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ハイドアンドシーク ー亡国の呪いー  作者: きりしま
第一章:魔術の国 ロズヴァリル王国
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第三話:おかしな村

ご覧いただきありがとうございます。


 盗賊に襲われ、符術の力を確認できた後、シュラルは足早にその場を離れた。


 盗賊は縄張りを決めている、そこから離れれば追いかけてはこない、と師匠に習ったことがあり、顔を覚えておくぞと言われた手前、さっさとその縄張りから出た方がいいだろうとの判断だ。帰りは乗合馬車を利用して道を変えればいいだろう。路銀に余裕はないが、とにかく荒事は御免だった。それに、ついさっき符術師(ドール)になったばかりの身としては、リディリアとの練習と連携時間を確保したい。


 そもそも、シュラルの目指す先はロズヴァリル王国の王都、ヴァロダリルだ。符術師(ドール)呪術師(ゼノ)もいるこの国では、知識は王都に集約される。そこに求めるものがあるかどうかはわからないまま、ただ一心不乱に足を進める新人符術師に対し、リディリアはくるくると飛び回って首を傾げつつも、先のやり取りもあって絶対に聞いてやるものか、とそっぽを向いた。


 乗合馬車に乗らなかったものの盗賊の襲撃もあり足を速めた怪我の功名か、夕方に差し掛かる頃、小さな村に辿り着くことができた。一先ず、今夜は一安心だ。木造の家々の並び。木窓をつっかえ棒で開くような、よくある規模の小さな村だ。隣同士それなりに間隔があり、村を囲う木の杭でつくられた塀の中、すっぽりと入る程度の家の数、恐らく村民は三十人程度だろう。こういった小さな村が国中に点在し、旅人の足を助けているのだ。

 村の入り口を形ばかり警備する若者に声を掛け、旅人であること、一晩の宿が欲しいことを尋ねれば品定めをするように頭の上から足の先まで眺められた。途中よく歩いてきたので足元は土に汚れ、盗賊に襲われた疲れもありそれなりに酷い顔をしているだろう。シュラルは力なく笑ってみせた。同情を引こうと思ったのだ。警備をしていた若者は眉を顰めながら言った。


「この村に宿はない、泊められるとしたら馬や山羊と同じ小屋になる」

「えぇー! 動物と一緒!? やぁよそんなの!」


 びゅんっと前に出てリディリアがごね始め、それを慌てて捕まえた。若者は呆気に取られていたが、リディリアがなんなのか気づくと目を瞬いた。


「すみません失礼なことを言いました。それじゃあ、仕方ないので、先を目指します」

「あぁ、いや、とりあえず見せてやる、来い」


 警備の片割れがシュラルたちの案内を買って出て、狭い村を行く。一人でも二人でも子供が居れば賑やかな声が聞こえるものだが、この村ではそれがない。洗濯の音やカラカラと回る水車の音はする。小さくとも麦を挽くためのそれはある方がいい。水量を見れる人がいれば、土砂崩れや干ばつなどにも早い段階で気づけるのだ。師匠から、そういうことは習っている。シュラルはぽそりと呟いた。


「ハズレ村かも」

「え、なんで? まぁ私に馬や山羊と一緒に寝ろっていうのは大罪よね」

「そこじゃなくて、リディリア、ちょっと声を落とせよ」


 未だに手の中に捕まえている妖精はぶすくれた顔でシュラルの指に肘をついて頬を歪ませていた。それでも素直に声を潜めるのだから、根は素直な妖精なのだろう。


「じゃあどこが問題なのよ、私、山羊にも馬にも食べられたくないわよ」

「それは確かに問題。じゃなくて、家の数に対して外で働いる人の数が少ないんだよ」

「人間の生態はよくわからないわ」


 ふぅ、とシュラルは手を動かしてリディリアに周囲を見せた。酔う、酔う、とリディリアは足をばたつかせたが気にしなかった。人、見えた? と尋ね、くらくらしている妖精から、小川の方に洗濯してる女の人が二人、と回答を得た。


「警備に二人、家事が二人、おかしいんだよ」

「狩りとか行ってるんじゃないの?」

「だとしても……」

「ほら、ここだ」


 財産である馬や山羊が中に居るからか、しっかりとした小屋だった。だが、外からでも臭うこの異臭、思わず顔を歪ませた。男に背を押され入れられた暗い小屋の中、たたらを踏んで顔を上げれば、仕切りの中に馬が一頭、ヤギが二頭いるように見えた。動物の糞の臭いがして窓を確認、たった一つだけの木板の窓は件のつっかえ棒で開いているが、木の格子になっている。あの、と振り返った瞬間、扉を閉め、閂を掛けられた。


「ちょっと! 何あいつ! 閉じ込められたの!? 放しなさいよ、私が殴ってやるわ!」

「落ち着けって! あんなわざとらしく一か所だけ開いてるの、明らかにリディリアを捕まえるためだろ」

「くっ、私が絶世の美女なばかりに……」

「すごい前向きだな……」


 がるる、と唸るように振り返ったリディリアから視線を逸らし、シュラルはそれでもこの小さな温もりが飛び出していかないよう、捕まえ続けた。なんにせよ空気を取り入れる場所があるのならば、臭いは酷くとも呼吸はどうにかなる。まずは確認だ。


「リディリア、絶対に飛び出していくなよ。羽を毟ったあとの妖精だって、一部では商品になるんだから。好事家は妖精を酒に漬けるらしいぞ」


 ひっ、と小さくなって何度も頷くのを確認し、シュラルはそぅっと手を緩めた。リディリアはそのまま左手の上に座り続けようとしたので肩に置いた。小さな妖精の尻がコート越しにもぞもぞと位置を整えるのをくすぐったく思いながら、符を取り出してペンを持つ。炎の字を習い、中指と薬指で挟み、囁く。


「符に依りて(ことわり)の炎、姿現さん、炎よ(イグニス)


 符の端がじじっと蝋燭のように燃え、光源を確保した。扱いに気を付けなければここで丸焼けになって死ぬ。それがわかるのかリディリアも大人しくシュラルの肩に居て揶揄うことはしない。そっと明かりを掲げて中を改めて見渡す。臭いが酷いとは思っていたが、そこに広がっていたのは閉口してしまう光景だった。馬は目元が窪みガリガリ、腹は凹み哀れな姿だった。座っているのかと思っていた山羊は一頭が既に息絶え、もう一頭は寄り添うようにじっとそれを眺めていた。呼吸が、浮かび上がったあばら骨を通して見える。あの一頭も長くはないだろう。藁は長い間変えられていないらしくくたびれ、腐り、座り込むこともできない。リディリアは怒りに声を震わせた。


「何よこれ、命をなんだと思ってるのよ。シュラル、これどういうこと!?」

「俺がわかるわけないだろ、たぶん、この村、盗賊に乗っ取られてるんだと思う」


 よくある話だ。特にこういう規模の村であれば、食べ物を、財産を奪い、村から村へ移動をする盗賊というのもいれば、村を乗っ取りシュラルのような旅人を狙い、身包みを剥ぐような奴らもいる。今回の盗賊がどちらかはわからないが、なんにせよ不味い。警備の若者からして盗賊だったとすれば、自分の間抜け具合にしゃがみ込みたくなった。足元が汚く、コートの裾を汚したくないのでそれは控えた。リディリアは泣きそうな声で呟いた。


「どうするのよ、この後どうなっちゃうの?」

「問題ないだろ、リディリアがいるし、俺もいるし」


 へ? と湖のように潤んだリディリアの目がシュラルを見た。何も書かれていない符を取り出して、シュラルは苦笑を浮かべた。


「俺が符術師(ドール)なのは向こうもわかってるだろうけど、思いっきり暴れるとは思わないだろ。何せ符術師(ドール)はなよなよしてるからさ。リディリア、暴れる準備しよう」


 リディリアの愛らしい顔が悪人のように歪んだ。


面白い、続きが読みたい、頑張れ、と思っていただけたら★★★★★やリアクションをいただけると励みになります。

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