第二章『アナザーポイント』⑮
「……あのぉ、私忙しいんですよ。おじさんの相手してる暇はないので失礼します」
男を不審者と断定した麻衣子はベンチを立ち、その場を離れようとした。
しかし――
「おじさん…………? それって僕の事を言ってるのか……? 失礼だな! 僕はまだ24才だ! お前は見た目だけで人を判断する劣悪女子高生か!?」
不審な男は何かのスイッチが入ったかの様に攻撃的な言動で麻衣子を責め立てる。「人が道を尋ねてるのに、汚物を見るような目をしやがって……今の女子高生は親切っていう言葉を知らないのか!」
一方的に身勝手な罵倒を浴びせられた麻衣子は、
「いい加減にしてよね! なんで私がそんな風に罵られなくちゃいけないわけ!? 意味わかんないっての! 人生相談したいならカウンセラーにでも相談したら!?」
言いたい放題の男に堪忍袋の緒が切れた麻衣子は、強気な態度で男に反論した。
「なんだとぉ……」
「てゆーか臭いし! 相談に行く前に風呂入れっての!」
「綺麗な顔してるもんなぁ、お前……。男なんか選り取り見取りだろ? これからの人生が楽しみで仕方ないだろうなぁ……」
男はそう言い放つと右手を伸ばし、麻衣子のか細い左腕を鷲掴みにする。
「痛っ……! ちょ、ちょっと何するのよ! 触んないでよ!」
「いいじゃないかぁ……負け犬人生の僕にも少しぐらいいい思いさせてくれよ」
身体を舐めまわす様に卑猥な視線を撫でつける男に、ただならぬ危険を察知した麻衣子は、掴まれた左腕を思い切り振り払った。
「いい加減にして! 警察に通報するわよ!」
振り払われた男はバランスを崩し、その場で転倒した。と同時に、肩にかけていたトートバッグから荷物が地面に散乱した。
「なに……コレ……」
地面に散らばる『モノ』を見た麻衣子の顔から血の気が一気に引いていく――トートバッグから出てきたのは手錠にロープ、そしてスタンガンにサバイバルナイフだった。
麻衣子はこの男が最初から『暴行目的』で近づいてきたのだと確信をもった。
「あ~あ……肘を擦りむいちゃったじゃないかぁ……。見てよホラ、こんなにいっぱい血が出てる……」
男は散乱した道具の中からサバイバルナイフを選び取ると、革製の保護ホルダーを外した。
「化膿したら大変だぁ……。消毒しなくちゃいけない……そうだ、君が舐めてよ」
立ち上がった男はギラつく刀身を露わにしたサバイバルナイフの切っ先を麻衣子に向けながら、理不尽極まりない要求をする。
突きつけられたサバイバルナイフに、麻衣子は今まで経験した事のない恐怖を感じた。
「やめて…………」
「堪らないなぁ……恐怖に怯えるリア充女子高生って、凄く萌えるじゃないか……。そうだなぁ、服を一枚ずつ切り裂くのもいいなぁ……。アヒャア!」
目を血走らせジリジリと少しずつ距離を詰めてくる男に対し、麻衣子は少しずつ後退りする。その背後には噴水が迫っていた。
「ずぶ濡れの女子高生をいたぶるのもいいなぁ……。ルートが多すぎて迷っちゃうよ……ムヒャア!」
怯える麻衣子は助けを求めようと周囲を見渡すが、人の気配は無い。そして噴水の水しぶきが背中を微かに濡らした時、男はサバイバルナイフを振りかざし、麻衣子に向かって駆け出した。
「ヌヒャア!」
「いやぁ―――――――――――――!」
阿鼻叫喚――麻衣子の悲鳴が木霊したその瞬間、サバイバルナイフを握りしめている男の右手の甲に鈍い音を立てて『何か』がめり込んだ――
「ぎゃあああああ――――――――――――――――――――――!」
麻衣子の悲鳴を凌駕する男の断末魔にも似た叫び声が響く。男は余りの激痛に握りしめていたサバイバルナイフを落とした。同時に右手にめり込んでいる物体も地面に落ちる。その正体は何の変哲も無い碁石サイズの小さな石だった。
「え……何……?」
あっけにとられる麻衣子は地面で悶絶の表情を浮かべながらのたうち回る男を見下ろす。
男の右手の甲は瞬時に腫れ上がり、濃い青紫色に変色していく。
「私の教え子に何をする気だ?」
「ひ……柊先生」
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