第三章【第9区―ナイン―】⑯
ジェットは圭介にそう促した後、首もとのチョーカーを握り締めると空中を見つめた。チョーカーから粒子が溢れ出し、野球ボール大の球体が2つ形成された。
「なんと、ポッドも使用出来るのですか? 素晴らしい……久しぶりに高揚感に満たされそうですよ」
鉛色をした2つの球体は宙に浮き上がり、ジェットの頭上に浮遊する。それを嬉しそうに見つめる桐谷は、不気味な笑顔を浮かべた。「おや? そのポッド、2世代前の第3区製ボールポッドじゃないですか。保安官には常に最新型が配給されるのに、何故そんな骨董品を?」
「俺はエンスーなんでね。コイツが気にいってるのさ」
「そうですか。モノに愛着を持つ事は良い事です。私も兵器にはこだわりがありましてね、この万能型駆逐ポッド、ジェノサイドは軍事用を第3区の闇職人に依頼してカスタムを施してあるのですよ。最大出力で撃てば、小さな隕石程度なら消滅させられる破壊力があります」
「随分と兵器マニアなんだな。確か軍事用兵器の改良は規定で禁じられてるんじゃなかったか?」
「フフフ……お喋りはこの辺にしておいて、そろそろ始めましょう」
桐谷が6つのポッドを空中で散開させ戦闘体制に入ると、ジェットも4つのポッドを頭上に2機配置させた。
「圭やん何ボ~っとしてんだよ! コイツはカラーズナインのアーミーだ。戦闘が始まったら圭やん達を庇いながら戦えない。早く逃げろ!」
ジェットが圭介と真白にそう叫ぶと、続けて凛々しく頼りがいのある聞き慣れた声が響いた――
「その必要は無い」
背後からの声に、圭介は振り向いた。
「さ、咲夜!」
「すまない、待たせたな。別のアナザーポイントの中に居たので、意識信号を辿るのに手間取った」
状況を把握する為、周囲を見渡した咲夜は、圭介に寄りかったまま意識を失っている真白の姿を見て、眉間にシワを寄せた。
「……かなりのダメージを受けたみたいだな。さっさと事態を収束させて花蓮のヒーリングを受けさせなければならない」
「咲夜さん遅かったな!」
「ん?」
ジェットと目が合った咲夜の頭の中に声が響いた。
――今から俺の圧縮情報を送る。咲夜さんも送ってくれるか?
――お前……カラーズ人だったのか。いいだろう、送信する。
ジェットと咲夜は意識を通してお互いの情報を交換した。
「なるほど……理解した。ジェット、奴がカラーズナインのアーミーだとしても7区の私と8区のお前が共同戦線を組めば、殲滅は可能だ」
咲夜とジェットの会話を聞いた桐谷は、何かを察した表情で、腕組みをしながら言葉を紡ぎ出す。
「ふむ、意識共有による圧縮情報交換ですか……。あなた方は相当な高スペックのサイキッカーとお見受けします。特にそちらのカラーズセブンは、アナザーポイントに滞在しているにもかかわらず、外部から発した従者の意識信号をキャッチ出来る程の思念能力を持っている……。ともすれば、私単独でこの戦闘を行うとなると、敗北は喫しないとしてもある程度のダメージは覚悟しなければならないですね……」
「どうした? 怖じ気づいたのかい? 咲夜さんはカラーズセブン最高保安部隊の部隊長だからな。ナメてかかるとテメー、核化するぜ」
「なんと……それは尚更分が悪い。今回はこの辺りで離脱させていただきます」
「ほぉ、随分と決断が早いな。カラーズナインのアーミーとして下位区域の者に背を向けるなどとはプライドの微塵も感じられないな」
「プライド? フフフ……そんな犬も食わぬ様なくだらぬ感情に流されていてはアーミーは務まりませんよ。圧倒的で確実な勝利を手にしてこそ強者なのです。特に地球で、大ダメージを受ける事は致命的ですからね……」
桐谷はそこで言葉を切ると、冷淡な視線を真白に投げかけた。「そこで気を失っている方の様に」
真白を例えに出した桐谷の言葉に、咲夜の眼孔が殺気が帯びた。
「尻尾を巻いて逃げる前に保安官として通告しておこう。貴様は数々の他ブレーン協定違反を犯した。よって、貴様を必ず拘束する」
「フフフ……そんなそんな協定、私には適応されませんよ。いや……我々カラーズナインには、と言った方が正しいでしょうか」
「どう言う意味だ」
「私もあなた方に通告しておきましょう。我々軍属の拠点、区画惑星第9区は近日中に区画惑星ではなくなる……つまり独立宣言を行うのですよ」
「なん……だと……」
「現在我々は独立に向けて水面下でクーデターを展開中なのです。我々に課せられた任務は、各ブレーンの生命居住区域に派遣されている全てのカラーズ人を排除する事なのですよ。では、また近い内にお会いしましょう。あなた方を完膚なきまでに叩き潰す戦力を揃えておきますので、どうぞお楽しみに」
桐谷がそう告げた瞬間、6機のポッドが一斉にレーザー光線を縦横無尽に照射した。
「――!」
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