第零話
0話となります。1話と文脈的な繋がりはないので、1話からお読み頂いても結構です。
ーードガン!!!
ドアの蹴破る音。空を裂くように落ちる雷の音。
かつて賑やかだった夜の王宮は静まり返り、雷のみが光を照らす。
「とうとう本人がご登場って事ね」
王宮の回廊、夜の川の様に冷え切った大理石の上に二人は立っていた。
一人は羽のついた女、もう一人は黒髪の男だ。
「…赤子が寝てるんだ。静かにしてくれないと困る」
雨音の中、それでもはっきりと聞こえる声で男は言葉を放った。手に握りしめた杖の先は女の方に向けられている。
「外は雷よ。既に十分うるさいと思うわ。赤子には関係のない話だわ」
女は赤く冷たい瞳で男を睨んだ。男に怯む様子はない。
「関係ない?笑えないね。宴会後の深夜を狙っての奇襲。お前の意図は見え透いてる。…スワロウの姿が見えないな。いる事ぐらいは分かってる」
男も女に呼応するように睨み返した。
「よく分かるわね。スワロウは一つ前の部屋で待機中よ。『弟の血は見たくない』ってね。馬鹿馬鹿しいわね」
女はそう言うとニタリと微笑んだ。
「そうだな。馬鹿馬鹿しい。所で目的はこの杖か?」
「それだけじゃないわ。その杖だけじゃ私達の計画は完結しないわ。あなたの"魂"。それが必要だわ。」
「そうか…やりたい事は分かった。お前はもう十分暴れたはずだ。妻も友も…この一夜で失った。」
男は杖をより一層強く握りしめる。
「飛んで火に入る夏の虫よ。もっとも今の季節は夏の終わりかけだけれどもね。立ち向かって来たから追い払った。自分を害するものだもの」
「この気に及んで冗談か。肝が座ってる」
男は杖に魔力を込め始めた。杖の先の石は青色に光り始める。光はほのかに回廊を照らす。
「それは結構。私にとっては褒め言葉よ」
女も依然として動じる様子はない。静かに時が過ぎてゆく。
「…子は手にかけるな。お前を害してはいない。お前の目的は俺だ。話はここの二人で完結だ」
男は羽織っていたローブを脱ぎ捨てた。ローブは宙を舞い、冷たい石床の上にはらりと落ちた。
「二人…ねぇ。残念ながら二人じゃないわ。見えないだろうけれど」
瞬間、男の両隣を風が吹き抜けた。脱ぎ捨てたローブが再び動く。
「魔力は感じる。近くに居るな。…二人だろうが、三人だろうがこの杖を渡さない。俺は命を掛けれる」
女は男へ近づく。彼女の取り出した短剣に杖の光が反射した。
「命も杖も私は貰うわ……エルベン・ローズムーン!!!」
男は魔法を放った。