
グレンに聞かれてオレは首を横に振った。
「もし譲ってもらえるなら魔石だけいただきたいです」
オレの魔筆には魔石が装着できる。
ただ、今のところそれを使用するような場面はない。
魔法陣魔術は詠唱魔法と違って使用する魔法に応じてマナを消費するものではない。
描いた魔法陣の分だけの消費に限られる。
そのため、強い魔石でなくても代用できるし、今回何度か魔法陣を描いたが、魔石の魔力量はほとんど減っていない。
だから、そんな高価な魔石は必要ないのかもしれないが、とりあえず興味はある。
結局、ゴブリンキングの魔石とゴブリンロードの魔石5個はオレがもらった。
それ以外の魔石と素材はグレン達に譲ることにした。
活躍の度合いから言うともっと主張しても良いと言われたのだが、これに加えて報酬も驚く額が支給されるとのことだったので、オレとしてはそれで十分だった。
ギルドに戻ったオレたちを待っていたのは祝福だった。
グレンが討伐したキングのでかい顔を掴んだままクロスベルクの街を歩いたことで、既に街はけっこうな騒ぎになっていた。
無理も無い。
ゴブリンキングといえばヘタをすると大災害を引き起こす可能性があるモンスターなのだ。
今回、幸いだったのは廃坑がクロスベルクに近かったことで、目撃や被害が比較的早期にあったこと。
そのため、すぐに調査依頼が出された。
それを受けたのがオレとソラだったということも幸いしたかもしれない。
さすがにゴブリンが繁殖し、数百や千単位まで膨れ上がってしまっていればこうはいかなかった。
その可能性があっただけに、ゴブリンキングの首を取ったということは帝都の大災害を未然に防ぐことができたと言っても過言ではなかった。
オレたちが冒険者ギルドに着いた時には北の森にゴブリンキングが出現したことをほぼ全員の冒険者が知っていた。
だから、グレンがバンッと扉を開け、冒険者ギルドに入った時には多くの冒険者が歓声を上げながら迎えてくれた。
「おい、グレン、マジだったってのかよ」
グレンとオレの顔を見ながら男は驚愕の表情を浮かべている。
「あぁ。マジだったぜ。だが、ゴブリンキングは討伐したからな。もう安心して大丈夫だ」
ゴブリンキングとゴブリンロードはおそらくすべて倒せたはずだ。
それ以外のゴブリンやアーチャー、メイジなどはいくらか残っているかもしれないが、キングとロードがいなければ今回のようにゴブリンが統率のとれた動きをすることはないはず。
であれば、たとえ北の森でゴブリンアーチャーと遭遇したとしても、冒険者の死体を風上に置き、姿を消して待ち伏せするような狡猾さは持っていないだろう。
「お前、グレンさんに同行してもらえるなんてすげぇラッキーじゃねぇか」
そう言って方をベシベシと叩く。
「いや、むしろ逆だったぜ。正直今回、このふたりが同行してなかったら達成できてなかったどころか、キングのところまで辿り着けてなかったわ」
グレンはそう言ってガハハと笑う。
だが、その発言は衝撃的だったらしく、全員の注目がフェレールに集まる。
フェレールはその目線を察したようで、顎に手を当てて「ふむ」という顔をした。
「グレンの言ったことは間違いない。Aランクにならないかと聞いてみたが断られたよ」
彼はそう言ってギルドマスターの部屋へと進んでいく。
「おい、フェレール、打ち上げやるから月雫亭に来いよ」
グレンが去っていくフェレールに声をかけると、彼は振り返らずに軽く右手を上げた。
グレンはカウンターに進むとゴブリンの頭部と爪、それにフェレールが回収して容器に入れた心臓と血液、ゴブリンメイジが使っていた杖やゴブリンロードが使っていた剣など、金になりそうなものを一通り買取依頼に出した。
オレとソラはDランク昇格のため一度ギルドカードを差し出すと、今回の報酬はいつも通りオレのギルドカードにすべて入れてもらうように伝えた。
手続きが終わると、礼を言われたり握手を求められたりする状況に居心地の悪さを感じ、逃げるように冒険者ギルドを後にした。
外にさえ出てしまえばオレとソラはこの街では知る人がほぼいない新参者だ。
話しかけられることも注目されることもない。
いや、ソラを二度見する男はけっこういるのだが、それはまぁ、仕方ないか。
「ソラ、ありがとう」
往来を歩きながらオレはソラに届く声で言った。
オレの言葉に不思議そうな顔で目を向けるソラ。
「ゴブリンロードを斬った時、オレはやったぜって思った。喜んで斬った奴がどうなったかを確認しようと思った。でも、先に警戒することを思い出したあの教えがなくて、あそこで気を抜いていたらオレはその後斬りかかってきたゴブリンロードに斬られてたかもしれない。
だから、オレがちゃんとこうして生きていられてるのはソラのおかげなんだよ。ありがとう」
オレがそう言って微笑むと、ソラは照れたように顔を赤らめた。
あ、あれ?
ソラってこんなキャラだっけ?
そんなことを思いつつ、オレも彼女の愛らしい表情から目が離せない。
「ロード5体で連携されるとさすがに一人で決定打を与えるのは骨だった。何かきっかけが欲しかった。
ヴィクトはそれを欲しい時に、欲しいタイミングでくれた。
キングの時もすぐに私の意図を察して動いてくれた。
ヴィクトと一緒に戦うのはけっこう好きだ」
そう言ってぷいっと前を向くソラ。
オレは一瞬何を言われたのか分からなかった。
だが、ソラの言葉を脳内で反芻し、その意図を理解すると言いようのない喜びが湧き上がってきた。
最強の師匠であるソラからそんなことを言ってもらえた。
その喜びが全身を高揚させる。
もっと強くなりたい。
もっと役に立ちたい。
これからもずっと一緒に冒険者をやりたい。
オレはこの時、本気でそう思ったのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ゴブリン討伐完了です。
ヴィクトとソラの仲もちょっぴり深まったようです。




