第三章【第9区―ナイン―】①
昨晩描いた真白のデッサンがきっかけとなり、創作意欲に火がついた圭介は、再び本格的に作品を描く事を決意した。
都内某所百貨店――目を輝かせながら、じっくりと画材を吟味する。
「えっと……絵の具はこれぐらいでいいかな。後は……」
一時間程かけて画材を買い集めた圭介は、画材売り場を改めて見渡し、「久々に来たけど、絵の具の種類が増えてる……真白達を連れてこなくて正解だったな」
今まで表情の一部に陰が差し込んでいた圭介だったが、自信を得た事により表情に明るさが宿っていた。
「買いすぎちゃったかな……。でも無駄なモノに使うよりはいいよな」
『早く絵を描きたい』
そんな衝動に駆られ、圭介は足早に百貨店を後にし、自宅に向かって歩を進めた。
自宅近くに差し掛かったところで、圭介の耳に聞き覚えのある呼び声が響いた――
「はーとーりーくぅん」
生理的に受けつけない、わざと間延びさせたネチっこい語り口調――その声を聞いた瞬間、圭介の表情は強張り、急ぎ足にブレーキをかける事を余儀無くされた。
圭介が振り返ると、田代がニヤけ顔で近づいてくる。背後には普段引き連れているよりも倍近くの取り巻きが威圧感を放ち、周囲の空気を澱ませている。
「この間はどーも。あれぇ? 今日は女の子達見かけないけど、羽鳥くん一人?」
「ひ、一人だよ……」
「そっか~、この間の挨拶と『お礼』をしたかったのに残念だなぁ」
「ごめん……俺、急いでるんだけど」
「これはこれは、お急ぎの所呼び止めたりして悪かったねぇ。じゃあこっちも急ぎの要件を伝えるよ」
田代は右の手のひらを広げて見せた。「五万。今日の融資……いや、慰謝料ってとこかなぁ」
「慰謝料!? 一体何の……」
「この間、あの強い女の子にやられた分さ。まぁ不思議な事に、あんだけぶっ飛ばされて何故か無傷だったんだけどさ。でもアイツ、あれ以来空手辞めちまって毎日ビクビクしてんだよ。だから精神的苦痛による慰謝料を徴収しに来たって訳」
「そ、そんな理不尽な!」
「あ……? 理不尽!? ぶっ飛ばされたのは事実だろ? 俺を含めて目撃者も多数いるんだ。立派な傷害事件なんだよ!」
態度を高圧的に豹変させ、声を荒げる田代に対して、圭介は毅然とした態度で、
「悪いけど、もう君達にお金は一切貸さない。今まで貸した分はもう返さなくていいから」
断りを告げる圭介の予期せぬ発言に、暫し呆気にとられる田代だったが、すぐに悪意に満ちた表情へとシフトさせた。
「へぇ……。羽鳥くん、そんな強気な事言えるようになったんだぁ。だけどさぁ、融資をストップされると何かと困るんだよね~」
「何をされようと、もう俺は君達の言いなりにはならない。そう決めたんだ」
「ふ~ん、決心は固いみたいだねぇ……。じゃあ」
「ウッ!」
田代の右拳が圭介の鳩尾に突き刺さる。圭介は激しい痛みに耐えかね、その場で両膝をついてうずくまった。
「ゴホッ! ゴホッ!」
「君には手荒な真似はしたくなったけど、仕方ないな。融資を続けますって言葉が出るまでフルボッコ確定だ」
田代が目で合図を送ると、取り巻きの男達がうずくまる圭介を囲み始めた。
「さて、羽鳥銀行さんとの取引継続の為に『交渉』といきますか……。やれ」
屈強な男達に隙間なく囲まれた圭介は、攻撃に備え身体に力を込めてグッと歯を食いしばった。
しかしその時――
「久しぶりだな~圭やん。やっと羽鳥銀行を閉鎖する気になったか」
圭介の耳に聞き覚えのある軽快な口調が届く。
「……ジェット?」
「よっ! 中学の卒業式以来だな」
現れたのは制服をラフに着こなし、茶髪の左サイドの髪を編み込んだ、チャラそうな男子高校生だった。
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