京都行きを喜ぶ巫女たちと、不安、光の不謹慎な発言。
由紀の「京都行き」の提案に賛成したのは、光だけではなかった。
全ての巫女たちが「賛成!」と騒ぎ、万歳までしている。
嫌みと皮肉が最近定番の春奈も、顔が柔らかい。
「そうかあ、下鴨神社、上賀茂神社かあ、賀茂の斎院、葵祭の時期ではないけれど・・・いいなあ・・・」
ソフィーもうれしそう。
「奈良ばかりだったなあ、たまにはいいなあ、行きたいところも多い」
由香利は、他にも具体的な場所をあげる。
「大原も歩きたいな、寂光院、三千院、しば漬けも食べたい」
ルシェールは目が輝いている。
「そうねえ、光君と腕を組んで祇園もいいね、和服着てみたい」
柏木綾子も興味津々。
「あまり行ったことがなくて・・・信州の山は多かったけれど、京都は憧れです」
キャサリンは再びその背筋を伸ばす。
「そうですね、下鴨神社参道は糺しの森と言われ、背筋を伸ばし邪気を退ける場所、それには行かねばなりません」
サラは、また少し違う。
「京都と言えば、日本料理の名店が多い。せっかく日本にいるのだから食べ歩きもしてみたい」
春麗は目が輝き続けている。
「中国由来のお寺もあるしね、黄檗宗のお寺もある、これは訪ねてみたい」
「普通の禅寺の精進料理とは違うものを出して、面白いの」
さて、盛り上がっている巫女たちの中、華奈も一応は盛り上がったけれど、「やや心配なことがある」様子。
声を低くして話し出す。
「確かに京都は生きたいんだけどさ・・・例のさ・・・わかるでしょ?」
「奈良から特急で35分で来ちゃう人」
「その人」については、他の巫女は、即理解、顔に再び緊張が走る。
春奈
「・・・あの大食らい?食べることと文句には誰もかなわない」
ソフィー
「あの子は、普通の就職をするべきではない、そのままフードファイターでいい、今のままでも世界一だ」
由香利
「まだ秋の初風程度だけど、もう冬眠に備えて食べ始めるのかな」
由紀
「でも、その備えでの大食は年中無休だよ」
ルシェール
「マジ、あの子のことを考えるだけで、頭が混乱する」
柏木綾子も震えだした。
「実に怖そうな人だ、京都行きには耳栓が必携だ」
キャサリン
「確かに危険な大声、脳髄を破壊する」
サラ
「宇宙まで届くかも、あの暴言」
春麗は、震えだした巫女たちを抑える。
「ねえ、あの子、きっと聞いているって・・・そういう聞耳はすごいよ」
「何も考えず、スルーしたほうがいい」
ただ、光には、そんな怖れなどは、何も無い。
またしても無粋にして、不謹慎極まる言葉を放つ。
「ねえ、みんな楓ちゃんのことを言っているの?」
「そんな大丈夫だって、料理を懐石って言えばいいだけだよ」
「楓ちゃんは、質より量のタイプなの」
「だから、懐石と言えば絶対に来ない」
「カツ丼大盛とか言うと来るかなあ、だいたいそんなもの」
その光の言葉が終わった時だった。
誰も操作をしていないのに、リビングの壁に大型モニターがスルスルと降りてきた。
そして、そのモニターの画面には、顔を真っ赤にした楓が大写しになっている。




