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ベクトル・セイジ  作者: ルリララ
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3.アインとの日常

今回からエムリスくん、本格的に魔法修行スタートです。

夜が明け、窓の外に日が登った。

アインとの生活が2日目に突入した。

朝食は目玉焼きとベーコンをトーストで挟んだものと、コーヒーだった。

トーストのほうは美味しく頂いたのだが、11際の舌にコーヒーは苦すぎた。

顔に出さないよう懸命にこらえる俺を見て、アインは少し笑う。

「ハハッ、達観してるとはいえ舌はまだ11歳なんだね。君にはホットミルクを出そう。」

そう言って、アインはホットミルクを出してくれた。

「アッツ...ありがと...美味しいよ」

砂糖の分量を間違えたかってくらいに甘ったるいホットミルクだった。

「これから、どうするんだ?元気に育つって言っても具体的に、さ。」

「そうだねぇ...まず、読み書きと計算、家事なんかを覚えてもらおうかな。1人で生きていけるくらいの能力は身につけてもらうよ。君は頭がいいし、要領もいい。すぐ出来ると思うよ。」

「分かった。これから世話になる。よろしく頼む。」

「なんだよぉ...そんな改まって。調子狂うでしょ。」

アインが俺の背中を軽く叩く。もっと気軽に接して欲しい心の表れのように感じた。


それからというもの、家の家事を覚え、より効率的に、より効果的にこなす方法を模索した。

日に日に、家事にかける時間は短くなっていく。余った時間を全て読み書きの勉強に費やす。読みができるようになると、アインから本を借りて読みふけった。全て物理学、魔法力学に関する本だったが、こういった本は嫌いではなかった。モノの仕組み、現象の因果、万物を論理立てて思考、理解する。世界が、既知のものになっていく感覚が、なんとなく好きだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


2ヶ月後。


家事も、ほぼ全てこなせるようになった。まだ唯一できないのが、料理だったが、アインが作ってくれているし、少しずつ自分の作る料理が美味しくなっていっている。時間の問題だろう。

家事は、最短ルートが確立出来た。アインの家は平屋の面積が広めの家だ。

特に、リビングから水場までの距離が少し離れている。

家事としてやっているのは、掃除、洗濯、買い出しだ。

朝、起きてまずやるのは掃除だ。

起きてアインが作る朝食を食べる。一息ついたらリビングから真逆に位置する水場まで、床に落ちた洗濯物を拾い集めながら進む。水場に着いたら、洗面所で顔を洗い、口を(ゆす)ぐ。タオルで顔を拭いたら、風呂の栓を抜く。風呂の水が抜けている間に、水の魔石を動力源とする自動洗濯器にアインと自分の服を放り込み、アイン特性の薬品を計って入れて、水の魔石に魔素を流し、起動させる。起動させたくらいに、丁度風呂の水が抜けきる。こちらはタワシと街で売っている石鹸を使い、丁寧に磨いて行く。浴槽、壁、床を磨き終われば、鏡を雑巾で丁寧に拭き、風呂の掃除は終了だ。

濡れてしまった寝巻きを洗濯物用のバスケットに入れ、すぐ横の箪笥(たんす)から服を選んで着る。そこからリビングまで床のゴミを拾いながら進む。リビングの窓の外にあるゴミ箱に拾ったゴミを捨てたら、庭の倉庫からバケツ1つとモップ2つを取り出す。キッチンにある蛇口から水を出し、バケツを満たす。バケツに洗剤を計って入れる。モップのひとつを洗剤入りの水につけて、ある程度絞り、床を拭いていく。乾いてきたらもう一度つけて、絞る。その調子で床全体を拭き終わったら、今度はもう一方のモップで乾拭きをしていく。乾拭きが終われば、掃除道具を倉庫に直し、洗い終わったであろう洗濯物を取りに行く。バスケットに洗濯物を入れたら、裏のドアから外に出る。出てすぐの場所にある物干し竿に、落ちないように干していく。

洗濯物を干し終わったらアインに買ってきて欲しいものを聞いて、街へ買い出しに出かける。商店街へつくまで、買うものリストを見ながら、買い物のルートを決める。商店街に着いたらルートどおりに、寄り道せず買い物を済ます。ここ2ヶ月、毎日のように来ていたから、俺はすっかり顔なじみになった。「エムリスくんおはよーっ」「今日はうちでは何も買わないのかい?」とか、たくさんの声が同時に聞こえる。俺はいつも適当に返事を返し、はぐらかしている。敬語が上手く使えないため、アイン以外の年上の人間と話すのが怖いというのが本音だ。アインは、「そのうち使えるようになるよ。色んな人と話してごらん。」と言っていたが、そもそも敬語が使えないから話すことが出来ず、無限ループに陥っていた。

家に帰り着くと、買った荷物を整理して、家事が人通り終わったことになる。あとは、夕方に風呂を沸かし、洗濯物を取り込んで畳んで収納するだけだ。大体この一連の流れが終わるのが昼の13時だ。そこから風呂を沸かす19時までの6時間、俺は読書や勉強につぎ込むことになる。

アインから借りた本だが、魔法力学はまだ発展途上に学問だからか、それほど難しくはなく、難なく理解出来た。そろそろ全ての本を読み終える頃だ。問題は物理学の方だ。完成された学問で、読み進めればその分難解になっていく。しかし、ひとつずつ丁寧に紐解き、わからないところはアインに聞いたりして少しずつだが読み進めていけた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


3ヶ月後、つまり、アインに拾われてから5ヶ月が経った、ということだ。

今日は俺、エムリス・アンブローズの12歳の誕生日だ。

アインは、「折角の誕生日だ。今日は家事は全部僕がやるよ」と言っていた。やると言っても聞かないから休ませてもらったが、誕生日といっても、戸籍上の俺の年齢が一つ上がるだけで、俺自身はなにも変わらない。(まぁ、アインがアンブローズじゃ不便だろうと気を聞かせてくれて、戸籍上ではエムリス・オーバンという名前で登録されているのだが。)

むしろこの誕生日という日は、早く自立できるようにならねばという焦燥を感じる日だと言える。

最近になって、俺は物理学の勉強と並行して、無属性魔法の練習をすることになった。

無属性魔法はほかの魔法と違い、攻撃手段が極端に少ない。挙げられるのは、俺が現在唯一使う魔法であるマジックボールくらいである。「魔力を塊にして飛ばす」というのが、無属性魔法での攻撃手段となる。

アインから貰った魔法力学の本を読んで感じたのは、魔力というのは、“物質”ではなく、"力"だということだ。物理学でいう位置エネルギーに似ている気がする。魔力はエネルギーの貯蓄手段ともいえるのだ。

そもそも、魔力というのは、体内に流れている魔素を体の一点に集中させて変換する。つまり、魔素の密度が一定以上を超えると魔力となり、魔法を行使できるのだ。ちなみに、比率で魔力を1作るのに必要な魔素は3だと魔法力学では証明されていた。そして、魔素はどこから来るのかと言うと、自然の大気や地面、草木を流れる生気と、自身の精神的なエネルギー、つまり気力や精神力といった力を練り合わせて作るようだ。人間は、この作業を無意識下でやっているのだが、極限の集中力を維持し、大地の生気を感じ取れるようになれば、理論上は意識的に魔力の回復ができるそうだ。これを可能にしたのが、僧侶などの職業についている人達である。まぁ、かと言って悟りを開こうとは思わないのだが。

ともかく、魔法での攻撃手段がない以上、体術での攻撃ということになる。ということは、1番可能性のある魔法は、強化魔法だった。強化魔法とは、あらゆる力や性質に対して、魔力でブーストをかける魔法だ。力には、「速さ」と「重さ」の2種類の強さがある。物理学で言う加速度と質量がそれにあたる。F=maという公式があるように、力は、このふたつを掛け合わせたものと一致する。大概、強化魔法で力が強化される時、質量の方が強化される。加速度と力が直結するイメージが湧かないからだ。まぁ、どちらを強化しても強化倍率は等しいので、あまり気にされることは無いのだが。

しかし、同時に、質量と加速度を強化すればどうだろうか。力の大きさは二重で強化される。つまり、本来の強化より更に高度な強化が可能になるということだ。


夢が広がる。まだ可能性があった。


俺はその日、無属性魔法の魔法書を読み(ふけ)って、少し夜更かししてしまった。


翌日、眠たい目を擦りながら家事を一通り終え、強化魔法の練習にかかる。

魔法を習得するための第1段階として、魔法式の刻印がある。

魔法式は人体の一部、特に理由がない限り利き腕の手首に刻印するのが普通だ。主な理由としては、人が魔力を練り上げる時、利き手の手の平に魔素を集中させると、一番高効率で練り上げれるからだ。

人間には肉体と精神体から成り立っている。魔法式は、右手首を通して、肉体ではなく精神体に刻印される。

魔法式を使用する際は、精神体から肉体へ情報が送られ、手首から魔法式が浮き出る。やがて、発光しながら手首の周りを回転するように魔法式が浮遊する。詳しくは判明していないが、この現象は、魔法式が身体から外部へ、魔法という手段を通して影響を及ぼすための架け橋となるため起きると考えられているようだ。

ともかく、俺は右腕に刻印を施す。刻印する対象が肉体ではなく精神体なので、痛みはない。変わりに、よく分からない疲れを少しだけ感じる。おそらくこれは、精神体が刻印によって受けたダメージなのだろう。


そして、第2段階。魔法の練習だ。

魔法の発動に必要なのは、イメージだ。しかし、もうひとつ、初歩的な必要項目がある。

それは、魔力の流し方だ。

魔法式に流す魔力。適当に流して発動するなら誰も苦労はしないだろう。

魔法式には魔力の流し方がある。それも、魔力は魔法として発動しない限り目には見えないので、感覚で掴んでいくしかないというわけだ。

俺はとりあえず、家の庭に大きな木の板で的を作り、そこに石を強化魔法を使って投げ込むという練習方法で練習を始めた。

まずは一投。案の定、強化魔法は発動しない。手首に魔法式は浮かび上がるのだが、魔力を流しても文字が浮遊することはなかった。

しかし、想定内だ。魔法式が浮かび上がらなければどうしようかとは考えたが、浮かび上がったということはイメージはできている、ということになる。

あとは魔力の流し方だ。

俺はその日、魔力がそこをつくまで流し方を変えては投げてを繰り返した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


5日後、魔法の発動率が高くなってきた。習得が近づいているのがわかる。

初めて発動したのは2日目だった。

やけくそになって投げた一投だったので、感覚を覚えていなかった。だから、その日はとりあえずやけくそになっていた時と同じ精神状態で投げることにした。

3日目。ついにきちんと発動した。感覚を忘れないように、投げて投げて、投げまくった。

そこから、4日目、5日目の今日まで、順調に発動率が上がっていた。今は9割程度にまで上がっているのだが、いざという命を掛けた場面で、1割を引いてしまったら洒落にならない。完全に習得するまで練習は続行だ。

その日も俺は、的に向かって石を投げ続けた。


俺はアインに恩返しをするためにも、俺を見捨てたアンブローズ家の連中を見返すためにも強くならなければならない。

才能がないなら、頭脳や技術で埋めればいい。

俺はいつになく、希望に充ちていた。

この強化魔法なら、この唯一恵まれた才能を開花させれる気がした。

最近寒いので手が凍えます...w

ブルブルしながら書いてますw

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