光が突然弾きだした曲と、周囲の思い。
光が弾きだした曲は、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」だった。
最初の極めて小さな音のフレーズから、小ホール全体の緊張がほどけた。
「はぁ・・・落ち着いた・・・」
「きれい・・・キラキラと・・・」
「心が洗われるな」
「光君は、いい子だなあ」
小ホール全体が、ようやく落ち着いた頃、曲も終わった。
光が恥かしそうに立ち上がって、客席に向かうと、全員が立っての拍手。
すると光は、その顔を赤くして、深くお辞儀。
少し元気になった音大生たちから、いろんな声が光にかかる。
「ありがとう!光君」
「落ち着いた!」
「竜輝をやっつけてくれた」
「もう、高校なんていいから、明日からおいでよ」
「そうだよ、ピアノ聴かせて!」
「うん、私とデュオしてよ」
「土日空いている?そしたら毎週、おいで!」
「その後デート!」
特に光には、「意味不明な声」がかかるけれど、巫女たちもいろいろ。
春奈
「せっかく嫌なことの後で、ホールを鎮めたのに、また面倒だ」
ソフィー
「官邸だけに動画送った、官房長官が大笑いしていた、さすが光君ってね」
「テレビ局の親御さんには、事情を詳細にした警告書付動画」
「他のマスコミには、あほらしすぎて送らない」
由香利も納得。
「光君が目力で転倒させただけ、そんなのわかる一般人はいない」
「でもなあ、ああなると同じ大学だし、光君を警護する必要があるな」
華奈は、その由香利に文句を言う。
「いいですか?私が妻なのです。決してフラチな真似は許可しません。手を握ることも却下します」
由紀は、その華奈に苦言。
「ねえ、その妻発言、やめて。それ言う前に、せめて呪文とヴァイオリンの練習しなさい、今のままでは絶対に奈良に行っても足手まといだよ」
華奈は、「何もそこまで・・・事実だけど・・・」と潤んでいる。
ルシェールは、久々に得意満面。
「ようやく、本当の妻の出番だね、夫のピンチを救う」
「足を引っ張るだけの誰かとは大違いさ」
何気なく華奈を刺激するけれど、華奈は一言も反論できない。
柏木綾子は、この時点で気持ちを固めた。
「明日からピアノレッスンしよう、私も気合入れて音大を目指す」
キャサリンは、自信満々。
「ふむ、オーケストラに入れば、また光君の指揮か、ピアノとトランペットのデュオもあるし、ジャズもいいかも」
サラも笑顔。
「弦楽器の原点は、ギリシャとか中東が起源、本物のチェロを聞かせてあげる」
春麗は周囲を見回す。
「まあ、私が本気になれば。相手にならない、せいぜい、ここの巫女さんたちと光君、でも華奈ちゃんは例外かなあ」
さて、光がピアノを離れて、ステージからおりようとすると、また小沢先生から声がかかった。
「もう一曲、試してみたい、室内楽だけど、シューベルトだよ」
光は、シューベルトの時点で、顔が輝いている。




