光の母の墓参り(1)
渋谷駅一帯爆破計画や様々な大テロを未然に防止した後は、実に平穏な日々になった。
光は、音楽部での、マーラー第二交響曲「復活」の練習や、音大コンサートで演奏するドビュッシーの練習に精を出している。
また、春奈と部屋を変わったルシェールも、実に丁寧に光を支えるので、「皮肉タラタラ系」の春奈さえ、何も文句を言えない状態。
また、華奈をはじめとした候補者をあきらめない巫女たちも、ルシェールの奥深い力には、感心するしかないようで、いさかいも何もない。
さて、そんな平和な日々が続く日曜日、光は珍しく早起き。
朝食が終わると、一人で出かけるような雰囲気を見せる。
するとソフィーがいつもの、キツ目の口調。
「ほら!勝手に出かけない!」
「政府の警護もあるの!しっかりなさい!」
光は、面倒そうな顔。
「母さんの墓参り」
とそれだけを言う。
光としては、自分だけで行きたいらしい。
春奈がソフィーをたしなめる。
「ソフィー、光君のお母さんに対する気持わかるでしょ?」
「あまりゾロゾロ行くものではないよ」
光は、哀し気な顔になった。
「プロの演奏家になるから、墓前で手を合わせたかっただけ」
「そういう言い方は、嫌だ」
ソフィーは、「うっ」と言葉に詰まる。
何しろ、光がこれほど「嫌」と言う言葉を、はっきりと口に出すことはない。
そして、ウカツにも光の気持を読み切れなかったことに、実に反省しきりになる。
他の巫女たちも、どうにも対応ができないなか、ルシェールが場を収めた。
「ねえ、光君、他の巫女さんもご挨拶したいと思うの」
「それはわかってあげてね」
「ここのお家に住まわせていただいているお礼もしたいの」
「みんなで、光君を守りたいって、言いたいし」
「光君に迷惑をかけないように、いつもの大騒ぎもしません」
光も、ルシェールに、そう言われては仕方がなかった。
「わかった、じゃあ、お母さんの墓前に全員でご挨拶しよう」
ルシェールは、ここでまた機転をきかす。
「お線香も華やかな香りのもの」
「お花も新鮮でお母様が好きな花を」
光はようやく笑い、ソフィーは下を向く状態。
由香利も価値ある提案。
「御墓の掃除もしたいね、草が生えている場合もある」
由紀も続く。
「お水をかけてあげて、きれいにしてあげたい」
華奈はウルウル。
「素敵なお母様だったもの、憧れてた」
柏木綾子
「私こそ、ここの家の新米、しっかりご挨拶しないと」
外国人巫女たちも、興味を持ったようだ。
キャサリン
「いい話、ホッとする」
サラ
「大切なこと、先祖があって私たちがいる」
春麗
「ピカピカに磨きたいなあ」
ソフィーは下を向き、タブレットで政府の車の手配をしている。




