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番外3−2『お世話になってる魔導師様の正体』後



「なんだなんだ纏わりつくな鬱陶しい」

「マル君はちょっと黙ってて。ほぉらアリギラ、彼が僕の親友殿だ!」

「彼がって……」


 アリギラさんはマル君に近づくと、上から下まで舐めるように観察した。


「……ほぉ、いい男だな。こんなところに置いておくのは勿体ないくらいだ」

「はぁ? いい歳こいてまだ色ボケしてるの? いい加減落ち着きなよ。アリギラの弟子ってだけで最初すんごく警戒された僕の身にもなってよね」

「事実間違ってないのだから構わんだろう」

「やだなぁ、一緒にしないでもらえますぅ?」


 ハロルドさんとアリギラさんの間にバチバチと火花が散る。虎と龍のにらみ合いだ。しかし、師弟共々色恋沙汰で悪名高いって、どうなんだろうそれ。

 マル君はマル君で顔色一つ変えずに二人の横をすり抜けると、カウンターテーブルの上に紙袋を置いた。

 さすがに肝が据わっているわね、魔族様は。


「まったく、これでも心配してやってるいるんだぞ。私も年だからな。どう足掻いたって私の方が先に逝くだろうさ。友が出来たとはしゃぐのもいいが、看取ってくれそうないい人はいるのか? いないのならつくれ。弟子の末路が一人寂しくなんて悲しいじゃないか」

「はしゃいでないし、余計なお世話だよ。別に最期まで一人身だったとしても、マル君に看取ってもらう予定だからいいんですぅ」

「勝手に決めるな。俺は、お前の死に際には傍にはいないぞ。……絶対にな」

「え?」


 マル君は少し不機嫌そうにぷいと顔をそむけてそのままキッチンへ入っていった。

 魔族の寿命は人間の何十倍もあるらしい。ハロルドさんを甘やかしまくる彼のことだから、なんだかんだ最期まで世話を焼いてあげるものだと思っていた。


 それはハロルドさんも同じだったらしく、アリギラさんと口論していた姿はどこへやら。一目散にマル君の下へ駆けていくと彼の足に縋りついて「何でだよぉ」「僕たち親友じゃんマルくぅん」とべそべそ泣き言を漏らしていた。

 店長の威厳ゼロだ。


 現在、フェニちゃんは遊び疲れてクロ君と一緒に私の私室で眠っている。もし起きていてうっかりガルラ様との同期が始まっていたら大惨事だった。


「な、なぁ、あいつらはいつもああなのかい?」

「まぁ……なんと言いますか、よくあんな感じでじゃれていますね」

「よく? ……はぁ、あのハロルドがねぇ。あんなのは初めて見たよ」


 あそこまで必死なハロルドさんは稀ですが。基本、余裕があって人をからかって楽しむタイプだものね。

 アリギラさんは目を丸くして何度も瞬きを繰り返していた。


 多分、ハロルドさんがああなったのはマル君の影響が大きいと思う。近しい目線で物事を見、少ない言葉で通じ合い、一緒にいるのがまったく苦ではない。恋は人を変えるというが、初めて気の置けない友が出来るというのもまた、少し性格に変化をもたらすのかもしれない。


 ただ、ハロルドさんの場合はちょっとマル君に依存し過ぎている気がするけど。

 日々のお世話はもちろんのこと、マル君の尻尾を快眠まくらとして利用しているらしいし。彼がいなくなっても一人で生きていけるのかしら。いくら相手がマル君でも、魔族様に堕落させられるのは危険だと思うのだけど。


「……ふ」

「アリギラさん?」

「いや、すまない。改めて礼を言うよ。お得意様にご挨拶をと思って遠路はるばるやってきたが、思いもよらず良いものが見られた。あいつがあそこまで恥も外聞もなく他人に縋る姿なんて一生笑いのネタにできる」


 言葉とは裏腹に、慈愛の籠った瞳でハロルドさんを見つめるアリギラさん。

 彼女は「ここが、随分居心地のいい場所なのだろうな」と言って、店内をぐるりと見回した。


「もちろん、君や、親友君も含めてね」

「そうだといいのですが」

「ふふ。……さて、あまり長居してはお邪魔になるかな。私はそろそろお暇しよう」

「そんな、せっかくなので何か食べていってください。日ごろお世話になっていますので、サービスいたしますよ?」

「うーむ、それほど体力が減っているわけではないのだが。まぁ、お嬢さんに引きとめられては仕方がないね。では、君のオススメを一つお願いしよう」

「かしこまりました! こちらへどうぞ!」


 私はアリギラさんをお席に案内すると、キッチンでじゃれあっている二人をさくっと追い出して調理に取り掛かった。

 オススメをと言われてどの料理にするか少し悩んだけれど、煮込みハンバーグにすることにした。

 この店で私とハロルドさんが初めて一緒につくった料理。ある意味転機の一品と言えよう。


 ハロルドさんの師匠に出すのに最もふさわしいかと思ったんだけど、どうかな。気に入ってもらえたら嬉しいな。

 もちろん、アリギラさんのイチゴを使わせてもらっている特製ドリンクもつける。


 私は出来上がった二品をトレーに乗せると「ハロルドさん、よろしくお願いします!」と笑顔で差し出した。ここは彼に任せるのが得策だろう。

 ハロルドさんは「リンってたまにそういうとこあるよね」と、複雑な顔をして受け取ってくれた。なんのことだかさっぱりです。ええ。



 ちなみに。一口食べるごとに賛辞を述べるほどうちの料理を気に入ってくれたアリギラさんは、退店する時「店の近くに転移魔法を設置させてほしい」と頼み込んできた。

 毎日のように食べたいというアリギラさんと絶対阻止なハロルドさん。一悶着あったのだが、どちらが勝ったかというと――まぁ、師匠は強いって事で。

 私としては、常連さんが増えて万々歳です。


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