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第三話 ターン

 








 ーーーーーーーーーーーー

<早朝、フィンガーディアンズの港にて>


「この子供は?」

 ディバイドが怪訝な顔つきでそう尋ねる。

 そういえばディバイドには言ってなかったな。


「『シード』俺の弟みたいなもん。小さいけど頼りになるからな」


 俺はシードを連れて来ることには抵抗があった。

シードはまだ14歳だ。決して旅行などとは言えないこの旅に連れてくる事などしたくなかった。

しかし、発信機などを扱えるのは彼のみである。軍すらも開発中のもので実用化したのは彼が初のようだ。


 とにかく、俺らは無事にフィンガーディアンズの港で集合する事ができた。

 集合と言っても三人限り、俺であるシャル、ディバイド、そしてシードだ。


「おぉ凄いな。シード君か。シャル、どういう所が頼りになるんだ?」


 よし、来た。俺はこのためにシードを連れてきた。

「シード、発信機を出して」


「了解!」

 力強くシードはそう言うと腰のあたりにつけている灰色の革のバックから直方体の金属の箱らしきものを勢いよく取り出した。


 大きさは片手で持つにはやや大きいと言った所だろうか。

 箱は銅板を継ぎ接ぎして作った様に見え、アンテナがついている。そして真ん中にはガラスの丸い窓があり、その中には針がついている。


「これは僕が作った発信機から出た魔力を検知して発信機がある方向を指す受信機だね。今スイッチを入れるよ」

 シードはそう言うと箱の側面にある四角のボタンを押す

 途端、針は回転しはじめそのスピードは次第に速くなっていった。

 俺とディバイドはすっかり目の前に広がる興味深い光景に釘付けとなった。


「すげぇな!これであの女を追うのか!」

 ディバイドは上機嫌でそう言う。


 針はあるタイミングを境に減速していき、やがて針は北東を辺りを指すとピタリと動かなくなった。


「今針が止まった方角に発信機があるんだよ」

 シードは胸を大袈裟に張り得意げに話す。

 なるほど。これを使えばおおよその方向はわかる訳か。


「方角は北東か! つまりその女は北東に進めば会えるって事だな!」


 ディバイドは益々テンションが上がっている様だ。先日の彼の影はもう見受けられなかった。シャルも旅が始まる実感を得て一層気を引き締めるとともに少しの不安感が湧く。


 明るく振る舞うディバイドとは裏腹に、シードは呆れる様な疲れた様な表情を浮かべ


「あくまで発信機が外れてなければの話だけどね。それにわかるのは方角だけ。何百メートル先にいるかもしれないし、何千キロも先かもしれない。」


 と一言退屈そうに溢した。


「……北東に進んでみる事以外今は選択肢がない。とりあえず出発しよう」

 と俺は呟く。

 するとシードはポケットから地図を取り出し広げると俺達に見せ最初に行く街についての説明を始めた。


「見て、北東に進むとフィンガーディアンズを抜けると『ロストロ』という街に着く。まずはここを第一目標にしよう。大体…ここから15〜20キロぐらいかな。徒歩で行くから宿に泊まる事にもなるかもね。シャル兄ちゃん、お金は持ってる?」



「…あ、あぁ 大丈夫だ 多分」

 シャルはできれば聞かれたくない質問をされ不意に戸惑う。


 実は俺はディバイドには旅費は俺が負担すると言ったが俺が持っている金は決して多い訳ではない。大体500RUBE…二週間ぐらいで尽きそうだな。


「じゃあ、早速行くか。ロストロへ!俺があの女をぶっ潰す!」

 ディバイドは空に叫ぶように高らかに声を上げた。


「僕が一番先に着くからね!」

 シードはディバイドの言葉を聞くと北東へ駆け出した。

「はは、20キロもあるんだぞ 疲れるなよ!」

 ディバイドは遠くに見えるシードに叫んだ。

 シードの14歳にしては無邪気すぎる行動に思わずシャルも微笑む。


「俺らも負けちゃられねぇな!」

 ディバイドが俺の肩を叩きながら力強くそう言った。


「…そうだな まだ不安はあるけどな」


 もう旅は始まるんだ…

 本来はこんな事言うべきじゃなかったのかもしれない。 しかし、ディバイドが持つ力強さのせいだろうか… つい心内を吐露してしまう。



「…旅の不安はあるかもしれないが… 俺がそれよりも不安に思う事は『やれたのにやらなかった後悔』が先に残る事だ。」


 先程とは一変した重いのか軽いのか判別に困る声でディバイドは俺に話す。


「レオナードは俺の親友だ。この旅は俺のためでもあるんだ。」


 俺は何か言葉をかけようとしたがかけるべき言葉が見つからず静かに俯いた。



「僕もう先いっちゃうよ⁉︎ いい?」



 遠くでシードが俺達に喉が張り裂けそうなほどの勢いで叫んでいる。


「とりあえず、俺には覚悟はあるさ。でも死なずに旅を終えれるならそれが最善だな。お互い死なない様に頑張ろう。明るく行こうぜ」

 彼の声はもう元の調子に戻っていた。


 俺には覚悟は足りているだろうか…?

 やはりこれは"1人の問題ではない"のだ。


「じゃあ、行こうか!まだその女は近くにいるかもしれない。…それにシード君が先で待ってるしな!」


 …覚悟をする覚悟はできた。

 今は前へ進むしかない。


 シャルは杖を持ち直し被っていたローブのフードをめくるとディバイドともに北東へ歩み始めた。







 ーーーーーーーーーーーーーーーーー




 遂に魔導士・シャル 剣士・ディバイド

 そして… 器用な発明家・シードによる

 謎の女を追う旅が始まった。

 しかし、ここで話はあの女、もとい

「トレシア・マーレード」に移る。


 時は少し遡りシャルにワープ魔法で飛ばされた直後の話…

 ーーーーーーーーーーーーーー



 ーー「…ったく! 変な場所に飛ばしてくれたわね!ここどこなのよ?森?」


 トレシアの声が閑散とした黒い森に響き渡る。 既に日は暮れ、森には遠くで鳴くフクロウの声と月明かり以外の気配を感じられない。


(それにしてもさっきのはワープ魔法……?間違いはなかったようね…。)


 トレシアは先程シャルの魔法「適当空間移動(ランダムテレポート)

 の効果により何処か遠くの地に飛ばされたのだ。


「血もまともに飲めてないし…羽もろくに動かないわね…」

 またもトレシアの声は深き森の闇に吸い込まれていった。


(…どうしよう 日が昇った後はそんなに長く動く事はできないわ… せめてここが何処か大まかに分かれば… )


 その時、トレシアは背後数メートルに何者かの気配を感じた。


「…人間じゃないわね 何…?」

 しかし、トレシアは怖がる様子もない。ただ、その冷酷な紫色の目で闇を見つめているだけだ。


 次第に気配はトレシアに近づいて行った。


(((グルル……ルル…グルル……)))


(鳴き声すら聞こえてきたわ。これは…五、六体はいるわね。魔獣かしら。

 丁度いいわ。ここは獣の血で我慢するしかないわね)



 --------


 ーーーガサッッ!!!ーーー

「来たわね!!」

 その時四方八方の暗い木々の隙間から狼のような魔獣が五体トレシアに飛びかかってきた。

 トレシアも懐から短刀を取り出し、軽く魔獣の攻撃を華麗な体捌きで躱わす。


「私を襲うなら30体はまとめてかかってきなさい!」


 トレシアは短刀を片手でもち高く振り上げると自身の頭の上で小さく一回転させた。

 短刀が一瞬、暗い鈍い輝きを放つ。


 その瞬間、五体の魔獣の首元にキラリと一直線光が走ったと思うと


  ーーーーーザシュン‼︎ーーーーーー


 どこからか現れた斬撃が魔獣を襲う。


「ギャル‼︎…グロロ……」


 五体の魔獣らは同時に首元から血を吹き出しながら倒れていった。


「あらら……私に1ミリも触れていないのに負けちゃったねぇ… まぁ…私だって1ミリも触れてないけどね」


 トレシアはそう嘲笑う様に一言吐くと静かに首から血を流し倒れている魔獣の元へと近づいた。


「私は獣の血なんて趣味じゃないけど…この際仕方ないわね 本音としては人間の血が良かったけど… 」


 トレシアは手で器をつくると吹き出る魔獣の血を手の器に溜め、それを静かに飲んだ。

 血を飲むなり萎れたトレシアの羽はハリを取り戻し、目は紫色からルビーのような赤色へと変わる。


「…これで本領発揮ね。全く、この羽がなきゃやっていけないわ…」


 トレシアはそう溢すと助走を行いながら羽を広げ、暗き森の上に広がる星の輝く空へと羽ばたいていった。


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