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Story.2  黒大鷲

「すっげぇー……」


 初めて目にする、自身の〝聖獣〟。この儀式において、〝聖獣〟を授かりにくる者達の反応は様々であり、ガイアも密かに楽しみの一つにしている。

 子供みたい。ガイアは口許に笑みを浮かべて、己の守護神に歓声をあげているクォーツを見つめた。

 彼女の視線も気にせずに、クォーツは黒い鷲に興奮気味に訊ねる。


「なあなあ、お前、名前は? 名前は何て言うんだ?」

≪……ベル≫


 ぼそりと答えた黒い鷲に、喋った! と当たり前のことを、クォーツは飛び跳ねんばかりにはしゃいだ。ところが、


≪……冴えねー面≫


 心底がっかりしたように吐き捨てたベルに、思わずといった様子でクォーツの動きが止まる。瞳の色こそ同じだが、主人を見るその目付は鋭い。人の好いクォーツとはちょっと似ているとは言い難かった。


≪てめぇが俺様の主か。くだらねえのに呼び出されたな。最悪≫

「え……ベ、ベル?」

≪ベルさんって呼べ、クソ主!≫


 ひぃ、と肩を縮こませ、クォーツはガイアを見やる。


「な、なあ、何か、俺がよく見かける〝聖獣〟と全然違うんだけど、どういうこと……?」


 ベルに聞こえないように、声を潜ませている。対し、彼女も正直なところ呆然としていた。〝聖獣〟が初対面の段階で、ここまで主に不快感を示すのは初めて見る。

 元々が自分の魔力であることから、ランダムとはいえ従順な性格の〝聖獣〟が多い。姿は、犬や猫、鼠、巨大なキリンやクジラ、様々な形になる。

 一応こうして、ベルという名前を持った守護神を生むことには成功したのだから、手違いがあったとは思えないのだが。


≪おいコソコソすんなよ。クソ主≫

「いや、俺、名前はクォーツって」

≪知ってるに決まってんだろ。てめぇの魔力から生まれたんだよ俺様は。そんなことも分かんねえの? カス≫


 従順な性格からかけ離れている。ガイアは同情めいた表情で一言。


「……ナメられてるわねぇ……」

「俺、何でこうなったの……」


 誰か答えをください、と顔を覆いながら震えるクォーツには申し訳ないが、〝聖獣〟は替えもきかない。生涯において一人に対したった一体の〝聖獣〟なのだ。


≪先に言っとくけど俺様てめぇ嫌いだわ。何か全体的に無理≫

「ねえ何で俺にそんなアタリ強いの!? まだ初対面だよ!? 俺なんかした!? 会ってまだ数分なんだけど!?」

≪うるせぇ黙れ≫

「理不尽! りーふーじーんー!」

≪そういうところがうぜぇって言ってんだクソ主≫

「事実でしょ! 俺何もしてねえもん! 今の数分で何しろってのさ! 名前訊いただけだろってぇの!」

≪染め直せよ。金髪がうぜぇ≫

「何で髪の毛の話!? あと、これ地毛!」

≪あーうぜぇ、だから、そういう≫


 唐突にベルの勢いが止まり、主から視線を外した。自分を生み出してくれた神殿の巫女の後方から、白いライオンがゆっくりと歩み出て来たところだった。

 吸い込まれそうな碧の瞳。雪のような純白の毛。


≪……喧嘩なら神殿の外でやってもらえるか≫


 低く発せられた声に、ベルの表情が強張った。この白いライオンは、真っ白に塗られたこの神秘的な空間に驚くほどはまっている。ガイアが困った様子で笑っているので、この〝聖獣〟は主の気持ちを汲み取って出てきたのだろう。


≪後ろの者が、まだ待っているのでな≫


 諫める声音を受けて、後ろを見やった。まだ〝聖獣〟を授かっていない者達が、多く列を成している。

 彼の背を、ガイアが撫でる。


「終わってから話そう。夜になる前にはきっと終わるから、待ってて?」

≪それまで、お前達だけで話すのが良いだろう≫


 何て強烈な魔力もってんだ、こいつ。

 ベルはそう思いながら、不本意そうに身体を低く構えた。クォーツが不思議そうに見下ろすが、合点がいったようで、恐る恐る背中に乗る。乗ったことを確認してから、大きな黒い翼をはためかせる。神殿に集まっていた者達が、一斉に、「おぉ」と声を上げた。うるせえな、と黒い鷲は呟きつつ、背中に主を乗せて、吹き抜けになっている祭壇の天井から外へと出て行った。


 ガイアはそれを見届けて、やはりあれはクォーツの〝聖獣〟で間違いないと思った。初めて背中に乗って空を飛んでいる(更にそれなりの速さである)にも関わらず、落ちそうになる気配もない。あれは、〝聖獣〟との魔力が丁度良い具合で共鳴し合っているということだ。


(主従関係はともかく、いいコンビになりそう)


 そう思った矢先、外から派手な衝撃音と共に、ぎゃああ、と出て行った男の断末魔が聞こえた。ガイアは額に手を当てる。


(いや、やっぱり、あのコンビだめかもしれない)


 生憎だが、今はクォーツに構っている暇はない。悪運には強い男だし、〝聖獣〟が主人を殺すなんて聞いた事が無いから、生きているだろうと適当に見当を付ける。気持ちの切り替えの意味も含めて長く息を吐き出す。


 前髪を掻き上げ、次の人を迎えた。まだ儀式は終わりそうにない。

拙作をお読み頂きありがとうございます。

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