第三章【第9区―ナイン―】⑧
リングから溢れ出る赤色の光の粒子に驚いた圭介は、とっさに左手を絵から引き離そうとするが、何故か左手が絵から離れない。
「あれ!? 手がくっついて離れない……。どうなってるんだよ!?」
溢れ出た光の粒子は、やがてキャンバス全体を覆い始め、同時に何かを掴む感触が左手に伝わった。意を決した圭介は力を思い切り込め、左手を絵から引き剥がした。
……え?
その瞬間、光の粒子は何事もなかったかのように消え失せた。
「…………嘘だろ」
圭介は信じられない異変を目の当たりにし絶句した。
描いたはずの絵が無い――先程描いたはずのリンゴの絵がキャンバスから消え、まっさらな白い紙に戻っている。驚愕の光景に立ちすくむ圭介だったが、その光景をも凌駕する異物が左手に握られているのに気付いた。
「う……うわぁああ!」
それはリンゴだった。圭介はパニック状態に陥りかけるも、何とか心を落ち着かせ、左手に握りしめている赤い果実をあらゆる角度から見定めた。
「……リンゴ……だよな」
それは紛れもなくリンゴだった――だが、違和感は拭いきれない。ゴクリと生唾を飲み込むと、恐る恐るテーブルへ視線を移した。そこには先程モチーフにした瑞々しいリンゴが置かれている。
「へ……?」
持ってきたリンゴは確かに一個のはずだった。間違いなく一個だ。では握っているリンゴは一体どこから出てきたのか? まさか……と、信じられない事実を受け入れようとしたその時、アトリエの扉がバン! と勢い良く開いた。
「今の絶叫は何だ!?」
圭介の叫び声を聞きつけた咲夜達が入ってきた。
「こ……これ」
「そのリンゴがどうかしたのか?」
「いや、さっきリンゴの絵を描いたんだけど、絵を触ったら手首のリングからなんか光が溢れ出てきて……その、描いたはずの絵が無くなってて……それで……」
上手く説明が出来ない圭介だったが、咲夜はアトリエで起きた異変を瞬時に理解した。
「ふむ……それは二次元具現化能力『リアルアート』だ。カラーズの画家が用いる画法で、能力を使用すると平面の絵を立体に具現化する事が出来るんだ」
「具現……て。じゃあ、このリンゴはさっき俺が描いた絵なのか?」
「その通りだ。試しにそのリンゴを食べてみろ」
「え!? 食えるのかコレ?」
「味は定かでは無いがな」
「真白食べたい!」
「え!? お、おぉ……」
真白は圭介からリンゴを手渡されると、ガブリと丸かじりした。
「ショム……ショム……ゴクン……。おいしー♪」
「ほ、本当に?」
「うん! とっても甘くておいしいよ!」
笑顔でリンゴを頬張る真白を見て、圭介は具現化したリンゴの味に興味を抱いた。
「俺も食べてみていいか?」
「うん!」
圭介は恐る恐る一口かじってみる。
「……ぶほっ! な、何だコレ!? マズッ!」
リンゴが持つ瑞々さなどまるで無く、砂を噛み締めた様な不愉快な歯ごたえと、油臭さが口いっぱいに広がった。
「おいおい、食えたモンじゃないぞコレ……。真白、本当に旨かったのか!?」
「うん!」
「ほぉ……。圭介、私にもそのリンゴを一口くれないか?」
「いや、いいけど……」
圭介からリンゴを受け取った咲夜は、躊躇なく一口かじりついた。
「……ふむ。なるほど。圭介、このリンゴを紙に近づけてみろ」
「え? あ……あぁ」
コメント出来ない程不味かったんだな……。
咲夜の指示通り、リンゴをキャンバスへ近づけると、リンゴは再び粒子化し、解れた粒子はキャンバスの表面に張り付き、元の絵に戻った。
「うわ! かじった部分が絵になってる。ホントに俺が描いた絵だったんだ……。でも何で地球人の俺がこんな能力を?」
「おそらく、そのリングを構成するC粒子と圭介が持つ遺伝子が科学反応を起こしたのだろう。他ブレーンの知的生命体がカラーズ人の能力を発動させるのは非常にレアなパターンだがな」
「俺の身体に異変が起きたって事か? なんか怖いな……」
「心配無い。C粒子との科学反応を起こした場合、マッチングが失敗していたらお前は絶命しているからな」
「絶命って……。そんな危険性があるなら最初に説明してくれないと……」
「……結果オーライだ。問題ない」
コイツ絶対に説明忘れてたな……。
圭介は青ざめながら左手首にはめられたリングを見た。
「ブレーンワールド」の更新ペースは、新作執筆中のため今のところ分かりません。随時チェックしていただければ幸いです。
ご意見、ご感想など遠慮なくお願いします。ブックマークや評価などしてもらえると喜びます。
ツイッター、新アカウントを立ち上げました。
https://twitter.com/millcity1986




