第二章『アナザーポイント』⑩
「本日、美術担当の矢島先生が『体調不良』の為、代わりに私がこの授業を受け持つ事になった。では、準備に取りかかってくれ」
ランチタイムを終え、美術の授業の準備に取りかかっていた圭介は、教壇に上がっている咲夜を見て呆れ果てた。
「おい……アイツの担当科目って歴史だろ……」
「あらあら、咲夜さんはきっと圭介様の描く絵に興味がおありなのでしょう」
「確か矢島先生、さっき食堂のおばちゃんに『カレーライス大盛りね!』って元気ハツラツな笑顔振りまいて注文してたぞ……。全く、頻繁に意識操作使い過ぎだろ」
「そこ、もう授業中だぞ、私語は謹んでもらおうか」
ドヤ顔で指差す咲夜はさらに続けて、「さて、今日の授業はデッサンを行う。モデルは……御巫にやってもらおう」
「わーい♪ けーすけに描いてもらえるんだ! かわいく描いてねっ!」
真白がモデルになるという事もあり、クラスの男子生徒の表情は心なしか若干ニヤけて見える。机を後方に寄せ、半円形のレイアウトにセッティングされた教室でデッサンが始まった。
「けーすけー♪」
真白はポーズをとりながら圭介に向けて両手を振る。デッサン中の大半の男子生徒は、圭介に対して嫉妬の眼差しをぶつけた。
はぁ……何の意図があるんだよコレは……。
心の中で不満を漏らしながらケント紙に鉛筆で線を重ねていく圭介は、書き始めこそ渋々だったものの、モデルが真白という事もあり徐々にデッサンに没頭していった。
真白のかわいさはやっぱ半端ないな……。つか、このポーズどこかで見た様な気が……。
真白は机の上で両足を横にたたみ、お嬢様座りというシンプルなポージングをとっている。
コレ……もしかして俺の描いた人魚の……。
微かに口角を上げた口元、見る角度によって色が変化するマジョーラカラーの瞳――絵が苦手な生徒ですら真剣にデッサンに臨む程、クラス全員が真白の美しさに見とれながら無言で紙に鉛筆を滑らせる。
そんな中、麻衣子は真白の『目線』の行く先が気になるあまり、誰にも聞こえないくらい小さな声で、
「あの子、ずっと羽鳥くんの事見てるわね……ホント、心底侮れないわ」
そう呟きながら、デッサンに集中出来ずにいる麻衣子とは対照的に、圭介は普段に増して精巧に、そして繊細に線を重ねていく。こんなにも集中して真剣に絵を描くのは久しぶりの事だった。
デッサン開始から一時間半が過ぎ、授業も終盤にさしかかった頃、咲夜は消しゴムで陰影の調整をしている圭介の後ろへ立ち、絵の出来映えを確認する。
「そろそろ授業終了のチャイムが鳴る。仕上がった者から片付けを始めてくれ」
デッサンを描き終えた圭介は鉛筆をそっと机の上に置き、軽く息を吐き出した。
「なんか、久しぶりに頑張って描いたな……」
描いた絵を見つめながら満足感に浸る。それはまるで美味いラーメンのスープを最後の一滴まで飲み干した様な気分だった。
モデルを終えた真白が圭介の元へすっ飛んできた。
「けーすけけーすけ! 真白の事かわいく描けた!?」
「あ……あぁ、出来るだけ一生懸命に描いたつもりだけど……」
「見せて見せて!」
真白は描いた絵を覗きこむと、とろける様な笑顔を見せた。
「うわぁ……真白だぁ……。けーすけが真白を描いてくれたんだぁ……」
いつものハイテンション過ぎるリアクションではなく、心の底から喜びを伝える真白の笑顔に、圭介は今まで体験した事のない胸の高鳴りを感じた。
俺の描いた絵を見てこんなに喜んでくれるんだ……。
「けーすけ」
「ん?」
次の瞬間、この世のものとは思えない程柔らかく、温かな『感触』が圭介の唇を覆った――
「ん…………んんんっ――――!?」
ゼロ距離で見る、目を閉じた真白の顔――圭介は何が起きたのか全く把握出来なかったが、唇に感じるむにゅりとした感触によって、自分に起きている事態を理解した。
キ……キス……? 今、俺真白にキスされてるのか……? え? は? 授業中に? み……みんなの見てる前でぇ!?
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