表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/303

方丈記を読み始める光と巫女たち

さて、光は華奈に音楽史と音楽理論の入門書を探し出し、渡した後は、すぐに自分の読む本を探し出す。

華奈が光に質問する。

「ねえ、光さんは、何の本を読むの?」

光は、実に素直に応える。

「えっとね、賀茂の神社に行くから、方丈記を読みたくなった」

すると華奈は、ますます光にスリスリ。

「じゃあ、私も一緒に読んでいい?」

何のことはない、せっかく探してもらった音楽史と音楽理論の本を読むのではなく、ただ光にピッタリと寄り添うという気持ちが先に立つ。


その華奈を、伊勢の巫女の大先輩由香利がたしなめる。

「ほら!何のために音楽史と音楽理論の入門書を探してもらったの?」

「華奈ちゃん、同じ大学に入ろうとする決心はどこにいったの?」

「今のままでは無理でしょ?まあ、私にはどうでもいいけどさ」


華奈は、一瞬にして顔を下に向けるけれど、簡単には引き下がらない。

「うん、わかった、光さんに紹介された本を読む、でも光さんの隣で読む」


そんな一悶着があったけれど、光にとっては誰が隣に座ろうと、どうでもいいこと。

鴨長明の名著、方丈記の冒頭から読み始める。


「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」

「淀みに浮かぶうたかたはかつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」

「世の中にある、人と住みかと、またかくのごとし」

「たましきの都のうちに、棟を並べ、甍を争へる、高き、卑しき、人の住まひは、世々を経て尽きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり」

「あるいは去年焼けて今年作れり。あるいは大家滅びて小家となる」

「住む人もこれに同じ。所も変はらず、人も多かれど、いにしへ見し人は、二、三十人が中に、わづかに一人、二人なり」

「朝に死に、夕べに生まるるならひ、ただ水の泡にぞ似たりける」

「知らず、生まれ死ぬる人、いづかたより来たりて、いづかたへか去る」

「また知らず、仮の宿り、誰がためにか心を悩まし、何によりてか目を喜ばしむる」


その光が方丈記を読んでいる姿は、実に巫女たちには、様々な思いを起こさせるようで、「うるさくしないで」と言われているので、口にはださないけれど、テレパシーなどで相互に会話をしながら、少しずつ光に近づく。


春奈

「無常観とか浄土思想が素晴らしい名文で書かれていて、現代語訳などはいらないね、光君も無常観に興味があるのかな、浄土思想は詳しいのは知っている」

ソフィー

「下鴨神社に鴨長明ゆかりの河合神社がある、希代の名文と思うけれど、光君の心の奥は・・・うーん・・・」

ルシェール

「光君の顔が、少し寂し気で、厳しさもある」

由紀

「光君の心の中に、賀茂川の流れが見えるよ、本当に様々なものが流れている」

由香利は、哀し気な顔。

「方丈記が書かれた時代は、源平の騒乱やら大飢饉やら、火事も多く京の街は悲惨な状態、夥しい死体は道端や河原に打ち捨てられ、人や馬や車の往来にも支障をもたらし、その異臭が街に充満」

柏木綾子も読んだことがあるようで、哀し気。

「日本語で書かれた文で、これほど端的に厳しいことを書いたものは知りません、まさに生き地獄の描写もあります」


キャサリンは、スッと光の隣に座る。

「うん、私も読みたくなりました」

サラは仕方なく、光の前に座る。

春麗も無言で同じ動き。


結局、光は、巫女全員に囲まれてしまったようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ