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第1話 (人間の)最終決戦

(ーー不味い)


 ある日、なんの変哲へんてつもない平野で、これまた平凡な石が目を覚ました。


(ーー不味い、不味い、不味い)


 いや、普通と言うのはおかしいだろうか?石が意思を持っているのだから。


『不味い!!』


 石はその意志を持ち、灰色の外装を脱ぎ捨てて虹色に輝きながら転がっていった。


「はぁっ、はぁっ・・・」


 転がって行った先では女が髪を振り乱し、息を切らしながら逃げている。


「絶対に逃してはいけません!!」

「殺せ!!」

「分かっています!!」


 女を後ろから追うのは三人。それぞれがもやのようなものを纏い、女の危機察知能力を惑わせていた。


「穿て!」


 そのうちの一人がなにやら詠唱しながら手をかざし、白く光る光弾を前を走る女めがけて射出した。

 光弾は豪雨の如く女の周りに降り注ぐ。


「〜〜ッ!?」


 光の牢獄は土砂を跳ね上げ、激甚たる振動が辺り一帯を破壊し、その中心にいた女を吹き飛ばした。

 なおも逃げようと這う女の背中に、三人の影がさす。


「やっと追いつきました・・・」

「全く、手こずらせてくれる」

「驚くべきはその執念、ですか」


 振り返った女の目には、こちらを見下ろす三人の影が映った。 


「い、いや・・・」

「死んでください」


 一人が光刃を振り抜き女を貫かんとする。しかし、空から鋭い音をたてながら何かが落ちてきて女の前に突き立ち、それを受け止めた。

 光刃の弾ける光が、辺り一面を照らす。


「「「!?」」」


 三人は瞬時に構えをとったまま後退し、物体と周囲の警戒心を最大限引き上げる。

 その物体は女を守るようにウネウネと変形した。

 そして、変形が終わった姿を見た者達が、注視する。


「これは奴の道具なのか・・・?」

「なんと奇怪な」


 姿形としては、人間サイズの棒人間。その丸っこい頭には、虹色に輝く宝玉が三人の追跡者を睨みつけるようにギラギラと派手に光っていた。


「待て、そこの悪漢、悪女ども」


 棒人間が銀色の腕を広げ、後ろにいる女を庇うような姿勢をとる。


「なぜ、このご婦人を泣かせるのだ?」

「その者が生きていては、我ら、ひいては世界の邪魔なので」

「なるほど・・・。敵対しかないようだ」


 嵌め込まれた宝玉が妖しく光を放つ。

 それと同時に、三人の殺気もだんだんと高まっていく。

 棒人間は広げた手をクロスさせ、大きく振り払った。


「いくぞ」

「「「問答無用!!」」」


 靄が吹き荒れ、棒人間も地面を砕きながら女の視界から消える。

 女の視界には、棒人間が三人組へと向かって行く様子が映し出されていた。


(あの石に私を助ける理由なんてないのに、なぜ・・・?)


 女は三人組が棒人間と戦っている光景を、ショックでよく回っていない頭で見ていた。

 しかし、瞬間的に叩き込まれた驚きにより、目を丸くすることになった。


「生を絶たれることに対する恐怖! 絶望! いずれもすこぶる不味かった!!」


 虹色のバーゲンセール状態にまで光り輝く棒人間が、大声で叫んだ。

 三人組の手がピタリと止まる。驚愕、困惑、呆れといった感情が、靄を揺れ動かす。 


「故に、その原因を排除させてもらう!」


 この世界全体を照らすことができるのではないかと思えるほど、棒人間の頭から放たれる輝きが強くなった。

 次の瞬間、閃光ーー爆発ーーが煌めき、世界が光に呑まれた。

 光に呑まれながら、石はこう思った。

(案外コイツら強くね?)

 と。


◇ ◇ ◇


 3人の人影のようなものが見える。

 その影のうちの一人は、神に捧げるかのように、虹色に輝く石を掲げていた。

 その石の輝く様子はまるで、トチ狂ったように全ての面が発光するミラーボールのよう。

 三人組がゆっくりと崖に近づく。石を持った一人が前に出て、その黒々とした谷を覗き込む。

 次の瞬間、その石は投げ捨てられた。

 石が輝きが徐々に小さくなっていき、谷の底の暗闇に飲み込まれる。

 石の側からは、ぼんやりと残りの二人が寄り集まって来る、そんな影のようなものが見えた。

 だがそれもすぐに豆粒ほどの大きさになり、やがて見えなくなった。

 石を捨てた者に、人影のうちの一人が声をかける。


「捨てて良いのですか? 破壊した方が良かったのでは?」

「構いません」


 どちらも女の声だった。

 もう片方の人影も、石を捨てた者に声をかける。

 

「役に立ちそうだったのに? 解体とか分析はしないのか」

「良いのです。大体、コレのせいで奴の逃亡を許してしまったのですよ? 利用するなどもってのほかです」


 こちらは男の声であった。


(あんな災厄をもたらす凶器を、この世に存在させてはいけません!!)


 黒々と大きな口を開けている谷を前にして、石を捨てた女の絶叫が心の内で反響した。

 谷に捨てられ、落下している石の方はゴウゴウと音を鳴り響かせているが、いつまで経っても谷底に辿り着くことがない。

 ただ輝く光が、岸壁を撫でるだけだ。

 そして


 ーーパリン


 破砕音とともに、石は世界の壁を超えた。


◇ ◇ ◇


 妙に輝くその石は、キイィィンという音と共に光りに包まれて空から降ってきた。

 そして、地面に着弾。

 多大な衝撃波が生み出され、岩盤がめくれ飛び、大きなクレーターが形成された。


「「「「ぱぎゃああアァァァ!?」」」」


 餅のような見た目をした生物や、鱗に覆われた巨大な生物などがマグマの飛沫と共に宙を舞う。

 石が、その星で栄えていた一つの種族全体の終焉をもたらしたのだ。

 地面にめり込んだままの石は、そのまま幾億、いや、幾兆もの年月が流れてもそこに存在し続けた。

 ドロドロに赤熱した地面が存在した時代。海が凍りつき、真っ白な雪に地表が閉じ込められていた時代。そして、緑が映える温暖な時代。様々な時代が経過していった。

 その年月は、


「はぁ・・・はぁ・・・見つけたぞ、賢者の石ぃ。これで僕は、全ての錬金術師の頂点に立つんだ!!」


欲に囚われた者どもを生み出し、


「は?なんだっ、腕が吸いこまっ!!う、うわあああぁぁぁ!?」


その悉くを吸収した。

 やがてその石には人が寄り付かなくなった。

 その上には、長い年月のうちに積もりに積もった土が、丘となり、雄大な山となっていた。

 そんなある日、その山の前で世界を侵略せんとしていた魔蟲の長、そしてそれに抵抗するために俗に言う“ニンゲン種”が結成した勇者パーティーと、それに率いられた兵士達が激しく争った。

 兵士たちが掲げる旗は、この世界のラトベリア王国のもの。


「もう逃げることはできないぞ!魔蟲の長よ!皆!俺に続けェェェ!!」

 

 人類の希望を背負った勇者が、人間界では“聖剣”と呼ばれる剣を掲げて長めがけて突撃した。


「オオオォォォ!!」

「勇者様に続けー!!」


 それに鼓舞された兵士達も勇者に続く。

 一本のバラの花と、そしてその後ろに羽の生えた円盾が刺繍された華麗な旗が幾本も、はためきながら長に向かって集まっていく。

 その軍勢の頭から突出して駆ける勇者。

 超高速で地面を蹴り、長に向かって聖剣を振るう。

 煌めく聖剣は毛が生えた分厚い緑色の肉を、幾条にもザックリと切り裂いた。

 長の肉体から透明な液体が噴出する。


「ピギュゥゥ!!ピッ!ピギィィィィ!!」


 長の苦しげな鳴き声が、大気を揺らす。

 自分の周りに置いていた部下達は全員、勇者軍に駆逐されてしまった。

 それは長が眠っている間の出来事であった。


「ピガァーーー!!」


 そのことに対する自らの不甲斐なさを悔やんでいるのか、同胞達を駆除された怒りか、長は己の体を大きく揺らし、勇者へ体当たりをぶちかます。



 勇者は迫ってくる長の大きな体を、聖剣を構えて受け止めようとする。

 が、


「ぐぁ!!」


 いくら勇者の身体性能といえど、耐えきれなかった。

 長の体を受け止めはしたが、踏ん張りきれず、勇者は、巻き上げた土塊と共に吹き飛ばされる。

 その長の見た目は、少し、いや大層体色が禍々しいが、傷ついた肉体を緩慢にブルンブルンと揺らす芋虫である。しかし、体長はまるで小山の如く、されど、動きは俊敏。

 今も・・・


「はぇ?」


 決戦の前夜に、故郷に帰ったら以前から気になっていたあの娘に告白する、と宣言していた一人の兵士が戦友の目の前で、勇者に攻撃されながらも、うなぎの如き柔軟性を発揮して体を捻り、亜音速でドゥ!!と地面を砕きながらスッ飛んできた長に、頭から捕食される。

 当然、それを目の当たりにした兵士たちは・・・


「ヒッ・・・ヒィ!ヒィィィィィ!」


「ウワァァァァ!?」


「ゆ、勇者様が攻撃しているのになんで動けるんだぁぁぁ!?」


 恐慌状態に陥る。そして、兵士全員が長に恐れをなしたように後ずさる。

 中には失神し、倒れ込み、他の兵士に蹴られている者さえいた。

 ガチャガチャと金属がぶつかりあう音と共に、長の周りに、ぽっかりと綺麗な穴が空く。

 長へと向けられた多くの剣身が、日の光を反射し、キラキラと光を散らす。

 そんな兵士達の心情など知ったことでは無い、という様に長は頭をもたげながら、体を左右に激しく振って肉を咀嚼した。


「ピュギァァァ!!」


 血肉を口からボタボタとこぼしながら発したその雄叫びからは、勇者達にこれから討伐されようとしていた虫ではなく、むしろ貴様らを誘き出し、罠にかけたのだよと言わんばかりの、捕食者としての、王としての風格が宿っていた。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

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