ソフィーの愚痴、春奈の慰め。光の珍しい慰めと、いつもの無粋。
丸の内のビル捜査、大量逮捕の後は、特に目立つような動きはない。
また、坂口氏の目黒事務所や自宅付近をうろついていたヤンキー風の若い男たちも姿を消している。
ソフィーは、表情を緩めない。
「捜査の進展を見ているだけ、いつかはコトを起こす」
「丸の内で捕まった所轄の警察官なんて、実に小物」
「数十万のパチンコ借金を振り込め詐欺で弁済、それで図に乗っただけ」
「後は芋づる式に、その親分までたどればいいけれど、なかなか自分がメインと言い張り口を割らない」
「どう考えても、あの小物の警察官の器量で、そんな大事を起こせるわけがない」
ただ、ソフィーや捜査の進展状況がそうであっても、次の事態が発生しない限り、大掛かりな作戦もできない。
光と巫女たちには、しばらく平穏な日々が続いた。
そんな平穏な日々に異変が発生したのは、まず銀行口座の調査からであった。
額にして数十億の残高の中から頻繁に億単位で振込決済が行われていることから、調査を進めたところ、資金使途が純金の購入資金、海外タックスヘイブン地への送金がほとんど。
名刺があった政治家への政治献金もあった。
ただこの政治資金の領収書はあるものの、政治資金報告書には記載がない。
家に戻ったソフィーが実に嫌そうな顔で愚痴を言う。
「かなりな、捜査妨害がある」
「左派系、調査のために事務所に行った刑事に居留守をつかわれる」
「たまたま丸の内の犯罪事務所にあった名刺を利用して、政治活動の自由を侵害するとは何事かと逆切れ」
「左派系のマスコミを総動員して、反政権キャンペーンを張るとか」
「国会前で大デモを何日でも行うとか」
「全ての鉄道系労組に指示して何日でもストを行う」
「他人の政治資金報告書の虚偽記載には目くじらを立てて批判するのに、一旦自分に発覚すると知らぬ存ぜぬと言い張る」
その文句を言うソフィーを春奈が慰める。
「まあ、仕事とは言え、大変なことはわかるよ」
「それでも、確証があっても、無いと言うのが政治家」
「余程追い詰められても、政権側の陰謀とか、陥れられたと言うのが政治家」
「自分の非を言うのは、選挙で落選した時くらい」
「あれだって、自分で考えた言葉はない、定例文を読んでいるだけ」
光も珍しくソフィーを慰める。
「大丈夫だよ、八部衆の仲間も、あちこちで見張っているしさ」
「少しでも変な動きがあれば、すぐに連絡が来るようになっている」
「信じていいよ、ソフィー」
ソフィーには、春奈の慰めよりも、光の慰めのほうが格段にうれしかったようだ。
その顔に満面の笑みを浮かべて、光にスリスリピッタリを試みるけれど、やはりソフィーのイメージとは異なるようで、光は無情にも、クルリと背中を向け、サラに声をかける。
「ねえ、サラ、マルタ島がタックスヘイブンだよね」
サラは、久しぶりに光に名前を呼ばれ、実にうれしい。
「はい、おまかせ、たくさんの知りあいがあります、内偵なんてお手のもの」
「ついでに風光明媚、食べ物美味しい」
「一度は光君と、婚前旅行・・・うーん・・・そこで愛の交歓をたっぷりと・・・」
ムッとした顔でサラを見つめる巫女たちはともかく、光は実に興味深そう。
「そうだねえ、連休でも利用して、行けないかなあ」
「サラ、案内してくれる?」
ただし、その光の頭上では、ソフィーの「お怒り拳骨」が、打ち下ろされる寸前になっている。




