9.Dランク昇格試験
それからと言うもの、叡智の森での狩りをやめ、大森林の奥での狩りをするようになった。15歳までの年月は、ただ強くなるために。
森の奥は、開拓が進んでおらず、本来はランクB以上の冒険者しか立ち入れない場所になっている。だが、生息域がだいたい把握できていれば、そこまで危険度の高い場所ではない。
弱いモンスターから徐々に標的の強さを変えていく。マリによる最効率の強化ルートだ。
もちろん、年齢に合わせた肉体強化や、判断力や思考力といった戦略的強化も、マリさんプレゼンツだ。前文明の知識をフル活用しての強化期間は、俺をマリの封印施設の出口付近で悠々と狩りができるまでに成長させた。
そして、15歳を迎え、ギルドの昇格試験を三日後に控えた日の狩りも、終わりを迎えようとしていた。
荒立った息を整え、水筒の残りの水を最後まで呑み欲し、ため息をつく。
「ふぅ…今日はこんなところかな。」
『お疲れ様です。マスター。ここ一帯を縄張りとするジャングルタイガーも、ほぼ無傷で討伐できるようになってきましたね。突然変異種を除けば、この森で最強の魔物ですよ。だから私の封印施設の入り口もここに指定されたのですが。』
「へぇ…っていうかさ、まぁ面積だけならこの大陸で最大だけど、実際のところ危険度的にはどうなの?」
『恐らく、そこまで高くはないでしょう。驚異なのは、その面積と、モンスターの種類の多さですね。個々の獰猛さ、狡猾さはそれほど高くはありません。現在なされている制限は、調査が進んでいない故の立ち入り制限であると考えます。』
「じゃあ、俺もまだまだってことだな。」
『いえ、マスターの戦闘能力は、15歳での平均を遥かに凌駕しているでしょう。なにせ、私がいますからね。』
「はいはい。流石流石。」
そう言いつつ、倒したジャングルタイガーを荷車に積む。
最近は、取引所で売買を行なうと混乱を招くため、家に持ち帰り、加工し、闇市で売り払っている。
家に戻り、加工作業に入る。最近はいろんな武器を作るのにハマっている。強化魔法を使えば、加工の難度は一気に下がる。15歳にしては、なかなかのクオリティのものが出来ていると自負している。
ジャングルタイガーの牙や爪で矢尻を作ってみたり、毛皮で防具を作ってみたりしている。臓器や肉は、そのまま売りに出したり、晩飯にしたりしている。
この二年間で、料理の腕前も上がった。まぁ、料理しているのは実質マリで、おれは指示通り手を動かしているだけなのだが。
明日明後日は、試験もあるし、ゆっくりと体を休めるつもりだ。Dランクに上がれば、後はこなした依頼の難度や成果、回数に応じてランクが上がっていく。目標は、大陸を通して各国の依頼をこなすことが可能な最高ランク、Aランクだ。
俺は、試験当日までの2日間、休暇も兼ねて、コンディションを整えながら過ごした。
そして当日。
試験はギルドの演習場にて行われる。まぁ、ほぼ国軍の予備演習場扱いのようだが。
少し筋肉質で、強面の男性試験官が、口を開く。
「んじゃ、あんまりやる気でねぇけど、試験始めるよー。あーめんどくせぇ。」
人生がかかった大舞台での悪態に、受験者は騒つく。
「あーもうるせぇうるせぇ。んじゃ、自己紹介な。Aランクの冒険者やってる、ライゼ・ローウェルだ。好きなもんは金と女。嫌いなもんはテメェらみたいなガキだ。」
『マリ。魔力解析。』
『かしこまりました。』
人間性的に本当にAランクか怪しくなったから、鑑定をしてみる。
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種族名:ヒューマン
個体名:ライゼ・ローウェル
年齢:25〜30歳
適正属性:火、光、闇
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適正属性が3つ。Aランクもあり得なくはない。
「おいそこのガキ。何ジロジロ見てんだよ。」
鑑定していたのがバレている。
確信した。カマかけではない。本当のAランクだ。
「まぁいいや。じゃあ試験内容だ。お前ら全員まとめてかかってこい。気に入ったやつは採用だ。一応上からモニタリングしてある。判断するのは俺だけじゃねぇから安心しろ。んじゃ、1分ご開始な。」
そう言われて、受験者は、戸惑いながらも武器を構える。
俺は、ライゼを取り囲む包囲円の一番外に位置取る。
『反響探知。聴覚探知。自動強化。』
場内の状況を把握する。受験者は俺を含め21人。全員ライゼに集中している。地面に、違和感を覚える。
『魔力視』
地面に張り巡らされた火属性の魔力。
恐らく、開始と同時に発動する。完全に先手を取られている。
俺は魔法の範囲外に出て、戦略を立てる。
「へぇ…」
ライゼは、俺と数人をみて、笑みを浮かべる。
「はい。開始。」
合図と共に、地面から火が噴き上がる。5人は、上方に飛んで回避する。残りの15人は魔法を食らって、即再起不能になっている。
5人が、一斉にそれぞれの武器でライゼに攻撃を仕掛ける。
パチンーー。
ライゼが指を鳴らす。刹那、閃光が走る。光魔法による目眩しだ。
聴覚探知で状況を把握し、剣の柄に手をかけ、間合いを埋める。
ライゼは、閃光の中で、攻撃した5人に反撃している。
一人につき一撃ずつ。着実に打撃を与えている。
『魔力弾、二重』
俺は、間合いを詰めながら、魔法を放つ。
『炎壁』
当然の様に防がれ、前方からの攻撃する選択肢も消された。
「チッ!」
ポケットから糸付きの矢尻を取り出す。矢尻を斜め横に向かって投げる。
『マリ、弾道制御だ。』
『かしこまりました。』
回転、速度、力をリアルタイムで強化、弱化し、弾道を操る弾道制御。当然、マリの高速演算ありきの賜物だ。
糸で繋げば、身体に触れていることになり、強化の制御が可能になる。少し、魔法の発動と効果の反映にタイムラグがあるが、そこも計算でなんとかなっている様だ。
吸い込まれる様に矢尻は、ライゼの背後に標準を定める。
ガキィィンーーー!
ライゼは、剣を抜き矢尻を弾く。
と、同時に速度強化で間合いをつめ、炎の壁を回り込み、横から居合切りを仕掛ける。
「速いッ!」
ライゼが驚いた様に呟く。
『居合・疾閃』
あらゆる強化を詰め込んだ、今放てる最高の居合切り。
ライゼは無理矢理剣を振って、防ごうとする。
剣筋を変えられた。だが、相手は体勢を崩している。
もう1発。
マリが魔法構築する間、体勢を整え、間合いを詰める。
『峯斬』
強化した袈裟斬り。今度は捉えた。が、手応えがない。虚空を斬っているような感覚。おそらく光魔法で視覚に干渉されている。
『聴覚探知。』
目測より1m遠い場所に体勢を立て直しているライゼを探知した。
「お前、面白いな。よし、まぁここまでにするか。」
ライゼがため息混じりに言う。
「え…、勝負は?」
つい口をついて出る。
「血気盛んかよ。落ち着け。お前がAまで上がればまた遊んでやるよ。」
威圧気味に言う。存在感が変わった。魔力量も制限していたようだ。
恐らく、今の俺では敵わない。
「まぁでも気に入った。今立ってるやつはとりあえず合格な。俺から話は通しとくから今日は
終わりだ。帰っていいぞ。」
後ろを振り替えると、攻撃した5人のうち3人は、ガードしたのか、まだ立っている。
合格。言葉を聞いて肩の力が抜ける。
「ふぅ…。」
俺は去っていくライゼを見つめ、腰を下ろす。
「まだまだ遠いな…。」
『そうですね。』
後ろの3人も、満身創痍だ。
Aランクの実力はあれ以上だ。肝に銘じる。もっと強くならなくては。