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最後の藁

作者: 大西

 勇者は思います。もう駄目だ、魔王はあまりにも強すぎる、おれには無理だ。

 彼は額から血をながし、利き腕が折れ、膝小僧を砕かれ、腹から血を流し、ついでに、どうやらふくらはぎを裂かれたようです。盾は砕かれ、剣は折れ、短剣は手元が狂って狙いを大きく逸れ、いまは手の届かないところにあります。勇者の心は盾と一緒に砕かれたらしく、もはや戦う意思を見せません。大地に転がって、ただ死を待ちます。

 魔王の黒い影が勇者を覆います、おまえの負けだ、魔王の眼がそう言っています。勇者が抗うことを止めたのを見て、魔王の顔に満足げな笑みが広がりました。

 最期くらいは、せめて堂々と死にたい、勇者は思います。きっとおれは誰にも見つけてもらえない。一人で悲しく逝くのだろう。魔王に痛めつけられる惨めな死は嫌だ。自分で尊厳ある死を選んだほうがましだ。そろそろと地に手を這わせ、折れた刃の欠片を手探りします。と、何か堅いものが手に触れます。彼はそれを掴み、目の前にかざして――。

 はん。

 魔王が鼻で笑った。

 はん。

 勇者も、鼻で笑った。諦めきった笑みを浮かべて。彼が掴んだのは、一本の藁。

 藁だ。藁! 藁で何ができる? こいつは傑作だ。藁だって! 

 それは確かに藁でした。とても元気な藁でした。しゃんとした一本の藁。もちろん、魔王が勇者の意図に気付き魔法で変えたのです。

 勇者は藁を握り締めます。溺れる者は藁をも掴む――最後の藁(ファイナルストロー)、ってか。魔王にもユーモアセンスがあるとは知らなかった。さて、藁を手に入れた今。おれはどうするべきだろう。もちろん、藁をしっかりと掴むべきだ。

 この一撃、最後の一撃。

 勇者は最後の力を振り絞って身体を起こし、藁を魔王の目に突き立てます。

 魔王は悲鳴をあげます。悲鳴を上げて、後によろめき、悲鳴はやがて狼狽の声に変わります。

 貴様、おれの弱点をどうして知っている。

 こうして魔王は滅び、勇者は助かったのでした。

 最後には、いつだってどうにかなるのです。



溺れる者は藁をもすがる――といいますが、英語で

final(最後の)straw(藁)とは「最後の一撃」を意味します。言葉っておもしろいです。神秘的です。


と、主題は言葉遊びなのですが、教訓的、精神的なものでもあります。わたし自身は教訓染みたものは嫌いなのですが……。

なにか感じていただければ幸いです。評価・コメントお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 展開が面白い。 [気になる点] 一体どういう展開が!とか書いたらいいのに… まぁこっちの方が想像出来るけど。 [一言] うん。面白かった。
[一言] 駄洒落かよ。駄洒落なら、駄洒落らしくつくってくれ。そうしたら、笑えたかもしれない。このままでは、下手くそファンタジーだ。
[一言] ファイナルストローが最後の一撃ですか。英語は不得意なのでさすがに知りませんでした。この作品がもし英語で書かれていたら、もっと意味の通りやすいものになっていたのでしょうね。 まぁ、その時は一文…
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