第三章【第9区―ナイン―】⑩
気まぐれな梅雨空が雲のカーテンを開き、爽やかな朝日が降り注ぐ午前7時。学園生活にもすっかり馴染んだ真白は、寝ぼけ眼の圭介と共に恒例の餌捲きをする為、鳩神社の石段を登っていた。
「けーすけー、はやく~。鳩さん達がお腹空かせて待ってるよ~」
「ハァ……ハァ……。もうちょっとゆっくり階段登ってくれよ……」
真白は制服のスカートをひるがえし、元気ハツラツに石段を駆け上がっていく。一方の圭介はというと、うっすらと目の下に隈を搭載し、急勾配の石段と悪戦苦闘の真っ只中だ。
「けーすけ~」
「わかった、わかったから少し待ってくれ……。つか、お前普段は朝弱いくせに今日はやたらと元気だな……」
圭介は悲鳴を上げる足にムチを打って石段を登る。「ハァ……着いた」
ようやく石段を登りきってリュックから餌を取り出した瞬間、神社の境内に群がっていた鳩達が一斉に圭介の元へ飛来し始める。
いつもの光景――
いつもの緩やかな一時――
今日も平穏な1日が始まる――
そのはずだった。
放課後――
圭介は睡魔に襲われながらも、何とか授業を乗り切った。体全体に疲れはあるものの、決して嫌な疲労感ではなかった。
寝不足の理由は一週間前、咲夜に依頼された『あるイラスト』を仕上げる為だった。
ほぼ毎日徹夜状態で疲労困憊だが、才能を開花させ、おまけに描いた絵が立体化する異能まで身につけた圭介は、待ち望んでいた『リア充』の到来を心の底から喜んでいた。
「けーすけ、眠たそうだけど大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だよ。後少しで完成だからな。あれ? 咲夜達は一緒に帰らないのか?」
「うん、姫と花蓮はご飯の買い出しで、咲夜はアナザーポイントの調査だって~」
「そっか……。あ、絵の具がもう無くなりそうだったんだ。真白、ちょっと寄り道してもいいか?」
「うん! グミ買ってくれる?」
「はいはい……でも一袋だけだぞ」
圭介と真白は行きつけの画材店が入っている総合百貨店へ向かう途中、コンビニでグミを購入(結局3袋)した。満面の笑みを浮かべながらグミを貪り食う真白を見て、圭介は内心ホッとした。
良かった……この間の一件から立ち直ったみたいだな……。
「へぃすけ、おいふぃ~」
「はいはい、食べながら喋るとグミを喉につまらすぞ」
二袋のグミ(徳用サイズ)を完食し、3袋目に突入した真白は、総合百貨店まで後少しの場所で急に立ち止まった。「どうした真白?」
「……ダメ」
「は?」
「ダメだよ……」
「何がダメなんだ?」
圭介は下を向いて呟く真白の顔を覗き込む。先程までの笑顔は完全に消え去り、緊迫感のある表情に変化していた。
「ま……真白、どうしたんだよ!?」
圭介の呼びかけに応じない真白は、グミの袋を落とし身体を震わせる。
「助けなきゃ……。もう……いやだよ……」
真白はそう呟いた後、猛然と走り出した――
「真白!」
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