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恋の色  作者: メダカのユウ
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第5話

「よく考えたんだが」


「なーに?」


 キョトンと小首を傾げ頭の上にはてなを浮かべる谷口さんに今最も気にすべき事を伝える。


「先生にここの鍵を開けてもらってそしてこの状況を見られた場合どう思われると思う?」


「あー………それは不味いね」


 前にも言ったが、密室に男女2人は確実に誤解される。そしてその誤解を解くのは難しい。

 そして何よりこの組み合わせだ。

 俺はともかく人気者の彼女が男と密室に居たとなれば噂になってしまうのは必然だ。

 先生が誰にも言わなければ回避できるが、完全に人の口を封じるのは難しい。


「その通り、だからお前が……ごめん。谷口さんが先に出て、俺が先生が居なくなってから出るよ」


「了解です!それと……」


 ピシッと敬礼してニコニコ笑う。

 するとなぜか顔を急にムッとさせた。

 本当に表情が豊かな人だ。


「谷口さんじゃなくて結菜って呼んでいいんだよ?」


「それは無理。まだ慣れてない」


「慣れるために言うのもありだと思うなぁ」


「……善処する」


「善処してください」


 ムッとした表情から今度は母親のような慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。

 コロコロ変わる彼女の表情がさっき自分で言った好きじゃないの言葉を揺らがせる。

 はっきり言って彼女の容姿は世間一般のアイドルに匹敵するレベルにはある。

 だからこそ、ただでさえ女子と今まであまり接点を持ったことがない俺には少し刺激が強い。


「さて、そろそろ六時だ。先生に今度から中に誰もいないか確認してから鍵を閉めるように言っておくとしよう」


「それがいいね。でさ、どっちが先に出る?」


 学ランを返しながら彼女は問う。


「谷口さんから出ていいよ」


 その学ランを受け取って袖を通しながら答える。


「いやいや、ここは図書委員会である夏葵くんが先に」


「いいって。あと、その理論はカタストロフだ。しかもこうなった原因は俺だし」


 それから先に出るのをどっちにするかの口論が始まった。

 いや、口論というか譲り合いだなこれ。

 結局話し合った結果、谷口さんが出ることになった。先に出て先生を書庫から引き剥がしてくれるんだそうだ。


「じゃあ俺は3階で隠れてるから。よろしく頼んだぞ」


「任された!」


 まず谷口さんが扉に耳を当て先生が入ってくるのを見計らう。

 そして大声で扉を叩いて先生に存在を知らせる。

 それでは谷口さんが先に出て俺が後で出ると言った作戦だ。

 しばらく待っていると図書室の扉が開く音がした。

 書庫は基本的に音が外から聞こえる事はない。だが、この学校の図書室の扉は取り付けが悪くなっているので書庫の中でも扉を開く音を聞くことができる。


「先生!開けてください!閉じ込められちゃったんです!」


 俺には聞こえなかったが、彼女には扉の開く音が聞こえたらしい。先生に居場所を教えるためにドアを叩いた。

 すると鍵が開き、扉から先生がひょっこり顔を出した。


「先生!ありがとうございます!」


「どうしたの?こんな所で……。あ!もしかして閉じ込めちゃってた!?」


 しばらく隠れて佐々木先生と谷口さんの会話を聞いているとどんどん声が遠ざかっていった。

 好機だ。階段を降り、書庫からそっと図書室を見渡す。

 見る限りでは先生も谷口さんも居ない。

 このまま見つからずカウンターに座れればゲームセット。完全勝利だ。

 急いで書庫から出てカウンターに入る。

 特に何事もなく座ることができた。


「ふぅ……疲れた」


「お疲れ様。大変だったね」


「全くだ」


 先生と別れた谷口さんがカウンターの前に立っていた。


「約束。忘れないでね」


「ああ。お前を好きな奴と付き合えるようにアドバイスとかすればいいんだろ?忘れないよ」


「そうそう。よろしくね夏葵くん」


 すっと小指を差し出してくる。彼女の細くて華奢な小指に自分の小指を絡ませる。


「よろしく、谷口さん」





 それから、近くの席で本を読んでいた谷口さんは本をカバンに入れ帰っていった。

 俺もカバンを取り、帰る準備をする。


「藤崎くん」


「何ですか?佐々木先生」


 図書室から出ようとすると声をかけられた。振り返るとこの図書室の管理者である先生。佐々木先生が居た。

 

「もう帰るの?」


「はい。先生もですか?」


 先生は完全に帰ろうとしている服装だった。

 明るい茶色に染めた髪を腰辺りまで伸ばし、顔の大きさに似合わない大きなメガネをかけた落ち着いた雰囲気のある先生だ。

 だが…実際のところ。


「うん。今日は女子生徒が書庫の中に入ってるの知らずに鍵かけて会議に行っちゃってて大変だったよ……。これ教育委員会とかに報告されないかな……?」


 こんな風に少しドジなところがあってか男子生徒に大変人気である。

 俺にはドジの良さはわからないが。

 ドジなの一つの個性だと思う。しかし、それをかわいいとは思えない。


「大丈夫ですよ。でも、今度から気をつけてくださいね。それに谷口さんも何とも言ってなかったんですよね?」


「そうだけど………?何で谷口さんって知ってるの?」


「あっ。いや、さっき少し話してて…」


「そっか。そしてこのことはくれぐれも内密にお願いね?」


「わかりました」


 先生とも別れて帰路に着く。

 本当ならなんてことない1日のはずだったが、彼女、谷口さんのせいでやたら疲れる1日となった。

 でも何故だか嫌な出来事だったという感触は一切なかった。

 図書室から出て靴箱へ向かう。

 夕陽の差し込む靴箱に到着すると靴を取り出し履く。

 

「………何か忘れているような」


 ポカンと宙を見つめ、考える。だめだ、思い出せない。

 後もう少しのところで出てこない。


「おせーじゃねーか馬鹿野郎!どんだけ待ってたと思ってんだ!」


 急に背後から平手が飛んできて俺の後頭部に直撃した。

 しまった。谷口さんとのことがあってコイツのことをすかり忘れていた。

 叩かれた場所を押さえながら振り向くと完全に怒っている灯真が仁王立ちしていた。

 

「……すまん。許してくれ」

 

「ポカリ」


「ハイハイ」


 自販機でジュースを奢れば許して貰えるらしい。

 安上がりな男だと思いつつ自販機に向かう。財布から小銭を取り出し、自販機に入れてポカリを選ぶ。

 暗くなって光に集まった蛾が集まった自販機の取り出し口から冷えたポカリを手に取り灯真に渡す。


「サンキュー」


 礼を言い、彼はポカリをペットボトル一本分全部飲み切った。

 まさか一本全部飲みきるとは。

 苦笑しながら自分の分の飲み物を買おうとする。


「やっぱポカリは青春の味だな!」


「なんじゃそりゃ」


 ふと自動販売機のボタンに伸びる手が止まった。

 青春の味は甘酸っぱい。灯真も言った通りだ。

 でも……。じゃあ例えば、俺の青春は何味だろうか。皆はキラキラとした高校生生活を楽しんでいる。間違いなく世間一般の言う青春の味だ。

 俺は……。


「おい、水でよかったのか?」


「あぁ……。俺は水だから」


「お前は水じゃないだろ?」


 ゴクリと一口飲む。何も味がしない。ただ、喉を突き刺すような冷たさだけがあった。

 俺の青春の味は無味。何も味がしないただ流れていくだけの青春だ。

 しかし、この時俺は無味というのはどういう味なのかよく考えてなかった。

 無味とは、何か混じり合えば簡単に変わる味なのだということを。

 


皆さんの青春の味はなんですか?私はコーヒー味ですかね(カフェイン中毒)

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