6.魔理の真眼
いよいよ世界観が固まってきました。投稿頑張らねば(笑)
レッドボアを倒し、着地ーー。
地に足が着き、全自重が地面に力を加えた刹那、地面に亀裂が入り、暗闇への入り口が開く。
なすすべもなく、土と狩ったウルフ、レッドボアとともに暗闇へ吸い込まれる。
地面がまだまだ下にあると発動ていた聴覚探知で悟り、俺は新たに魔法を構築する。
「クソッ、『魔力弱化・二重』!!」
自身の質量と受ける重力の影響を弱化する。
そして、目を閉じ、聴覚探知の出力を最大まで高める。
地面と思わしき反応まで残り20m。
「『魔力強化』!!!」
空気抵抗を最大まで強化する。
身体に相当の負荷がかかる。下から全身をクッションで圧迫されているような感覚。息もしづらい。
反応まで残り10m。
ここまで近づくと材質も大体分かる。
地面は、煉瓦に似た素材でできた石畳。近くに階段があるのが分かる。
地面まで残り3m。
一気に空気抵抗強化の出力を上げる。
『臨界強化』
身体に強い衝撃が走る。骨が軋む。肺が圧迫される。
地面から1mもない空中で静止した俺は、地面に叩きつけられる。
「ッハァ…カハッ…ヒュー…グッ…」
呼吸がままならない。酸素が足りず頭がボウっとする。
俺はそのまま、30分ほど仰向けで倒れ込んだ。
「ハァ…ハァ…どこだ…ここは…?」
呼吸が整い、壁をつたって階段を登っていく。
階段の先には光がある。
光に向かって、痛めた身体で、ゆっくりと歩を進める。
階段を登りきると、そこには、空中に浮かぶ、球状の発光体があった。
「ーー!生物を探知。人間だと思われます。非常に消耗した状態であるため、危険は無いと判断いたします。」
何か部屋に響くような、作られたような声が聞こえる。
「ここは…どこなんだ…?」
俺は呟く。
すると、その声は応答する。
「ここは『叡知の森』の中心地、その地下にある、『理の司者』の封印場所だ。と、マスターから聞いております。理の司者とは、私のことだと思われます。この場所における熱反応及び魔力反応は、私以外ありませんから。」
「現文明…つまり、このブリタニアが出来てからか?」
「あなたの服装、武器などからの予想になりますが、明かに文明が違います。つまり、私が作られた文明は滅び、また新しい文明が出現したと予想されます。私が製作されたのは、今から5031年と3ヶ月前。時間経過やあなたの様子から私は、『前文明の遺した遺産』という存在になるでしょう。よって、現文明については知識がありません。言語体系だけは似ているので意思の疎通はできるようですね。」
「なるほど。で、そんな5000年もの間、発見もされずにこんな地下に眠ってたってわけか。」
「なにせ封印ですから、意図して見つけるのは不可能です。あなたは、雨風で老朽化した部分からピンポイントで無理矢理入ってきましたが。」
「そうだよなぁ。5000年も経てば流石に前文明様の産物でも錆びるよなぁ。そのおかげで俺は大怪我を負ったんだけどな。」
「大変申し訳ありませんでした。ところで、いきなりですが、マスターから指示があるので、執行させて戴きます。」
「えっ………?」
急に発光体の周りを魔法式に似た文字の羅列が浮遊し、回転する。
「"前"マスターからの指示です。あなたを新しくマスターとして登録し、行動を共にさせていただきます。存在形態を物質から精神存在へと変化し、あなたに憑依します。憑依形態は妖精族に近い形です 。憑依部位は、右目とさせていただきます。この憑依に痛みは伴いません。また精神体へのダメージもありません。スタンバイオールOK。マスター、許可を。」
「いやいや待て、『許可を。』じゃねぇよ。急すぎるだろ。怖ぇよ。ナニコレ?新手の詐欺ですか?美人局ですか?後で金ぼったくる気じゃねぇだろうな?」
「いえ、請求元もありませんし、私は過去の遺物です。ですが、私をその身に宿すことで、様々な支援を享受できます。あなたには、メリットしかないと思われます。」
「あ゛ー、もういいや、もうどうにでもなれ。」
俺はスケールの大きすぎるその話題に付いていけず、諦めて許可してしまった。
「許可、ありがとうございます。この形態での私は、『魔理の真眼』。前文明に存在した物質、現象なら全てを見通すことが可能となります。」
「うん、なんか凄そうだな。もうなんでもいいや。早くしてくれ。狩った魔物がダメになっちまう。」
「畏まりました。では、失礼します。」
その瞬間発光体が閃光を放つ。眩しさに目を閉じる。
目を開けると、そこにあるのは暗闇だけだった。
「結局何だったんだ…特に何か変わった感じもないし…」
『意思共有のテストです。マスター、聞こえますか?』
「うわぁぁ!!…って、びっくりした…そういうかんじね、俺自身に能力やら知識が与えられる訳じゃないのね…。」
急に頭の中で声が響いたので驚いてしまった。どうやら、俺の中で、もうひとつの人格として存在するようだ。
「はい。私はあくまで自律型ですから。」
「なんでちょっと誇らしげなんだよ。」
俺は呆れながら、息を落ち着かせ、地下から出る方法を探る。
「にしても...出口はどこなんだ...?暗くて何も見えないし…」
『私も、この状況では『暗視』も使えません。この魔法は、光魔法の一種ですから無属性の魔力しか扱えない現在では不可能です。』
「ンだよ…そこは自律じゃねぇのか…。どうしたもんか…」
『私にひとつ打開策があります。手を叩く音を強化魔法で増幅し、その跳ね返りで空間を把握する探知法がございます。前文明では魚群探知などに使われていました。』
「ほぉ…なるほど、ならそれで行こう。『魔法強…』」
魔法を発動しようとすると、魔理の真眼が割って入った。
『お待ち下さい、マスター。』
「なに?今魔法の構築で忙しいんですけど?」
『テストも兼ねて、今回の魔法構築は私が行います。魔法式も、この使い方に対し効率化し、改変させていただきます。』
「え?魔法構築できんの?しかも魔法式を状況に合わせて改変って…王宮レベルの魔術学者かよ…」
『なにせ私は前文明が作り出した知識と叡知の結晶ですから。』
自信満々に語ると、自分の意図しないまま魔法が発動する。
『音響探知発動。マスター、なんでもいいので何か音を出してください。』
「ああ、分かった。」
俺は指示通り、手を叩いた。特に音が強化された様子はなかったので、音に強化をかけようとする。
『お待ちください、マスター。マスターに聞こえる音は強化しておりません。魔法式改変の際、少し強化の影響範囲を変えさせていただきました。』
「なんだよそれ。至れり尽くせりかよコノヤロー。匠の気遣いかよ。最早介護かよ。ってか俺、お前と会ってからツッコミしかしてねぇよ。」
『いえ、私自身も驚いております。このレベルのサポートが可能なのは、マスターの持つ固有スキル【同時並行処理】によるものだと思われます。』
「ん?待って?スキル?そんなもん初耳なんだが。ってかなに人の唯一の才能に勝手にカッコイイ名前つけてくれてんのさ?」
『現文明にはスキルという文化は無いのですか?前文明では、個人の才能や特異な能力に対し、【特殊技能】という形で認識をしておりました。私の機能の一つである【魔力解析】にて、鑑定対象の魔力や容姿、私の中の知識からある程度の解析が可能です。ちなみに私【魔理の真眼】も、スキルとして解析結果が出ますよ。』
「ふーん。じゃあ取り敢えず俺の鑑定結果、出せるか?」
『かしこまりました。映像化して思考を共有いたします。』
魔理の真眼は、そういうと俺の頭の中に文字列を想起させた。
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種族名:ヒューマン
個体名:エムリス・アンブローズ(戸籍名:エムリス・オーバン)
年齢:13歳
適正属性:適正なし
使用魔法:魔力強化、魔力弱化
特殊技能:【同時並行処理】、【魔理の真眼】
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文字列の内容はこんな感じだった。どうやら、戦闘関連以外の情報は鑑定されていないようだ。
「へぇ...こりゃすげぇな。戦闘関連以外のことも鑑定できたりするのか?」
『可能です。ただ、魔力の性質、動作の癖などからの予想になるので、確実性があるとは言い難いです。』
「なるほどな...これは情報を絞ってる訳じゃなくて確実な情報だけ出してるわけか。じゃあ、さらにスキルを解析したりすることはできるか?」
「かしこまりました。解析対象をスキルに移行します。」
そう告げると、また文字列が頭の中に浮かび上がった。
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特殊技能
【同時並行処理】
魔法や思考を同時に行える能力。同時並行数と魔法構築の速度や深度は反比例する。
【魔理の真眼】
前文明の知識、技術の総結晶である【理の司者】が右目に宿った姿。どこに憑依しても外見的な部分以外あまり変わりはないが、製作者の厨二心によって憑依箇所が基本的に右目になるよう設定された。基本的には以下4つの能力を駆使し、マスターを援助する。
【魔力視】…すでに退化した魔素感知能力を強制的に喚起させ、得た魔力の位置や濃度などの情報を視覚情報に変換して共有する。
【魔力解析】…解析対象の魔力や容姿などの情報から、その他の情報を予想し、割り出す。
【高速演算、高度魔法式構築】…魔素を動力源とするコンピュータを使用し、高速演算やそれを利用した魔法式の構築を可能とする
【能力開発】…マスターの要望に応じ、可能な範囲で能力を新しく創造する。
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『因みに、マスターの元から持っていたスキル、【同時並行処理】は、学術的には存在を確認されていましたが、前例はないのでまだ他に能力が眠っている可能性があります。』
「フム…なるほど…。大体お前のできることが分かったよ。っていうか一々魔理の真眼て呼ぶのもめんどくさいな…。前のマスターにはなんて呼ばれてたんだ?」
『前マスターには、最初の2文字を取って、"マリ"と呼ばれていました。』
「うっわ…ネーミングセンス皆無じゃん。絶対その場のノリで決められたじゃん。で、お前はその名前どうなの?気に入ってんの?それとも逆?」
『私は気に入っています。そもそも私の思考は女性心理をベースに作られているので、しっくりくる名前ではあると考えます。』
「じゃあマリでいいや。」
『かしこまりました。あと、今更ですが、一々私への応答を声に出されずとも思考共有しているので心の中で話しかけていただくだけでも会話は可能です。』
「はぁ…?それ先言ってよ。まぁいいんだけどさ。戦闘中に独り言ずっと喋ってる変人を回避できただけでもいいかな。」
そんな会話をしながら、音響探知のマッピングを頼りに、買った魔物の買取部位を集めて、俺は地上へと続く階段を登っていった。
エムリスくん、途中からツッコミキャラになっていきましたね
今後もこう言ったシーンはあるので楽しみにしてください(笑)