7.帰路
正月暇ができたのでせっせか書いてました。またゆっくりですが次話書きます。
地下深くに眠っていた迷宮のような封印施設も、何事もなく最後の階段へとたどり着いた。
位置的には...中心地からあまり離れていないが、ブリテン大森林の奥まで来てしまったようだ。まだこの大森林は、浅い場所にある叡智の森などの一部分しか調査が進んでいない。何故なら、この森は中心部に向かえば向かうほど敵がより強力に、狡猾になるからだ。
『マスターの記憶から予測するに、私の情報と地形は変わりませんね。一部、岩盤がズレたような痕跡が見られますが...この程度なら想定範囲内ですね。前文明崩壊の理由は地震とは別にありそうです。』
『なら、俺の記憶とお前の地図情報を照らし合わせて、予想でいいから最新の地図を作れるか?』
『可能です。というか、今完了したところです。送りますね。』
本当にマリのデキるサポーター感が凄い。もうマスターである俺の方が足手まといみたいになってる気がする。
そんなことを考えながら、俺は森へ出るルートを確定させた。とは言っても、モンスターがよく出る場所を迂回しながら叡智の森へ向かうだけだが。
空は茜色と青が混ざった、なんとももどかしいような色をしていた。もうすぐ日が暮れるというには少し早く、まだ明るいというには夜が近い、そんな時間を示していた。
叡智の森に出る頃にはもう日が暮れるだろう。
早く帰らないと、アインが心配する。
「よしマリ、思考共有で構築する魔法を察して構築できるか?」
『可能です。というか、本職ですね。』
「なにその自信...まぁ頼もしいからいいか。」
そう言い、俺はいつもの移動の際構築する魔法を思い出す。
すると、マリが応じて魔法を構築する。
「これ名前とか決めた方がいいよな…」
『無難に"速度強化"なんてどうでしょう?』
「飾らない感じがいいね、それ。採用!じゃあ…」
ボロボロの体を軽くストレッチして、動きやすく、壊れにくくする。
恐らく、いつも通りの出力で行なうと筋肉がもたないのだろうが、そこはマリさんが上手くやってくれるだろう。
一通り準備体操を終え、軽くジャンプする。身体は万全とは言えないが、ゴブリンくらいなら相手はできるだろう。
「速度強化!」
魔法陣が手の周りに浮遊する。馴染みのあるいつもの感覚。
「おお...自分で発動するのと全然変わらないな...流石だ。」
『なんと言っても私は前文明の英知の結晶ですから。』
「はいはい。んじゃ、行きましょうか。」
マリの自慢を白々しく受け流し、ルート通りに走る。途中でモンスターを見かけても今回は無視だ。
マリによると、この森のモンスターは縄張り意識が強く、縄張りに入った者は排除しようと襲いかかってくるが、そこから出れば追ってくることはないという。更には、その縄張り意識の強さから、モンスターの分布域がはっきりと分かれており、狙って狩りがしやすいため、前文明では人気の狩場だったようだ。とはいえ、今となっては未開拓の大森林なのだが。
『マリ、アイデアがある。思考共有だ。』
そう心の中で会話し、魔法をイメージする。
『ー!かしこまりました。魔法構築致します。』
魔法の発動の準備が整った事を確認すると、力一杯ジャンプし、細い枝に飛び乗った。
「おー、いい感じだ。よし、このままいくぞ。」
マリが発動したのは、自分に触れている物体が、触れている間だけ強化されるという魔法だ。
強化され十分な足場となった木の枝を、飛び移りながら進んでいく。
もちろん、速度強化の影響で、空気抵抗などは弱化される。
こっちの方が、体力消費は少ないし、速い。そして何より、地上のモンスターから見つかりにくい。
そこから更にスピードが上がり、予定より4分早く叡智の森に到着した。
すると、その中心地、字面にポッカリ開いていた穴は何事もなかったかのように塞がっていた。
「えぇ…俺落ちたのここだよな?」
そう呟きながら中心地に降り立つ。
『はい。ここは紛れもなく叡智の森の中心地ですよ。下の封印施設の外壁には、永久的な土属性の魔法がかけられています。それにより、ダメージを受けると修復するようにできているにです。雨風による老朽化は、ダメージ判定にはならなかったようですけどね。』
『はぇ…なら、俺はこの上なく不運だったわけか。』
『そういうことになりますね。まぁこの私が手に入ったのですから、不運ではなく幸運だったと私は考えますが。』
『どうせなら正規ルートで手に入れたかったよ…』
『現段階の捜索完成度では、封印施設の入り口の発見は限りなく不可能でしょう。本来なら、大森林の捜索が完遂され、そこから更に開発を進めれば見つかるような代物ですから。』
『ふーん。ま、不幸中の幸いだったって程度に収めておくか。』
そんなやりとりをしている時だった。
ガサッーーー。
完全に気を抜いていた。ここはまだ、魔物がひしめく森の中だ。恐らく落ちる前に引き寄せたゴブリンだろう。
『マリ、【魔力視】だ。』
『かしこまりました。』
そういうと、右目の視界が一変した。視覚化されると書かれていたが、その魔素の密度が高くなるほど色が明るくなるようだ。
『なるほど…これ、音響探知と組み合わせれるんじゃない?』
『可能ですね、しかし、この状況で行使するのは強化された音で気付かれるので推奨しません。生物の耳では聞き取れない超音波で行うのが最適なのですが…現状での行使は不可能です。』
『また必要なもんは買いに行くか。取り敢えずこの状況に集中だな。』
魔素反応は周囲に10体。落ちる前と数は変わっていない。
ゴブリンは群れで連携をとる、この森でも珍しい魔物だが、バレた連携ほど脆い者はない。
小面からこちらに向かう反応が5体。後ろから3体。残りの二体は左右から様子を窺っている。
『やるぞ、マリ。魔法構築は任せる。』
『かしこまりました。』
俺は強化を乗せた剣で正面から襲ってきたゴブリンを二体同時に斬り伏せる。するとここぞとばかりに背後から三体のゴブリンが襲いかかってきた。
「残念だったな。」
用意していたのはマジックバレット。魔法の構築スピードに強化をかけている。その分、威力が下がるが、ワイルドボアに比べ外皮が薄い上に、急所である心臓に寸分狂わず打ち込んだので、関係無い。
すると、正面の残り3体が、焦ったように飛びかかってきた。俺は、1m程の間合いで、重力、速度に臨界弱化をかける。空中で動きが急に鈍り、無防備になったゴブリンを、剣で斬る。
左右に待機していた二体は、遠距離攻撃特化型なのか弓を放ってきた。しかし、知能の低いゴブリン製の弓で放った矢は、性能が悪いのか、かなりの低スピードで、山なりの弾道で飛んできた。
上にジャンプして避け、矢尻を取り出し、強化して投げる。飛んできた矢とは違い、直線弾道で眉間に刺さり、ゴブリンを絶命へと追いやった。
「ふぅ…あんなに苦労してたゴブリンが、こうもあっさり…なんか強くなったと勘違いしちまうよ。」
『私はマスターのスキルの一部になっているので、強くなったという表現で適切ですよ。』
「いやいや、それはそうなんだけど…なんかさ…もういいや、日も暮れるし帰るか。」
アインになんて言い訳しよう…。そう思いながら換金部位を剥ぎ取り、ギルドへ向かうのだった。
次の話はまったりいろいろ考え回になるかな。