光の提案と華奈の不安
少し難しい顔をして考え込んでいた光は、ようやく口を開いた。
そして巫女全員の顔を見回してから、大型モニターの圭子に話しかける。
「圭子おばさん、やはりね、学園のオーケストラになると、技術的に難しいと思うんです」
「それで、僕と巫女さんたちが、奈良のオーケストラに加わる方が、学園のオーケストラに負担をかけないですむ」
「それと由紀さんと由香利さんは、オーケストラではないので、アンコールで同じイギリスの曲の威風堂々などを演奏して、その合唱に加わってもらったらどうかなあ」
「何しろ学園のオーケストラは、マーラーの復活交響曲の練習で大変なので・・・」
その光の意見は、光と一緒にいる巫女たちには、ほぼ妥当と思われたようで、誰も反論する人がいない。
春奈はニンマリ。
「うーん・・・そうなると私は、オーケストラでないから引率かなあ」
ソフィーも頷いている。
「警護対象の人数は少ない方がいい」
音楽部員でない合唱部の由紀と由香利は、顔を見合わせてニッコリ。
由紀
「星空の下で、御仏を拝みながら惑星を聴き、威風堂々を歌う・・・これはなかなか・・・いいなあ・・・」
由香利
「うんうん、さすが私の光君だ、なかなか成長した」
キャサリン、サラ、春麗は何の異論もないらしく、ただニコニコとしているだけ。
また、柏木綾子は、光の家のアパートに住んで間もないので、少々遠慮しているのか、発言は控えている。
ただ、そんな巫女たちの中で、華奈だけが反論はしないけれど、不安顔。
「惑星って・・・難しそう・・・学園のオーケストラならミスしてもそれほど恥ずかしくないけれど・・・知らない人の中に入って・・・下手って思われるのがなあ・・・メチャ恥ずかしい・・・うーん・・・マジやばいかも・・・復活だって、上手に弾けてないし」
そんな巫女たちの様子を見ていた圭子が頷く。
「そうね、一部不安なのは華奈ちゃんかな、でも全体的にはOKだね」
「でも、光君の言うとおりだね、そのほうが現実的」
「その線で話を進めます」
すると光が、華奈の顔を見た。
そして、やさしげな口調。
「華奈ちゃん、大変だったら、無理しなくていいよ」
「都内に残ってもらってもかまわないしさ」
「復活の練習に専念してもらってもいい」
しかし、その光の言葉の途中から、華奈は大粒の涙。
「・・・私なんか・・・いらないっていうの?」
「私だけ、都内に残れってこと?」
「光さん・・・ひどすぎる・・・」
やさしい言葉をかけたと思っている光は、どうしたらいいのかわからない様子。
「うーん・・・華奈ちゃん、心配そうだったし・・・」
他の巫女は、全員「やれやれ・・・」というような呆れ顔。
春奈は、途中から何も聞いていない。
「まるでガキ・・・下手なら真剣に練習すればいいでしょ?」
ソフィーも同様。
「美紀さんも嘆いていたよ、文句ばかりで努力がないって、行き当たりばったりで・・・ってね」
さて、そんな面倒な雰囲気に包まれていた光と巫女たちの雰囲気が突然、変わった。
大型モニター画面に映っていた圭子の後ろに・・・あの楓が姿を見せているのである。