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1-10 ゴブリンの調査依頼

気がつくとオレはベッドの上で眠っていた。

「あ、あれ?なんで?」

確か、机に座って本を読んでいたはずだ。

その後、いろいろ考えていてほとんど本の内容が入ってこなくなったのは覚えているが、それにしても目が覚めるならベッドの上というのはあり得ない。

そんなことを考えていると、オレが起きたことに気づいたソラが

「あぁ、起きたのか。机に突っ伏して寝ていたからベッドまで運ばせてもらったぞ」

と、オレの疑問を解決してくれた。


「あ。マジで?ありがとう。ソラが起きるまでオレも起きとこうと思ったんだけど睡魔に勝てなかったみたいだ」

オレがそう言うとソラが苦笑する。

「こちらこそすまない。気を抜いたら眠ってしまっていたようだ」

彼女の言葉にオレは首を横に振った。

「ソラがほとんど寝ていないとは思っていたんだけど、まさかまったく寝てないとは思ってなかったんだ。申し訳ない」

思い返せば出会った初日からソラに頼りっぱなしだった。

いつも気づかないところでソラはオレのことをめちゃくちゃ気遣ってくれている。

それなのに、全然気づけていないことの方が多いのだ。


だが、申し訳なさそうに頭を下げた俺を見て、ソラは首を横に振る。

「私はもともとほとんど眠らないからな。それほど睡眠が必要とは思っていなかった。だが、今回眠って随分スッキリしたよ。ヴィクト、ありがとう」

そう言って笑ったソラの笑顔が眩しすぎて、オレは思わず目を逸らしてしまう。

「せ、せめてオレと二人でいる時ぐらいソラが安心して寝れるように頑張って強くなるよ」

オレがそう答えると、彼女はさらに表情を綻ばせ、

「期待している」

と言った。



ふたりとも目が覚めてしまったため、部屋で時間を潰すくらいなら冒険者ギルドに行ってみようという話になった。

ソラはオレが眠った後しばらくして目を覚ましたらしく、食事を摂った後食器を返しに行ったようだ。

その時にはまだ数名の客が残っており、まだ食堂も営業していたらしい。

だが、今はまだ夜明けも遠い深夜である。

部屋を出て階段を降り、すっかり寝静まった食堂を抜けて通りに出ると、魔道具の街灯が往来を照らしていた。

「へぇ。こんな時間でも主要の通りは明かりがあるんだな」

関心しながらオレとソラは冒険者ギルドへの道を歩く。

昼間一度場所を確認に訪れていたので道は分かっており、迷うことなくたどり着くことができた。


冒険者ギルドは基本的に24時間空いている。

これは、災害をはじめとする緊急の依頼をいつでも受けられるようにするためだ。

もちろん、田舎の支部に行けばこの限りではないと思うが、地方都市のヘルツェンライゲンの冒険者ギルドも空いていたのだから帝都であるクロスベルクは確認するまでもないだろう。

扉を開き、中に入ると当然のことだがフロアに冒険者は誰もいなかった。

受付のカウンターに女性が一人座っているだけだ。


オレは彼女の方に歩み寄って軽く挨拶をする。

「こんばんは。ちょっといいですか?」

受付嬢はオレの言葉にぺこりとお辞儀をした後、にっこりと営業スマイルを浮かべた。

「こんばんは。私は受付のミリア。どういったご用件ですか?」

かなりウエルカムな対応だ。さすが帝都の冒険者ギルド、教育が行き届いている。

「えっと、オレはヴィクトでこっちがソラ。俺たちヘルツェンライゲンから護衛依頼で昨日クロスベルクについたんですが」

オレはギルドカードを差し出すと、今の自分の状況を受付嬢に説明した。

エナージュの紹介で依頼を受けたこと。

その依頼はまだ完了していないこと。

魔道具の引き渡しに自分たちが同行できないことの3点だ。


「で、依頼がまだ完了していないのに次の依頼が受けられるかどうかを確認したくて」

そこまで言うと、受付嬢はふむふむと納得した後、少し首を傾げた。

「今のお話を聞く限り依頼自体は受けられます。ただし、毎回一から説明するのは面倒だと思うので達成を確認するまでは私のところに来ていただくことをおすすめします。

それと、基本的に依頼の受付開始時間は午前5時となっています。緊急事態でなければ次回から守っていただければありがたいです」

オレはミリアの言葉に承諾すると、軽くお詫びをする。

「知らなかったこととは言え、常識外の時間に申し訳なかった」

そう言うと、ミリアは営業スマイルで「大丈夫ですよー」と言ってくれた。


「そうですねぇ。Dランクへのランクアップ希望でしたらDランクの依頼ですよね・・・」

ミリアはファイルを取り出すと、Dランクの依頼が記されている書類をパラパラとめくっていく。

そして、一つの依頼に手を止めた。


「本来であればE級の方に出す依頼ではないのですが、疾風刃様のお墨付きがあるということなので、D級以上の実力があるという前提でご紹介しますね」

そう言ってミリアが取り出したのは、ゴブリンの討伐と調査の依頼だった。

「北の森でゴブリンの目撃情報が増えてまして、もしかするとゴブリンの上位種がいるかもしれないので調査をお願いしたいです」

調査依頼というのを今まで受けたことがなかったため詳しく聞いてみると、討伐のように魔物を倒すというものではなく、ゴブリンの上位種であるホブゴブリンやその他の亜種が出没した場合、さらに上位種であるゴブリンロードや、最上位種のゴブリンキングがいる可能性も高くなる。

最近北の森でゴブリンの出没率が高くなっているため、こういった変化が起きていないかどうかを調べてくるのが今回の調査依頼となる。

調査結果、上位種の存在が確認できた場合上位ランクの冒険者が本格的に討伐にあたるという流れらしい。

まぁ、よくあるラノベ展開と言えるし、「ここで俺たちが倒してしまっても構わんのだろう」的なフラグを立てることもやぶさかではない。

もちろん、死亡フラグにならないように注意は必要だが。


「分かりました。ではそれでお願いします」

オレはミリアの提示した依頼を快く引き受けると、ソラと共に冒険者ギルドを後にした。

外に出ると肌寒い風がふたりを包み込む。

「夜は随分冷え込むな」

そう言って肩を抱くオレを見ながらソラはふふっと笑う。

「私はあまり寒さを感じないからな」

そう言って歩く彼女はなるほど装備は軽装で、薄着の上に簡素な鎧を身につけただけだ。

普通ならこの寒さで凍えそうな感じはあるが、彼女はそういった素ぶりをまったく見せていない。


「ソラが万能すぎて羨ましいよ」

そんな軽口を叩きながら俺たちはクロスベルクの南門に向かう。

北の森なので本来北門から出れば早いのだが、その場合は貴族街がある中央の丘を迂回して北門を目指す必要がある。

ルート的にはそちらの方が早いのだが、帝都の道に詳しくない俺たちは迷う可能性も少なくない。

であれば、一度南門から外に出て北に向かった方が安心だったため、そうすることに決めた。


「ところでソラ、水を探す魔法ってない?」

道中かなり長くなりそうなこともあり、門を通過したところでオレは唐突にソラに気になっている魔法陣について質問した。

すると、彼女は一瞬「なんだ?」と不思議そうな表情でオレを見つめた後、すぐに進行方向に向き直って思案し始めた。

「旅商人や冒険者が野営地を探すのに使う水辺に反応する魔道具ならあった気がするが、原理は分からないな」

突然どうした?

とでも言いたげなソラの視線にオレは話の趣旨を説明することなく唐突に質問したことが原因だと察する。


「ほら、動物の身体は水でできてるだろ。だからそういうのが調べられたら魔物や敵の場所が分かるかなって」

オレの説明をふむふむと聞いたソラは

「魔力感知みたいなものか?」

とさらりと言い当てた。

そう。それです。

イメージが伝わったことにちょっぴり安堵しつつ、オレは「そうそう」と肯定する。

すると彼女は軽く横に首を振った。

「すまない。そこまでの精度で調べる術があるかどうかが分からない。魔力感知は魔法ではなく感覚的なものだ。だが、水分となると感覚では難しいだろう」

そこまで言ってソラは何かを思い出したように手を打った。

「そうそう。ヴィクトは魔力がないから魔力感知に引っかからない。これは魔力感知できる相手に有利に立てる可能性が高い。覚えておいて損はないぞ」

ソラはそう言ってグッと親指を立てた。


ちなみに、魔力感知は優秀な魔法師が使うことができる高等技術らしい。

魔力の保有量が多い人ほど他人の持つ魔力を感じる能力に長けているそうだ。

だから、頑張って身につけるというよりは生きていれば勝手に身に付く固有スキルのようなものだと思っている。

もちろん、オレはできないし、ソラもできないらしい。

それでもソラは何か敵の気配のようなものを察知する能力に優れている。

初めて会った時にフレイムジャッカルを察知したり、依頼でゴブリンを見つけたり、魔物の存在に先に気づくのはいつもソラだった。


「役立つ日が来るかどうかは分からないけど、一応覚えておくよ」

そもそも魔力感知ができるような敵に遭遇したとして、作戦以前にそんな強い魔法師相手に自分が敵うはずがないということの方が先行してしまう。


そんな話をしながらクロスベルクの外壁と湖に挟まれた西の街道を北上し、北の森が見えてきた頃には日が上り、深い森にも朝が訪れていた。

朝露が陽光に照らされて輝き、まるで森が冒険者を歓迎しているように見える。

だが、その奥に目をやると陽光が地面まで届かず、暗く不気味な雰囲気を放っている。

オレは見た目が華やかな雰囲気を放つ食虫植物の中に勇んで足を踏み入れるような気分で森の中に入っていく。

風に揺れる木々の葉ずれの音や、遠くから聞こえる生き物の鳴き声が不気味に響き辺り、奥へと進むにつれて鬱々とした雰囲気を濃くしていく。


ふと、その風に混じって鼻をつく嫌な匂いを感じて足を止めた。

周囲を警戒してみるが、変わったところは何もない。

ソラも何か気になるところがあるのか、オレと同じように周囲を警戒している。

「何かいるな」

小声で囁くソラの言葉にオレも頷く。

そして、警戒を深めつつ、風上に向かってゆっくりと慎重に前進する。


そこには、冒険者と思われる者の亡骸が2体、無造作に置かれていた。

「うっ」

まだそれほど時間は経っていないだろう。

おそらく昨夜か、それ以前のものかもしれない。

人の死体を見るのはあまり気持ちの良いものではない。

思わず胸を抑えたオレとは違い、ソラはさらに警戒を強めている。


「ヴィクト、風の結界だ」

ソラにそう言われてオレは慌てて風魔法の基礎である風の結界の魔法陣をイメージしながら魔筆を走らせた。

若紫に輝く魔法陣が展開されていき、程なくして完成する。

おれがそれを発動させたのと、どこからともなく矢が飛んできたのがほとんど同時だった。

矢はギリギリ間に合った風の結界に弾かれて軌道を逸らされた。

「っぶな!」

間に合っていなければ完全に直撃していたところだ。


「まずいな。いったん退くぞ」

ソラの言葉にオレは頷くと、彼女の後を追う。

元来た道ではなく、まったく違う道を走ったためどこに向かっているのか分からなかったけれど、無事街道に出ることができた。

森の方を警戒しつつ、しばらく息を整える。


「ソラがいて助かったよ。オレだけだったらマジで死んでた」

結界を展開する指示と即時撤退の判断、逃げる方向、すべてオレにはできなかった。

「あの冒険者の死体が罠だったようだな。風上に死体を置き、それに釣られて侵入して来た冒険者を囲んで射抜く。最悪取り逃しても元来た道の方で待ち伏せというのが大方の筋書きだろう」

ソラはそう言ってため息を吐く。

「私は剣を振ることしかできないからな。ああいった射程の長い攻撃への対応は難しい」

申し訳なさそうな表情をしているソラだったが、彼女の強さに今までどれだけ助けられてきたか分からない。

「そんな顔しないでよ。そもそもオレがもっと魔法を使えたらやりようはあったかもしれないんだ。今回の責任はオレの方が感じる必要があるよ」

オレがそう言うと、ソラは「そんなことはない」と逆に慰めてくれた。


「それにしても、ここまで動きが統制されていると調査も難しいな。どうしたものか」

どのように依頼を継続するか悩むソラを見ながらオレは表情を固くする。

「いや、これはDランク冒険者の出る幕じゃないよ。それにこの状況をすぐに知らせた方がいい」

オレがそう言うとソラも苦笑しながら頷いた。

「そうだな。確かにその判断の方が正しいかもしれん」

俺たちはお互いに話がまとまったところですぐに来た道を戻り始めた。

来た時のゆっくりとした歩みとは違い、出来るだけ早い方が良いと思っての速足での移動だ。


そして、俺たちは一度門まで辿り着くと、門の兵士に北の森に行く冒険者がいたら出来る限り冒険者ギルドに戻るようにお願いをしておく。

そして、できるだけ急ぎ足で冒険者ギルドまで戻った。

ちょうど朝の依頼受付でホール内は賑わっていた。


オレとソラはミリアの姿を探す。

と言っても、彼女は受付嬢なのでカウンターに並んでいる顔を順番に見ていけばすぐに見つかるのだが。

オレは順番に並んでいる冒険者達を無視し、先頭で依頼を受けようとしている冒険者の横からミリアに声をかける。

「ミリアさん。北の森への依頼をいったん止めてもらえませんか?」

突然割り込んできたオレのことを快く思わなかったのか、当然男はギロリとオレを睨む。

「今、オレが受付をしているところだ。用があるならちゃんと並べ」

かなり不快な思いをさせたのだろう。

男はオレに威圧的な態度を見せる。

が、もちろんオレも礼を欠いた行動をしているのは承知の上だ。


「申し訳ないとは思っている。だが、今止めておかないとまた犠牲者が出る可能性が高い」

オレの態度に鬼気迫るものを感じたのか、彼は威圧的な態度を少し軟化させてくれた。

「そこまでの緊急事態なら受付嬢に伝える前にみんなに言った方がいいだろう。お前の正当性とやらを見てやる」

男はその顔に笑みを浮かべると

「おい、みんな。こいつが話があるみたいだから聞いてやってくれ」

そう大声で言った。

すると、これまでざわざわと騒がしかったホール内が水を打ったように静かになる。

そして、声を出した男に注目があつまり、その後俺に目線が集中した。


オレはごくりと唾を飲むと、少し気持ちを落ち着かせてから言葉を発した

「北の森への依頼を受けるのを少し止めてもらえませんか?」

その言葉に一同は顔を見合わせながら怪訝な表情を浮かべる。

だが、それには構わず先ほど俺たちが見て来たものを説明した。


ゴブリンの調査依頼を受けて北の森に入ったこと。

少し歩いたところで風上から何か嫌な匂いがして近寄ったこと。

そこには冒険者の死体が無造作に置かれており、そこで襲撃を受けたこと。

敵は狡猾で、なおかつ統制の取れた動きをしていたこと。

姿を見ていないためゴブリンという確信はないが、もしも本当にゴブリンの変異種であるゴブリンアーチャーからの襲撃だったとすれば、かなり北の森は危険ということになる。

それらのことを順序立てて説明したところ、冒険者はその話に一様の理解を示してくれた。


「なるほど。話がすべて本当だったとして、Dランク程度の冒険者がよく生きて帰って来れたもんだ。だいたい矢を撃たれたと言ったが不意打ちで防いだのか?」

それでも完全に信用したわけではないようで、疑念を含んだ眼差しが向けられている。

「それについては信用していただくほかありません。冒険者の方の遺品なども持ち帰れていないので、話の信憑性を上げることも私にはできません。私も信憑性の高い情報を持ち帰れていないので、もう一度森に入って詳しい情報を調べてから戻ろうとも思いました」

そこまで言って、オレはふぅっと少しため息を吐く。

おそらく半分以上がオレより高ランクの冒険者だろう。

だから、Eランクの駆け出しの言うことは話半分で聞かれてしまう可能性も少なくないだろう。

それでも、伝えることで少しでも冒険者の犠牲を減らせるなら今頑張るしかない。


「オレ達はヘルツェンライゲンで冒険者登録をし、その日のうちに57体のゴブリンを倒しました。そんな俺たちが、手に負えないと思って帰って来た。その意味をご理解いただけるとありがたいです」

少しでもEランクの駆け出し冒険者がビビって帰って来たと思われなくするためにはそこそこの実績を出すのが一番手っ取り早い。

1日で57体のゴブリンを倒せるEランク冒険者はそう多くはないだろう。

そう思ってもらえることを願っての発言だ。


「まぁ、話は分かった。ならその調査依頼、オレもついて行ってやる。悪いな。俺たちが戻るまで北の森への依頼は無しってんでいいか?」

男がそう言うと、ホール内にいる冒険者は軽くため息を吐いた。

それでも、男は冒険者達からの信頼が厚いようで「まぁ、グレンさんが言うなら」みたいな独り言もちらほら聞こえてくる。


「ミリアもそれでいいか?一度こいつらと一緒に北の森に行ってくるわ」

男がそう言うと、ミリアもぺこりと頭を下げた。

それに倣ってオレも頭を下げる。

「ありがとうございました。あなたがこの場を作ってくれなかったら俺たちは何もできなかった」

オレがそう言うと、男は肩をすくめながら笑う。

「若ぇのに堅っ苦しいこと言ってんじゃねぇよ。あー、ミリア、フェレール呼んでこい。今回はあいつも連れていく」

男がそう言うとミリアはビクッとして背筋を伸ばす。

「ギ、ギルマスは今日は別件で出てまして。明日なら大丈夫だと思うのですが」

そう言っていいわけをする子供のように両手の人差し指をつんつんしている。


「そうか。ならこの依頼は明日だな。おい、お前、今日は俺たちの依頼を手伝え。それで貸し借りなしだ」

と、急に意味のわからないことを言い出した。

「ちょ、ちょっとグレンさん、勝手に低ランク冒険者を連れ出したらダメですよ」

ミリアが焦っている。

「いいじゃねぇか。ゴブリン57体も倒せるんだろ?Eランクの実力じゃねぇよ」

男はそう言うとオレの方を向いた。

「グレン=マグリットだ。お前、昨日月雫亭にいただろ。オレはあそこの常連だからな。困ったことがあればなんでも言え」

そう言って手を差し出してくれた。

「ヴィクトです。こっちがソラ。ふたりとも剣士で、オレは魔法陣も勉強中です」

オレはグレンの手を取って握手を交わす。


その後、彼の仲間として、弓使いのカイル、魔法師のゼルンを紹介してくれた。

「今は3人しかいねぇんだわ。フェレールがギルドに引き抜かれちまってギルマスなんかやらされてるし、エナージュは国に引き抜かれちまってそっちの依頼ばっかりだ。まったくこっちとしてはたまったもんじゃねぇ」

グレンは悪態をつきながら面白くなさそうな表情を浮かべている。

それを横にいるカイルとゼルンが必死で宥めていた。


「なんで・・・なんでそいつは連れていくのにオレは連れて行ってくれねぇんだよ」

不意に、怒気をはらんだ声が聞こえたのでそちらを向いてみると、オレとほとんど変わらないくらいの年頃の少年が拳を握りながら抗議をしていた。

「サイアス。何度も言わせんな。お前はGランクだろ。討伐依頼には連れていけねぇ」

カイルがサイアス少年の言葉を一蹴する。

「親父ぃっ」

と縋るような目を向けるが、カイルはまったく聞く耳を持っていないようだ。

「くそっ。ふざけやがって」

そう吐き捨てると、彼は俺をギロっと睨みつけてからその場を後にした。


「すまない。バカ息子が失礼をした。腕は立つんだが協調性がまったくなくてな。万年Gランクでまったく上に上がれないんだ」

そう言ってカイルは肩をすくめた。

オレはちょっぴり申し訳ない気分になってしまったが、今日の依頼に協力しないと明日の調査に協力してもらえない可能性があるなら今日のところは彼に従っておいた方が良いと思い、それ以上の口出しはやめておく。


「んじゃそういうことなんでミリア」

そう言ってグレンはギルドカードを差し出す。

カイルとゼルンもそれに倣った。

そこにはAランクの文字が刻まれていた。


なんで?

高ランク冒険者って別室で依頼受けるんじゃないの?

エナージュはヘルツェンライゲンでそうしてたけど?

なんで野生のAランクがこんな列に並んで依頼受けてるの?

そんな顔をしていると、言いたかったことがすべて顔に書いてあったのか、グレンがガハハと笑う。

「オレは個室は好かんからな。いつもこっちで依頼を受けてるんだ」


グレンはどうやらそういう性格の人間らしい。

オレもソラと一緒にギルドカードを差し出した。

ミリアは「はぁっ」とため息を吐きながらそれを受け取ると、魔術具にかざした。

「やっぱり無理・・・じゃないですね。受付完了しました」

ん?という顔をしつつ、「まぁ、いっか」みたいな感じでギルドカードを魔道具から離すと、彼女はオレとソラにカードを返してくれた。


どう考えても今「やっぱり無理でした」って言いかけたよね?

なんで大丈夫だったの?

全然説明ないから怖いんですけど。

そう思ってミリアに目を向けていると、彼女が

「あぁ、高ランクの方と依頼を受けた実績がすでにありましたので」

と、にっこり微笑んだ。

この人、最初に受付した時、エナージュと依頼受けた話をして「それなら私に声をかけてください」とまで言い切ったのに全然覚えてなかったじゃん。

もしかしてさっきオレが横入りしてまでミリアに話しかけたのに「何この人」みたいな感じで見てたんですかね。

彼女の対応に今後の不安を抱きつつ、オレは、ひとまずグレンの討伐依頼に同行させてもらうことになった。

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