表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベクトル・セイジ  作者: ルリララ
4/13

4.魔法式反転

エムリス君、強化魔法完全習得まであと少しです。

口調も徐々に柔らかくなってきましたね。

6日目、完全習得に至るまであともう少しのところまで来ている。

おそらく今日には達成できるだろう。そんな確かな実感と自信があった。

強化魔法発動時の感覚は、しっかりとイメージ、具体化ができている。コップのような容器に魔力を流体としてイメージし、縁からゆっくりと注いでいく感覚だ。容器に魔力が溜まれば溜まるほど効果は大きくなる。更に、強化魔法を発動する以前から、容器に液体が入っているような感覚がある。おそらくこれは、投げられた小石の元々の運動エネルギーなのだろう。繰り返すようだが、強化魔法とは、あらゆる力や性質に対して、魔力でブーストをかける魔法だ。そしておそらく容器の容積が、強化対象の強化度上限値なのだろう。

それはともかく、今日の一投目から、おそらく100回くらい発動させたが、失敗していない。世間一般的に、100回連続で成功させれば、その魔法は完全習得したと言えるようだ。おそらくもう、強化魔法は完全習得しているだろう。

ならば、二つ同時に発動させることも出来るはずだ。

俺は右手に魔力を込める。二つのイメージを同時に具体化、強く想像する。

魔力強化(マジックブースト)二重(ダブル)

強化したのは、質量、そして加速度。

今までの加速度強化とは段違いに強化された小石が、的を貫き、家の石垣に直撃する。

『ドゴォォォン…』

思っていたより威力が出た。森にいるイノシシなどの動物、いや、初級冒険者が狩るスライムやゴブリン程度くらいなら一撃で倒せるのではないだろうか。

同時に、確信する。強化魔法こそが、唯一持っていた才能を咲かせる道なのだ、と。

家の中からドタドタと足音が聞こえる。刹那、我に帰る。愉悦に浸っている場合ではない。石垣にヒビが入ってしまっている。俺は誠心誠意謝ることにした。ドアが開く。

「エムリス!ついに強化魔法を習得したのかい!!?」

一瞬戸惑う。てっきり怒られると思っていた。だが、謝らずに済んだわけではない。

「え?あ、まぁ…。でも石垣を壊してしまった。申し訳ない。」

「いいんだよ、そんなことは。それよりも、小石であの分厚い木の的を貫くってことは、ただの魔法強化じゃないね?」

「ああ、質量と加速度、2つを同時に強化してみたらこうなった。」

「やはり加算ではなく乗算で威力が上がるのか...これからも色々強化してみるといいよ。物理学なら僕が教えるしね。」

「そうか。このごろ難易度が上がって理解に時間がかかるようになっていたから助かる。」

「あはは。その歳でそのレベルにいること自体おかしな話さ。焦らずゆっくり理解すればいい。」

アインは走った勢いでズレたメガネを直し、深呼吸をした。

「あとは...そうだねぇ...魔法式反転の練習でもしてみるかい?」

「強化魔法にも反転があるのか?」

「ああ。強化魔法の魔力強化(マジックブースト)の反転は、想像の通り魔力弱化(マジックウィーク)だよ。」


魔法式反転。

文字通り魔法式を反対に作用させ、本来の魔法の効果とは全く逆の効果を発現させる高等技術だ。

ただ、反転が可能な魔法は、物理法則や魔力の変換効率などとの兼ね合いにより、反転出来なかったり、出来ても威力が無くなり使い物いならなかったりというものが殆どらしい。

魔法式反転の最も有名なものとして火属性の範囲攻撃魔法である範囲熱炎(レンジファイヤ)が挙げられる。この魔法は、一定範囲内の熱量を操作し、相手に熱で攻撃するというよくある魔法だ。練度が上がれば上がるほ ど扱える範囲、熱量が上昇し、一流の魔法使いは半径20mの範囲の熱量を常温〜2000度まで自在に操作できるらしい。

この魔法の反転は、想像の通り範囲の熱量を奪い冷気で攻撃する火属性反転範囲魔法である範囲冷結(レンジアイス)だ。

この魔法も、練度が高ければ同じ範囲で絶対零度である−273度までを扱うことができるようだ。

まぁ、この魔法は火属性の反転でも発動はできるが火属性魔法と水属性魔法の派生として氷魔法が存在し、反転ではなく独自の構成で作られた魔法式があり、そちらの方が魔力効率がいいのでそっちを使う人が殆どを占めている。


「魔法式反転も、僕がレクチャーするよ。」

俺はアインから物理学、魔法式反転の2つを教わることになった。

「僕を…、いや、これまでの全てを越える魔法使いになってくれよ。」

アインが笑顔で言う。

「まぁ、出来るだけやってみるよ。」

今なら、なんでもできる気がする。

一度見捨てられた筈の世界が、心地良く感じた。


俺はそれから、魔法式反転の練習を繰り返した。

魔法式反転はとにかく難しかった。

「今までの順転のイメージと全く逆のことをイメージすれば上手くできると思うよ。」

アインは簡単そうに語っていたが、コップに魔力を注ぐことの反対のイメージなど、そう簡単にはいかなかった。

その日の練習は終わり、アインが習得祝いにと作ってくれた豪勢な食事を終え、床に伏す。

まだ寝る時間ではないので、いつもこの時間は物理学の本を読んでいることが多かったのだが、今日は少し考え事をしていた。もちろん、魔法式反転について、だ。

魔力強化(マジックブースト)は、もともと存在するエネルギーに、魔力でブーストをかける魔法だ。魔力とは、力の保存法、いわばエネルギーの補完形態だ。そのエネルギーを上乗せする。つまり、魔力にベクトルを作用させることで指向性を持たせる魔法になる。ならば、本来の向きとは逆方向に魔力を作用させて、力を打ち消せば良い。そうとなれば、魔力に元から指向性を持たせる必要がある。魔力操作。魔力を練り上げ、魔法式に流す時の感覚を意識する。この時、確かに魔力の流れを操作している。体内でできるならば、体外でも行使可能な筈だ。体内から体外へ、魔力を使い影響を及ぼす行為そのものが、『魔法』であり、その本質なのだから…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そんなことを考えていたら、いつのまにか寝てしまっていた。今朝はいつもより早かった。日の出もまだのようだ。

睡眠には、記憶や思考を整理する効果があるらしい。噂の通り、朝起きれば、魔力弱化(マジックウィーク)について、明確にイメージができるまでに理解が深まっていた。

「これが噂の睡眠学習ってやつか…」

独り言をつぶやく。と、同時に背後に気配を感じる。寒気も感じた気がした。

後ろを恐る恐る振り向く。

「エム…リス…これは…その…起こそうと思っただけで…その…寝顔を見たかったとか毎朝こんなことをしてるとかそう言うわけじゃ…」

震えながらほぼ自白かのような言い訳を口にする変態(アイン)がそこにいた。

そうだった、この男(アイン)、そういうやつだった。

「別に怒ったりはしない。俺も石垣を壊してしまったし、それ以上にこれまでの恩があるしな。ただ、ひとつだけ頼みがある。」

「はい、何でしょう…?」

アインは怯えながらゴクリと唾を呑む。

「もうこれからは許可なしでの入室は控えてくれ…」

「これが…反抗期ッッ!」

アインは泣きながら部屋を出て行った。

いや…あれは流石に誰でもそうなるだろ…。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一通り家事を終え、庭に出る。

昨日の晩考え、イメージした内容を反芻する。

深呼吸。魔素を練り上げ無属性魔力に変換する。魔法式に魔力を練り上げ、流し込むーー。

魔力弱化(マジックウィーク)

加速度を弱化する。投げた石は次第に速度を失い、的から数m手前で落下した。

「ふぅ…成功か…これはまた難しいな…。」

地面に座り込む。成功した時の感覚を反芻する。今後はこれを無意識的に行使できるようにならなければならない。

「俺も、まだまだだな…」

まだ子供のくせに、と自分でも思った。だが、漏れたのは完全な本音だった。



一年後、俺は13歳になっていたーーーー


完全習得を達成し、反転までこなしたエムリス君、次回からちゃんとした戦闘シーンが来ます(ワクワク)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ