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第八話 葡萄色村

ーーーー遠くに村が見えてきた。村は30軒ほどの家々が集まっておりのどかな雰囲気を感じさせる。魔物の多い森にある村としては珍しく防護結界が張られておらず、周りを木の柵で囲っているだけである事がわかる。そのことから考えて比較的安全な立地なのだろうか。


「あれが葡萄色(えびいろ)村じゃ。今は冬で殺風景じゃが秋は凄いぞ。辺り一面緑と紫で覆われる。酒用の葡萄の栽培が盛んでな、村の周りは広大なブドウ畑が広がっておる」


「平和そうですね。魔物が襲ってこないのですか?」

シャルが尋ねる。


「あぁ。あの村の者達は魔獣と共存する能力があるんじゃ。魔物を除くありとあらゆる生き物と共存できるのじゃよ。魔族は魔獣が追い払っている」


魔獣と魔物は似て非なるものだ。これは俺が孤児院で魔法生体学を学んでいた時にも耳にたこができるほど何度も言われた事だ。魔獣は獣が進化の過程で魔力を体内に取り込むようになり独特な進化を遂げたもの。魔物は自然界に存在する魔力が結魔という現象を起こし生物のような形で現れたものだ。魔物は基本的に知性はなく人を襲う事しか頭にない。よって魔物はギルドや軍の者によって駆除されている。しかし稀に知性を持って生まれる個体が存在するらしい。まぁ俺は見た事など一度もないが…。


俺らが村の門までつくとマルガルに門の隣に立っていた門番らしき1人の男性が話しかけてきた。

「こちら葡萄色(えびいろ)村の門番のシャットと申します。本日はどのようなご用事…あれ、マルガル様じゃありませんか!」


「はは。久しぶりだな。シャット。元気にしてたか?」


「はい!お陰様で。」

どうやらマルガルはこの村では知れている顔のようだ。敬称を付けられている所をみるとかなり偉い立場なのか?などと俺は考えた。


「何日かこの村に泊まろうと思ってな」


「マルガル様がここに泊まりなさるのは2年ぶりですね。再びお会いできるのを心よりお待ちしておりました。それなら近くの宿を紹介しますよ。そこは結構安くて…」


「いや、いいんだ。それよりもフローレンスの所へ案内して欲しい。住所が変わったと訊いた」


「あぁ、フローレンスですか。彼女は元気にしていますよ。それはもう活発な娘で…。いや、歳的に言えば娘ではないですね。わかりました。いまから案内します」


シャットはそういうと門を開けやや早い足取りで歩き始めた。

今の会話を見る限りこの村は住民同士の繋がりが良い意味で強そうだ。このような村は結束感が強い反面、部外者に対してきつく当たる事が多い上、噂も回りやすいだろう。見慣れない俺らの噂はすぐ広まるかもしれない。別にそれで駄目な理由はないのだが目立つ事は好きじゃない。


「…マルガル様、以前あなたがおいでなさった時にはお目にかからなかった者がいますね」

俺らの事だ。

「あぁ。昨日森で出会った者だよ。私から近い順にシャル、シード、ディバイドと言う。今日ここにきた理由は彼らの宿を探すことも兼ねておる」

マルガルがそう言うとシャットは目を細めてこちらを覗いてきた。

「なら、マルガル様と出会ったのは昨日が初めてと言う事ですか…マルガル様はこの村の英雄です。くれぐれも無礼のないようにして下さい」

とシャットは俺らに忠告した。

「シャット、英雄と呼ぶのはやめてくれ」


「失礼しました。マルガル様」


(英雄…?)

もしかしたら俺たちはとんでもない人に助けられたのかも知れない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ここが新しいフローレンスの家です。…もう6回目の建て替えです。どうせ次の収穫の季節の時にはまた新しい家になっているでしょうね。」

シャットがその新しい家を見つめながら呆れた声で喋った


「「6回⁉︎」」


シードとディバイドがその数に驚き声がハモった。


「では私はここで失礼します。また御用がある時はいつでも門の所へお越しください。対応いたします。」

シャットはそう言うと今来た道を戻って行った。


「今からノックをするが気をつけるのだぞ。」

マルガルは俺らの方を目を細めて見つめながらそう話した。


「呼び出すだけじゃん」

ディバイドが簡単に言い切った。するとマルガルはより一層を目を細めディバイドの目の前まで顔を近づけ額に指を置いた。

「油断すると怪我するぞ。奴は行動の一つ一つが大袈裟なんじゃ。」

マルガルの声は喉の奥から搾り出す様な声だった。


「…すまない。とにかく今から呼び出すぞ。」

マルガルがドアへ指を当てノックをする。


………………

……………

………





全員が固唾を飲む。…あれ反応なしか?

そう思った瞬間だった。




ーーーーードガン!!!!!ーーーー




何者かがドアを吹っ飛ばし目に見えぬ速さでマルガルへ突っ込む。腹に直撃を食らったマルガルは情け無く「ぐえっ」

と声なき声を発するとそいつと一緒に地面へ叩きつけられた。


「誰かと思えばマル爺じゃん‼︎‼︎足音で分かったよ!マジで久しぶりだね‼︎ねぇ聞いてる?」

激しい土煙が起こったが次第に収まりそいつが見えてきた。


「吸血鬼⁉︎」

ディバイドが腰の剣に手を添える。

そいつの背中には黒い羽があった。コウモリの様なその羽は間違いなく吸血鬼にしかない特徴だ。女の子で髪は金髪でセミロングぐらいだろうか。一際目を引いたのはその目の色だ。吸血鬼の特徴である赤みのある目ではなく水色の目だ。かなり特殊だ。


「シャル!お前の言ってた吸血鬼ってこいつか?!」


ディバイドが焦った様子で俺の方を見る。

いや、絶対に違う。この吸血鬼は年齢は17歳ほどに見える。俺がみたアイツとはかけ離れている。


「いや、全く知らない。」

俺らが困惑している様子とは裏腹にその吸血鬼はマルガルに叫び続けている。


「2年ぶりだよ!ほんとに!結構寂しかったんだからね、だから聞いてる?」

マルガルは白目を剥いていた。可哀想に。しかしこれはよくある事なのだろう。その吸血鬼はマルガルの首根っこを掴み家の中へ連れて行った。

俺らが唖然としているとついに俺らに話しかけてきた。


「マル爺のお連れさん?どうぞ入ってきて!」


~~~~~~~~~~~~~~


「ごめんねーマル爺が急に来るもんだからなんもないけど…」

俺らは家の中に案内された。

あれほどの破壊力がある女の子の家だから余程散らかってると思っていたが意外と綺麗だ。

マルガルも意識を取り戻していた。


「…もうちょっと落ち着いて行動できんのか。フローレンス。」

マルガルはなだめるようにその女に話す。


「これでも落ち着いてるつもりなんだけどなぁ…。あ、自己紹介忘れてた。私の名前はパティノア=フローレンス!これでも80年は生きてるよ!」


「そう…フローレンスは吸血鬼じゃ。人より成長が遅い。今フローレンスは人で言うところの16〜17歳じゃ。」

マルガルが補足説明を加える。


「パティノア…?」


急にシードは小さい声で呟くと硬まった。どうした?


「どうしたんだ?急に」

ディバイドが心配し声をかけるがシードは

「あ、いやなんでもない。」

と言うだけだった。


「…私がかつて孤児院で育てていたのじゃよ。流石に40年も見てると少しは成長したの。」


マルガルはそう言うとフローレンスの頭の上に手を置こうとした。しかし


「やめてよ、レディにとって前髪は命よ。特に私みたいな美少女には髪を乱すなんて禁忌よ。」

とフローレンスは言い手を払う。

困惑した顔でマルガルがこちらをゆっくりと見た。


「言い忘れておったが…こやつ、類を見ないナルシストじゃ。」

俺は再びフローレンスを見る。確かに美少女だ。美人系と言うよりかは可愛い系。そしてめっちゃ顔が自慢げ。


「まぁ自信があるのは良い事じゃないですか。」

シードがそっとフォローを入れる。


「私はありすぎるのもどうかと思うのだがな。」


「…所でこんなに久々になんで私に会いにきたの?」

マルガルの言葉を華麗にスルーしフローレンスが尋ねる。


「久々にフローレンスに会いたかったというのはあるが…。一番はロストロに向かうための寄宿地としてだな。」


「ロストロ⁉︎ マル爺あれからほとんど都会には行かなかったじゃない!」


「一番のロストロに向かう理由は彼らじゃ。」

マルガルはそう言うと俺らを指差した。


「…そーいえば名前聞いて無かったわね。私から見て右から順に名乗ってもらえるかしら?」


「僕はシードと言います」

「私はシャルですね。シャル=ローズムーンです」

「俺はディバイド。オネスト=ディバイド。残念ながらオネストの部分覚えてる人ほとんど居ないからディバイドでいいぜ」


俺らがそう軽く自己紹介をしたがフローレンスは一言ふーんと言うだけだった。

「私はさっきも言ったけどパティノア=フローレンスよ。もう長ったらしいからパティでいいわ。敬語もナシ。人間の年齢で言うとあなたたち私よりも少し年上よね」


「そうだな。パティ。よろしくな」

俺は頷くと手を前に差し出した。パティも手を差し出し握手をする。


マルガルはその様子を微笑ましそうな表情で見守っていたが全員との握手が終わると俺たちの元へ神妙な顔で話しかけてきた。


「フローレンス。すまないが少しの間席を外してくれないか?ちょっと彼らと私だけで話したい話があってね」


「いいわよ。三時間くらいしたら戻ってくるわ」


「ん、傘忘れんようにな」


「了解了解ー!」

そう言うとパティはドアを勢いよく開け家から出て行った。


「雨でも降るのか?」

ディバイドがマルガルに尋ねる


「もう見て分かると思うがフローレンスは吸血鬼じゃ。吸血鬼は強烈だったり長時間は日光に当たれないのじゃよ。日傘を挿せば問題ないレベルだ」


「それで話というのは…」

シードは神妙そうだ。


(確かにかしこまって話などと言われると少し身構えるよな…)


「少し繊細な話じゃ。今から話そう。」


マルガルは木の古びた椅子にゆっくりと腰掛けた。

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