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ベクトル・セイジ  作者: ルリララ
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5.森での狩り

今回はちゃんとした戦闘シーンです。新出魔法が多いので解説多めですけどw

一年後、俺が13歳の誕生日を迎えて二ヶ月ほど経った。

季節は秋の始め頃で、ブリタニアでは最大の面積を誇るという大森林、『ブリテン大森林』の木々も、紅葉の兆しを見せている。

そんなブリテン大森林の浅部(せんぶ)、別名『叡智の森』の入り口に立っていた。ちなみにだが、俺もアインも、何故この森がそう呼ばれているのかは分からない。由来はどの文献にも記載されていないが、王国設立より以前からこの森はそう呼ばれていたようだ。


「ふぅ…今日もやりますかね…」


ため息混じりに呟く。ここ4ヶ月くらい、俺は独り立ちの資金集めのため、この森に生息する魔物を狩っては近くのギルドで素材を売って金を作っていた。ここには魔物といっても、弱いゴブリン(棍棒を持った魔物。知性が少しあり、多数で連携を取って襲いに来る。)やウルフ(基本一匹で活動する狼の魔物。殺傷能力の高い牙や爪は武器の素材に使われる。)、ホーンラビット(ツノの生えたウサギの魔物で、状態異常を引き起こす魔法で攻撃してくる。かわいい。)、ワイルドボア(イノシシの魔物。どう見てもイノシシ)くらいしかいないので比較的安全に狩りができる。

後半の魔物の説明が雑になってしまったことはさて置いて、魔物を相手に狩りをするのは、戦闘経験や技術を身につける上で効率がいいようだ。この知識もアインの受け売りなのだが。

俺が使う武器は鉄製の矢尻と、アインから誕生日にもらったミスリル合金の剣だ。ミスリルとは言っても、含有量は少なく、ミスリルなのか鉄なのかよく分からないボッタクリらしいが。アインが冒険者時代に使っていた相棒なので、手入れはされているし、よく馴染むいい剣になっている。

武器の確認を一通り済ませ、深呼吸をし、魔法を起動する。


自動強化(オートブースト)、起動。」


右手首を中心に幾つもの魔法式が回転し、収束する。

魔法の行使には、構築、発動、維持の3つの段階がある。魔法にもよるが、維持の段階で魔法に操作を加えることができることがある。例えば、無属性攻撃魔法のマジックボールなんかは、発動してから、軌道を変えることが可能な魔法になっている。それに対し、強化魔法は、身体及び身体に触れている物質の強化に限り、維持段階での出力調整が可能だ。

この魔法は、この特徴を活かした魔法になっている。まず、発動の段階で、全身のあらゆるところに魔力強化(マジックブースト)を作用させる。この時の出力は限りなく0に近付けて、魔法が発動しているという状況だけを作り出す。そして、維持の段階で、筋肉の力みや意識の偏りに反応し、自動的に魔力強化を行ってくれるという仕組みだ。つまり、力を入れた時に同時に魔力で自動的に強化してくれる魔法ということだ。

ちなみに、この魔法は、俺が自作で作ったものだ。まぁ、使った魔法式は元々存在していたものなので、作ったというのもどうかとは思うが。


「森の中心は…ここから…右に15度…5kmくらいかな。」


地図を確認しながら方向を修正する。向かうのは森の中心だ。敵を効率よく見つけるには、やはり中心が一番良い。


魔力強化(マジックブースト)二重(ダブル)魔力弱化(マジックウィーク)


強化したのは地面と足の摩擦力と俺自身の速度。弱化したのは空気抵抗だ。

この組み合わせで走った時の速度は約15m/sになる。つまり、5km離れた森の中心へは、約5分半で到着する計算になる。

道中見かけた魔物は、剣に強化魔法をいくつか付与し、斬り伏せて行く。魔物の身体は魔素由来なので、簡単には悪くならない。死んでも素材の状態はあまり変わらないので、帰りに回収すれば良い。

その調子で走り続け、森の中心までたどり着く。ここまでの魔力消費は少ない。全体の2%程度だろうか。強化魔法は、魔力を使って現象を引き起こす属性魔法とは違い、既存の現象に干渉する魔法なので、魔力消費が極端に少ない。だから、どれだけ重ねて使ってもゴソッと魔力を持って行かれることはない。強化魔法の一つの長所といったところだ。

森の中心で息を整え、また新しい魔法を構築する。


臨界強化(クリティカルブースト)五重(インティ)


この魔法は、維持の段階で魔法が崩壊する量の魔力を注ぎ込み、瞬間的に理論値以上の強化を実現する魔法だ。既に自動強化(オートブースト)によって魔法自体は発動しているので、出力を上げるだけの作業だ。ただ、発動がほんの数瞬なのと、デメリットとして対応したパラメータに弱化がかかるので、実戦ではあまり使われない。だが、複数使えるなら、デメリットよりメリットの方が大きい組み合わせも存在する。

強化するのは、触覚、嗅覚、視覚、聴覚、そして図脳の5つだ。周囲1kmの範囲における情報をかき集め、分析、整理し、把握する。探知魔法の一種になるだろう。


「はぁ…今日、イノシシ多くないか?」


独り言をまた呟く。周囲の反応は、予測ではあるが、ゴブリン10体の群れが1つ、ウルフが2体、ホーンラビットが5体、ワイルドボアが15体だった。


「晩飯はイノシシパーティだな。」


そう言いながら、魔法を構築する。


「マジックボール」


全魔力の約5%を注ぎ込んだ特大のマジックボールが地面にへ放たれる。

これはいわば、挑発に近い行為だ。

魔物には、基本的に魔素や魔力を探知する能力が備わっている。その動力源が魔素であるため、多く魔素を保有している魔物は狙われやすい。そんな魔物が計32体もひしめき合う森のど真ん中でこの量の魔力が音と衝撃と共に出現すれば、当然魔物は誘き出されて集まってくる。普通は自殺行為にもなりかねない危険な行為だが、簡単に(ほふ)れるような魔物しかいないこの森では、こうして集めた方が効率的で楽だ。威力も、探知外の魔物が気づいて乱入してこないよう、調整している。

ドタドタと聞こえてくる足音を確認し、次の魔法を構築する。


魔力強化(マジックブースト)二重(ダブル)


強化したのは聴覚と図脳だ。聴覚には、稀にだが音源の方向と距離が分かるといった共感覚(シナスタジア)が伴うときがある。この魔法はそんな現象を強制的に引き起こす魔法になっている。聴覚探知と言えば分かりやすいだろうか。

ともかく、この魔法で得られるのは強力な空間把握能力となる。本来は音の届く半径10mという短〜中距離でしかろくに使えない探知というには程遠いような魔法だが、1度目の探知で魔物の位置と種類は割れているため、1kmという長距離でもおおよその探知は可能だ。

まず最初にやってきたのはウルフだ。挟み込むようにして飛びかかってくる。俺はその場からジャンプで跳び退き、ウルフが交錯するタイミングに合わせて剣を構え、魔法を構築する。


魔力強化(マジックブースト)二重(ダブル)


振られた剣は真向斬り。上から下へ剣を振り下ろす一番単純な斬撃だ。魔法によって加速度と質量が強化された剣が、ウルフの首を同時に切り落とす。


「次…!」


遅れてホーンラビットがやってくる。ホーンラビットは近づかれて状態異常攻撃の間合いに入ってしまうと厄介なので、遠距離から倒すのが定石だ。俺はポケットから矢尻を取り出し、魔法を構築する。


魔力強化(マジックブースト)三重(トリプル)


質量と加速度を強化した矢尻を一つずつ投げる。残ったもう一つの強化は、ホーンラビットの速度だ。物質同士の衝突は、双方の質量と速度に比例する。当然向こうの速度も上げた方が、攻撃の殺傷力は高くなる。


『ギィィィィ!』


断末魔を上げて、速度と命を失ったホーンラビットは地面に倒れる。

一息ついている場合ではない。次に来るのはワイルドボアだ。ゴブリンも、連携をとって俺の周囲を囲んでいる。おそらくゴブリンは漁夫の利狙いだろう。密かに攻撃のチャンスを伺っているような動きが見てとれる。

ゴブリンは後回しだなーー。

そう思い、魔法を構築する


魔力強化(マジックブースト)八重(オクタ)魔力弱化(マジックウィーク)七重(セプタ)


近付く15体のワイルドボアの突進のスピードを調整し、同じタイミングで俺に攻撃が加わるように強化と弱化をかける。

5秒後ーー。

計算通り、同じタイミングでワイルドボアが突進する。俺は直前で真上に飛び上がった。ワイルドボア15体が一箇所に集まり、互いに頭をぶつけ合う。怯んだワイルドボアの上空で、俺は魔法を構築する。


魔力弾(マジックバレット)多重(マルチプル)


魔力弾(マジックバレット)は、アイン自作のマジックボールの上位魔法で、魔力濃度を上げ、乱回転だった魔力の流れを錐揉み回転に統一し、貫通力を上げた魔力の塊だ。それを、15個作り出し、ワイルドボアの急所である眉間めがけて撃ち込む。そして、さらに魔法を構築する。


魔力強化(マジックブースト)多重(マルチプル)


魔力弾(マジックバレット)に速度強化を加える。これにより、貫通力は跳ね上がる。ワイルドボアの頭部くらいなら易々と貫通するだろう。


『ズドドドォォン……』


魔力弾が地面に突き刺さる。急所を貫かれたワイルドボアは声も挙げれず倒れる。

ゴブリンの位置を再確認し、空中で剣を抜く。ゴブリンはその知能の為、非常に厄介だ。この森では一番厄介かもしれない。気を抜かず、周囲に気を配りながら、着地ーーーーー。


「………え?」


着地した瞬間、地面が崩壊した。下には底が見えない空洞が広がっている。足場のない俺は、そのまま自然落下する以外の選択ができない。


「クソッ、『魔力弱化(マジックウィーク)二重(ダブル)』!!」


自身の質量と受ける重力の影響を弱化する。スピードはこれである程度抑えられる。最後の悪あがきだ。


俺はそのまま、底なしのようにも見える闇の中へ落下していった。

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