戦闘妖精-迦陵頻伽 (せんとうようせい-かりょうびんが)
黒森 冬炎さま主催「劇伴企画」参加作品。
攻殻機動隊 STANDO ALONE CONPLEX O.S.T.2
gabriela rabin サンダーバード
と共に。
2060年。戦争は姿を変えた。
まるで、一方的な殺戮の戦国時代に戻ったようだった。
2030年までは、ライフルでの打ち合いでは先端が尖っていてステンレスの弾を使うことにより銃弾は貫通され、生きている怪我人を数人が安全な場所に移動させるために、一発に付き2人~4人の戦闘不能者を出してきてはいたのだ。
死者を出すのではなく、戦闘不能者を出すことが目的だった。
しかし、別の日になれば前回の戦闘不能者も戦場に戻り、利き腕を負傷したものなどは、腹に爆弾を付けてはカミカゼ自爆をやる始末である。
長期の戦争は男性だけでなく女性も加わり、一気に人口が減少し、兵役を済ませ戻れた人たちも、その後の精神的なストレスを感じPTSDによる事件や自殺が後を絶たなかった。
そんな時代に、「戦闘妖精」と名付けられたロボットが戦場に出てきた。
最初は一種類だけだったが、戦闘での使い分けで二種類の戦闘ロボットが開発された。
球体関節人形を模した身体は強化セラミックスで出来ている。
先鋒型は、「ハミングバード」と呼ばれ、爪先立っているかのような小さな足先で時速100キロで走り抜ける。2時間最高速度で走り切り、そのまま30分間の戦闘に入ることが出来た。
150センチと小柄ではあるが、肘から先を人の腕の形状から細い剣となり、突き、人の腕くらいなら切り落とすことが出来た。襲撃する部隊を混乱させるのが目的。
後発の「ハーピー」は170センチで肘から先は青龍刀のような大きな両刃の刀が付けられていた。翼のようだったので、その名が付けられた。
走るスピードはハミングバードに遅れ時速60キロ。しかし、その速度で4時間走り抜け、それから戦闘に入り1時間の戦闘活動が可能。
役目は、先方のハミングバードが混乱させた敵の部隊を殲滅することだ。
大きな刃物で、首と言わず胴までも真っ二つに切断する。
二体とも50口径やライフルくらいは跳ね返すが、ガトリングガンや大砲では破壊される。戦闘妖精の判断で自爆をすることも出来た。
戦闘は、敵部隊の50キロ~100キロ先の間に6体から10体の戦闘妖精を突入させ、部隊だけでなく周辺住民も皆殺しにして終わった。
敵対する人種には子供や女による周囲を巻き添えにした自爆もあったので、年齢性別の攻撃排除命令は登録されなかった。
民間人も被害に遭ったために、戦闘妖精を「死の天使」とも呼ばれることもあったが、近くの民間人も敵部隊の後方支援をしている事が多々あったので、武器は持っていなくても戦闘員とみなされていた。
戦争は、戦闘妖精を所有しているか否かで勝敗が決まった。
戦闘妖精の耐久年数はメンテンナンスをしながらの5年間だった。
5年を過ぎた戦闘妖精は、命令以外の殺戮や戦闘放棄などの問題行動が起きた。
それを戦場カメラマンに撮影されてから、戦闘妖精の使用が問題視されるようになった。
それは、わずか数秒の間の出来事だった。
3枚の写真に、開発者も言葉を失った。
1枚目。迫り来るミサイルに逃げもせずに、ハミングバードがちょうど弾の当たる場所らしき胸の上で人型の腕をクロスさせ、そのすぐ後ろではハーピーが屈みこんでいた。
まるでハーピーをハミングバードが守っているような姿だった。
ハーピーはつま先立ちで蹲り、幅の広い両手の剣を横に地面に突き立てて顔を隠していた。
2枚目。空爆の爆弾が当たったその後の写真に世界が驚愕をした。
バラバラになったハミングバードに穴の開いた身体のハーピー。
その足元には、敵対する部族の赤ん坊の姿があった。
赤ん坊は、戦闘妖精のセラミックスの破片で表皮に傷を負っていたが、直ぐ80センチ先で着弾したとは思えないほど軽傷だった。
3枚目。胸と腿に穴が開いたハーピーは、120メートル先の自分にカメラを向けているカメラマンに気付き、赤ん坊を両の手の幅広の剣に乗せ、彼に差し出し機能を停止した。
世界会議で議題があがった。
「戦闘妖精には心があるのか?」
製作会社は心という模糊曖昧なるものを作る技術は存在しないとした。
しかし、脳科学者が言った。
「脳内の微細な電気信号が思考となり、それが心と呼ばれるものでしょう。機械の身体で微弱な電気により機能している戦闘妖精こそ、心を生じてもおかしくはないのでしょうか」
「ヒューマニズムにロマンを乗せるな」
と反対する言葉もあったが、胸はないが長く細い手足で走る姿や、丸みを帯びた人の、どちらかというと少女に近い姿に対する攻撃の忌の念もあった。
結果、戦争で戦闘妖精を使わない。
加えて、著しい人口の減少もあり、戦争での火薬、化学兵器の使用も禁止された。
戦争を考える者は、「開戦宣言」の後、時の首相か大統領、宗教的指導者、政治的要員など各国30名ずつ兵士として参加をして、その場で手製の投石器を作り石を投げ合い、時に接近戦では殴り合った。
投石器で死人も出たが、今までのような人口減少や男性が少なくなり寡婦が増えることもなくなった。
そして、戦争の後遺症で心を病むPTSD患者も戦争理由はなくなった。
戦争は、プライドを掛けた個人の戦いになり、それすらも馬鹿らしくなり世界から無くなった。
戦争を終わらせた戦闘妖精は、天女と共に天界を舞う「迦陵頻伽」と呼ばれるようになった。
言葉を発する機能を持ち得なかった戦闘妖精が、天界の美しい歌声の鳥に例えられたのは奇妙な事ではあるが、声なき声の写真という媒体が、戦闘妖精たちの哀しみを深く表現したのは確かである。
その後、戦闘妖精だけでなく、武器、ミサイルの開発も製作も打ち切られて、人は「哲学の時代」と呼ばれる戦争のない時代へと突入していく。
戦闘妖精は、戦争博物館でしか見ることは出来なくなった。
その戦争博物館の館長をしているのは、昔、二体の戦闘妖精に守られた赤ん坊だったと噂で聞く。
戦争のない「哲学の時代」は人の2世代ほどで終わりをつげ、再び世界はどこかで戦争をするようになった。
その時代には、人の目を覚まさせえる迦陵頻伽は存在しない。