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1-11 ゴブリン討伐(前編)

その日の夜、オレはグレンと共に月雫亭の食堂にいた。

グレンはオレの背中をバシバシ叩きながら嬉しそうにお酒を煽っていた。

「お前ぇら、マジで強ぇな。Eランクとか言ってることが笑えてくるぜ」

そう言ってまたガハハと笑う。


「そんなにおふたりは強いんですか?」

話を聞いていたのか、お盆を持ったナタリーがててっと駆け寄って来た。

「おう。ナタリー。今日、俺たちは北方でワイバーンを討伐して来たんだけどよ。オレはいまだに信じられねぇぜ」


実は今日、グレンの依頼協力でワイバーンの討伐をした。

ギルド内には帝国内のさまざまな街のギルドへと瞬間移動できる転移装置がある。

高ランクの討伐依頼は緊急性が高いものも多く、それを受ける場合にのみ、使うことを許されている帝国が誇る超高機能の魔道具だ。

オレたちはそれを使って、北方の都市、ソウガの街を訪れた。

北の山脈にワイバーンの群れが飛来している姿は珍しくないのだが、街の方まで飛んでくることは珍しい。


ソウガの街は北方では最大の都市。

巨大な魔法陣によって結界が張られ、安全に守られている。

だが、街を目指す商人や旅人は度々このワイバーンに襲われ、被害報告が来ていた。

このままではソウガは旅人も商人も寄り付かなくなってしまう。

早急に対処が必要だ。

そう考えたソウガの領主は、領地のギルドだけでなく帝都のギルドにも依頼を出した。

討伐の報酬に加え、転移装置を使用する莫大な費用の負担も受け入れて。


そうして今回、俺たちがこのワイバーンを討伐しに訪れたという訳だ。


急降下し、巨大な鉤爪で命を刈り取ろうとしてくる竜種の魔物をオレの魔法陣魔術で暗闇に引きづり込んだ後、光の魔法を最大出力で放って目をくらませた。

ギイッ

ワイバーンが鳴き声と共に一瞬怯んだ瞬間にはソラの剣が赤い剣影と共にワイバーンの首を落としていた。


時間が止まる。


まったく出番がなかったことにただ唖然とするだけのグレン。

ゼルンは戦闘の補助魔法を詠唱していたが、その詠唱が終わる前に勝負がついてしまったことに驚愕の表情を浮かべていた。

カイルの方はオレが事前に目眩しをかける説明をしていたのを忘れていたため、まともに目潰しをくらって「目がぁ。目がぁ」と黒眼鏡大佐ごっこをしていた。

そのため、ワイバーンが倒された瞬間を見ていない。


「俺たちもアイツに飛ばれたらゼルンの魔法頼みだし、カイルの弓の腕がいくらスゲェと言ってもワイバーンとなりゃぁ簡単に撃ち落とせるって訳じゃねぇからな。正直長期戦は覚悟してたんだ」

というわけで、今日のご飯はグレンがおごってくれるらしいので月雫亭に戻り、今に至るというわけだ。

酒を煽り、上機嫌に笑うグレンに仲間達も柔らかい笑みを浮かべている。


オレはカウンターに新しいお酒を取りに行き、席に戻りながらその様子を見る。

それは側から見てもなんとも楽しそうな姿に見えた。

オレがナタリーの横を通って席に戻るとナタリーがオレの席の前に立っていた。

普段は周囲を見渡して動き回っている彼女もお客さんが少ないせいか、今はグレンの話に聞き入っていたのだろう。

「ちょっとごめんね」

そう言って彼女にどいてもらって席に着く。

オレに声をかけられた彼女はオレの姿を見て慌てて場所を開けてくれた。


「お前ら俺たちのパーティーに入る気はないか?」

エナージュとギルドマスターというおそらく大戦力がふたりも抜けたのだ。

グレンのパーティーの力は大きく下がっているだろう。

加えてオレとソラは有望株だと思ってもらえたっぽい。

自分への評価は置いておくとして、ソラの強さはチート級だ。

オレへの異世界チートがあったのかなかったのかと問われたなら、間違いなくあった。

初期パーティーにレベルカンストの仲間がいたことだ。

オレつえーではなかったが、彼女がいたおかげで転生した後即死という最悪のシナリオは回避された。


だが、オレの強さはどうだ。

ワイバーンとの戦いで使ったのはどちらも初級魔法。

やったことと言えばただの目眩しだ。

足さえ止められればあとはソラがなんとかしてくれるという絶対的な信頼がオレにはあった。

それは、裏を返せばソラが仲間だったからできたことだ。

他のパーティーに入ったところでお荷物になるに決まっている。


オレはソラの方をチラリと見やる。

すると、彼女はまったく我関せずといった表情をしていた。

「すみません。せっかくのお誘いなんですが、まだ駆け出しなので」

オレはグレンからのお誘いを丁重に断る。

「グレンさん振られちゃいましたね」

勧誘を断ったことでしょんぼりと落ち込んでいるグレンにナタリーが同情する。

「くそぉ。このままだと大将と女将さんに復帰してもらうしかねぇかもしれねぇ」


グレンが冗談まじりに言うと、調理場でフライパンを振っていた大将がニヤリと笑う。

「家族内の上下関係が周知されちまうから無理ですねぇ」

「いや、それは結婚前から知れ渡ってたでしょ」

ぜルンがすかさず突っ込むと、

「あんた随分と言うようになったじゃないか」

と、女将さんが強烈な威圧を見舞う。

「なんかギスギスしたパーティーになりそうですね」

オレがなんとなく乗っかると、

「夫婦喧嘩の雰囲気を引きずってこられたら最悪っすね」

カイルも悪ノリして肩をすくめた。

「お前ら勧誘してぇんだったらもちっと持ち上げろよ」

あまりに言いたい放題な状況に大将が憤慨すると、それを見て全員が笑う。


「ヴィクトは他の人とパーティーを組むつもりはないのか?」

グレンからの誘いを断ったのが不思議だったのか、ソラがオレに質問をしてきた。

「そんなことないよ。ただ、オレが強くなりたいのに今まで以上におんぶに抱っこになる環境はちょっと嬉しくないかなと」

オレがグレンの誘いを断った理由を説明すると、ソラはそれに納得したようで「なるほどな」と頷いた。

                                                                                                  

そのままグレン達としばらく話し、お酒がいい感じに回ってきたのでオレとソラは部屋に引き上げさせてもらうことになった。

それから程なくして、部屋の扉を叩く音が聞こえた。

オレが扉を開けると、そこにはナタリーが立っていた。


「ごめんね。さっき渡したかったんだけど」

そう言ってナタリーが取り出したのは一冊の本だった。

そこには「水属性の魔術と魔道具」と記されている。

「先生は水を探す魔法陣はあるにはあるけれど希望しているものとは違うかもなって言ってました」

「そっか。ありがとう。すぐに読んでみるよ」

ナタリーにお礼を言って本を受け取ると、彼女は「じゃぁね。おやすみ」と言いながら手を振って俺たちの部屋を離れて行った。

オレもそれに手を振って応えると、扉を閉めてから机に向かう。

そして、机に座るとオレはすぐに本を開いた。


興味津々とばかりに後ろからソラが覗いてくる。

そこに書いてあったのは戦闘にはほとんど使えそうにない、生活に便利な水魔法だった。

そして、それを見る限り「水は探すものではなく自ら生み出すもの」と言いたかったのではないかと思う。

まぁ、確かに魔法が使えて水が生み出せるのであれば水を探す魔法を使うより水を生み出す魔法を使った方がいいよね。

つまりはそういうことだ。

うーん。水じゃなかったかなぁ。


本を読む限り、探しているような魔法はなさそうだった。

だが、サーチができれば昨日のような状況でも敵がどのあたりに潜んでいるか分かったはずだ。

そうなれば戦況はかなり有利になる。

いや、サーチにこだわる必要はないのかな。

そんなことを思いながらオレは貸してもらった本をじっくり読み込んだ。



翌日、ギルドを訪れるとグレン、カイル、ゼルンの3人はすでに俺たちを待っていた。

オレとソラがギルドに入ると、グレンが「よっ」と右手をあげて近づいてくる。

「おはようございます」

オレは挨拶をして彼に近づいた。

「まぁ、今日はよろしく頼むわ。もうすぐフェレールも来ると思うからちょっと待っててくれ」

そう言ってグレンは3人で会話を始める。

特にやることもないオレはなんとなくDランクの依頼ボードでどんな依頼が出ているのかをチェックする。

そうこうしていると、奥の部屋から支度を整えたフェレールが出てきた。

彼は魔法師のようで、フード付きのローブに長い杖を持っていた。

男はグレンに導かれてオレの方を向くと、少し驚いたような表情を浮かべたように見えたが、すぐにもとの表情に戻った。


「おう。ヴィクト、フェレールが来たから紹介するぜ」

グレンがそう言うと、フードの男が歩み出てくる。

「フェレール=アレンジットだ。この街の冒険者ギルドでギルドマスターをしている。この男とは同郷でな。腐れ縁みたいなものだ」

そう言って頭を下げた。

「ヴィクトです。こっちはソラ。ふたりとも冒険者になりたてのEランクです」

オレとソラも彼にぺこりと頭を下げた。


「とりあえず行きながら話そうか」

フェレールはそう言うと足早に冒険者ギルドを後にする。

オレとソラ、グレンとカイル、ゼルンも後に続く。


今回、クロスベルクの道に詳しいグレン達との移動だったため北門から出ることになっている。

徒歩移動だと時間がかかりすぎるため、乗り合い馬車を使って北門前まで移動した。


「君たちを信用していない訳ではないのだが、確かにここ数日北の森への依頼を受けた冒険者が帰ってきていないという情報もあったので少し詳しく教えてもらえるか?」

そう言って説明を求めてきたフェレールにオレは昨日のことをできるだけ詳しく話した。

北門を顔パスでスルーし、森の中に入っても、誰も警戒する素振りはない。


「なるほど。即座に撤退の判断ができたのは素晴らしいことだ。

強い者でもそこの判断を誤ると簡単に命を落としてしまう可能性があるからな。その点君は優秀なようだ」

フェレールはオレが無理をせずすぐに退散したことを誉めてくれた。


「あんなに手に追えないと思った相手は初めてでしたから。姿を見ていないのでゴブリンと断定はできませんけどね」

オレがそう言って肩をすくめるとフェレールは不敵に笑う。

「ゴブリンを侮ってはいけない。普段下位ランクでしか見かけないからそういう魔物だとしか思われていないが、ロードやキングが生まれるとあいつらはその下で統制のとれた動きを始める。

そうなるとかなり厄介だ。ヘタをすると少人数での殲滅は難しいかもしれない」

ゴブリンが簡単に倒せるのは知性が低いからだ。

だが、そんなゴブリンでも剣に毒を塗ったり簡単な罠を使ったりと、人間で言うところの子供くらいの知能は持っている。

つまり、それを統制できる大人が現れた時、彼らの脅威度は際限なく跳ね上がる。

適正ランクはその数に応じてBともAとも言われていて、キングが出現した場合はSランクや国家勢力が鎮圧に動くこともあるほどだ。


「ヴィクト」

前回、襲撃を受けたのと同じくらいまで歩を進めたところで、フェレールはオレの名前を呼ぶと手を差し出して足を止めさせた。

それに応じてオレは足を止め、周囲を警戒する。

「なるほど。グレン、分かるか?」

フェレールの言葉にグレンは首を横に振る。

「いるってのは分かるが位置までは分からねぇな」

グレンもそう言いながらオレと同様に周囲を警戒している。

ソラも同じように辺りを見回していたが、オレはまったく何も感じ取れなかった。

「これはEランクどころかAランクでも厳しいな。おそらくアーチャーだ。メイジの魔法で姿を消して木の上にいる」


フェレールの言葉に全員が驚愕した。

姿を消して森に潜まれたら俺たちでは判別が不可能だ。

あの時すぐに逃げたのは本当に正解だったらしい。

フェレールは短く詠唱をすると軽く杖を振った。

おそらく風の初級魔法だ。


グェェッ


すると次の瞬間、木の上からゴブリンが落下してきた。

そして、それが地面に落ちるのとほとんど同時にカイルの矢が突き刺さる。

落下したゴブリンがその後動くことはなかった。


「すげぇ」

その連携にオレは思わず感嘆の声を漏らした。

「フェレールは魔力感知ができるからな。コイツに姿くらましは通用しないんだ」

グレンが自慢げに言う。

「まだ油断するな。あと4体はいる」

オレは風の防御結界を張って弓矢での攻撃に備えた。

「防御魔術か。その判断がすぐにできるのは優秀だな」

そう言いながらフェレールは次々に風の魔法でゴブリンアーチャーを木から落としていく。

そして、命中と共に姿を現したゴブリンはすべて、地面に落ちる前にカイルの矢で仕留められた。


「カイルさんの弓の腕えぐいっすね」

まさに百発百中の弓は驚愕のひとことだった。

「おう。森の中ならいくらでも矢は錬金できるからな。任せろ」

そう言うと、彼の右手に矢がスッと出現した。

なんて便利。

矢を錬金できる弓兵とかチートすぎる。


「ゴブリンの方は攻撃して来なかったですね」

オレの言葉にフェレールがニヤッと笑う。

「アイツらの範囲外だったからな。オレとカイルの射程範囲はアイツより広いから範囲外から仕留めればどうということはない」

そう言ってフェレールは先に進む。

どうやら近くにメイジの存在はないようで、さらに先へと進んでいく。


それにしても驚いた。

フェレールの実力はもちろんだが、それ以上に驚愕だったのは魔力感知の有用性だ。

敵の居場所が分かるだけで潜んでこちらを警戒している敵に先手を取れ、戦場を優位に運ぶことができた。

そして、その結果オレとソラでは手も足も出なかった展開をいとも簡単に制圧してしまった。


「フェレールさん、魔力感知って感覚的なものって聞きましたが、魔法で再現したりはできないんですか?」

歩を進めながらオレは気になっていた魔力感知について聞いてみる。

「魔力感知をできない者に説明するのは難しいのだが、あくまでも感覚的なものなんだ。魔力を多く保持している者はそれだけ他人の魔力を感じ取る能力にも優れている。

それを研ぎ澄ませることでその魔力がどこにあるのかが分かるようになる」

そう言われて魔力のないオレにはわからない感覚ということがよく分かった。


魔力ゼロだったら実は他人の魔力を感じられるとかないんかな。

そんな自己都合のあったらいいなをない物ねだりしながらオレはフェレールの後に続いた。

そして、しばらく進んだところで再度彼が足を止める。


「ふむ。これは・・・まずいな」

「どうした?」

フェレールの呟きに真っ先にグレンが反応する。


「この先にあるのはゴブリンの巣だな。もはやどれだけいるのか数の見当がつかない。巣の周りにもゴブリンがいくらかいるな」

そう言ってフェレールがため息を吐いた。

「この先ってことは廃坑か?」

グレンの言葉にフェレールが頷く。

どうやらこの先に今は使われていない鉱山があるようだ。

「こんな森の深部に鉱山ですか?」

ここは北の森の深部とまでは言わないまでもクロスベルクの街からかなり離れている。

鉱夫がこんなところまで森を歩いて仕事に出掛けていたとしたらそれは自殺行為だ。


「もう随分昔のことらしいからな。冒険者以外でこの森の奥に鉱山跡があることを知ってるやつはそうはいねぇ。たぶん100年単位で昔の遺跡だろうよ」

グレンはそう言って肩をすくめる。

「そんなものがよく今まで残ってましたね」

「あぁ。鉱山は魔力が濃いからな。鉱夫がちゃんと道を作ってりゃ崩落の危険性なんてほとんどねぇ。

だが、ゴブリンが巣をつくるにゃ最適の場所だわな」

グレンは自嘲気味に乾いた笑いを浮かべる。


確かに、こんな街に近い場所にある、誰も近づかない入り組んだトンネル。

ゴブリンに住み着いてくださいと言っているようなものである。

「何か利用価値があったんですか?」

「ない」

オレの質問をフェレールはきっぱりと否定した。

「だが、取り壊すのも骨だしな。入り口だけ塞いでも中で何が起きるか分からないから残しておいて定期的に冒険者を調査に派遣した方が良かったんだ」

そして、その上で今までこの鉱山跡が存在し続けた理由を教えてくれた。


「けど、それだと今まで調査された上で問題ないとされてきた訳ですよね」

「ああ。そうだ。

だが、鉱山の最深部まで潜り、隅々まで調べた上で問題ないと結論を出した冒険者ばかりだったかどうかは分からない。

ここ数回の調査が適当な物だったとすれば、その間に鉱山内でひそかにゴブリンが増殖していても気付けないだろう」

オレはフェレールの言葉で、案外ギルドの調査依頼がガバガバだったことに苦笑を浮かべる。


「ギルドはその調査依頼、どうやって達成と判断したんですか?」

やや厳しい声色になっていたかもしれない。

それでも、今こうなってしまうような事態を招いたということは何か原因があるはずだ。

「ギルドの依頼内容は鉱山の深部に設置した魔道具の魔石を交換してくるというものだ。

一度受けたものは同じ依頼を受けられないようになっているため、すべての冒険者がそれを探すために鉱山の中を隅々まで探索して帰ってくると考えていたのだが・・・」

その話を聞いて、オレはため息を吐いた。

「もしオレがお金に困っていたら、その依頼を受けたヤツにこう言いますよ。

その依頼、最短で魔道具の元まで到達できるよう道案内してやろうかと」

オレの言葉を聞いてフェレールが頭を抱えた。


もちろん、本当にそういうやり方で依頼が達成されていたかどうかは分からない。

だが、結果的に鉱山跡はゴブリンの根城となってしまった。

これは、調査依頼が見立てた通りの効果を発揮できなかったことを意味する。

「まぁ、すでにこういう結果になってしまっているので別のやり方を考えるしかありませんね」

オレはそう言うと、歩みを止めたフェレールの横に並ぶ。

森が途切れ、茂みの向こう側には絶壁に空けられた廃坑の入り口と思われる穴があった。

茂みから入り口まではおよそ20メートルといったところだろうか。

廃坑の入り口を中心に半円を描くように広場になっている。

そして、入り口の前にはゴブリンが2体、それ以外にも左右に5体ずつ、合計12体のゴブリンが周囲を警戒しているのが見えた。


「正直仕方ないで片付けていいほど軽い事態ではないのだが、ギルドの管理不足も問題だったようだな」

フェレールは首を横に振りながらため息を吐くと、グレン達と目配せをした。


「んじゃ先輩、強化するんでやっちゃってください」

ゼルンはそう言うとグレンに補助魔法をかける。

同時にカイルが二本の矢を番え、しゃがんだままの体勢で弓を引き絞った。


準備万端とでも言わんばかりにソラと目を合わせ、無言で頷くふたりが同時に駆け出していく。

同時にカイルがスッと立ち上がり、一拍の間を置いて矢を放った。

狙いは違わず門番をしているゴブリンの喉元に命中し、門番をしていたゴブリンが声もなく崩れ落ちる。


異変に気づいたゴブリンが戦闘体勢に入った時にはすでに1体のゴブリンが両断され、地面に倒れていた。

グレンの動きがまるで残像を残すような動きになっている。

ソラの流れるような動きとは違って力強さが感じられるものの、動き自体はとんでもない速さだ。

右側の5体をグレンが、左側の5体はソラが。

倒し切ったのはほとんど同時だった。


視界にいるゴブリン達がまるで操り人形の糸を切っていくかのように次々に地面に崩れ落ちていく。

その様子は側から見ていても爽快だった。


それにしても何故こんなに隠れやすい茂みをそのまま放置しておくのだろうか。

アニメでも漫画でも、こういった森と広場の境目にはちゃんと隠れやすい茂みがあることが多い。

まぁ、放置しとけば植物は育つのでそうなるってのは当然なのだろうが、仮にオレがゴブリンだったら敵が隠れやすそうな茂みはすべて取っ払っておくだろう。

まぁ、今回それを隠れ蓑にして奇襲できたのだからこちらとしては好都合だった。


「それで、どうやって制圧しますか?」

オレは廃坑に突入する作戦をフェレールに確認する。

「そうですね。グレン、ソラさんと一緒に前衛を頼めますか?隠れたり潜んでたりする敵がいれば私が指示するか魔法で仕留めます」

「オーケーまかせろ」

グレンはそう言ってグッと拳を握りしめる。

「分かった」

一方のソラは静かに了承した。


「こういうのって中のゴブリンを外に誘き出すことはできないんですか?」

オレはラノベの知識で火を放ったり煙を中に入れたりしてゴブリンが外に出てくるようにできないかという質問をしてみた。

だが、あまり色良い反応ではなかった。


「廃坑は奥深くまで掘られている。しかも下に掘り進めているから煙を入れても大多数のゴブリンに影響はないだろう。最終的に中に入らなければならないのに、煙のせいで俺たちの突入が遅れるのは本末転倒だ」

フェレールの言葉にオレはなるほどと納得した。

そして、魔筆を手に彼らに続く。

本来、偵察だけの予定だった依頼は気がつけばAランクパーティと共にゴブリンを殲滅する流れになっていた。

一人だけ場違い過ぎる感は否めないが、せめて自分の身は自分で守れるようにしよう。

オレは腰に携えた剣の重みを感じつつ、廃坑へと足を踏み入れた。

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