渋谷駅上空の神霊たちの会話
混乱の度合いを深める道路状況に続いて、渋谷駅を通過する全ての鉄道に異常が発生した。
まずは、各電子掲示板が全て消え、真っ黒の画面と化した。
続いて、山手線、京王井の頭線、東急線他、地下鉄も含めて、全ての車両が停車したまま発車することが不可能。
駅員も原因が全くわからず、乗客も苦情や抗議をするけれども、どうにもならない状態。
その次には、エスカレーターとエレベーターが、全く稼働しなくなった。
そのため、乗客も駅員も、長い階段を苦労しながら地上めざして、のぼるしかない。
最後は駅全体の停電が発生。
駅構内の各種店舗は、とても営業などは不可能な状態となった。
その混乱を極める渋谷駅の上空に、大きな白い雲が浮かんだ。
その雲の上には、天使長ミカエルと二体の異形が立っている。
天使長ミカエルが、頭を低くして、二体の異形に声をかける。
「ありがとうございます、大国主命様、そして少彦名様」
大国主命と呼ばれた異形は、頷き、少し笑う。
「ああ、将門に頼まれてな、こういう電子は我々にとな」
少彦名と呼ばれた異形は胸を張る。
「我が神田明神は、電気通信の神でもある、見過ごすわけにはいかない」
「秋葉原にも氏子が多い」
その雲の上に、羽を生やした大天使ガブリエル姿のソフィーが降り立った。
「光君、つまり阿修羅様は、その邪霊に操られた電気通信の発信元を突き止めることが、第一と申されておりました」
天使長ミカエルが頷く。
「確かにその発信元からの通信を遮断しない限り、混乱は続く」
「混乱が発生すれば、それを後追いで修復するしかなくなる」
ソフィーは雲の下を見下ろす。
「植え込みに小さな赤い点滅が無数に見えます」
「おそらく無線電波の遠隔操作で、爆発を仕掛ける意図」
「交通事故、渋滞、異臭、鉄道システムの停止で大混乱で、身動きが出来ない群衆を、無差別大量に殺戮することが出来ます」
「今は、寒川神社の災難封じの護符で、人的被害を最小限に抑えている状態なんです」
地上を監視している雲に、また大きな白い雲が寄り添いはじめた。
ソフィーが、少し笑う。
「雲の上には、八部衆の神々」
「お地蔵様もおられます」
大きな白い雲同士が結合した。
そして、地蔵菩薩が、柔らかな声。
「これはこれは、皆様、地蔵にございます」
「今まで、調べておりましたが、ほぼ、邪霊の発信元は確定いたしました」
そして、少し厳し気な声に変わる。
「発信元は市谷、発信者も当然、市谷におります」
「旧日本軍兵士の成仏できない邪霊に取りつかれているようです」
「米軍に恨みを持ち、戦後日本の体制に納得できず、ただ混乱を巻き起こしたいと言うよりは、平和に生きる現代の日本人が、憎らしくて仕方がない」
「だから、大テロを起こして、大量殺戮を実施」
「その後、警察内部と自衛隊内部に、築き上げた革命に賛同する仲間を集めて、クーデターを決行、そのまま政権掌握」
「政権掌握後は、大日本帝国憲法を復活、戦前の体制に全て戻す」
地蔵の声が、哀し気に変わる。
「確かに、手ひどいことを味わった男なのですが」
地蔵は、ソフィーに後の説明を促すようだ。




