竜輝の父の評判 光の不思議な予言
竜輝の怪我に立腹して、大学に向かって来るという竜輝の父、テレビ局大幹部に対する音大生のヒソヒソ声が聞こえて来る。
「マジで親馬鹿」
「自分の息子を演奏会に出したいから、スポンサーになったんでしょ?」
「でもさ、ただの派手好きってだけで、竜輝って聞くに堪えない」
「学長が演奏会に出すと、音大の恥って言うのも、当然」
「でもさ・・・竜輝も、あの親もそうだけど、絶対に自分の非を認めないよね」
「あの局は、誤報しても、なかなか謝らない」
「逆切れして、正当な取材だったと言い張る」
「殺人事件の被害者が出た場合に、嫌がる被害者の家族まで取材に引っ張り出そうとして、泣かせたとかさ」
「テレビ画面に映っているのに、貴方は報道の自由を侵害しているって、被害者の家族を叱る」
「それを当然として、弁護するあの局のワイドショーのコメンテーターたち」
・・・・様々、多すぎるので省略。
さて、そんな連絡は少しは聞いているらしいけれど、光は全く興味が無い様子。
小沢と内田、学長に頭を下げ、
「そろそろ、帰宅してもよろしいでしょうか」
とのお願い。
このお願いに対しては、音大側は本来は、拒絶はできない。
そもそも、光は入学前でもあり、音大の支配下にあるわけではない。
今回の演奏も、音大側からの要請で実現したものであるし、竜輝の怪我にしても、小ホールの階段を理由とする以上は、光とは無関係。
学長が結論を出した。
「わかりました、光君、演奏会には素晴らしい演奏を期待します」
「本日は、本当にありがとうございました」
また、光に変えられてしまう小ホールの音大生たちも、留めることなどは同じくできない。
それでも、声がかかる。
「また、いつでも来てね」
「毎週でもいいかな」
「楽しみにしている」
音大生たちも、竜輝の親への不安は、あるものの、光に対応を求めるのは、全く筋違いであることは、よくわかっている。
ただ、光は、帰ろうとして歩きだす前に、不思議な一言を放つ。
「大丈夫です、先生方」
「竜輝って人の親御さんのことを心配しているようですが」
光の意外な言葉に、学長、小沢、内田の表情が変わる。
光は、そのまま、また不思議な言葉。
「そもそも、ここまで来れるかどうか」
「もしかすると、何かトラブルが発生したかも」
そこまで言い終えて、光と由香利の父、そして巫女集団は一斉に小ホールを出て、音大も出ていってしまう。
不安と不思議な気持ちに包まれる音大サイドに、音大事務員から信じられない連絡が入った。
「竜輝の父の乗ったテレビ局の車が、首都高を暴走、無理やりのあおり運転を繰り返していて、ハンドルを切り損ねて、壁に自損事故だそうです」
「幸い、一命はとりとめているようですが、警察官にあおり運転を指摘されても、前の車がトロ過ぎると抗弁、おまけに警察官につかみかかり、公務執行妨害で逮捕されたようです」
「自業自得だよ、そんなの・・・でも・・・光君、どうして?超能力者なの?」
その事務員の連絡を聞いた小ホール全体に、安堵感と不思議感が漂っている。




