音楽大学の廊下にて
光たちの一行は、音楽大学に到着した。
その玄関には、大指揮者小沢と内田先生が待ち構えている。
由香利の父が光に声をかける。
「光さんは、先生方のところへ」
「巫女様たちは、俺と由香利が引き受けます」
光は、ホッとして「それではお任せします」と、キャデラックを降り、そのまま大指揮者小沢と内田先生の待つ玄関に向かった。
玄関につき、光は小沢と内田に頭を下げる。
「小沢先生、内田先生、曲を決めるのに時間がかかって申し訳ありません」
大指揮者小沢は、笑顔。
「いやいや、決まってよかった、まさかドビュッシーとは思わなかったけれど」
内田先生も笑っている。
「うん、意外だった」
「でも、光君のお母さんも得意な曲だった」
「子供頃から聴かせてもらったのかな」
大指揮者小沢も何か思い出したようだ。
「しっとりとしたドビュッシーだったね、心に響く」
光は、大指揮者小沢に尋ねた。
「今日はレッスンもしていただけるのでしょうか」
すると小沢は含みのある笑顔。
「そのまま、ステージに向かう」
「小ホールのステージだけど、ピアノソナタだから」
内田先生が、小沢を補足する。
「レッスン室だと、聴きたい学生や先生までが、廊下に群がるからね」
少し「いきなり?」のタメライを見せる光の背中を小沢が叩く。
「大丈夫、力を見せつけて欲しいんだ」
内田先生は、それに頷き、もう一言。
少し真顔で、光に。
「実は光君の力を見せつけたい人たちがいるの」
光は、「そう言われても」の顔になるけれど、小沢と内田は、どんどん廊下を歩いていく。
その光が廊下を歩きながら、あちこちを見ると、様々な楽器を持つ学生が多く歩いている。
光は思った。
「音楽大学かあ、ここに何年か通うのかな」
「そんな先のことはわからないけれど」
「・・・それにしても、性格が強そうな人が多いなあ」
「やはり芸事に取り組む人は、自分が第一になるのかな」
「他人を蹴落としても、演奏とか他人に芸を披露する場所を求める」
また、光の耳に、ヒソヒソと、しかも善意ではない学生の声も入って来る。
「ねえ、あの男の子、メチャ可愛いけれどさ、ルックスで勝負タイプ?」
「小沢先生と内田先生の超大物を、ルックスで引きつけただけだよ」
「まあ、人寄せパンダくらいにはなるかなあ」
「実力よりルックスの時代だもの、ショービジネスだしね、音楽も結局」
「いいよ、すぐに馬脚をあらわすに決まっている」
「そしたら、メチャクチャいじめればいいだけ、そしてつぶれるのも時間の問題」
「まったく先輩の私たちをさておいて、勝手に小沢先生と内田先生に取り入るってどういうこと?」
・・・・・・
そんなヒソヒソ話が多いけれど、途中から光は、全く聞いていない。




