第三章【第9区―ナイン―】⑮
「ごめんね、けーすけ。怖い思いさせて……」
「お……お前、そんな身体で何やってんだよ……」
「けーすけは真白が守る。けーすけは絶対に傷つかせない」
「これはこれは、驚きですね。動けるのであれば、その従者が盾となっている間に逃走を図れたかもしれないのに……。私には理解し難い行動です」
「けーすけは従者なんかじゃない! けーすけは真白の一番大切な人だもん!」
真白は両膝を打ち抜かれ、未だ粒子の噴出が止まらないにも関わらず、圭介の盾となる。
「真白……何でお前、ここまでして俺を……」
「なんでって……けーすけが大好きだからだよ。真白はね、けーすけが大好きなんだよ♪」
振り返る真白の顔に浮かぶ、澱みの無い純白な微笑み――それを見た瞬間、圭介の瞳から涙が零れ落ちた。
「アハハハハ! 地球人に恋するカラーズ人ですか! いやはや、中々レアなモノを見せていただきましたよ。では愛の告白も済ませた事ですし、もう思い残す事はありませんね」
桐谷が嘲笑う最中、圭介は願った――
今まで幾度となく願い、それでも決して願いを叶えてはくれなかったモノに対して、強く、強く願った。
神様……一度だけでいい…………助けてくれ!
「せめてもの慈悲を込めて、二人同時に葬ってあげましょう」
桐谷の言葉と共に、射出されたレーザー光線――――それが圭介の目に焼き付く最後の光景となる……そのはずだった。
「――!?」
射出されたレーザー光線は、どういう訳か圭介達の頭上を通過した。そしてその直後、ズンッ! という地響きが唖然とする圭介の鼓膜を揺らした。
「な、何だ……?」
振り向くと、そこには先程までは無かった、巨大な清涼飲料水の自動販売機が横たわっていた。しかもその中心部分には打ち抜かれたと見られる大きな穴が空いている。それは自動販売機が、先程放たれたレーザー光線によって打ち抜かれたという事実を物語っていた。状況から推測すると、この自動販売機はどこからか飛んで来たという事になる。
状況を理解しかけた圭介の目に、新たな驚愕が飛びこんできた。
「……え? ええっ!?」
自動販売機が再び飛んでくる――
圭介は生まれて初めて見る衝撃的な光景に度肝を抜かれた。自動販売機は圭介達の横を勢い良く通過し、桐谷に向かっていく。
「ほぉ……」
自分目掛けて飛んでくるのを察知していた様子の桐谷は、浮遊する6つの物体からレーザー光線を連続照射させると、自動販売機を一瞬にして粉々に砕いた。
「この能力はサイキッカーですね。どなたですか?」
桐谷の言葉を聞いた瞬間、圭介の頭の中にある人物が浮かび上がった――
「まさか……」
こんな芸当が出来る人物は、自分が知る限り一人しか思い浮かばない。粉塵が立ち込める中、自動販売機が飛んできた方向へ目を凝らす。
「――!?」
こちらへ向かって歩いてくる人物が一人見えた。粉塵を抜けてその姿が露わになった瞬間、圭介は自身の目を疑った。
「大丈夫かぁ~。圭やん」
目の前に姿を現したのは、親友のジェットこと月島潤だった。
咲夜が現れるとばかり思っていた圭介は、あまりの驚きに声を上げた。
「ジェ……ジェット!?」
「いや~、学校帰りにラーメン食ってから寮に戻ろうと思ったら、なんか圭やんがピンチっぽい『意識信号』出したからさぁ、すっ飛んで来たんだよ」
「意識信号……? すっ飛んでって……海成学園からここまでどれだけ距離があると……いや、そんな事よりも何でジェットがアナザーポイントの中に!?」
「ん~。まぁ、その話は後にしてさ、とりあえずカワイイ真白ちゃんをそんな無惨な姿にした、そこのインテリ野郎ボコっちゃうわ」
ジェットは桐谷に対して鋭い視線を突き刺す。
「ふむ……意識共有による索敵と、次空間移動を使用出来るとは、かなり上位レベルのサイキッカーとお見受けします。所属区域はどちらですか?」
「第8区特殊単独保安官、地球名は月島潤だ」
「カラーズエイトの特保ですか……。これはこれは、ようやく歯ごたえのありそうな相手に出会えましたね。私は元第9区アーミー、地球名は桐谷忍と申します」
「ナインだと? 軍事区域のアーミーが地球で一体何してやがる……。最近めっきりカラーズ人に会えねぇと思ってたら、こういう事だったのか」
火花を散らしながら睨み合う二人の会話を聞いた圭介は、パニック状態に陥りかけた。
「第8区の保安官……ジェットが? え!? は!?」
「誰……けーすけの……お友達……?」
真白はそう問いかけると同時に、力無く前のめりに倒れかけた。圭介はあわてて真白を抱き止めて、
「お、おい! 真白! 大丈夫か!」
「粒子の噴出量がヤバいな……圭やん、ここは俺に任せろ。真白ちゃんを連れて早くこのポイントから出るんだ」
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