ボンボン勇者の旅立ち
大商業都市ボーダーでゴールドブラム家を知らない人はいないだろう。
家長であるローレンスが無一文から一代で財を成し遂げだのはまさに伝説、同業者はもとよりライバル業者からも羨望を集めている。しかし生きる伝説も六十代後半と高齢になった時、新たな問題が生じてくる。
後継者問題だ。
候補者はいることにはいる。長男のクローネンはすでに父の稼業を手伝っており、順当にいけば彼にお鉢が回ってくるのだが、いかんせん後継者としては実力不足の感が否めない。ここで浮上したのが次男のリキッド、二番目の妻アニタから生まれたリキッド自身もそれほどの人物ではない。ただ彼には強力な武器があった。政略結婚で嫁いだアニタであるが既に故人、ただ彼女の親族がリキッドを後継者としてバックアップし始めると話は変わってくる。温床育ちでひ弱なクローネンに勝ち目はない…と豹変する者が増える一方、リキッド相続に拒否反応を示す者も当然現れる。今までクローネンを後押ししていた者にとっては死活問題に及ぼすのでは反対するのは当然、対立は鮮明となってくる。
ゴールドブラム家を二分化し、事業に支障がきたすまで発展するなか不思議なのが家長ローレンス。騒動を簡潔すれば兄弟喧嘩、絶大な権力を持ちまだまだ健在な彼の一声で解決するはずがひたすら沈黙を守っていたある日、事件が起きる。
ローレンスが襲われたのだ。
正確に言えば仕事の移動中、彼が使用していた馬車に爆発物が見つかっただけで被害者はいない。ただ時期が時期だけ対立する息子や彼らを推す者達の間で緊張が走る。関係者だけではない。ボーダー内が静まり返る中、ローレンスが息子達を呼び寄せる。