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第二話 ムジナに馴染む

 先程までそこに居たはずの女はもう居なくなっていた。


 俺がワープさせたのだ。


 俺は完全に'勘"で転移魔法を使っている。そのせいで自分でも何処にワープさせたのかは分からない。

 

 そもそも他人をワープさせる時に場所を指定できない事に「適当空間移動(ランダムテレポート)」と名付けているだけだ。


 俺はあまりに唐突な出来事に唖然としていたが、肩に添えられた手とシードの声で俺ははっと引き戻された。


「大丈夫だった…?いつも必ず定時に帰るシャル(にい)が帰って来なかったから心配して探しにきたんだよ」

 シードは心配そうに俺の目を見つめる。

 彼は俺の弟…いや、正確に言うと血は繋がっていないのだが。

「話聞いてたか…?」

 俺はシードに尋ねる。あの女の言う事は全て自分の口から言うのは、はばかられる事だった。

「…うん。酷いね。中々に。」


 ふと、俺はシードに礼を言っていない事に気づき礼を言う。

「…シード、助かった。ありがとう。多分あのままだったら杖を…」

「ひとまず無事で良かったよ」


 シードとは孤児院で出会った。俺が17歳だった夏の日、彼はふらっと孤児院に現れた。身寄りもなく、住む場所もないという彼はそのまま孤児院に入居し、俺と知り合った。友達の居ない俺に、彼は積極的に話しかけてくれたのは良く覚えている。なぜそうしてくれたのかは今でも分からない。少なくともシードは俺の初の友達となったのは間違いない。


 日を追うごとに距離感は縮まり、いつのまにか俺とシードは離れられぬ存在となっていた。

 俺が二十歳になり孤児院に別れを告げ、一人暮らしを始めようとした去年、彼はこう口にした。


「ねぇ、シャル兄、僕一緒に住んでもいい?二十歳になったら僕も自力するからさ」


 そうして俺たちの同居生活は始まった。まるで、本物の兄弟のように。

 友達の居なかった俺には不思議な話だ。未だに俺は本当にあった事なのか疑っているほどに。




「…よし、探知機は上手く作用してる」

 シードが安堵の表情を浮かべる。

「探知機?」

 慣れない言葉に俺は繰り返す。


「うん。僕がさっき撃ったピストルの弾丸には魔法工学で作った発信機が入ってて、受信機を使えばおおよその方向が分かるんだよ」


 シードは魔法工学の天才である。現在14歳である彼は、魔法と機械を使い、個人的に様々な道具を開発している。昔、地域の新聞社が彼の事を取り上げようとしたが、彼は目立つのは嫌だと断ったこともある。


「おおよその方角…か」


 今すぐにでもあの女の元へ行きたい気持ちだが、俺が勝てる相手でないのは明確だ。


『『『あなたの親は殺されたの』』』


 あの言葉がフラッシュバックする。あの女は自分の出生について知っている。それに魔導士失踪事件だって…


 ……明日、ディバイドに話すか。今日は話す気になれない。










 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





 ーー「どうだ?許可はおりたか?」


「まったくダメだ。降りる気配がない」


 俺はディバイドに自分の出生も含め、包み隠さずあの話をした。そして三日たった。俺の話を聞いたディバイドがまず言ったことは

「救援を要請しよう」

 という事だった。国営ギルドにおいて、担当する事件が自身の手に負えるものではないと判断した場合、政府に申告する事で軍に協力を求めることができる、という制度だ。

 これには国王の署名が必須であり、いわば国の許可が必要だ。

 緊急性の高い事なので1日もすれば返信は返ってくる仕組みだ。

 しかし、許可そのものが降りないとは誰が予想しただろうか。


「何故だ…ここまで大きな事件で、証言もあるというのに…!」

 ディバイドが悲痛な声で嘆く。俺も同感だ。


「何故許可が!このままでは捕まえられるものも捕まえられなくなってしまうじゃないか!」


 いままでこんな事は一度もなかった。俺だって我慢の限界だ。何か確実に異常事態が発生している。その憶測が俺を突き動かす。


 本当にギルドは頼りになるだろうか…?

 このままギルドは動かずに事がうやむやになり終わる可能性だってあるはずだ…

 俺はこの事件には"個人的な問題"がある。うやむやにする訳には行かない。


「ディバイド… 時間は空いてるか?」


「時間ってどれくらいだ? 何時間だ?」


「数週間。下手したら何ヶ月か」


「え、は? どうするって言うんだよ…」

 俺のあまりに突飛すぎる返答にディバイドは動揺を隠し切れず力の無い声をだした。


「俺らであの女の正体を突き止めに行く。旅費は俺が出す。」


「俺らで? 2人で?」


 ディバイドはまだ上手く俺が何を言っているのか飲み込めてないようだ。無理もない。


「ああ。ディバイドの言う通りこのままでは逃げられてしまうかもしれない。それは俺も君も嫌だと思う。それぞれ"個人的な問題"があるからな。…せめて、会うだけでもいいんだ……」


「…………そうだな。でも、どうやって探すんだ。お前がどっかにやっちゃっただろう」


「それに関しては大丈夫だ。どこにいるのか方向は分かっている」


「俺も…行きたいよ」

 ディバイドの声のトーンが下がった。座った彼は顔に手を当てて俯いていた。表情は見えない。

「レオナードが死んだって、俺はまだ信じたくないんだ。せめて、直接その女に聞いて"殺した"って言うならその場で叩き潰してやりたい」

 しばし沈黙が続く。俺はかける言葉が見つからずにただ立ち尽くしていた。

 沈黙を破るようにディバイドが声を発する。




「連れて行ってくれ。頼む」




…奇遇にも俺らには共通の敵ができたようだ。

仲間がいると心強い 何よりこれは俺1人の問題ではないのだという事を強く実感する。

危険な旅になるのは間違いない。なにより、あの女は強い。勝てるかどうかも怪しい。しかし、"勝てるかどうかの話ではない"のだ


「…分かった 翌朝、太陽が東の空から昇る頃、フィンガーディアンズの南の貿易港で集合だ」

 俺はディバイドの手を握った。


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