13.初クエスト、圧倒。
今回は殆ど伏線とか張ってないので、楽に見てくださいな。
朝だ。
陽は薄く張った雲でその輝きを失っている。
慢心か。それとも嫉妬か。
朝食を済ませ、クエストを受注しにギルドへ。
「あ!おはようございます!早速受けるんですね?」
笑顔で詰め寄ってくるのは先日会話した受付嬢だ。
「ああ。何かオススメはないか?」
「報酬目当てですか?ランク上げ目当てですか?」
「ランクで頼む。」
「やっぱり、そんな気がしました。」
少し笑いながらそう言い、上機嫌で書類を漁っている。
「あ!これなんてどうです?ゴブリンの群れの殲滅です!ランクの変更は、モンスターの討伐によって加点されるポイントなんですよ。ゴブリンはEランクなので、一体2Pですね!」
「ならそれを頼む。」
「畏まりました!」
書類手続きを済ませ、ギルドを発つ。
向かうは王都の外れにある山だ。どうやら一帯がゴブリンの根城にされているらしい。
『よし、久しぶりの戦闘だ。腕は鈍ってないだろうな?マリ?』
『人間の体と一緒にされては困ります。私はいつでもベストコンディションですよ。』
『はいはい。俺も置いてかれないように頑張りますかね。』
マリのことがようやく掴めてきた。話を1でも振れば自分語りが10は帰ってくる。まぁもう慣れたのだが。
『少し、急ぐか。』
整備された道でのみ使える移動法。
【速度強化】+【摩擦制御】ーーー。
『道路滑走、起動。』
『畏まりました。』
周りから見たら地面を滑って移動する変態だが、速い上に体力消費も少ないこの移動法は、今後も重宝するだろう。
作戦を考えながら進み、約30分。
王都の外れにあるその山は、魔物がいるとは思えないほどの壮々とした森林だった。
「よし。」
魔力も然程消耗していない。
【自動強化】・【音響探知】、起動ーー。
一気に片付けてしまいたい。大きな音を立てておびき寄せる。
周りにいるゴブリンを、強化した斬撃で樹木ごと切っていく。
木の倒れる轟音と、ゴブリンの断末魔、危険を知らせる鳴き声が山のゴブリンを一点に集める。
「まだだな。少し時間を稼ぐか。」
ゴブリンが集まるまで少し逃げる。木の枝を飛び移り移動し、探知で見つけた開けた場所へ向かう。
山の中腹に、大きな木が見える。そこを中心に、半径10mは樹木が無いようだ。
大きな木の上に隠れ、自身から出る音を弱化し、気配を消す。
アインからもらったミスリルソードには、少し細工がされている。マリの鑑定によって分かったのだが。【魔力蓄積】という性質が、剣の唾についている宝石によって付与されているようだ。
アインは教えてくれなかったが、恐らく、自分で気づけると思っていたのだろう。
この性質は、その名の通り、魔力を一定量、一定時間剣に流し込んでおける能力で、魔力を含んだミスリルソードは硬質化し、魔力を斬撃として飛ばすことができる。
急に流し込むと剣が痛むので、ある程度クールタイムのある技だ。
『マスター、魔力蓄積上限まで、残り7%です。』
マリがアナウンスしてくれた。
『お、そろそろだな。』
ゴブリンもいい具合に集まってきている。
動体反応は全てで36。つまり、全部で36体のゴブリンが集まっているということだ。
弱化を解除し、木の上から飛び降りる。刹那、音に反応したゴブリンは一斉に飛びかかる。
「さぁ、躱すなよ?」
【臨界弱化】ーー。
ゴブリンの動きが空中で止まったように鈍る。
『マスター、魔力蓄積上限です。』
『ああ、分かってるさ。』
柄に手をかける。
アインが使っていた技だ。そんな技のあらゆるパラメータを強化した斬撃は、ゴブリンには勿体無いくらいだろう。
手は、抜かない。
【居合−刃嵐・極】
嵐のように舞うその一閃は、ゴブリンの肉体を容易く裂き、大木をも斬り伏せる。
断末魔も上げれずに二つになるゴブリンは、抵抗も出来ずに死を噛み締める。
木の倒れる音だけが響くその森の中腹で佇むは、英雄の面影ただ一つ。
大きく息を吐いて呟く。
「剥ぎ取りしたら帰るか、マリ!」
『仰せのままに、マスター。』
昼下り、山から降り、王都へ戻る。
背中は広く、歩みは強く。
乱流する悪意の渦。
乱れ舞う刃の嵐。