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第7話 感情の味

 「おーい!!大丈夫か!?誰か返事をしてくれー!!」


 所々レンガが崩れ落ち、瓦礫となって散乱している城壁に向かって、勇者が叫ぶ。

 すると


「「「ウオォォォ!!」」」


と、城壁の向こう側から歓声が聞こえてきた。

 ギイィィィッという音とともに城門が開き、兵士数人が走ってくる。


「勇者様、任務ご苦労様です!!それで・・・魔蟲王は討伐なさったのですか?」

「あぁ」


 勇者は馬に乗っているため、その兵士が勇者を見上げるような格好での質問であった。しかし、言葉少なに、けれど確かにあの魔蟲の長を討ち取った、という言葉を耳にした兵士たちは全員、膝から崩れ落ちた。

 そして、


「魔蟲王が勇者様によって、打ち取られたぞおおおおおぉぉ!!」


と、号泣した。

 その瞬間、前の歓声を上回る喝采の雄叫びが、崩れかけた城門にとどめを刺さんばかりにワアァァァっと爆発した。


◇ ◇ ◇


 フラギルは混乱していた。


『なんだ?この大音量は?何が起こった?』


 一瞬、フラギルの体がピクッと波打つ。


 中の三人衆はもっと混乱していた。


『『『ーー何語話してるのこの人達!?』』』

 驚きのあまり、3人全員の顔が一瞬、マネキンのようになってしまった。

 フラギル達には、人々の話す言葉がラリラリラー、としか聞こえていなかった。

 即座にフラギルの中で緊急会議が行われる。


『ワシらがこの中に入ってから、年月が過ぎすぎてしまったのか・・・』

『変わりすぎだろ!!』

『いえ、むしろ当然のことかと』

『言葉が全く、分からんのじゃが?』


 そこに、混乱から復帰したフラギルも参加する。 


『どうかしたか?この大音量の原因でも分かったのか?』



 すぐさま、ティナがフラギルの質問には答えられないと悟り、



『もおぉしわけございませえぇぇん!!』


 と素晴らしい土下座を見せた。そしてそのままの状態で、フラギルに向けて話し始めた。


『私めの浅い知識ではこの者どもの言葉がわからず、何を話しているのか全く分かりませぬ!! 貴方様はおそらく、この者どもと会話を行おうとしても、不可能ではないかと愚考いたします!!』


『意思疎通ができないだと?ふむ、ならば、周りに気づかれぬよう真似て話してみるか』

 

 ティナの言葉を聞き、内側で話しているようにやってみよう、とフラギルは考えた。しかし、


フスコ〜 キィ〜


といった気の抜けたような、金属が擦れる音が鳴るだけだった。

 ティナ以外の馬鹿笑いが聞こえてくる。


『ふむ? どうすれば良いのだ?』

『この国の言葉を学べば良いじゃろ』

『そうだな!!』


 ゼルが提案し、ペルギムがそれに追従する形となった。


『ほれ、先の者たちが中に入ろうとしておるぞ?中に入ればなんとでもなるじゃろ』


 見ると、鎧兜を装着した集団が城門の中に入ろうとするところだった。


『門が閉められる前に行こうぜ』


 フラギル達は、足や馬の蹄の間を転がりながらすり抜け、城門の中に入って行った。そのため、


『あぁっ!! 不敬な!! 穢らわしいッ!! ファーッ!!」

 

 無意識ではあるがフラギルを踏みつけんとする足や蹄が近づくたびに、ティナの叫び声が鳴り響いた。

 勇者率いる軍隊と共に街に入場したフラギル一行。

 勇者一行が門を潜り抜けるとーー


「「「わあああぁぁぁ!!」」」

「勇者さまバンザーイ!!」

「ステキ!!」


 勇者たちに向かって集まってきた人々から、大歓声が浴びせられる。それに反応した勇者が群集に向かって手を振りかえす。


「「「きゃあああああぁぁぁ!!」」」


 より一層、歓声が大きくなった。


「勇者様、町の皆様も喜んでいます」

「あぁ、俺たちやったんだな」

 勇者は群衆に手を振りながら、感慨深そうにそっと目を閉じた。




『ぐぅッッ!?』

『主よ!?』


 歓声が聞こえたと同時に、突然フラギルが苦悶の声をあげる。


『大丈夫ですか!!』

『あ、ああ大丈夫だ、問題ない。少しここらの刺激が強くてな』


 即座にティナの心配する声がフラギルにかけられるが、フラギルは持ち直したようだ。


『なんと表せば良いか・・・。ふむ、貴様らでいうところの“うま味”が急にガツンと来た・・・でどうであろう?・・・特に肉の』


 なんと、フラギルが呻き声をあげたのは、味覚を感じたからであるらしい。


『はぁ〜?うま味ぃ〜?なんで石のお主が味覚を持っておるのじゃ?』

『主は万能なのです!!味を感知することくらいはやってのけるでしょう!!』

『飯も食ってないのにか?大体、俺たちが信仰していたカミサマだって、美味い!!だなんて言わなかったぞ。・・・まぁそもそもフラギルみてーに、動いていたわけじゃないけどもよ』

『はぁ〜全く、あなた達は信仰が足りませんね、少しお話しましょう。説教のお時間です』


 当然、フラギルの中で議論が勃発する。そのせいで自分の疑問が流されると思ったゼルがフラギルに向かって質問する。


『そ!も!そ!もぉ!なぜお主が味覚を持っておるのじゃぁーーーッ!!』


 ティナにその特徴的な帽子を引っ掴まれながらも、ゼルは手をバタバタと振って抵抗している。


『なんとなく、だ』

『な、なんとなくぅ〜!?アッ!!しまった!!あーーーッ!!』


 ぼんやりとしたフラギルの返答に、呆れて脱力してしまったゼル。その隙にティナの左手でガッチリとホールドされてしまった。


『・・・強いていうならば、貴様らが以前に言っていた貴様ら以外の、我に吸収された者たちの記憶・・・のようなものだろう。』

『あぁ〜なるほどな?』


 ペルギムが納得したようにポン、と手を打った。しかしすぐに、


『あ? ならなんで、最初の頃は歩き方を知らなかったんだ?』


と、言った。他の人たちの記憶があるなら、俺はハムサブローの悪夢を見ずに済んだのに、という感情がひしひしと伝わる表情であった。

 しかし、フラギルの返答は簡潔なものだった。


『あれが移動方法だとは思わなかった』

『じゃあ山にでっかい穴開けた時はまさか・・・』

『・・・出力を見誤った。大体、あそこまで歩くことが難しいとは思わなかったのだ。姿勢制御がな、な?』

『はあああぁぁぁ、アッ、ヤベッアーーー!?』

 あまりの回答に気を取られてしまったペルギム。

 その背後には、ゼルを小脇に抱えたティナがいつの間にかいた。ティナはペルギムの掴みやすそうな後頭部に向かって、アイアンクローをメリメリとかます。こうなってしまってはペルギムが逃げ出せるかどうかは怪しいだろう。

 ペルギムが両手で抵抗しようと、ティナの腕のあたりでプルプルと動かすが、掴めてすらいない。


『さすがは主です!!きっと貴方様のもとにこうして立てず、消えてしまった者も貴方様のお力になれて嬉しいことでしょう!!』


 二人を捕まえたティナは満面の笑みを浮かべている。


『お、お・・・ぅ?』

『俺は嬉しくないぞー』

『ソウジャソウジャー』

『お黙りなさい!!』


 この3人にとっては、このようなことはじゃれ合いのようなものらしい。


『しかし、その感覚に慣れておられないのは事実です。主よ、探索なさるというのはいかがですか?人の少ないところで徐々に、慣れればよろしいかと』

『ワシは賛成じゃ!!』

『俺もだ』


ティナの提案に、他二人が即座に賛成する。この場で逆らってはマズイと考えているのだろうか?


『ならば、適当に回ってみるか』


 こうして名前も知らない都市の中、フラギル一行は探索を行うことを決定した。

 そして、フラギルが都市内部探索のためにコロコロと転がり始めた時、


『ティナの機嫌は直ったかの』

『俺に聞かれてもなぁ』


 フラギルの中でゼルとペルギムが二人身を寄せ合ってヒソヒソと話していた。もちろん、そんな怪しい行動をティナが見逃すはずもなかった。


『えぇ〜え、貴方たちには特・別・に!!我がメイヘナ教の教え全てを一から頭に叩き込んであげましょう!!』

『『ゼンブオボエテル〜』』


 二人の顔色が即座に青色へと塗り替えられる。


『では行きますよ!! まず1ぃ!! あなたの行いは全て、主は見ておられる!! 2ぃ!! ・・・』

『『・・・』』


 説教を受ける二人が白目を剥き、泡を吹くのがフラギルには分かった。

 そして二人はだんだんと頭を振り、ビートを刻み始めた。


『17!! 〜〜〜!! 255〜〜〜!! 371〜〜〜!!』

『『・・・』』


 フラギルは転がりながらも、ティナの話に耳を傾けていた。

 まさか1200以上もあるとは思いもせずに。


『『アッーーー!!』』


 その日の夜、町の人の噂話によると、魔蟲の長が勇者に倒され、めでたいはずの時であるのに、啜り泣くような、まさに哀れな犠牲者たちがあげる悲鳴のような声が、暗くなった道端から聞こえたという。


PV数は伸びてるけども、評価がつかぬ・・・。なので皆様、どうか星1でもいいので評価をよろしくお願いします。また、話の内容の指摘や誤字報告等々もお待ちしております。

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