12.新たな出会い
色々伏線張りながら書くのは思ってたより辛い。。
これからも何卒よろしくです!
ライゼは王都から少し外れた街で途中下車した。
「じゃあな、。名前は覚えておいてやるよ。只でさえ俺は記憶力が低いんだ。後悔させんなよ。」
上がった口角と、何かを期待したような視線を俺の脳裏に焼き付けて。
今度は一人。
電車に揺られる。
外れかかった窓から流れ込む心地よい朝の風。
遠く。しかしながらも目に見える場所で佇む王都。
向かいの窓から刺す陽光。
早起きが災いした眠気。
…………。
暗中、響く声。
どこか活気立ったような、懐かしいような、そんな声。
「…い、あ…!おい…!」
眠ってしまっていたことを自覚する。
乗っていた筈の電車の揺れは感じない。
耳に意識を傾ける。
「おい!アンタ!もう終点の王都だぞ!!車庫で寝泊まりでもしてェってのか?」
いたのは中性的な顔立ちをした冒険者(?)のような少年?少女?
…。
回らない思考で問う。
「ん…あんた…誰だ?」
「ンなこたァ後にしな。もう王都だぞ。…ったく、寝落ちするンなら始発なんか乗るなッてんだ。」
「すまない…感謝する…。」
「さァ、降りるよ。荷物持つの手伝ってやるからよ。」
「ありがとう。」
漏れ出る欠伸を堪えながら。
濡れた目尻を拭いながら。
俺とその子は降車し、駅を出て、ベンチに腰掛ける。
「本当にすまないな。ありがとう。助かったよ。」
「いいってことよ。冒険者なんだろ?後輩の面倒を先輩が見ずに誰が見るってんだい?」
「君も冒険者なのか?」
「そうだよ。ってかなんだい?"君"って。私にはウールヴって名前があんだけど?」
「そうか、すまない。ウールヴ。改めて聞くが、王都の冒険者なのか?」
「ああ。アンタより一個上の世代だと思うよ。アンタ、今年試験に受かったんだろ?」
「その通りだ。」
「なら、街から出てきて右も左も分かんないだろ?アタシが案内してやるよ。まずはギルドに登録だな。書類は街の管轄のギルドから貰ってるだろ?」
「この封筒か?」
「ああ、それだよそれ。じゃあ、王城門前にある冒険者ギルドに行こうか。」
「ああ、案内、頼む。」
「任せな。しっかり送り届けてやるからよ。」
他愛無い話をしながら、ギルドへ向かう。
突如浮かぶ疑問。いや、元々あった疑問。今になって脳裏を離れない疑問。
そう。ウールヴの性別。
罪悪感に駆られながらも、好奇心は止まろうとしない。
『マリ、久しぶりの仕事だ。ウールヴに対し鑑定を。』
『いいんですか?マスター。戦闘には全く関係無いのですが…』
『真正面から聞くわけにもいかないだろう。』
『仕様がありませんね…』
数秒。
頭に流れ込む情報。
ーーーーーーーーーーーーーー
種族名:不明(獣人に近い傾向あり)
個体名:ウールヴ(姓は不明)
年齢:18
性別:該当無し
適正属性:魔力が見られないため不明
使用魔法:不明
特殊技能:保護系統の能力と推測。
ーーーーーーーーーーーーーー
え?
は???
男でも女でもなく、解析の結果が示したのは、"該当無し"だった。
だが。だからこそ、気になる。
とても気になる。
勇気を振り絞り口を開く。
「ウールヴって...性別どっちなんだ?」
「ん?気になるかい?一応女だよ。あと、あったその日で聞いてきたのはお前が初めてだよ、遠慮ないねぇ。」
揶揄うように答えるウールヴ。
対する俺の好奇心は止まらない。
「一応って…どういう意味だ?」
「なんだかよ、アタシの一族は代々神獣と契約してその力を少しだけ借りて戦ったり生活したりする一族なんだが、アタシはその神獣の加護が特別強いらしくてね。身体に神獣の特徴が反映されちまってるのさ。無性もそのひとつってわけさ。」
「なるほどな…スッキリしたよ。」
「ならよかったよ。ところで、もうすぐギルドにつくんだが、その前に、アタシのオススメの宿に行くかい?」
「いや、ギルドが先でいい。封筒が大きくて邪魔だしな。」
「へェ…封筒が、ねぇ…」
そう言いながらギルドへと案内してもらう。
「ここだよ。」
そう言いながらウールヴが指差したのは、元いた街のギルドの5倍はありそうな、大きな施設だった。
「デカい…」
思わず口に出る陳腐な感想。
「だろ?アタシも始めてきたときはびっくりしたさ。」
ウールヴは、そう言いながらズカズカと中へ踏み込んでいく。
建物の中は、数多くの冒険者で賑わっていた。
飛び交うは武器の自慢、酔った男の妄言。その他諸々の野次馬。
「アタシはアンタのこと報告するついでに、受けてたクエストの達成報告してくるから。」
そう言い、ウールヴは人混みの中へ消えった。
遠く、人壁の向こうで受付と何やら仲良さげに話している。蚊帳の外の俺は話の終わりを待っていた。
数分。
何かを思い出したように会話をブツ切りにし、こちらへ歩いてくるウールヴ。
「お、アンタ、すまないねぇ。今回のクエストの話が盛り上がっちまってよ。ホラ、話は通しといたからアタシが話してた受付嬢んトコ行きな。」
「分かった。ありがとう。」
「いいってことよ。」
背中を押され、受付まで歩を進める。
「あなたがエムリスさんですね?話は聞いています。預かってらっしゃる封筒の提出と、こちらで用意させていただいた書類への押印をお願いいたします。」
「あ、ああ。ありがとう。」
「こちらこそいらしてくださりありがとうございます。ギルドカードは次回のクエスト受付時にお渡しするので、今日はもう大丈夫ですよ。健闘をお祈りしています。」
「ああ。これから世話になる。よろしく頼む。」
「こちらこそ、また何か困ったことがあれば聞いてくださいね!まぁ、ウールヴさんは面倒見の鬼なので全部私の役目奪っちゃうと思いますけど。」
少し笑みを浮かべながら言う。
ウールヴは何かを察したような顔で此方を見ている。
ギルドを出てからは、ウールヴに冒険者ギルドと提携している宿屋を紹介してもらい、晩飯まで奢ってくれた。
受付嬢が言っていた"面倒見の鬼"という単語を噛みしめながら施しを受ける。
「今日は色々ありがとう。」
「なァに、いいってことよ。ま、そのうち仕事で一緒になるだろうし先行投資さ。なんならパーティでも組むかい?アタシゃ大歓迎だよ?」
少し酔ったウールヴは軽はずみに言う。
「ありがとう。だが、冒険者の勝手が分かるまでは一人でやるさ。また慣れてきたら此方からお願いするよ。」
「お、嬉しいねぇ。頑張りなよ。アタシも腕上げとくからさ。」
そんな会話を最後に、俺は宿に戻った。
すっかり日が傾いた王都は、街とは違い、少し落ち着いていた。
始まる冒険に胸を躍らせ歩く。
足取りは何処か、力強く。
王都にきて始めて出会ったウールヴさん。物語の最後まで重要なキーパーソンです。